漢方薬を中心とした医薬品メーカーの「クラシエ薬品」が、漢方薬市場の動向や2022年に注目された漢方薬、今後トレンドとなる漢方薬をまとめた「KAMPO OF THE YEAR 2022」を発表! いまや薬局やドラッグストアでも手軽に入手が可能になり、日常的に親しめるようになった漢方薬。風邪の症状はもちろん、冷えやむくみ、頭痛、めまいなど日々の不調の改善に活用している人も多いのではないでしょうか。そんななか、今年最も売り上げを伸ばした漢方薬とは…?

漢方薬(生薬)のイメージ画像

「葛根湯」「防風通聖散」以外の需要も増加中

「クラシエ薬品」によれば、漢方薬の市場金額のうち35%は「葛根湯」と肥満に向けた処方の「防風通聖散(ぼうふうつうしょうさん)」のふたつで構成されているそう。特に「葛根湯」は2002年から2021年まで販売構成比ランキングではつねにトップ。「漢方薬=風邪への対処」というイメージが強いせいもあるかもしれません。一方、「防風通聖散」は、2008年4月に始まった”メタボ健診”や「メタボリックシンドローム」という言葉の広まりとともに需要がアップ。

2014年後半に「葛根湯」の需要が急増したことをきっかけに漢方薬の間口が広がり、「足のつり」や「ちくのう症」など「風邪・肥満」以外にも漢方薬が有効であるという認識が広まります。2017年以降は急速な社会の変化により、健康の悩みも多様化。むくみや頭痛、喉のつかえ感など、ストレス不調をはじめとしたさまざまな症状への対応が漢方薬に期待されるようになりました。

年代別購買指数

漢方薬の購買指数は年齢と比例する傾向があり、購入する人の中心はやはり中・高年齢層。売上はコロナ禍では低下しましたが、2022年には回復。「葛根湯」や「防風通聖散」以外の漢方薬の市場が伸びており、特に若年層を中心に需要が高まっているといいます。「風邪」「メタボブーム」を経て、「不調の多様化」時代へ突入した今、漢方薬は幅広い年代に期待される存在に。

2022年度のトレンド漢方は「麦門冬湯(から咳)」

2022年度変化の大きかった漢方薬

そして、2022年度にいちばん売れた漢方薬はというと、「防風通聖散(肥満)」、次いで「葛根湯(風邪)」。さらに、一般用漢方薬市場において1月~10月の期間で最も伸長率が高かった漢方処方は、咳や痰に対応する「麦門冬湯(ばくもんどうとう)」、2位の頻尿関連処方である「八味地黄丸(はちみじおうがん)」は2019年以降、継続して需要が拡大中。「夜間尿には八味地黄丸が効く」という認知が広がったことが要因のよう。60代~70代を中心に需要が高く、今後も高齢化社会が進むことを考えるとさらに需要は増えそうです。

また、めまいなどに効果のある「苓桂朮甘湯(りょうけいじゅつかんとう)」 や「当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)」も上位にランクインし、感覚器に関する症状への需要が高まったことも2022年度の特徴です。 一方で、肥満症状に対応する処方への需要は昨年から減少。「クラシエ薬品」では、これは昨年度、新型コロナウイルスの影響による外出自粛に伴う運動不足で肥満改善への需要が高まった反動と分析しています。

「気象病」による体の不調にも需要拡大

2022年の漢方薬市場において注目すべきトレンドのひとつが「気象病」。気候や天気の変化が原因で起こる不調の総称で、気候変化の激しい季節の変わり目や梅雨の時期、台風が多い時期などに特に起こりやすいといわれています。

気圧の変化による不調は、2013年頃からじわじわと検索行動に現れていましたが、直近2年で急激に増加しているそう。「天気によって発現する不調の存在」が認知されたことや、症状に名前がついたことで一気にマーケットが拡大。関連する処方である「五苓散(ごれいさん)」や「苓桂朮甘湯」の需要も高まっています。雨の日や気圧の変化が大きい日に、頭痛に悩まされるという人も多いはず。市販の頭痛薬以外にも選択肢があるのは心強いですよね。

2022年度 注目の漢方薬

女性の悩みに寄り添う漢方薬にも注目

フェムテック市場が2025年に5兆円に拡大するとも予想されている今、「女性の生きやすさ」に対する漢方薬への期待も高まっています。仕事にやりがいを感じたり役職について仕事の責任が増す20代後半~40代は労働力の中心でもありますが、女性特有のかかりやすい疾患や症状が多く見られる年齢でもあります。生理痛や貧血、生理に伴う精神的不調、産後の体力低下、更年期の体の不調やイライラなど、ホルモンバランスの乱れからの不調や悩みにアプローチできるのも漢方薬の強み。以下は「クラシエ薬品」による、女性特有のさまざまな症状に対応する漢方薬の例。これを見ても、女性の心身のお悩みと漢方薬の親和性は高そうです。

■月経に関するお悩みには…
当帰芍薬散/足腰の冷え、貧血や生理不順の方に
桃核承気湯/便秘がちな方の生理痛、生理時の精神不安に
桂枝茯苓丸/生理痛、生理に伴うイライラに

■産後のお悩みには…
芎帰調血飲/産後のストレスや不安感、体力低下に

■更年期のお悩みには…
知柏地黄丸/ホットフラッシュなどで顔や手足がほてり汗ばむ方に
加味逍遙散/肩こり、疲れやすい、イライラなどに

ストレスフルな社会で生きていくために

街を歩く人々のイメージ写真

過度なストレスは身体的にも心理的にもさまざまな症状を引き起こします。「クラシエ薬品」代表取締役の草柳徹哉さんは、ストレス社会における漢方の役割について次のように語ります。

「ストレッサーの増加、超高齢化の加速、女性の社会進出促進など、日本社会全体の大きな変容を受けて、日々を生きる私たち生活者の悩みも多様化が進んでいるのではないでしょうか。現代社会では特にストレスを起因とする心身の不調が顕在化していると思います。ドラッグストアで販売する『漢方セラピー』においても、ストレスカテゴリーの売上高は2017年から2021年にかけて205%と大きく伸長しています。

この伸長を牽引した代表的な処方が『半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)』で、効能のひとつに『喉のつかえの改善』があります。検査しても物理的な原因が特定されづらい疾患です。なんとなくの不調で改善できるかわからない症状、病理原因が特定しづらい症状に対する新たな対応策として、漢方薬が着目されてきているのだと見ています」

ストレスによる症状と漢方薬

また、2020年から始まったコロナ禍では感染症対策としての漢方薬の可能性に注目が集まりましたが、同時に危惧されているのが「コロナ後遺症」。コロナ後遺症は罹患後の症状が幅広く、時間が経過しても症状が改善しないケースもあります。その場合、対症療法として漢方薬が有効なケースも。抑うつや集中力低下、睡眠障害など対処の難しい精神系症状をはじめ、疲労感や倦怠感などの全身系症状、息切れや咳といった呼吸器障害など、漢方薬の可能性に期待が集まっているんだとか。

不調を感じているけれど、「病院に行くほどでもない」「明確な診断がつかない」というときに頼りたいのが漢方薬。ストレスによる不調や加齢による衰え、女性特有の悩みなど、これまで見過ごされがちだった不調や悩みへの対応も期待できそう。心身の不調を感じたら、セルフケアの一環として自分に合った漢方薬を探してみるのもいいかもしれません。

構成・文/長岡絢子 Photo by bonchan, IR_Stone / iStock / Getty Images Plus