一輪のタンポポが、際立っているようにも、場違いなようにも見えた。
ノーメイクの自分を見る時間が増えている今、“意外とイケている”自分に気づいてほしい
ダイバーシティが認知されはじめ、世界が一丸となって、自分らしさ、生きやすさを目指しているはずなのに、予想もしなかった大きな出来事が起こり、何とも言えない重苦しい空気を感じている人も多いのではないでしょうか。
「デジタルが発達した今、SNSなどで何が起こっているのかをリアルで知ることができるため、世界中でこの惨事に心を痛める人が数多くいることと思います。
こんな状況下ではありますが、コロナ禍に関してアメリカではちょっとした動きがありました。先日、ジョー・バイデン大統領の演説があったのですが、マスク推奨派のバイデン氏はこれまで演説の際は、必ずマスクを着用していました。しかし今回はノーマスクで演説に臨んでいた。これは何を意味するかといえば、経済と感染症を共存させるというWithコロナ宣言だと思うんです。新型コロナウイルスの感染は残念ながら収束したとは言い難く、今後も形を変えつつ、僕たちの生活に介入してくるでしょう。だからこそ、上手にウイルスとつき合いながら、元の生活に戻していかなければいけない。そんな大統領の決意を感じました。
アメリカは、リーダーのメッセージがはっきりしていて、目指す指針をしっかりと提示します。それは日本で育った僕にはすごく新鮮だったこと。この演説を機に、実際、撮影現場をはじめさまざまなシーンで、ファッションやメイクを“楽しみたい”というムーブメントが出てきた感じがします。やはり“FUN”は、人が生きていくうえで大切なことですから」
マスク生活でメイク離れが進んだといわれる日本でも、新生活を迎えるにあたり、そろそろメイクをしたくなってきている人が増えているように感じます。自分らしく春の新色を楽しむコツはありますか?
「この数年、家にいる時間が増え、ノーファンデで過ごす時間が増えたことで、自然と自分の素肌を見る機会が多くなり、『私の肌って意外とイケているかも』ということに気づいた人も多いのではないでしょうか。これはリップなど顔のパーツにも言えること。例えば、唇がきれいと思った瞬間に、唇の見え方が変わるんです。みんなもっと素の唇の色、形を『いいかも!』と気づいてほしい。それだけでもリップの色選びから、つけ方まで変わるはずです」
コンプレックスをカバーするよりいいところを引き立てたほうが、その人の美しさは際立ちます
自宅に咲くツツジの花。白壁の前でピンクがより鮮やかに華やかに見えます。
「以前にもお話ししましたが、僕がメイクアッププロダクトを作るときは、『人間ってきれい』というところから始めるんです。すると、その部分を生かそうとするプロダクトを考えます。逆に、人間を否定したところから始めると、消すところから始まる。つまり、作り方がまったく変わるんです。
これはメイクをする際にも言えます。プロのモデルは、仕事上『自分たちはきれい』と思う思考のクセがついているから、“きれい”からメイクを始めるんです。すると、顔を大きく変える必要がなく、ポジティブな美しさが完成します。これは一般の方をメイクする場合も同じ。顔を変えようと思ったら大変だけど、その人のいいところを伝え、引き出すようにメイクをすれば、仕上がりはやはり美しい。だから、皆さんももっと自分の顔に頼ったほうがいい。
コンプレックスはとかくカバーして消してしまおうとするけれど、カバーするほど違和感が際立ち、逆に目立ってしまうことも多いんです。日頃、さまざまな情報やメッセージに触れているために、そのメイクが本当に自分に合ったものなのか見失いがちだけれど、少しでもメイクに違和感があったら、その気持ちを大切にしてほしい。もちろん、メイクで遊ぶのは楽しいから、どんどんチャレンジはしたほうがいい。それが最終的にかわいいものになろうがそうでなかろうが、自分なりの表現だし、メイクを楽しんでいることはそれだけで素敵なことだから。けれど、流行りだからと取り入れても自分自身に違和感があるのなら、無理をしなくてもいいと思います。
思わぬ場所に咲いていた薔薇に、思わず振り返ってしまった。
コンプレックスは、どんなにパーフェクトに見える人でも必ず持っている、人間の本質的なもの。コンプレックスだらけの人って、一見自分が嫌いに見えるけれど、僕に言わせれば、自分に対する愛情が深いほどコンプレックスが強くなるんだと思います。言い換えれば、コンプレックスは自己愛。感受性が強い人ほど強く持っている気がします。だからこそ、欠点ばかりに目を向けてしまうという人は、あえて自分のいいところを探してみる。そうすると、必ず前進できるはずです。大切なのは、コンプレックスを自分の中でどう生活に落とし込んでいくか、ということ。コンプレックスはある意味、自分に与えられた人生のテーマ。自分が持っているものをどう受け入れていくか、そのためのプロセスの1つだと思います」
コンプレックスのある部分というのは、見たくないのについつい見てしまって落ち込むもの。だけどそれを受け入れることが、自分のイケてる部分を探すきっかけになるかもしれません。そんなふうに視点を変えたら、もっと自分らしくメイクを楽しめそう!
撮影/Mikako Koyama 取材・文/藤井優美(dis-moi) 企画・編集/木下理恵(MAQUIA)