朝食を食べない女性に、栄養失調の“やせ”が多いだけでなく、“貧血”“低体温”の可能性が高いと言われています。やせ、貧血、低体温だと、月経不順、無月経、PMS(月経前症候群)、将来の不妊症、骨粗しょう症のリスクも。どんな栄養をとったらいいのか、栄養の専門家で医学博士の女性健康科学者、本田由佳先生に聞きました。

慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科特任准教授
女性健康科学者・健康情報学者・博士(医学)。順天堂大学スポーツ健康科学部卒業後、タニタで体組成計や睡眠計のアルゴリズム開発と商品企画に携わる。2018年〜2021年まで国立成育医療研究センターでプレコンセプションケアと女性の健康の包括的支援政策研究事業の政策研究を行った。現在は、データサイエンティストとして産科婦人科舘出張佐藤病院、慶應義塾大学SFCに所属。Femtechコミュニティモデルの構築やウエルビーイング健康教育プログラムの開発・研究・啓発を行う。著書に『価値創造の健康情報プラットフォーム 』(慶應義塾大学出版会)ほか。
50歳未満の女性の5人に1人が貧血!

増田美加(以下、増田):20代30代の日本女性のやせ過ぎに次いで、貧血(鉄欠乏性貧血)も深刻な状態と聞きますが、どのような状態なのでしょうか?
本田由佳先生(以下、本田先生):50歳未満の女性の約22%、つまり5人に1人が貧血というデータがあります*1。女性は月経(生理)による出血で鉄が失われるため、そもそも貧血になりやすいのです。生理のある20代女性の場合、1日10.5mgの鉄分を摂取することが推奨されています。
それなのに、朝食を抜いたり、ダイエットをしたりして食事量が足りていないと、栄養不足で鉄の補給量が少なくなるため、さらに貧血になりやすいのです。
*1 Int J Hematol.2006;84(3):217.219.
増田:貧血とは、体にどういうことが起こっているのでしょうか?
本田先生:貧血とは、酸素を全身に運ぶ赤血球に含まれるヘモグロビンが少なくなることです。このヘモグロビンには鉄が含まれていて、これに酸素がくっつき、全身に酸素を運び、供給します。
鉄が不足してしまうと、ヘモグロビンが減少して酸素不足の症状が出ます。それが貧血です。だるい、めまい、イライラ、勉強や仕事に集中できないのは、貧血の症状が出ている可能性があります。
【貧血チェック】
下記項目がいくつか当てはまるようなら、貧血があるかもしれません。貧血症状がある、ほかにも思い当たる症状が続いている場合は、積極的に医療機関を受診しましょう。
■ 全身がだるい、疲れやすい
■ 朝起きられない
■ 頭痛
■ めまい、立ちくらみ
■ すぐに動悸、息切れ
■ 耳鳴り
■ 呼吸困難感
■ 皮膚が白い(蒼白化)、顔色が悪い
■ 脱毛
■ 爪の変形
■ 爪が割れる、もろい
■ イライラしている
■ 注意力低下
■ 無理なダイエットをしている
■ 急激に体格(身長・体重)が増加しているけど、食事量は増えていない
■ 持久力がない
■ 手足のしびれ
■ 下まぶたの内側が白い
■ 1日に何個も氷や凍らせたものを食べたくなる(氷食症)
■ 月経量が多い日が3日以上ある
増田:最近、耳にする“隠れ貧血”というのも、ヘモグロビンの不足ですか?
本田先生:隠れ貧血とは、専門的には「潜在性鉄欠乏貧血」と言います。貧血(鉄欠乏性貧血)は、血液中のヘモグロビンが12g/dl未満なのに対して、隠れ貧血はフェリチンの値で見ます。フェリチンは、タンパク質と結合して肝臓などに蓄えられた貯蔵鉄の指標で、20代~40代女性の4割以上が隠れ貧血とも言われています*2。
隠れ貧血の人は、ヘモグロビン値を測っても正常であることが多く、月経(生理)時や妊娠時に貧血になりやすいため要注意状態と言えるのですが、自分でわかっていない人も多いのです。上記の貧血チェックに当てはまる方は、医療機関で血液検査をして調べてみてください。
また、一般的な貧血の検査項目であるヘモグロビン値は正常だけれど、気になる症状がある人は、婦人科や内科を受診し、医師に相談の上、フェリチンの値も調べてみてください。
*2 厚生労働省「国民健康・栄養調査」平成21年
栄養不足のやせの女性に、貧血、低体温が多い

増田:貧血の女性が増えているのは、どんな理由があるのでしょうか?
本田先生:エネルギー不足や栄養不足(タンパク質、鉄分、ビタミンD、葉酸、ビタミンC不足など)、朝食を食べない、運動不足、睡眠不足、筋肉量不足などにより、“やせ”の女性に貧血が多いのです。
やせ過ぎの女性たちには、低体温も増えています。36℃未満の体温の女性が約39%もいたことが私たちの研究でも明らかになりました。体温が低いということは、判断力が低下することでもあり、体が老化に近づいていると言えると思います。
また、40年前より女性の基礎体温が0.3℃も低くなっているのです。 低体温の解消には、まず朝食が重要です。“体温の高い人は、朝食を欠食していない”という調査があります。
朝食抜きによるエネルギー不足が、やせ、貧血、低体温の要因になっているのではないか、と思います。
増田:やせで栄養不足、加えて貧血、低体温という20代30代女性の現状がわかりました。貧血、低体温で起こる危険性について教えてください。
本田先生:貧血、低体温だと、疲れやすい、冷える、肌や髪の調子が悪い、集中できない、めまいや立ちくらみ、風邪にかかりやすいなどの不調が起こりやすいです。
そして、PMS(月経前症候群)、月経(生理)不順や無月経になりやすく、将来の不妊症のリスクも上がります。母体だけでなく赤ちゃんにも影響が及び、低出生体重児(2,500g未満)で生まれてくる可能性も上がります。
また、無月経(3ヵ月以上月経がない)の方の懸念点は、骨粗しょう症とそれによる骨折です。
鉄だけでなく、葉酸、ビタミンB12、タンパク質、ビタミンCも大事

増田:貧血、低体温を改善するために、特に必要な栄養素を教えてください。
本田先生:「鉄」を含む食品は、レバーやひじき、ほうれん草、肉、魚、卵、牛乳、大豆、野菜、海藻、穀類など多くの商品に含まれています。特に肉や魚に多く、お勧めは赤い部分です。
また、貧血改善には、「鉄分をとっていれば大丈夫!」と思っている人もいるかもしれませんが、体の隅々までヘモグロビンを運搬するためには、必要な台数のトラック=赤血球が必要です。
その赤血球をつくるのに重要な役割を果たすのが「葉酸」と「ビタミンB12」です。造血のビタミンと言われています。葉酸とビタミンB12は、鉄分と同じように、体内で合成できないため、食事で補わなければなりません。
葉酸は、水溶性ビタミンB群の一種で、特に新鮮な野菜や果物に豊富に含まれていて、ブロッコリーやほうれん草などの緑黄色野菜に多く含まれています。
ビタミンB12は、肉類、魚類、乳製品などの動物性食品に含まれていて、牛・豚レバー、魚介類、貝類、卵黄、チーズなどに多く含まれます。 鉄分のほかにも、赤血球やヘモグロビンの材料になる良質なタンパク質や、鉄分の吸収を高めるビタミンCの摂取も大切です。
朝食は、ぜひ食べてください。朝食で炭水化物・タンパク質をとらないと貧血症状が起こりやすく、低体温にもなりやすいのです。
20代女性に必要な量とバランスの食事例
【バランスよく栄養をとるコツ】
●5つの味(甘味、酸味、塩味、苦味、うま味)を揃える
●海・山・大地のものを揃える
●7色(レインボー)を目指す
食事をとるときのポイントとして上記の3つを心がけると、バランスよく楽しみながら必要な栄養素をとることができます。3食バランスよく、よく味わって食べて、食事量を減らさずに、運動をすることが大切です。最後に、女性におすすめの朝食と昼食の例を紹介します。
朝食の場合

食パン2〜3枚に、ツナや卵を追加
昼食の場合

ミートソースパスタにチーズとフルーツをプラス
写真提供 管理栄養士 篠原 絵里佳(フィーカレディースクリニック )
イラスト/大内郁美 企画・構成・取材・文/増田美加