健康法の定番ともいえる腸活。体内時計のリズムに着目した時間栄養学の視点を取り入れると、よりその効果を高めることができます。今回は、時間栄養学を研究する管理栄養士の古谷彰子さんに時間栄養学の視点をまじえて、腸内環境を整えるために必要なことを教えてもらいました。

理学博士・管理栄養士
愛国学園短期大学准教授。「chronomanage」代表。早稲田大学規範科学総合研究所ナノ・ライフ創新研究機構招聘研究員。「時間」という観点から、医学・栄養学・調理学の領域にアプローチする時間栄養学を専門とし、科学的根拠をもとにした栄養指導や講演活動のほか、企業との商品開発など多岐にわたり活躍。
時間栄養学とは…?
「何をどのくらい」だけではなく、「いつ」食べるかということを考慮した栄養学。栄養素によって体内時計(細胞・器官に備わっている地球の自転に合わせた約24時間周期のリズム)を整えたり、体内時計に合わせて栄養素をとることでより効率的に代謝や合成を進めることができる。
時間栄養学では、朝食によって毎朝、体内時計をリセットし、1日の生理現象のリズムを整えることを重要視していて、それにより睡眠の質向上、自律神経、ホルモン調整、ボディメイクなどさまざまなメリットがあることがわかっている。
最強の腸活に朝食が重要なワケ
※本記事内で、食物繊維と記載しているときは、水溶性食物繊維と不溶性食物繊維の総称を指しています。
──腸内環境を整える腸活はメジャーな健康法のひとつですが、時間栄養学の視点で腸内環境改善のために意識したいことはありますか?
古谷彰子さん(以下、古谷):腸内細菌と体内時計の関係は明らかになっていない部分も多いのですが、生活リズムがバラバラな暮らしを送っている人の腸内環境が悪いというのは明らかです。
腸内環境は変化が速く、規則正しい生活をして食事を変えれば1週間くらいで改善することがわかっています。
規則正しい生活を行うための簡単な方法の一つが朝起きてご飯を食べること。最初はつらくても、どうにか頑張って起きて、何かを口に入れる。それを続けていくと、1週間もしないくらいで自然と体内時計が朝にシフトして起きられるようになります。
朝起きられるようになると、朝食をしっかり食べられるようになるだけではなく、夜、よく眠れるので、早寝早起きが定着し、体内時計のリズムが安定し、好循環が生まれます。
すると、あらゆる生理反応がスムーズに行われるようになり当然、腸内環境も整います。
また、整った腸内環境を作るのに欠かせないのが、短鎖脂肪酸。短鎖脂肪酸は、腸内細菌のうち善玉菌が水溶性食物繊維をエサとして食べたときに作られる代謝物で、水溶性食物繊維を夜にとるより、朝にとるほうが短鎖脂肪酸が多く作られることがわかっています。
つまり、体内時計を整えたうえで、朝に水溶性食物繊維をとるのが、最も効率的に短鎖脂肪酸を合成する方法というわけです。腸内環境改善によいとされる食品をとっても、体内時計が乱れた状態では、腸を整えるのは難しいでしょう。
まずは朝食で体内時計のリセット効果が高い糖質+タンパク質をとる。さらに水溶性食物繊維をはじめ、腸内環境を整えるのに有効とされる食品をプラスするのが時間栄養学的に理にかなった腸活です。
──水溶性食物繊維のほかに、プラスするとより腸内環境改善に効果的な栄養素や食品はあるのでしょうか?
古谷:食物繊維は水溶性食物繊維と不溶性食物繊維がありますが、不溶性食物繊維にも便のかさを増やし、蠕動(ぜんどう)運動を促す効果があるので、どちらも一緒にとりたいです。
確かに、短鎖脂肪酸を増やすには水溶性食物繊維が要なのですが、水溶性食物繊維に加えて、不溶性食物繊維を一緒にとったときが、最も腸内環境が整うというデータも出ています。
実際、食物繊維が多い食品には差はあれど、両方とも含まれている場合が多いので、食物繊維が多い食品をなんとなく頭に入れておき、まずは「ネバネバ食材を朝に食べる」というところからはじめていただければと思います。
また、マグネシウムは水溶性食物繊維と一緒にとることで腸内環境が改善することが実験でわかっていて、バナナや海苔などは、マグネシウムと水溶性食物繊維どちらも含むのでおすすめの食品ですね。

古谷:もちろん、腸活の定番であるヨーグルトやキムチ、納豆といった乳酸菌やビフィズス菌といった、健康促進が期待される有用菌を含む食品を食べるのもいいと思います。
発酵食品などに含まれる有用菌を「プロバイオティクス」というのに対し、食物繊維といった、すでに腸内にいる善玉菌に働きかける食品成分を「プレバイオティクス」といい、これらを組み合わせた「シンバイオティクス」を踏まえて食品の組み合わせを考えるのもいいでしょう。
朝にとりたい!腸活食材の最強コンビ
──腸内環境を整える食品の黄金コンビを教えてもらえますか?
古谷:今回は、水溶性食物繊維と不溶性食物繊維が両方とれる組み合わせに加え、腸内環境改善を加速するマグネシウム、さらに、シンバイオティクスに則った食品の組み合わせを考えてみました。
解説を参考にしながら、皆さんもさまざまな組み合わせにトライしてみてください。

①ヨーグルト+グラノーラ+バナナ
有用菌を含むヨーグルトに、食物繊維が取れるグラノーラ、食物繊維に加えマグネシウムを含むバナナの組み合わせ。ナッツ入りのグラノーラを選べば、マグネシウムをさらにプラスできるのでおすすめ。
②わかめと豆腐の味噌汁
マグネシウムと、特に水溶性食物繊維が豊富なわかめ。タンパク質、食物繊維に加えて、プレバイオティクスのひとつであるオリゴ糖を含む大豆。有用菌を含む発酵食品の味噌をひと椀で取れる最強コンビ。
③キムチ+木綿豆腐
同じ豆腐でも、絹豆腐より木綿豆腐のほうが食物繊維やマグネシウムが豊富。食物繊維と有用菌がとれるキムチをあわせて食べれば味も腸活的にも◎
④もち麦ごはん+納豆
もち麦には食物繊維が豊富に含まれていて、特に水溶性食物繊維の一種であるβ-グルカンが豊富。納豆には食物繊維、タンパク質に加え、体内時計リセット作用のあるビタミンKもとれるため、時間栄養学的には朝にとりたい満点のひと品。
⑤全粒粉パン+チーズ+ナッツ
食物繊維が豊富な全粒粉パンに、タンパク質を含む発酵食品であるチーズ、マグネシウムと食物繊維を含むナッツを組み合わせたトーストは、蜂蜜をかけて食べれば絶品。
イラスト/minomi 企画・構成・取材・文/長谷日向子