澄んだ空気をまとった美しい佇まい、そしてドラマや舞台でみせる圧倒的な存在感が多くの人を惹きつける、俳優の吉田羊さん。デビューしてから25年以上走り続けてこられたのは、愛情に溢れる両親の生き方、そして母親からもらった言葉があると言います。現在の吉田さんを形作った出発点を伺いました。

「つらい経験が前に進むきっかけに」母がくれた言葉が心の支え

——吉田さんは5月9日公開の映画『パディントン 消えた黄金郷の秘密』で、吹き替えを担当していらっしゃいます。原作は世界中で愛されている児童文学『くまのパディントン』シリーズが原作です。吉田さんは、子どもの頃から心の支えにしているものはありますか?
吉田さん:中学生の頃にクラスメイトにいじめられて帰ったことがあって、母に相談したんです。母は「つらかったね」と寄り添ってくれたうえで、「でも、もしかしたらいじめてきた子は、あなたに足りないことを教えてくれたのかもしれないよ。だから明日学校で『私の何が気になるの?』って聞いてみたらどう? そしたら新しい答えがあるかもしれないよ」って話してくれたんです。
翌日、母に言われた通りに質問してみたら、その子にも事情があったことがわかったんです。その時に、「つらいことも視点を変えればチャンスになることもあるんだ」って気づけました。その一件以来、物事は一方向からだけではなく、視点を変えて見てみる、ということを必ず意識するようにしています。
私はポジティブなこともネガティブなことも、物事にはすべて意味があると考えていて。つらいことがあっても「これで成長できるきっかけをつかめたんだ」と思って、前に進めるようになりました。
——普段から、お母さまは吉田さんの心に残る言葉をかけてくれる方だったんですか?
吉田さん:そうですね。母も父もとても愛情に溢れている人たちでした。つねに弱い立場のもの、小さなものに寄り添い、何ができるか考えている人たちでしたから、何事にも根底に愛を持って向き合うことを教えてくれました。
そんな両親の姿を見て育ったので、小学生の頃くらいから“愛を根底に持つ”という生き方をしたいと思い続けています。よこしまな考えが浮かんだり、醜い気持ちにとらわれてしまいそうなときは、「父だったら、母だったらどう考えるかな?」って頭の中で想像します。まさに両親が私の人生の指針になっているんでしょうね。

——吉田さんにも醜い気持ちになってしまう瞬間はあるんですね!
吉田さん:もちろん。しょっちゅうありますよ。ポイ捨てされたゴミを見つけたときとか、新幹線で大声で電話する人を見つけたときとか、ついイラッとしてしまいます。でもそういうときには両親の顔を思い浮かべて、視点を変えるようにしています。
——「視点を変えて見てみる」という考えは、俳優という職業にも生きていますか?
吉田さん:そう思います。どんなにひどいキャラクターだとしても、この人にはこうならなければいけなかった背景があるのでは、と役を深掘りできるようになります。愛を持った視点で台本を読めば、解釈が広がっていく。それが演技にも生きていると信じています。
一人で海外を旅しているときは、丸裸になれる

——日々忙しくされている中で、ご自身を解放できる時間はありますか?
吉田さん:一人で海外を旅行することでしょうか。ありがたいことなんですが、日本にいるとどうしても人の目が気になってしまうことも多いので、海外で「吉田羊」という存在を誰も知らない環境にいると丸裸になれる感覚があります。旅先で撮った写真を見返すと、日本にいるときとは違う、リラックスした表情をしている自分がいるんです。
自分が選んだ道ではあるけれど、たまに上手に笑えなくなってしまうこともあって。そういった時には海外で一人自由きままに過ごして充電しています。
——本作で、パディントンも生まれ故郷であるペルーを冒険します。吉田さんは最近「冒険」といえるような旅をしていますか?
吉田さん:長年英語を話せるようになりたいという目標を立てたまま、何もできていなかった自分を奮い立たせて、実は昨年イギリスに語学留学をしてきたんです。そのときホストファミリーが英語教材としておすすめしてくれたのがパディントンの映画でした。
喜怒哀楽の感情がふんだんに盛り込まれているから、自分の感情と連動するように英語を学べましたし、なによりパディントンのあまりのかわいさに夢中になり、大好きになって帰ってきたんです。
そしたら、今回吹き替えのお仕事をいただけるという奇跡のようなことが起こったんです。もうこれは、運命ですよね。「ぜひお引き受けいたします!」と二つ返事でお引き受けしました。短期留学時に肌で感じてきた現地の空気感を演技にも活かせていたらうれしいですね。
自分自身を解放するためにも、また改めてイギリスを旅してみたいなぁ。グルーバーさんのお店など、パディントンの聖地巡礼ももう一度したいです。
映画『パディントン 消えた黄金郷の秘密』

5月9日(金) 全国ロードショー
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STORY
ロンドンでブラウン一家と平和に暮らしていたパディントンのもとに、育ての親のルーシーおばさんの元気がないという便りが届く。パディントンとブラウン一家がペルーへ行くと、ルーシーおばさんは失踪、里帰りは一転、彼女を探す冒険に。パディントンを待ち受ける「消えた黄金郷の秘密」とは?
ジャケット¥140800 ドレス¥140800/ともにHARUNOBUMURATA(ザ・ウォール ショールーム 050-3802-5577) リング¥171600、リング¥189200、ピアス左¥57200、ピアス右¥36300/Hirotaka Jeweiry(Hirotaka 表参道ヒルズ 03-3478-1830)
撮影/SAKAI DE JUN ヘア&メイク/井手真紗子 スタイリスト/石井あすか 取材・文/高田真莉絵 構成/渋谷香菜子