熱中症対策のビジュアル

自分でも気づかないうちに症状が悪化してしまう“隠れ熱中症”が急増中。その対策には、時間ごとに気にするべきポイントがあった! 起床時から就寝時まで、タイミングごとの効果的な対策を、医師の谷口英喜先生に教えていただきました。


隠れ熱中症とは?


体温が上がり、吐き気や頭痛、激しい倦怠感などに襲われる重度の熱中症とは違い、風邪などの普段の不調と見分けがつきづらいけれど、実は熱中症が原因の不調のこと。症状が出たときに屋外にいるわけではなかったり、数日間ぼんやりとした不調が続くなど、従来の熱中症のイメージとは違うことも多いのが特徴。

教えてくれたのは
谷口英喜 先生

医師・「教えて!『かくれ脱水』委員会」副委員長

谷口英喜 先生

済生会横浜市東部病院 患者支援センター長/周術期支援センター長/栄養部部長。専門は麻酔・集中治療、経口補水療法、体液管理、臨床栄養、周術期体液・栄養管理など。日本麻酔学会指導医、日本集中治療医学会専門医、日本救急医学会専門医、TNT-Dメディカルアドバイザー。著書に『熱中症・脱水症に役立つ 経口補水療法ハンドブック 改訂版』『イラストでやさしく解説!「脱水症」と「経口補水液」のすべてがわかる本』(ともに日本医療企画)がある。

【熱中症対策の基本】1日を通して“体水分マネジメント”の観点を持って過ごすことが大事です

谷口先生:体内が適切な水分量になっているかを、つねにセルフチェック・対策する“体水分マネジメント”の観点を持って1日を過ごすことで、多くの熱中症のリスクは回避できます。以下のリストの内容をつねに心に留めておき、自分の体に目を配ることが大事です。



【体水分マネジメントチェック!】


◻︎食事をしっかりとり、定期的な水分補給がきちんとできていますか?
◻︎いつもどおりの排尿ができていますか? 回数が減っていたり、尿の色が濃いのは水分不足です。
◻︎暑いところに行ったときに、汗が出る、体が火照るなどの正常な体温調節機能は働いていますか?
◻︎口の中が渇いていませんか? マスクをしていると気づきづらいので、注意が必要です。


決め手は“体水分マネジメント”!“隠れ熱中症”にならない過ごし方24時_2

【起床時】もっとも水分不足になっているタイミング! まずはコップ一杯の水分補給を

谷口先生:朝起きたときが、1日の中で一番水分が不足しているタイミングです。起きたらまず、コップ一杯の水分補給をしましょう。寝室と生活空間が分かれている場合は、すぐに生活空間のエアコンをつけたり、タイマーをセットしておいて涼しくしてください。また、起きたときにいつも以上に起きるのがだるいと感じたら、就寝中に軽い熱中症になっている可能性があります。その場合は無理をせず、栄養・水分補給を心がけ、屋内で休養を取るようにしてください。

POINT
・起きたらまずは水分補給!
・エアコンで部屋を冷やしておく
・起きるのがだるいと感じたら無理をせず

【朝食】抜くのはNG! 血流をつくってくれるタンパク質を多めに

谷口先生:熱中症対策の基本中の基本である水分補給には、しっかり食べることがもっとも重要です。いろんな栄養素をバランスよく摂取することが大事ですが、特に、体の水分の大部分である血流をつくるために必要なタンパク質は欠かせません。卵や牛乳などのタンパク質が多い食材を朝食に加えてみてください。

POINT
・食欲がなくても、朝食を抜くのはNG!
・血流をつくってくれるタンパク質を多めに

朝食のイメージ

【通勤・通学時】水分補給は30分に1回! ホームやバス停は注意が必要な危険地帯

谷口先生:30分に1回を目安に、水分補給を心がけてください。朝食を食べた場合は、塩分・糖分過多になるのを防ぐため、水やお茶などの、塩分や糖分が多くないものを飲んだほうがいいですが、朝食を抜いてしまった場合は、逆にジュースやスポーツドリンクなどの塩分や水分が多いものを選ぶといいでしょう。

屋外の路上だけでなく、駅のホームやバス停も熱中症のリスクが大きい危険地帯。日陰になるところを探し、水分補給も欠かさないようにしましょう。なるべく日に当たらないように、日傘や帽子などの日よけグッズを使うのも効果的です。

POINT
・水分補給は30分に1回!
・朝食を食べていたら水かお茶、朝食を抜いていたらジュース等で水分補給を
・駅のホームやバス停では特に注意を
・使えるなら日よけグッズも使って

【日中(屋内)】冷房は28℃・湿度60%以下に! 体水分マネジメントができているかセルフチェックを

谷口先生:冷房は28℃以下、湿度も60%以下になるように設定して、外にいるときよりも量は少なくて大丈夫ですが、定期的に水分補給をして過ごしましょう。コーヒーなどのカフェインが多い飲料は、慣れている人ならば問題ないかと思いますが、利尿作用があるので、飲んだ量以上に尿が出てしまっているのであれば注意が必要です。いつもと同じ排尿ができているか、セルフチェックしましょう。カフェインの過剰摂取は、体温調節機能に悪影響を与えるため、飲みすぎはNGです。

また甘い飲み物を飲みすぎて糖分過多になると、肝臓に負担がかかります。肝臓は、熱中症になりそうなときに発生する有害物質を解毒してくれる機能がありますので、負担をかけないようにしましょう。糖分過多だと、お腹が空かなくなってしまい、食事をとらなくなってしまうのもよくありません。もちろん、昼食はしっかりとるようにしてくださいね。

POINT
・冷房は28℃以下、湿度60%以下をキープ!
・水分は飲む量>排出する量になるようにセルフチェックを
・カフェイン、糖分過多には注意して

・昼食はしっかりと!

炎天下のイメージ

【日中(屋外)】こまめな休息と水分補給で、“暑さ負債”をリカバリーしつつ過ごす

谷口先生:なるべく暑さを避け、涼しい場所でこまめに水分と休息をとるようにしましょう。座って休息をとることで、熱中症になりそうになったときに発生する有害物質を解毒してくれる肝臓に血流をいかせることができます。休息をとらずにいると、体に有害物質と“暑さ負債”がたまっていってしまいます。

水分も、屋内にいるとき以上にたくさんとるようにしてください。熱中症対策として塩飴をなめる人もいると思いますが、塩飴だけでは効果がないどころか、体の中の塩分濃度が濃くなってしまい、熱中症になりやすくなってしまいます。塩飴をとる場合は、たっぷりと水分をとることが重要です。

POINT
・なるべく暑さ、直射日光を避けて過ごす
・こまめな休息は、肝臓に血流を送るため
・水分補給をたっぷりと。塩飴だけでは効果なし!

【夕方〜夜】日が落ちても油断はNG! 基本の対策と疲れへのケアを大事に

谷口先生:日が落ちてきて涼しくなってきたと思いきや、アスファルトやビルには熱がすごくたまっているんですね。それが放熱されるので、暑さ対策は必要です。また、夜のほうが日中より湿度が高くなるので、その点も注意したいところです。実は、気温よりも湿度のほうが熱中症のファクターとしては大きいんです。「熱中症指数」という、熱中症のリスク度を測る指数があるのですが、その指数は湿度・温度・輻射熱(例えばアスファルトなどにたまった熱など)の3つの因子からなっており、配分としては湿度7:温度2:輻射熱1の割合になっています。日中の炎天下にいなくても、熱中症のリスクは十分ありますよ。

また体も疲れてきているタイミングですので、基本の水分補給と休息をしっかりとるようにしてください。

POINT
・日が落ちても、湿度と輻射熱に警戒が必要!
・疲れで代謝を落とさないよう、水分補給と休息を

夕方のイメージ

【夕食】お酒を飲むならしっかり食べて! 料理中もときどきクールダウンを

谷口先生:夕食時に注意したいのは、お酒を飲む場合の食事の量です。お腹いっぱい食べてお酒を飲むのであれば、そうそう熱中症にはなりませんが、軽いおつまみしか食べずにいると、アルコールの利尿作用や体温を上げる効果で、熱中症のリスクが高くなります。

また、食事というよりも料理中の話になりますが、狭くて空調も利いていないキッチンは熱中症の危険地帯です。特に、揚げ物などの火力が強いものの調理中は気をつけてください。換気と水分補給をしつつ、ときどき手のひらを流水で冷やすといいでしょう。2〜3分冷やすだけでも、熱中症対策になります。

POINT
・お酒を飲むなら食事もしっかりと!
・料理中の熱中症に注意。手のひらを冷水で冷やすと◎

【入浴】湯船に浸かるなら、半身浴がオススメです

谷口先生:湯船に長時間浸かってのぼせてしまうのは危険です。暑い日はシャワーでさっとすませるのがよいと思いますが、湯船に浸かりたい場合は短時間にするか、首まで入らずに半身浴か3分の2浴にするとよいでしょう。入る前と出た後の水分補給も大事ですが、お風呂上がりの牛乳やアルコールはNGです。牛乳に含まれるアミノ酸やアルコールは、体温を上げる効果があるため、暑い日の入浴後には飲まないほうがいいでしょう。

POINT
・湯船に浸かるなら、短時間or半身浴がオススメ
・お風呂上がりの水分補給は、牛乳とアルコールは避けて

【就寝時】エアコンの設定が命! 冷房は“冷たい空気を吸う”ためのものと心得て

谷口先生:寝る前には、コップ一杯を目安に水分補給を。室内は28℃以下、湿度40~60%に保ちましょう。中症対策のためには、“冷たい空気を吸う”ことが大事です。人間の肺は広げるとテニスコート半分ほどの大きさがあり、肺を冷やすことで、全身を冷やすことができるんです。室温を29℃以上にしてタオルケットなどの薄い布団で調節するのではなく、部屋はちゃんと冷やして、寒いのなら布団やパジャマで調節するといいでしょう。

POINT
・寝る前にはコップ一杯の水分補給を
・部屋を冷やして、冷たい空気を吸えるように

夜のイメージ

企画・編集/木村美紀(yoi) Illustrations by tomozina