3月8日の国際女性デーを記念したスペシャルインタビュー、後編のテーマは、キャリアと生き方について。CCOを務めるブランド「Her lip to」は、2018年のローンチからわずか6年で、100人以上の社員を抱えるまでに成長。敏腕経営者としても注目される小嶋さんが、ブランド経営を通じて得た学び、小嶋さんにとっての“女性らしさ”を表現し続ける意義、ファッションと年齢の関係性など、今の本音をじっくり語ってくれました。

小嶋陽菜

経営者

小嶋陽菜

1988年4月19日生まれ、埼玉県出身。2005年にアイドルグループAKB48の1期生として活動をスタートし、翌年シングル『会いたかった』でメジャーデビュー。“神7”の一人として人気を博す。2017年にグループを卒業した後は、モデルとして『MAQUIA』、『sweet』など多くの雑誌で活躍。2018年、自身が企画・プロデュースを手がけるブランドHer lip toを設立。2020年にはHer lip toなどの運営を行う株式会社heart relationを創業し、2022年、同社の代表取締役CCOに就任。

もっと自分を好きになってほしい。そんな思いがブランドの原点

小嶋陽菜 ROSIER Her lip to AKB48

——2018年に自身がデザイン・プロデュースを手掛けるブランド「Her lip to」を立ち上げた小嶋さん。女性に向けたアパレルから、ビューティ、ランジェリーなどへと拡大していく中で、ブランドの軸として掲げているコンセプトを教えてください。

小嶋さん:ブランドと会社それぞれの軸として、“お客様に気分の上がる体験をお届けしたい”という想いのもと、ものづくりをしています。身につけたときに気分が上がることは大前提で、誰かに褒められたり、それによって自己肯定感が上がったりするような体験もセットで提供したい。それをベースにデザインを考えています。

——経営者となり、アイドル時代とはまた違った憧れを抱かれるようになったのでは、と想像します。それによって気持ちや意識の変化はありましたか?

小嶋さん:アイドル時代には、きっとビジュアル面で好きだと思ってくれていた人たちが多かったのに対して、今は私の考え方や仕事との向き合い方に共鳴して憧れてくれる人が増えているのな、とはたしかに感じます。ただし私自身は、キャリアチェンジして意識がガラッと変わったような実感はないですね。

年齢を重ねながら人間として成長していくなかで、自然と仕事に対する意識ややりたいことが変わっていったので…アイドル時代の延長線上に今の私がいる、という感覚です。

そもそも私は、経営者になりたいと思ったことは一度もなくて。ファンの方とつながりたい、その方法として始めたものづくりを突き詰めていったら、いいものを作るためには会社を立ち上げて、自分で人を採用することが最善策だった。じゃあ社長になるしかないか!という流れで起業しました。

——今の小嶋さんに共鳴するファンの方々から届いた声で、特に印象に残っているものや、うれしかった言葉は、どんなものですか?

小嶋さん“Her lip toの服を着て自信が持てました”とか、“人に褒められて自分に似合う服を知ることができました”という声は、何度もらってもうれしいですね。

ブランドを始めた当初はSNSを見ていて、自己肯定感の低い女性が多いことが気になっていたので…。投稿に自信のなさが表れていたり、他人のコメントで落ち込む人がたくさんいたり…。

そんな女性たちが、もっと自分を好きになって毎日を楽しめるようになったらいいな、という想いがブランドコンセプトのベースになっています。 

“女性らしい”という表現で気分を害す人もいると知って、すごく悩みました

小嶋陽菜 ROSIER Her lip to AKB48 ビジネス

——小嶋さんの手がけるブランドのアイテムは、華やかでフェミニンなデザインが特徴的です。近年では、ジェンダーバイアスに対する問題意識が広まったことなどの影響から、“女性らしい”といった言葉の表現や、女性らしさを表現すること自体も、否定的にとられてしまうと感じるシチュエーションもあるのではないかと思います。小嶋さん自身、そういった社会の変化を感じることはありますか? 

小嶋さん私は昔からいわゆる“女性らしい”と言われるデザインや色が大好き。“女性は必ずしもピンクが好きなわけじゃない”といった論争が巻き起こる最中にも、私はピンクを選び続けてきました。

Her lip to」を立ち上げてからも、カーヴィなボディラインを引き立てるドレスだったり、フェミニンさの中に奥行きのある香りだったり、自分が憧れる雰囲気や世界観を指標にデザインしています。

個人的には、それぞれ好きなものを選んで着ればいいのでは?という気持ちでしたが、5年前くらいかな…“女性らしい”という表現が使われることで気分を害す人もいると知って、すごく悩みました。

ECサイトの商品説明にも“女性らしい”という表現を使わないように気をつけたりもしたけれど、どこか腑に落ちなくて。私自身は、“女性らしさ”とは、女性を枠にはめるものではなくて、ひとつのスタイルだと思っています。そして、私が考える“女性らしさ”を好む人はたくさんいるはずだと、強く感じたんです。

その感情を初めて表現したのが、ランジェリーブランド「ROSIER by Her lip to」のローンチ時に発表したブランドコンセプトである「女性らしさ、を選んでいこう」という言葉。

“多様性を尊重する時代だからこそ、女性らしさを選ぶ自由を肯定したい”と発信したところ、同じ意見を持つ多くの方からコメントやエールが届きました。
それらの声が、自分のスタイルを提案し続ける私のモチベーションであり、原動力になっています。

——小嶋さんが発信した言葉に対して、どんな反応がありましたか?

小嶋さん:批判的な言葉はほとんどなかったと思います。実は公表にあたって、どんな反響があるかまったく予想がつかず、すごく緊張していたんです。

それまで私は、言葉よりも行動で示すほうがかっこいいと思っていたから、自分の考えや感情を表現してこなかったんです。でも予想以上に大きな反響をいただき、言葉で伝えることの大切さを学びました。

年齢に対する批判はスルー。そんな声に向き合う必要はありません!

小嶋陽菜 ROSIER Her lip to AKB48 全身

——女性が女性らしさを表現することについて、年齢を理由に批判する声も多く見受けられます。年齢に基づいた偏見、差別を実感したことはありますか?

小嶋さん年齢に基づいた偏見や差別は、今も昔もずっと受けています。アイドル時代には、29歳までAKB48を続けていたことに対して、“その歳になってまだアイドル続けてるの?”と。

30代になってからは、“まだ結婚しないの?”とか、“まだミニスカートはいてるの?”とか…そういったことを言われすぎて、慣れっこになっちゃいました。

——そういった意見に対して、どのように向き合っていますか?

小嶋さん向き合う必要がないので、スルーしています。私にはブランドだったりファンの皆さんだったり大事なものがあるから、批判されてもまったく痛くないんですよ。

それこそ数年前は、AKB48時代の同期と比較されて結婚願望とか結婚の予定をめっちゃ聞かれたんですけど、そもそも結婚って人がしているからするものじゃないし。

それに、私には“神7”以外のコミュニティだってあって、そこには結婚していない友達がたくさんいる。気にしないスタンスでいたら、自然と世間から“仕事を頑張ってる人”認定されて、比較されることもなくなりました(笑)。

——アイドル時代に、メンバーと比較されることをストレスに感じたことはありますか?

小嶋さん:あったとは思うんですけど、比較されてこそ自分の存在が引き立つので、仕方ないことと割り切っていました。むしろ、どのポジションを狙えば今よりも目立てるかな?と試行錯誤するのが楽しくもあった。みんながあっちに向かってるから、私はこっちに行ってみよう、とか。

自分で言うのも変ですけど、自分の最適なポジションを見つける才能に長けているんです(笑)。

AKB48を卒業後も何になるんだろう?と色んな予想をされてきたけど、焦ることなく自分が楽しく生きられる場所や方法を探せたのは、そういった経験を積み重ねてきたおかげだと思う。

ブレずに自分の好きを貫ける人って、最高にかっこいい!

小嶋陽菜 ROSIER Her lip to AKB48 バストアップ

——世間の批判的な意見によって、自分が本当に好きな服を着られなかったり、自分らしさを表現できなかったりする人も多いはず。そんな悩みを抱える女性に、どんなことを伝えたいですか?

小嶋さん:今ってSNSで色んな意見が目に入ってしまうし、それに加えて保守的な会社に勤めていたり、好きなスタイルが異なる友人グループにいたりすると、自分らしさを貫くのは難しいですよね。

それは今いる環境が合っていないのではなくて、自分を形成するひとつの要素を、他者と共有できていないだけ。ならば、同じ世界観を好きな人と、新しいコミュニティを作ればいいんじゃないかな。


私もアイドルを卒業してから色んなコミュニティに属するようになり、さまざまな価値観や世界観を共有できる仲間が増えて、視野がすごく広がりました。

そんな経験もあったから、ブランドのファンの方向けに定期的にイベントを開催して、「Her lip to」を好きな人同士が出会える場を設けています。そして、そこで出会った人たちが集まる場所を作りたいと思いオープンしたのがコンセプトストア『House of Herme』(「Her lip to」「ROSIER by Her lip to」「Her lip to BEAUTY」のアイテムを展開する旗艦店)。

今は推し活など多趣味な人が多いからこそ、自分の居場所を広げやすい時代でもある。居場所が複数あれば、一つの環境に縛られることがなくなり、人生はもっと豊かになるはずです。

——そうやって自分らしさを認めてくれる人がまわりに増えていくと、自信がついて、堂々と表現できるようになるかもしれませんね。

小嶋さん:そう思います! ブレずに自分の好きなことを貫いている人って、めっちゃカッコイイですよね。流行り廃りやまわりの意見に惑わされずに、ひとつのスタイルを継続し続けるのは、簡単なことじゃないから。

ブレない先輩がたを見ていると、途中で批判されても最終的には評価されて、唯一無二の存在になっているんですよ。その姿に勇気をもらいますし、私もブレない人間でありたいと思っています。


——最後に、小嶋さんの今後の目標を教えてください。

小嶋さん:私の活動を見て、“励まされました”、“自分にも別の道があると気づけた”などと言ってくださる方がいて、そういう人の存在が私の励みにもなっています。今後も自分らしく楽しみながら、周りの人やファンの皆さんの幸せにつながることを実現していきたいです! 

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撮影/松岡一哲 スタイリスト/平田雅子 ヘア&メイク/中村未幸 取材・文/中西彩乃 企画・構成/木村美紀(yoi)