風邪にかかりやすいうえに、インフルエンザが流行しはじめ、さまざまな疾患のリスクが高まる冬。体のことばかり気にしがちですが、実はメンタル面でも不調を起こしやすい時期なんです。精神的な疲れや不調は免疫力低下にもつながるため、心身ともに健康に過ごすためには心の健康にも注意を払いたいところ。「ヘルスケアマネジメント協会」理事長の振本恵子さんに、冬にメンタル不調が起きやすい理由や自分でできる対策方法を伺いました。

振本恵子

一般社団法人ヘルスケアマネジメント協会代表理事

振本恵子

看護師、産業看護師、看護教員、心理カウンセラーなどを経て、2012年に健康教育コンサルタントとして独立。2016年、一般社団法人ヘルスケアマネジメント協会代表理事に就任。 

自律神経が乱れやすい冬は、メンタル不調に要注意!

メンタルの不調を感じている女性のイラスト

冬になると、なんだかやる気がでない…。それは、ただ寒い屋外に出かけるのがツラいというだけではないかもしれません。この時期ならではの3つの理由から、冬は自律神経が乱れ、メンタル不調が発症しやすいとされているのです。

1つめは、日照時間が短くなること。日光を浴びると脳内神経伝達物質のセロトニンが分泌されます。セロトニンは自律神経のコントロール機能を担っているため、日照時間の短さからセロトニンの分泌が十分に行われなくなり、精神的な不調を引き起こしやすくなります。

2つめの要因は気温の低下。体温調整にも自律神経が大きくかかわっていて、寒さの厳しい冬は、体の熱を逃がさないように交感神経がフル稼働している状態。自律神経のなかでも交感神経はおもに昼間や活動時に活発になりますが、寒さに耐えようとして交感神経が優位な状態が続くと体も心も休まらず、ストレスがかかってしまいます。

そして3つめは、年末年始に起こりがちなオーバーワーク。仕事でも家事でも、なにかとタスクが増えるのがこの時期。そのため睡眠不足に陥り、自律神経が乱れて、抑うつ感が引き起こされる可能性があります。

女性は特にメンタルヘルスに気を配るべき理由がある!

年齢とともに変化するエストロゲンの分泌量のグラフ

また、冬の季節的な要因とは別に、女性はライフステージの変化によってメンタル不調が生じやすい時期があります。それは、乳房や生殖器の発達などに関係する女性ホルモン、エストロゲンの分泌量がメンタルにも関係しているから。エストロゲンが減少すると、心を安定させるセロトニンも減少し、イライラや不安感、抑うつ感などが現れます。月経前症候群や産後うつ、更年期うつなど、女性特有の精神疾患の発症にも大きな影響を及ぼしているのも、このエストロゲンの減少が理由。出産後や更年期は、メンタル不調が生じやすい時期であることを自分もまわりも理解し、適切な対策をしていくことが大切です。

その体の疲れ、メンタル不調の予兆かも!?

メンタルの不調が表れるまでの症状の経過

メンタルの不調が起こる前には、目安となるサインが現れます。最初に出てくるのが、胃や頭などの痛みや、下痢、不眠といった身体症状です。特に胃腸には自律神経が集中しているため、症状が表れやすいといいます。食欲の減少、下痢、胃痛がみられる場合は注意しましょう。また、不眠は過緊張状態の指標となります。もし2週間以上、眠れない夜が続くなら医療機関の受診を検討して。

次に現れるのが、行動の変化。ストレスに対抗するため、甘いものなど嗜好品を摂取する量が増加したり、遅刻や欠勤が目立つようになったりします。この2段階を経て、最後に現れるのがイライラや抑うつ、不安感といったメンタル不調。身体症状や行動の変化に気づいた時点で、早めに対処すると回復も早いため、自分自身のことはもちろん、家族やパートナーなど周囲の人の変化に気づいたときにもサポートしあえるといいですね。

今すぐできる! メンタルヘルスのマネジメント法

メンタル不調を引き起こす原因や初期症状を理解したら、次にすべきはその不調の予防と改善策を実行すること! 予防のための手段のひとつがストレスコントロール。「心を浴槽、そこに入る水をストレスとした場合に、水をあふれさせないようにすることが大切」だと振本さんは言います。そのために取り入れたい3つの方法をご紹介します。

バスタブ

ストレスコントロール法
①蛇口を閉める=ストレスの原因を断ち切る

仕事や人づき合いなど、ストレスの原因となっているものとの関係を断ち切りましょう。職場やパートナーなど、簡単に切れない間柄の場合は、まずは上手に距離をとることから。

②浴槽を広げる=ストレスを受け流す
完璧主義な性格の人ほど、柔軟な発想でストレスの原因になっているものを受け流しましょう。ストレスの対象となっている人を反面教師にしたり、話を聞き流すようにするのがおすすめ。

③浴槽の栓を抜く=ストレス発散
誰かに相談したり、趣味に没頭したりといった方法で、できるだけストレスを発散させましょう。

責任感が強いタイプや完璧主義の傾向がある人は、ストレスで水があふれやすいため、これらの3つを意識して生活してみてください。同時に、感じ始めたメンタル不調はセルフケアで改善することも大切です。今日から生活のルーティーンに組み込める、次の簡単ケア方法を試してみて!


メンタルヘルスのセルフケア法

朝に散歩をする

①太陽の光を浴びて体内時計を整える
朝起きたら、カーテンを開けたり家のまわりを散歩したりして日光を浴び、セロトニンの分泌を促して。体内時計が整い、自律神経の乱れが改善されます。曇りの日でも効果があるので、1日5分〜30分以内を目安に太陽の光を浴びましょう。また、休みの日は就寝や起床時間が乱れがちですが、起床時間のズレは平日のプラス2時間にとどめるといいでしょう。

②適度な運動などで体を温める
10分以上のウォーキングなど、一定のリズムで行う有酸素運動を行うと、セロトニンの分泌量がアップ! 運動後は副交感神経が優位になってリラックスでき、代謝や免疫力も高まります。運動だけでなく、38〜40℃の湯船に10分程度つかって体を温めるのもおすすめ。

納豆、豆腐、ヨーグルト

③食事はバランスよく
セロトニンの材料は、食事からしか摂取できない必須アミノ酸です。大豆や乳製品に多く含まれているので、豆腐や納豆などをいつもの食事にプラス。またR-1乳酸菌を配合したヨーグルトは免疫力維持にもつながります。

入眠前にはスマホを使わない

④しっかりと休養をとる
交感神経優位の興奮状態では、睡眠不足に陥ることが多く、ストレスへの抵抗力が減少してしまいます。スマホのブルーライトは脳を覚醒させるため、入眠の2時間前にはスマホの使用をやめて、良質な睡眠をとれる準備をしましょう。


お正月休みといっても、振り返ってみると忘年会や新年会があったり大掃除をしたりと、必ずしもゆっくりできなかったという人も多いはず。そのまま仕事が始まり、慌ただしい日常に突入していると、自覚のないまま心身の疲労が蓄積されてしまうおそれも。季節的にもメンタル不調が起きやすいときだからこそ、今の自分の状態や生活を見つめ直して、ヘルスマネジメントできる環境を整えましょう。

構成・文/政年美代子 資料提供/一般社団法人ヘルスケアマネジメント協会