近年、医療や美容など幅広い分野で注目されているCBD。大麻草やヘンプの茎と種から抽出される抗精神作用のない物質で、オイルや食品、サプリメントなどに使用されています。日本では医療用としては認められていないものの、神経症性障害、不安、慢性ストレスなどに悩む人の健康維持への効果を期待されています。

CBDオイルの正しい知識や使用の普及を目指す「臨床CBDオイル研究会」が4月に開催したセミナーでは、医療の現場でCBDを扱っている医師たちが講演。その中から今回は、実際の医療の現場での効果や臨床結果についてピックアップ。教えてくださったのは、内科・心療内科・精神科・オーソモレキュラー療法(食事やサプリメントで栄養バランスを整え、人が本来持っている治癒力へアプローチする治療法)を行う「ナカムラクリニック」院長の中村篤史先生です。

依存性の心配がないのがCBD

CBDオイルの画像

中村先生がセミナーで紹介したのは、まず、帯状疱疹を発症して治療をしていた50代の女性の臨床例。塗り薬と飲み薬で皮膚症状は治まりましたが、足の痛みが強く、ひどいときは歩けないほど。歯の痛みと頭痛もあり、神経内科を受診したところ、帯状疱疹後神経痛(皮膚症状が治ったあとも続く痛みで、最も発症頻度の高い帯状疱疹の合併症)との診断で、痛みの原因は神経節に潜んだヘルペスウイルスでした。処方された薬はあまり効果がなく、神経ブロックの注射を打てば少し痛みはラクになるものの、注射での治療が一生続くのかと思うと暗い気持ちに…。ビタミンやサプリメントで痛みを軽減できないかと、中村先生のクリニックを訪れたのだそう。

クリニックの処方で、CBD 2700mg含有のCBDオイルを1回0.5ml、1日2回服用したところ、1週間で明らかな効果が見られました。「驚いたことに、飲んで数分で痛みがすっかりなくなっていることに気がつきました。3年間悩みつづけた痛みが、3分で消えたんです」とその女性。でも、痛みが消えるうれしさが手伝って、CBDオイルに依存してしまうおそれはないのでしょうか?

この懸念について、「CBDには依存性の心配はありません」と中村先生は言います。

「そもそもCBDオイルには、“ハイになる”といった劇的な精神活性作用のある大麻草の成分、THC(テトラヒドロカンナビノール)が含まれていないので依存性はなく、お酒やタバコ、砂糖、コーヒーなどのほうが依存度は高いといえます。CBDオイルは、むしろアルコール依存など依存症に対する治療薬として使える可能性もあるのです」(中村先生)

吐き気や食欲不振にも少量で効果が

セミナーでは、長年悩まされてきた体の不調がCBDで改善したという症例も紹介されました。20年間悩まされてきた吐き気が近頃さらに悪化し、激しいめまいの発作も出るようになったという40代の女性。薬がないと立っていられない状態で、吐き気で体重も激減。セカンドオピニオンを受けるも“異常なし”とのことで、「良性発作性頭位めまい」と診断されます。病院で処方された薬のほかに、プロテインや鉄が効くという情報をインターネットで得て飲みはじめたり、プラセンタ注射や漢方薬などを試したりしましたがあまり効果を感じられなかったといいます。

そこで中村先生のクリニックを受診し、CBD10%のオイルを1回0.5ml、1日2回服用。すると、吐き気がなくなったおかげで食事がとれるようになり、立ちくらみもなくなったそう。CBDオイルを服用しはじめてから酔い止めや頭痛薬も飲むことがなくなり、20年来の吐き気が治まったとのことでした。

CBDの臨床例(足の痛み、食欲不振、めまい)

また、中村先生によると、食欲不振で食事がのどを通らないという場合も、CBDオイルが効果を発揮することがあるそう。交感神経の過剰興奮や栄養素の欠乏など、なんらかのきっかけで食欲不振になると、口当たりのいいお菓子などを食べているうちにビタミンが欠乏しがちに。神経や血液細胞を健康に保つビタミンB12が不足すると、疲労や便秘、食欲不振や貧血につながり、ますます食事ができなくなるという悪循環に陥る可能性があります。

食欲不振の人には、食事でしょうが(制吐作用)、ミント(整腸作用)、キャベツ(消化器系の不調全般に有効)を積極的にとるように指導。さらに、ビタミン不足を疑う場合は、各種ビタミンやミネラル(亜鉛、鉄、マグネシウム)の摂取を勧めることもあります。

しかし、なかにはのどの違和感が強く、サプリメントを飲むことも苦痛という人もいるため、その際は顆粒状のものや漢方薬を試しながら、CBDオイルを提案する場合があるのだそう。

クリニックでは、食欲不振からくる吐き気やパニックに悩む患者さんに、CBDオイルを食事の前に舌下に1滴入れるようにしてもらったところ、一瞬だけ吐き気を感じたものの、徐々にのどの違和感がなくなり、お米など通常の食事がとれるようになったというケースが紹介されました。

「CBDオイルは、不眠や疼痛、嘔吐、食欲減退などに効果があるほか、抗てんかん作用、免疫調整作用、抗炎症作用などがあることが確認されています。不安や慢性ストレスで悩む人にも効果が期待できます。0.4%程度の低い濃度や0.5mlといった少量であっても不調に劇的に効く場合がありますので、一度試してみるのもいいのでは」と中村先生。なかなか改善されない体の不調に悩んでいる人には、期待の持てる選択肢のひとつといえそうです。

構成・文/長岡絢子 イラスト/forest eternal Photo by Tinnakorn Jorruang / iStock / Getty Images Plus