『ローラ・ディーンにふりまわされてる』
マリコ・タマキ 作、ローズマリー・ヴァレロ・オコーネル 画、三辺律子 訳
¥2,750/岩波書店
マリコ・タマキ『ローラ・ディーンにふりまわされてる』が教えてくれる、自尊心の取り戻し方
恋は「落ちる」ともいう。心からひかれるけれど、落とし穴にはまるみたいに、自分を傷つける相手を好きになってしまったことはあるだろうか?
『ローラ・ディーンにふりまわされてる』の主人公「フレディ・ライリー」は17歳。学校一クールな「ローラ・ディーン」という女の子に、「これまででいちばんつらい恋」をしている。移り気なローラから雑にフラれては、呼び出されるとヨリを戻してしまうのだ。いつも憂鬱な顔でローラからの連絡を待つフレディに、親友の「ドゥードル」はあきれている。
フレディたちはアメリカのZ世代。西海岸の都市・バークリーに住んでいて、日本で暮らす私たちからみると先進的な社会で暮らしている。フレディはレズビアンで、ローラはバイセクシャル。高校生たちのセクシャリティはオープンで、フレディがそのことで葛藤をすることはない。ローラは同意のもとに複数の相手と親密な関係を持つオープンリレーションシップの実践者といえるかもしれない。だけど、そんなふうに進歩的な環境で生きていても、有史以来ずっと起きている問題でフレディは傷ついている。好きな人が自分を大切にしてくれず、幸せじゃないってことだ。
LGBTQIAの活動家たちが勝ち取ってくれたものについて、家父長制について、一夫多妻制について。フレディは様々な角度から考え、恋愛相談サイトにこの痛みから逃れる方法についての相談メールを送る。年長の恋愛コラムニスト「アンナ」から届いた返信は、この本のクライマックスだ。アンナは問題の解決策を教えてはくれない。ただ、シンプルで大切なメッセージを丁寧に伝えてくれる。
〈あなたは何が自分にとって正しいかわかってるはず。答えはあなたの中にある〉
「別れなんて大抵はぐちゃぐちゃ」。そのとおり。けれど、そこから立ち上がることは、絶対にできる。もしもあなたや友達がひどい恋のために自尊心を失いかけていたら、ぜひ本書を手に取ってみてほしい。
作家たちについても少しだけ。原作のマリコ・タマキはマーベルなどアメリカン・コミックの原作も手がける、今大活躍中の作家の一人だ。『THIS ONE SUMMER』(岩波書店)という少女たちのほろ苦い夏を描くグラフィックノベルも本書同様に三辺律子さんが翻訳されていて、こちらも素晴らしい。作画を担当したローズマリー・ヴァレロ・オコーネルは1994年生まれ。ツヤツヤの髪の毛や細部の描写が美しく、10代の日常がキラキラと伝わってくる。
マンガライター
マンガについての執筆活動を行う。選考委員を務めた第25回文化庁メディア芸術祭マンガ部門ソーシャル・インパクト賞『女の園の星』トークセッションが公開中。
■公式サイトhttps://yokoishuko.tumblr.com/works
文/横井周子 編集/国分美由紀