CBDオイルなどに使われている近年注目の成分「カンナビジオール(CBD)」は、植物の麻(大麻草)から採取されるもの。CBDの効果や安全性は世界保健機関(WHO)も認めており、日本でも、茎や種子由来のCBDであれば合法です。大麻取締法の規制がある日本で正規に流通しているCBD製品は違法物質を含まず、税関や厚生労働省など関係各所から許可を得たものなので、海外から独自で輸入するよりも安心して使用できます。
とはいえ、CBDについてはまだまだわからないことが多い…というのが本音では? 今回は、CBDの歴史と、効果的に使用するための健康法について、メディカルストレスケア飯塚クリニック・院長で精神科専門医、臨床CBDオイル研究会代表の飯塚浩先生の講演からピックアップ。
CBDが採れる大麻草の歴史とは
1万年以上前から、人類は大麻草を多くの目的で利用してきました。茎から繊維をとって縄・布・紙などに利用したり、種子から油を取ったり、食用にしたり。花や葉、種子、根を薬用として利用したりもしています。麻の種子(麻の実)は栄養が豊富で、脂質25~35%、タンパク質20~30%、食物繊維20~30%のほか、鉄・亜鉛・マグネシウム等のミネラル、ビタミン類も豊富に含んでいます。
そんな大麻草は、世界中で医療に使用されてきた歴史があると飯塚先生は言います。インド医学では、紀元前1000年頃から、鎮痛、抗痙攣、抗菌、下痢、胃腸炎、食欲刺激、気管支炎や喘息などに用いられ、欧州では1839年にアイルランドの医師が、その医療的な知見を欧米に紹介しました。さまざまな臨床結果は欧州に大きなインパクトを与え、大麻草の効能に関する医学論文が多数報告されたり、イギリスでは女王の生理痛の治療に主治医が大麻を用いた記録もあるのだとか。その後、アメリカ、南米やアフリカなどにも普及。日本では、明治期から終戦までは、繊維や油をとるための主要な工芸作物として奨励され、教科書に栽培方法まで載っていたそう。
しかし、国際的に薬物を規制する「麻薬に関する単一条約」により、1961年から60年ものあいだ、大麻草は「最も危険で医療的な価値がない」カテゴリーに分類されることに。日本でも1948年に「大麻取締法」が制定され、規制が始まりました。そうした時期を経て、改めて大規模な科学的検証が行われた結果、2019年にWHOが大麻の医療的価値を認定したのです。
アメリカではそれ以前から、てんかんや多発性硬化症などの難病への効果が知られており、2010年代には医療大麻の合法化が進んでいました。日本では大麻製剤の治験が2019年に認められ、多々条件はあるものの、現在は大麻から採れた主成分を使用しての抗てんかん薬の治験が可能に。それにともなって、現在は大麻取締法の改正の動きもあります。
現状の大麻取締法では、大麻草の成熟した茎や種子からの製品は取締対象ではありませんが、それ以外の大麻草の成分や精神作用のあるTHC(テトラヒドロカンナビノール)を含むものは違法なので、CBDの海外製品を購入する際には十分な注意が必要です。
カンナビノイドが人に効果を発揮するのはなぜ?
昔から人間のいろいろな不調に効果が認められてきた大麻草ですが、そもそもなぜ人間に効果を表すのでしょうか?
「それは、大麻草に含まれる成分(カンナビノイド)が、人間の脳や体の機能を調節する生理的システム(エンドカンナビノイドシステム:ECS)の受容体に何らかの影響を与えるからです。受容体は刺激を受け取り、それを情報に変換して生体反応を引き起こす仕組みになっています。体内の内因性物質(内因性カンナビノイド)と同じように受容体を刺激する場合を"作動薬"、受容体をふさぎ内因性物質の邪魔をする場合を"拮抗薬"といいます」(飯塚先生)
大麻草の薬効の中心は、カンナビノイドと呼ばれる大麻草独自の約100種類のポリフェノール。CBDはその中でも主要な成分でテルペン類も多くの薬効を持っています。
「複数のカンナビノイドやテルペンなどの成分は、それぞれ個別の薬効を持っており、別々に摂取するよりも一緒に使用するほうが相乗効果を発揮します。これをアントラージュ効果といいます。カンナビノイドの働きを知ることは、人間の恒常性維持機能“ECS”の理解にもつながります。これらを理解し、活用することは、次世代の医学と健康の向上にとってとても大切だと考えています」(飯塚先生)
CBDに頼る前に意識したい健康メソッド
とはいえ、すべての不調にCBDが劇的に効くわけではなく、また、使用を続けるだけで効果を発揮するわけでもありません。飯塚先生によれば、近代西洋医学と代替療法や伝統医学を組み合わせて、患者一人ひとりに合わせた多種多様な治療を行なう「統合医療」を支える多くの健康メソッドは、すべてECSの働きに関係するのだそう。
「適切な食事や睡眠、運動はもちろん、断食やヨガ、瞑想、整体、鍼灸、指圧、そして笑うこと・上機嫌でいること——。人間の体にもともと備わっているECSを適切に保つためには、こうした基本的な健康法が大切です。食事や睡眠などのほか、薬草や香辛料もECSによい作用をもたらしますし、運動やダンス、サイクリングなどの気持ちを上向きにする運動もおすすめです。逆に、『つまらない』という精神状態が続くとECSの機能が落ちてしまいます。まずは自分が自分自身にかけているストレスに気づき、なくしていくことが不調改善への第一歩です」
「つらくて当たり前」という考えを捨てる
CBDは不眠や食欲不振、体の痛み、精神的不調などにも作用を期待できますが、それらの不調や慢性病の治療・予防をしたい人は、現代の生活が人間に与えるダメージとその対処法をまず知ってほしいと飯塚先生は言います。
「不適切な食事や生活習慣、もののとらえ方(マインドセット)など、普段の生活のさまざまな面で、“当たり前”という思い込みには大きなリスクがあります。つらくてもそれが当たり前だからという考え方は、健康的ではありませんよね。いつも“機嫌よく”いられる人は、きっとECSがうまく機能している人。そのためのマインドセットや、栄養状態を保つ食事、サーカディアンリズム(体内時計)、運動など、自分なりの生活習慣つくり上げていきましょう」(飯塚先生)
構成・文/長岡絢子 イラスト/forest eternal Photos by Tinnakorn Jorruang , champpixs / iStock / Getty Images Plus