健康意識が高まる中で、“血糖値”という言葉を耳にすることが増えてきたのではないでしょうか。体の健康を測る指標でありながら、いまひとつピンと来ない人も少なくないかもしれません。そこで今回は、まつだ消化器糖尿病クリニック・副院長の松田優樹先生に血糖値について、また、ダイエットとの関係について詳しく教えていただきました!

教えていただいたのは
松田 優樹先生

まつだ消化器糖尿病クリニック・副院長

松田 優樹先生

岡山大学医学部卒業。日本糖尿病学会専門医、内分泌代謝科専門医。ダイエットや糖尿病、生活習慣病の治療に注力し、患者一人ひとりに寄り添ったわかりやすい説明を心がける。YouTubeでは、糖尿病に関する正しい知識や生活改善のヒントを動画で配信中。持続グルコース測定(CGM)やGLP-1製剤を活用した治療にも精通し、患者の健康管理を多方面からサポートしている。

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Q1.「血糖値」って、そもそも何? 高いと問題がある?

A1.血液中のブドウ糖の濃度のことです。

松田先生食事をとると、摂取した糖質が体内でブドウ糖に分解され、血液中に流れていきます。この血液中のブドウ糖の濃度を“血糖値”といいます。空腹時は70~99、食後は100~140くらいが正常ですが、空腹時110を超えると“高血糖”、食後140を超えてくると“食後高血糖”が疑われてきます。

高血糖の主な原因は、糖質のとりすぎや肥満、食生活の乱れ、運動不足などによるもの。また、通常は膵臓から分泌される“インスリン”によってエネルギーへ変換されますが、インスリンが不足することで血糖値が上がってしまいます。

とはいえ、実際は血糖値が200くらいで自覚症状がある患者さんはさほど多くなく、数値が300を超えてくると、喉の渇きや尿の回数増えたり、倦怠感などの症状が出てきたりすることが多いです。

血糖値が高い=糖尿病というわけではなく、あくまでも高血糖が慢性的に続くことで糖尿病を発症するリスクが高くなります。糖尿病も自覚症状から受診されるというよりも、検診で尿糖が出る、血糖値が高い、ヘモグロビンA1c(血液中のヘモグロビンに結合したブドウ糖の割合をパーセント(%)で表した検査値)が基準よりも高いということから受診される人が多いですね。

また、最近では血糖値が高いものの糖尿病まではいかない「糖尿病予備軍」の人も増えている印象です。

Q2.血糖値が低い場合は、どんな問題があるの?

A2.日常生活で起こる反応性低血糖では、食後3、4時間たってから手の震え、吐き気や冷や汗、動悸などの症状が出ることが多いです。

松田先生高血糖とは反対に、血糖値が70未満となる状態を“低血糖”と呼びます。糖尿病の薬を服用しているときにも起こる症状ですが、そうではなく、日常生活で起きる場合は、血糖値の急降下による“反応性低血糖”が挙げられます。これは急激に上がった血糖値を下げようと膵臓がインスリンを分泌し、ジェットコースターのように血糖値が急降下してしまうことが原因です。

Q3.血糖値が低いと、精神面や感情にも影響する?

A3.イライラしたり、不安になるなどの影響があります。

松田先生:低血糖の状態になると、アドレナリンやノルアドレナリンが分泌され、イライラや怒りっぽくなったり、抑うつ、不安感が出たりすることがあります。

Q4.急に血糖値が上がる食品を食べると、太りやすくなる?

A4.GI値70以上の高GI食品は、太りやすくなります。

松田先生:食事を摂取したあとに、急激に血糖値が上昇する指数をGI値といいます。GI値が“70”以上のものは、高GI食品と定義されています。これらの高GI食品は、単純糖質のものが多く、摂取することで急激に血糖値が上昇。膵臓からインスリンが分泌されますが、インスリンにはただ血糖値を下げるだけでなく、余ったグルコースを脂肪組織として脂肪をつくるという働きもあるため、太りやすくなってしまいます。

高GI値の主な食品
・白米、食パン、フランスパン、うどん、あんぱん、もち
・じゃがいも、にんじん、里いも
・飴、チョコレート、せんべい、フルーツ缶詰、ジャム

血糖値 低GI食品 高GI食品

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Q5.血糖値を急激に上げない食べ方はある?

A5.血糖値を上げないためには、“葉物野菜”から食べましょう。

松田先生:高GI食品を避けるだけでなく、血糖値を上がりにくく、太りにくくしてくれる食材をとることも効果的です。炭水化物やスイーツを食べる前に、キャベツやレタス、白菜や小松菜、ほうれん草、ケールなどの“葉物野菜”を食べるようにしましょう。

天然のインスリンとも呼ばれ、血糖値の上昇を抑える働きのある“菊芋”や、ポリフェノールの一種であるケルセチンを豊富に含む“玉ねぎ”を積極的にとるのもおすすめです。クリニックに通う患者さんも体のために、たくさん野菜を食べて頑張っていますが、私も負けじとそれ以上に食べるようにしています!

また、落とし穴になりがちなのが“朝食”。朝食や昼食を欠食した場合などのさまざまなデータがあるのですが、実はいちばん代謝が悪くなってしまうのが、朝食を食べなかったときなんです。ゆで卵などのタンパク質を中心に、少し糖質もとるのがよいですね。

Q6.血糖値が急激に上がる食品を食べたときの対処法は?

A6.できるだけ運動してください。

松田先生:食後に軽く運動するだけでも、食後の血糖値の上がり方が大きく変わってきます。血糖値が上がるような食事をしたあとや、飲み会の帰りなどは、できるだけ歩くなど体を動かすようにしてみてくださいね。

Q7.血糖値が上がると、眠くなる?

A7.いいえ。血糖値と眠気は関係ありません。

松田先生テレビや雑誌などで、よく食後に血糖値が急激に上昇することで眠くなるといわれていますが、これは違うと毎回突っ込みたくなります!(笑) 高血糖で眠くなるというのは、まったくエビデンスがなく、実は”血圧の低下”が理由になっている場合が多いです。

食事の消化を促すため消化器官に血液が集中してしまい、本来であれば脳へ行き渡るはずの酸素や栄養素が減少し、血圧が下がって眠気を引き起こすことがあります。また、私たちの体では交感神経と副交感神経が交互に働いていますが、食事中は副交感神経が働いて消化を助けています。と同時に、副交感神経が働くことで、体がリラックスモードに入り眠気の原因となります。

Q8.食後に眠くなったときはどうしたらいい?

A8.血糖値ではなく血圧の低下によるものなので、水分をしっかりとることが重要です!

松田先生:食後の血圧の低下は、水分の摂取量が少ないときに特になりやすいです。白湯でもいいので、しっかり水分をとるようにしましょう。また、リラックスモードの副交感神経から、交感神経へ切り替えなくてはいけないので、やはり“体を動かすこと”。立ち上がるだけでも効果的ですよ。

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Q9.「血糖スパイク」って何ですか?

A9.食後に血糖値が急上昇・急降下する状態を「血糖スパイク」と呼びます。

松田先生:血糖値の平均の数値が同じ100の人がいたとしても、安定して100前後を維持する人と、70や200など急激に上がったり下がったりする人がいます。このように食後に血糖値が急上昇・急降下する状態を「血糖スパイク」と呼びます。

たとえ平均値が同じだったとしても、体へのダメージは断然、血糖スパイクの人のほうが大きいです。糖尿病ではなくても血管へのダメージが大きいため、動脈硬化のリスクも。最近では、がんや認知症、骨粗しょう症などとも関係があることがわかってきました。

また、知らぬうちに1日に何回も血糖スパイクを繰り返している人は、皆さんが想像しているよりもかなり多いと思います。というのも、実際にうちのクリニックで、糖尿病ではないスタッフが血糖値を自己測定できる機器を装着して、いつも通りの食事をしたあとの血糖値を測定してみました。

すると、20代のスタッフでも、ファーストフードや牛丼、カレーを食べたあとは、ものすごい血糖スパイクが起きていることがわかったんです。現代の食生活の影響もあるかもしれませんが、年齢に関係なく、血糖スパイクは身近で起きているかもしれません。

Q10.糖尿病や持病がなくても、自分で血糖値を測ることはメリットがある?

A10.食生活を見直すきっかけになったりと、メリットはあると思います。

松田先生糖尿病や持病がない人でも、持続血糖測定器によって、自分自身で手軽に血糖値を測れるようになってきています。一生つけなければいけないということはなく、一時的にでも食事の前後の血糖値を可視化することで食生活が変わったりと、学びは多いと思います。

構成・取材・文/木土さや