発達障害なわたしたち 町田粥 レビュー

『発達障害なわたしたち』
町田粥 ¥1,034/祥伝社
©町田粥/祥伝社フィールコミックス

町田粥『発達障害なわたしたち』で知るグラデーションと困りごと

町田粥『発達障害なわたしたち』は、エッセイ形式のルポマンガだ。著者と担当編集者が同時期に軽度のADHDの診断を受けたことをきっかけに連載がスタートしたという。作者がモデルになった「Mちださん」と担当編集の「K成さん」の対話からはじまり、毎回さまざまな発達障害当事者が登場しておしゃべりを繰り広げる。

子ども時代や、大人になって直面した仕事上の出来事を通じてじっくりと語られていくのは、「あなたにはどんな特徴がありますか?」「どんなふうに困っていましたか?」「どうやって対処しましたか?」ということ。当人は困っていたりもするわけだから失礼にならないとよいのだけれど、これがすごく面白いのだ。わかっていても直せない生活上の困りごとには、共感の嵐だった。

「K成さんの家って散らかってますか?」「散らかってます!」
「では引き出しは…しまり切ってます?」「開いてます!」
「カーテンのフックとか取れたまんまになっていたりも…!?」「取れてます 取れてます!」

ああっわかる。わたしも取れてます。引き出しなんていつも半開きだし、なんならその開いた引き出しの上にものを置いて机が拡張している(恥)。

ぶんぶんうなずきながら、じゃあ発達障害っていったいなんだろうかという疑問もわいてくる。本書では「発達障害は、生まれつきみられる脳の働き方の違いにより、幼児のうちから行動面や情緒面に特徴がある状態です」という厚生労働省の定義を引用しつつ、「つまり脳が人とは違う働きをする人たちのことですね」と紹介されている。発達障害の分類についても解説があるので詳しくはぜひマンガを読んでいただきたいが、それぞれの経験談を読みながら感じるのは、一口に「発達障害」といっても中身は人によって本当にさまざまで、グラデーションがあるということだ。作中でも「見る人によって全く違う」「一概にこう!という説明が難しいですよね」と率直に語られている。

Mちださんは、発達障害という診断を受けたとき、すごくすっきりしたそうだ。

〈自分の取り扱い説明書を手に入れた感じ〉

という言葉の説得力は大きい。苦手なことを「欠点」として直そうとやみくもに努力する方向ではなく、自分の特性への理解をまずは深めていくことの大切さ。そういうものさしの存在を知るだけでも、視野は大きく広がる。そしてそれぞれのライフハックもまた現実的で、参考になった。マンガを通して多様さを知れば知るほど、「発達障害」という言葉の扱い方には気をつけなければいけないな、と改めて思いつつ…。ままならない自分との距離の取り方を教えてくれる作品だ。

横井周子

マンガライター

横井周子

マンガについての執筆活動を行う。選考委員を務めた第25回文化庁メディア芸術祭マンガ部門ソーシャル・インパクト賞『女の園の星』トークセッションが公開中。
■公式サイトhttps://yokoishuko.tumblr.com/works

文/横井周子 編集/国分美由紀