ライター海渡理恵さんによる、音楽を入り口に世界を見つめる連載「世界は鳴っている」。世界中のアーティストから発信される、個人の内面や社会のムードを反映した音楽シーンの躍動をお届けします。現在進行形で世界各地から生まれている音楽に耳をすませて、自分や世の中の内側をのぞいてみませんか?

海渡理恵の世界は鳴っている ヒョゴ 落日飛車

アジアの才能あふれるミュージシャンが国境を超えてコラボレーション

アジアでは、日本のSuchmos、never young beach、韓国のHYUKOH(ヒョゴ)、台湾のSunset Rollercoaster(落日飛車)など、ミレニアル世代のバンドが、2010年代半ば頃に続々と才能を開花させた。越境力を兼ね備えた彼らは、ときにコラボレーションし、ユースカルチャーの旗手としてアジアのバンドシーンを牽引してきた。

彼らのなかにはブレイク後、活動をしばらく休止していたバンドもおり、同シーンはしばらく落ち着きを見せていたが、今、再び盛り上がりの兆しを見せている。その背景にあるのは、オルタナティブK-POPバンド・Blaming Tigerや4人組バンド・Silica Gelなどといったユニークな韓国バンドの躍進や、アジア各国のセンスに満ちたバンド勢が、BTSのRMの傑作ソロアルバム『Right Place, Wrong Person』(2024年)に参加したこと。さらには、HYUKOHとSunset Rollercoasterがタッグを組んだプロジェクトアルバム『AAA』(2024年)をリリースしたことも、シーンの再興に大きな影響を与えている。

RMのソロアルバム収録曲『Come back to me』は、HYUKOHのオ・ヒョクがプロデュース、Sunset RollercoasterのKuoがギター、ベースセッションを担当。また、『LOST!』は、Silica Gelのキム・ハンジュが作曲に参加した。

人生の節目に感じる不安が軽くなる、30代を迎えたミュージシャンが生み出す楽曲

1993年生まれの同級生で結成された韓国の4ピースバンド・HYUKOHは、フロントマンのオ・ヒョクの温もりに満ちた歌声と、懐かしさが漂うロックサウンドで、2014年にデビューすると瞬く間に国民的バンドに。ユースが抱える不安や葛藤を綴った“青春”がテーマの1stアルバム『23』は、第15回韓国大衆音楽賞の3部門を受賞。その勢いのまま敢行したワールドツアーも大成功におさめ、バンドの存在を世界へと知らしめた。

HYUKOH (혁오 / ヒョゴ) - LOVE YA! M/V【日本語字幕】
EP『24:How to find true love and happiness』(2018年)に収録された『LOVE YA!』は、まるで暖炉のような温もりをまとった楽曲。メンバーが、「この世の中のすべてのカップルを応援する曲」と言う通り、この曲のMVにはさまざまな愛の形が映し出される。

2011年に結成された台湾を代表する5人組インディーバンド・Sunset Rollercoaster。アーバンでメロウな音楽が熱烈な支持を得ており、シングル『Jinji Kikko』(2016年)やアルバム『Cassa Nova』(2018年)はヒット。「SUMMER SONIC」(日本)や「コーチェラ・フェスティバル」(アメリカ)といった大型音楽フェスへの出演経験も豊富で、グローバルにファンを増やし続けている。

Sunset Rollercoaster - My Jinji (Official Video), 2020

そんな韓国と台湾を代表する2大バンドが共同創作したアルバム『AAA』をリリースした。年齢やキャリアなど、人生の節目を迎えたときに、漠然とした不安を感じたことはないだろうか? そんなときに聴きたい一曲が、30代の彼らが軽やかに歌い上げる『Young Man』だ。この楽曲は、かつてユースの代弁者であったメンバーが、新たな人生のフェーズへと突入したことで抱く不安と、それでも歩みを進めるという力強さを感じさせてくれる。

肩の力が抜けた楽天的なメロディに乗せて、2組は〈ただ生き抜くために 私たちは戦わないといけない〉〈毎日が昨日 私たちは振り返らない 悔いのないように前へ進む〉〈炎を持った手で海へと飛び込もう  あなたと私でより高い場所へ〉と歌い上げる。

人生の歩みの中で、日々生まれる不安に捉われすぎていると感じたとき、この歌詞を反芻してみてはどうだろう。音楽で国境を超えてつながり、互いに尊敬し合う2組の関係性のように、仲間を大切にしながら焦らず、一歩ずつ前へと進んでいこうという気持ちになるから。

[AAA] HYUKOH(혁오), Sunset Rollercoaster - Young Man (Official MV)
MV監督は日本人映像作家のPennacky(ペンナッキー)が担当。

HYUKOH×Sunset Rollercoasterのアルバム『AAA』をチェック

画像デザイン/齋藤春香 構成・文/海渡理恵