「なんだか難しそう…」「本当に効果があるの?」――漢方にはそんなイメージを持つ人も少なくないかもしれません。でも実は、毎日の食事や生活習慣にも、漢方の考え方を気軽に取り入れられることを知っていますか? 例えば、“今”の自分の心や体の状態に合った食べ物を取り入れること。そのように自ら心身を整え、健康を維持することを「食養生」といいます。

とはいえ、まずはどんなことから始めたらいいかわからないというあなたに、漢方アドバイザー“なおみん”こと、久保奈穂実先生が、簡単でおいしい「養生レシピ」をご紹介! また、秋から冬に向けたこの時期に心がけたい生活習慣についても教えていただきました。日々をより心地よく、健やかに過ごすために、なおみん先生と楽しく養生を学んでみませんか?

久保 奈穂実

漢方アドバイザー、国際中医薬膳管理師

久保 奈穂実

美大卒業後、芸能・音楽活動を開始。ハードな生活で身心のバランスを崩す。漢方薬に助けられた経験から興味を持ち、「イスクラ中医薬研修塾」にて中医学を学ぶ。現在は「成城漢方たまり」にて漢方相談・薬膳講師。漢方薬だけでなく、食事や生活での養生も一人一人の『今』に合わせて提案している。著書に『缶詰ひとつで養生ごはん: かんたん おいしく 体が整う』(学研プラス)がある。

今回のテーマは、「秋の“カサカサ”」。意外なところも乾燥します

秋のイメージ

なおみん先生:漢方では、「邪気」といって、その季節ごとに出やすい不調やトラブルがあると考えられています。では、秋の邪気は何かというと、「乾燥」です。実際、肌のカサつきや、髪のパサつきが気になるという人が多いのではないでしょうか? ほかにも、空咳や痰が出る、硬いコロコロ便や、便秘がつらいといったご相談が、この時期、漢方相談でも急激に増えてきます。「え、便秘?」と思った方もいるかもしれません。実は乾燥は、体の表面だけでなく、肺や大腸などの臓器にも影響を及ぼします。

じゃあ水をたくさん飲めばいいのかというと、答えは「NO」。汗や尿で排出しきれなかった水は、体にたまり、むくみや冷えを招いてしまうことに。体内の水分バランスが崩れ、むくんでいるのに肌は乾燥する…なんてことも起こりかねません。よく美容目的で1日に2ℓや3ℓも水を飲む人がいますが、普段デスクワークなどで汗をかかない生活をしているなら、多すぎます。大事なのは水をたくさん摂取することではなく、「体のうるおいを補う」こと。これからの季節は特に、体のうるおいを補ってくれる食材の力を借りて、カサカサをうるうるにしていきましょう!

体のうるおいを補ってくれるのは「白い食材」

なおみん先生:そこでおすすめしたいのが、「白い食材」です。漢方では、白色の食べものには体のうるおいを補う効果があるとされ、代表的なものに白キクラゲがあります。とはいえ、スーパーではなかなか手に入りづらい。そこで代用できるのが、一年中手軽な値段で手に入るエノキです。ほかにも白菜や大根、梨なども、身近な白い食材として覚えておくといいでしょう。

もうひとつ、漢方の考え方では不調のあるところと同じ部位を食べると、改善効果があるといわれています。例えば、肌をうるおしたければ「皮」を食べるということ。肉の中でも皮の部分の多い鶏手羽先は、コラーゲンもたっぷりで、肌をうるおす効果が期待できます。かの楊貴妃は、肌の美しさを保つために日々手羽先を食べていたそうですよ。

秋の“カサカサ”乾燥に、白い“うるうる”スープ

秋の乾燥トラブル対策に、 “白い食材”と鶏手羽先を使った、スープのレシピをご紹介します!

白い食材のスープ

●材料(二人分)

スープの材料

・鶏手羽先…4本
・大根…1/8本(約120g)
・エノキ…1/3束(約30g)
・鶏ガラスープ…大さじ1
・ごま油…適宜
・白すりごま…適宜

●下ごしらえ

大根は皮をむき、1.5cm位の幅の半月状にカットする。
手羽先は骨の所でカットする。
エノキは根本を取り除き、軽くほぐす。

POINT: 手羽先を骨の所でカットすることで、骨髄からコラーゲンが溶け出すとともに、髄液には血を補う効果も。お肌のうるおいアップが期待できます。

●作り方

①鍋に手羽先と大根を並べ、水500mℓを注ぐ。
②中火で煮立ったら弱火にしてコトコト20分。
③鶏ガラスープで味を整える。
④エノキを入れ、ひと煮立ちさせたら火を止める。
⑤仕上げにごま油を軽くひと回し。
⑥器に盛り、白すりごまを散らして完成!

POINT:手羽先から脂が染み出して浮いてきますが、それがうるおいのもと。捨てずにそのまま食べましょう!

日々の食事にちょこっとプラスしたい、うるおいアップ術

なおみん先生:漢方では、酸味と甘みを一緒にとると、体の中でうるおいを生み出してくれるといわれています。フルーツなど、もともと甘酸っぱいものを食べるのもいいですが、例えば、今回紹介したスープの仕上げに、ちょっとレモンを絞ってみるのもおすすめです。ほかにも、三杯酢を使った酢の物を献立にプラスするなど、日々の食卓で「甘酸っぱい」味付けを意識してみると、自然とうるおいアップにつながりますよ。

秋の養生アドバイス

なおみん先生:秋の夜長というように、昼間が短く夜が長くなるこの時期は、「早寝早起き」をするのがよいとされています。夜ふかしは、乾燥を加速させる原因に。肌や体のうるおいは、寝ているあいだに補われるため、できれば夜11時にはベッドに入るようにしたいですね。

またこの時期、汗のかきすぎにも気をつけましょう。体の水分を必要以上に失ってしまうこともまた、全身のうるおい不足につながります。サウナがブームになっていますが、出たあとに肌や髪の毛の乾燥を感じる人は、体質に合っていない可能性も。世間的に健康にいいといわれていることが、必ずしも自分に合っているとは限りません。大切なのは、本当に心地よいかどうかということ。体感を大事にしてくださいね。

秋のイメージ

カサカサ乾燥の秋、体のうるおいに意識を向けて、食べものや日々の過ごし方を見直してみませんか? 秋の養生が、寒く厳しい冬を乗りきるための力になります。

構成・文/秦レンナ 料理写真/久保奈穂実 Photos by Kevin Ford / Matilda Delves / Getty Images Plus