俳優やモデルを含め、多くのセレブリティから指名が絶えない、人気ヘア&メイクアップアーティストのHaruka Tazakiさん。ビューティ業界を牽引する第一人者ですが、昨年ローンチしたフェムケアブランド「hemmate(フェメイト)」を手がけたことも話題に。女性の体とライフスタイルに寄り添ったブランドを立ち上げるきっかけとなったのは、2023年から約1年間にわたる世界一周の一人旅でした。その道中で目にしたもの、体感したでき事を通じて得たものとは何か。今改めて振り返ります。

Haruka Tazaki

ヘア&メイクアップアーティスト

Haruka Tazaki

ヘア&メイクアップアーティスト。メイクアップアーティストとして2007年よりNYでキャリアをスタート。2014年に帰国後、国内外の雑誌や広告、セレブリティのヘア&メイクまで幅広いフィールドで活躍。現在フェムケアブランド「hemmate」のディレクターも務める。

キャリア優先だった人生を一変させた、コロナ禍の経験

メイクアップアーティスト、Haruka Tazaki

——2023年の4月に突如仕事を中断して世界一周の旅に出られましたが、そのきっかけは何だったんでしょうか。

Haruka Tazakiさん(以下Harukaさん):元をたどると、2020年に始まったコロナがきっかけでした。25歳でニューヨークに行ってメイクアップアーティストとしての活動を始めて、とにかくずっと自分のキャリアのための生き方をしてきたんです。 

でも世の中がピタッと止まったときに、世界中の名のある人たちがそれぞれの方法で世の中を助けようとしたり、元気づけたりする中で、メイクアップアーティストのHaruka Tazakiとしてできることって何もないんだって思っちゃったんですよね。頑張って積み重ねてきたキャリアが何も役に立たないと感じて、正直、メイクアップアーティストの仕事に興味がなくなってしまったんです。いつ辞めてもいいや、って。

——つねに明るくポジティブに仕事に取り組んでいる印象があったので、完全に興味をなくしてしまっていたのは驚きです。

Harukaさん:メイクアップアーティストとしてのお仕事は、例えば広告撮影の場合は対象である俳優さんをより美しくして、商品を魅力的に見せて購買につなげるアシストをすることだったりしますよね。でも、自分はただそのためのひとつのピースなんだって感じたことも大きかったし、Haruka Tazakiとして何もできることがないって、なんてつまんない人生なんだろうと思ってしまって。

それに加えて、コロナ禍で外出できないのでデリバリー頼りになり、どんどんプラスチック容器のゴミは増え続ける始末。一週間で45リットルの袋がいっぱいになるくらいになり、「私、仕事もせずにただ生きてるだけなのにこんなにゴミだけ出してる!」って愕然として。じゃあこのゴミをゴミにしないためには、どうすればいいんだろう?と思ったのをきっかけに、プラスチックアートを始めたんです。

——後にその作品がPARCOの広告にもなったと聞きました。

Harukaさん:そうなんです。当時コロナ禍で廃棄される花も増えていたことを知って、地方の直売所を回ってたくさん購入して、ドライフラワーにしてプラスチックアートと融合させたんですね。それが具体的に何になるってわけじゃなかったけれど、ひとつの表現方法として発信できたらいいなと思ってInstagramに載せたら、フォトグラファーのTakako Noelが声をかけてくれて、作ったヘッドピースをPARCOのキャンペーンビジュアルに採用してくれました。

私はダイビングが趣味なので普段からビーチクリーンを日常的に行なっているんですが、プラスチックゴミの多さから環境問題について考えることも多くて。コロナが明けて、ゴミ拾いの他にも何か活動できないかな、と考えながらまた日常生活に戻ったとき、私の中ではいつメイクアップアーティストを辞めてもいいっていう感覚ずっとありました。

そんな中、実は2022年に結婚をしてニューヨークに行く予定だったんですが、かなり色々なことがあり最終的には婚約解消をすることに。そこで“いったん人生が白紙に戻った今、ずっとやりたかった世界一周の旅に出よう”と思ったんです。

Haruka Tazaki、PARCO

ボランティア、Haruka Tazaki

ヘッドピースを用いたPARCOのビジュアルを撮影している様子

世界の現状を見たからには、見た者の責任がある

——InstagramやVOGUE WEBの旅の連載ブログを拝見していましたが、インドやタイ、アフリカやモルディブ、ドイツなど、本当にさまざまな国に行かれていましたよね。旅の中での気づきに関して教えてください。

Harukaさん:世界一周の旅に出るうえで、私がしたいことをみっつ決めたんです。ひとつ目は大好きなダイビングで世界の海を潜ること、ふたつ目は未知なる世界で自分の世界を広げて見分を深めること、みっつ目が社会貢献さらに、コロナ禍に色々と調べていく中で、人身売買や性にまつわる問題も世界には多くあることを知って、何か役に立てないだろうかとずっと考えていたんですね。

さまざまな国でボランティア活動に参加させてもらいましたが、アフリカや中東、一部のアジアの国では、FGMといって女性の性器の一部または全体的な切除を行う古くからの慣習がいまだに行われていたり、人身売買や暴力、女性蔑視など、知るべき現状があることを痛感しました。

マザー・テレサの活動拠点であるインドのコルカタでは、性被害を受けて精神に異常をきたしてしまった人々に出会いました。タイのチェンマイの山奥にある秘境エコリゾート「chai lai orchid」では少数民族のカレン村の生活体験や象と水浴び体験等素晴らしい体験ができるんですが、そのリゾートのオーナーであるアレクサさんは子どもの頃に人身売買の被害を受けた経験があり、同じく人身売買被害にあった子や貧困で苦しむ子を引き取って、教育や就職支援をしているんです。

もちろん生きるうえでお金は必要なものだけれど、まずは教育と雇用がいかに重要なことなのかを目の当たりにした体験でした。 

——具体的に今後Harukaさんが行いたいと思っているプランはあるのでしょうか。


Harukaさん自分の目でさまざまな現状を見た以上、「日本に住んでいるからどうすることもできません」なんて生き方はしたくないなと思ったんです。見たからには、見た者の責任があると。

タンザニアでIVHQというボランティア団体の活動に2週間参加させてもらったんですが、スタッフそれぞれがテーマを決めて子どもたちに何かを教えてOKなんです。私はメイクアップアーティストをしていると話したらみんながものすごい喜んでくれて、そこでワークショップをしたことで「私メイクの仕事辞めたらダメだ」って思えました。 

さらに、カンボジアに初のエコビレッジを作った、NPO法人earth tree代表の加藤大地さんに会いに行きました。「イキイキスクール」という小学校はじめ、約13年前から現在までに12校を建設した方なんです。その加藤さんから色々と情報を聞きながらどんな形で教育や雇用支援に携わることができるのかを、まさに今計画しているところです。

撮影(人物)/Nobuko Baba(SIGNO) 企画・構成・取材・文/森山 和子