今、女性たちに伝えたいのは、プレコンセプションケアについてだと産婦人科医、高橋幸子先生は話します。産む、産まないではなく、人生を自分で考えて自分で選択していく大切さ、そのために行うべきことは何かをお話しいただきました。子宮のために知っておきたい大切なメッセージをお伝えします。

埼玉医科大学 医療人育成支援センター・地域医学推進センター/産婦人科 助教
産婦人科専門医。思春期外来担当。埼玉医科大学医学教育センター。年間230回以上、全国の小・中・高校等にて講演を行うなど、性教育の普及や啓発に尽力。思春期の入り口に立つ子どもたちに科学的で正しい知識を身につけてもらいたいと書かれた本も多い。著書に『自分を生きるための〈性〉のこと: 性と生殖に関する健康と権利(SRHR)編』(少年写真新聞社)、『サッコ先生と!からだこころ研究所~小学生と考える「性ってなに?」』(リトルモア)、『マンガでわかる!28歳からのおとめのカラダ大全』(KADOKAWA)ほか多数。一般社団法人彩の国思春期研究会代表理事。
プレコンセプションケアは「妊娠前の健康管理」

増田美加(以下、増田):高橋幸子先生は、性教育の講演に行く小・中・高校の子どもたちにサッコ先生と親しまれて、子どもたちの心に響くお話を数多くしていらっしゃいます。サッコ先生が今20代・30代の女性に伝えたいことはなんでしょうか?
高橋幸子先生(以下、サッコ先生):今、20代・30代の女性たちに伝えたいのは、プレコンセプションケア(プレコン)です。プレ(pre)は「〜の前の」、コンセプション(conception)は「受胎」で、プレコンセプションケアは「妊娠前の健康管理」という意味です。
プレコンは、若い男女が将来のライフプランを考えて、日々の生活や健康と向き合うこと。産む、産まないではなく、自分の人生を自分で考えて自分で選択していく大切さを伝えたいと思っています。
将来、妊娠したいかしたくないか、子どもが欲しいか欲しくないかにかかわらず、健康な体でいることは、次の世代の子どもたちの健康にもつながるし、今の自身の健康にもつながっていきます。その中で、ジェンダー(性)の多様性や性暴力についても触れています。
プレコンという言葉を知って気づいたことは、私が大学時代にやりたいと思っていたことはまさにこれで、プレコンをみんなに伝える仕事や活動をしたかったんだということでした。
月経不順など月経周期の悩みがあったら、どうする?

増田:月経不順、月経痛やPMSなど月経周期にまつわることで悩んでいる女性たちは、少なくありません。これらの不安や悩みには、どう対処するのがいいのでしょう?
サッコ先生:今はスマホの月経管理アプリで月経周期を把握している人は多いですよね。不安や悩みがあったら、相談をしに産婦人科に来てくれるとうれしいです。そのときに、アプリが役立ちます。
医師に見せてもらえると、不調の原因を探り、対策を考えるときにとても参考になります。 月経不順だからといっても、誰もが月経周期を整えないといけないわけではありません。
例えば、たくさんの小さな卵胞が卵巣内にある「多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)」の人は、きっちりと月経周期を整えなくても、多少のばらつきがあっても大丈夫。もしもすぐに妊娠したいのならば排卵をお手伝いする薬もあります。
将来の妊娠が希望なら、妊娠したいときに医療がお手伝いします。3カ月以上の無月経にならなければ、自分なりの周期で大丈夫です。月経痛やPMSも相談してもらえれば、方法はいろいろありますので、一人一人に合った方法を一緒に考えましょう。
月経痛の相談も多く、低用量ピルを使ってみたいという方もいらっしゃいます。相談するときには、どのくらいのことは知っていて、何を知りたいのかを具体的に言ってくれると、満足できる答えを出してあげられるかな、と思っています。
月経痛や月経不順の人は、月経管理アプリや基礎体温で排卵日がわかれば、月経は排卵日からほぼ2週間後に必ず起こります。“月経から2週間後に排卵ではなく、排卵から2週間後に月経が来るのです。”これは誰もが共通です。
だから、排卵日を知るすべを手に入れておけば、排卵日から12~16日の間で月経が来ますので予測できるのです。毎月必ず同じ日数で来ますから、覚えておくと便利です。
将来の妊娠・出産の悩みで多く寄せられるのは?

増田:サッコ先生に寄せられる将来の妊娠・出産への不安や疑問には、どんなものが多いのでしょうか?
サッコ先生:20代・30代に多いのは、「卵子凍結をしておいたほうがいいでしょうか?」という相談です。年齢が上がると、保存できる卵子の数が減っていきますし、妊娠率も出産率も下がっていきます。
もしもパートナーがいてすぐに妊娠を望まない場合は、受精卵と未受精卵(卵子)を両方凍結保存しておくという方法もありうると思います。数年前より妊娠する確率は上がっていますが、卵子凍結(未受精卵)の成績は、受精卵凍結に比べてあまりよくありません。
最近では20代から早めに行動を起こす人が増えてきたと感じます。費用がかかることですから、卵子凍結や受精卵凍結をするかどうかは、自分の価値観や将来像をよく見据えたうえで行われたらいいと思います。
子宮のために、やっておくべき大切な「5つのこと」とは?
増田:yoi読者の女性たちが自分の子宮を守るために、今やっておくべきことはなんでしょうか?
サッコ先生:20代・30代の女性は、自分の体は自分で守れる世代だと思います。ぜひそのための知識を持っていてほしいと思います。以下に、5つに絞ってまとめますね。
1・月経は何のためにあるのかを考えてみる
月経は、妊娠のためのシステム(仕組み)です。だから、妊娠・出産のためじゃないライフステージの月経とはつき合う必要はありません。産みたいときに、月経があることは大事ですが、それ以外の時期は低用量ピルで月経を減らしたり、ミレーナ*を使って、卵巣や子宮を休めてあげるといいと思います。産婦人科医に相談して、楽に月経とつき合ってほしいです。
*ミレーナ=黄体ホルモンを子宮の中に持続的に放出する子宮内システム(IUS: Intrauterine System)。日本では避妊、過多月経、月経困難症の治療として使われています。
2・子宮を守る
子宮頸がん予防のHPVワクチンを接種した人も、していない人も、子宮頸がん検診を2年に1回、定期的に受けましょう。20代・30代のHPVワクチンを接種していない人で、この先新たなセクシュアルパートナーを得る可能性のある人は、自費になりますが、HPVワクチン接種のメリットは高いので、ぜひ接種を検討してください。
3・婦人科受診する女性の3つの“3”のルール
「3カ月以上の無月経」「3週間以上出血が止まらない」「ひと月に3回以上出血がある」これらの場合は、産婦人科を受診しましょう。
4・排卵日を知る
排卵日を知っておくと、次の月経の時期がわかりますし、排卵日以外のセックスでコンドームが破れても慌てて緊急避妊をしなくて済みます。基礎体温を測っているのが一番ですが、ドラッグストアなどで売られている「妊活おりものシート」も排卵日を知るために便利です。ちなみに、排卵のときのおりものは、透明でツーッと伸びるおりものです。 排卵した卵子は、1日しか寿命がないので、排卵2日目からは妊娠しません。でも、精子は3~7日間受精する力があります。ですから、排卵日の1週間前から妊娠しやすいのです。
5・低用量ピルは避妊の薬
低用量ピルは、避妊薬です。最近では月経痛の治療薬としても使われているので、月経痛だけの薬と思っている人も多いのですが、避妊にも月経痛にも効果があります。ぜひライフプランに合わせて、上手に使ってください。
イラスト/大内郁美 企画・構成・取材・文/増田美加