「どんなときも自分の心を手放さないで」。心をテーマに歌い続ける木村カエラさんの“自分を生きる”方法_1

2004年にメジャーデビューして以降、『リルラリルハ』や『Butterfly』『Ring a Ding Dong』など、誰もが口ずさめる数々の名曲を世に送り出してきたアーティスト、木村カエラさん。楽曲だけでなく、つねに新しい刺激を感じさせるスタイルや、エッセイ本などを通して垣間見える飾らない生き方が私たちをエンパワメントし続けてくれる、唯一無二の存在です。

そんな彼女が、本日12月14日に約3年5カ月ぶりとなる待望のフルアルバム『MAGNETIC』をリリース。「デビューした頃から、心をテーマにした楽曲制作をしてきた」と語った今回のインタビューでは、コロナ禍に制作した本作を通してたどり着いた、自分の心や他者との向き合い方、セルフケア方法について明かしてくれました。さらに、yoi読者の体・心・性のお悩みにお答えいただいたQ&Aも必読です!

磁石のように“好き”を引き寄せて完成した『MAGNETIC』

「どんなときも自分の心を手放さないで」。心をテーマに歌い続ける木村カエラさんの“自分を生きる”方法_2

ーー今回リリースされたアルバム『MAGNETIC』は、前作『いちご』から約3年5カ月ぶりとなるフルアルバムです。この数年間は、木村さんにとってどのような期間でしたか。

この期間は新型コロナウイルスの影響で、気軽に人と会えなくなったり、ライブができなくなったことに閉塞感を感じる一方で、じっくり自分と向き合ったり、私にとって大切なことと必要ないことを精査する時間を持つことができました。そうした時間のおかげで、人とのつき合い方や時間の使い方も、いい意味で変化したと思います。

例えば、以前なら「かかわってくれる人全員と仲良くしないと」と、波長が合わない人ともうまくやろうと頑張ることもあったけれど、今は、「無理に仲良くせず、適度な距離感を保てばいい」と考えられるようになりました。また、アウトプットばかりでせわしなく生きていた日々から、自分を癒やす時間を持つことの大切さにも気づけました。

これらの経験が、今回のアルバム『MAGNETIC』には反映されています。マグネットは同極同士だと反発しあうけれど、SとNで極が違うと引き寄せ合ってピタッとくっつくじゃないですか。それが、人間関係や、自分の好き・嫌いを感知する心と似ているように感じて。さらに、今作では「誰かと一緒に楽しく歌いたい!」という思いもあったので、以前からコラボしてみたかったAIちゃんや、サナバ(SANABAGUN.)、iriちゃんなど、大勢のアーティストにお声がけして制作しました。まさに、S極とN極のように引き寄せあったことで完成した作品です。

いちばんのセルフケアは、お風呂 with 粗塩!

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ーー“自分を癒やす時間を持つことの大切さ”に気づいたとのことですが、木村さん流のセルフケア方法とは?

深夜に「亀田の柿の種」を食べながらNetflixを観たり、お風呂に入りながら漫画『ONE PIECE』を読んだり、たっぷり寝たりすることかな。特に、私にとってお風呂はとても大事なんです。その日にあったことをすべて洗い流して、リセットできる大切な時間。いつもは子どもたちをお風呂に入れたりしてバタバタだけれど、時には家族全員が入ったあとに一人で、湯船に浸かったまま全身をゴシゴシ洗ったり、歯を磨いたり…。普段はできないこと、やっちゃいけないようなことをするのが究極のストレス発散なんですよね(笑)。

冬になると、ボディケアのために入浴剤『エプソムソルト』を入れることも。発汗作用があるし、保温効果も高いので愛用しています。「今日はツイてなかったな〜」って日は、体と心を清める粗塩を湯船にドバッと入れる! それでも足りないときは、サウナに行ったときのように全身に塩を塗りたくることもあります(笑)。作詞に煮つまったときも、お風呂に駆け込んで脳内をリセットすることが多くて、今回のアルバムの中だと、タイトル曲の『MAGNETIC feat.AI』の作詞中にもお風呂に入りました!

ーーバスルームも制作スペースのひとつなんですね。『MAGNETIC feat.AI』は、AIさんを客演に迎えた楽曲ですが、コラボレーションしてみていかがでしたか。

AIちゃんとはずっと一緒にやってみたいと思っていて、今回お願いしたら、ツアー中で忙しいにもかかわらず引き受けてくれました。私が先に作詞したものをAIちゃんに渡して、AIちゃんがラップ部分を作詞してくれて。SANABAGUN.とのコラボ曲『井の頭DAYS feat.SANABAGUN.』は、私の頭の中にあるキーワードを(SANABAGUN.の)岩間くんに伝えて、私が歌唱部分を、岩間くんがラップを制作してできた曲です。

以前、『ZIG ZAG feat. BIM』という曲でBIMくんとコラボしたとき、ラッパーの方とコラボするのが初めてだったので不安を感じたりもしたんです。でも、実際一緒にやってみたらすごく面白くて! 言葉のチョイスとか、声の録り方とか、私が好きなおまじないのような韻の踏み方とか、すべてが勉強になりました。だから、今回のAIちゃん、サナバのラップもすごく楽しみでした! 私と皆の音楽が融合することで、どんな化学反応が起きるかワクワクしながら制作しました。想像を超えるいい作品に仕上がってうれしいです。

自分を見失ってしまった経験。そして、“心”をテーマに音楽をしつづける理由

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ーー『井の頭DAYS feat.SANABAGUN.』のように今作には、「自分らしさ」について考えさせられる楽曲も収録されていますよね。木村さんはこれまで「自分らしさ」とどう向き合ってきましたか?

出産を経験し、自分を差し置いてでも守るべき存在ができたことで、“自分と向き合う時間”は確実に減りました。そのために、自分が求めていることや、本当に好きなものがわからなくなった時期があったんです。5年ほど続いたその状態から抜け出す突破口になったのは、2018年に出版した絵本『ねむとココロ』の制作でした。直感に従って描いた絵に色を塗る作業を重ねて、自分の心に素直になる訓練をしたら、ちょっとずつ本来の自分を取り戻すことができたんです。

心は実体がないけれど、つねに自分の中心にあると思うんです。そして、心が感じることを無視しつづけると、気づいたときには自分を見失っていたりする。例えば、社会に出るといろんな人とかかわるようになって、社交辞令が必要になったり、つい自分をよく見せようと見栄を張ってしまうこともある。それが悪いわけではないけれど、そればっかりをずっと続けていると、いつの間にか自分の心の声が聞こえづらくなってしまうんです。

だから、私の音楽は、“心”をテーマにしている歌詞が多い。『リルラリルハ』のサビで、〈忘れないで 見つめることを 忘れないで 感じることを〉と歌っているのは、大切な友人が自ら命を絶ってしまったときに書いた歌詞。この一節は、これからも伝えていきたいメッセージであり、私自身も忘れちゃいけないことだと思ってます。自分に嘘をつくのはやめて、いつだって自分が自分の心の味方でいてあげること。「よく頑張りましたね」って自分を受け入れてあげることが、「自分らしさ」を見失わないために大切なことだと思います。

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ーー今作に収録されている『ノイズキャンセリング』も、自分を見失いそうになったときに聴きたい一曲だと思いました。

そう! 『ノイズキャンセリング』は、まさに自分の心と対話することについて歌った曲。周囲の声に惑わされそうになったときは、耳をふさいで自分に集中しようというメッセージを込めています。

ーーまわりからの声といえば、木村さんも「アーティスト・木村カエラっぽいから」「親だから」といったような他人や社会からの「こうあるべき」に悩まされることはあるのでしょうか。

「これしたら、こう言われるんだろうな」と考えてしまうことはあります。今、ふと思い出したのが、10年ほど前に、オレンジカラーのマッシュヘアでベビーカーを押して歩いていたら週刊誌に撮られて、“ヤンママ”と書かれたことがあって。ナンセンスな見出しに、「え? 何がいけないの?」と思ったんですよね。

誰だって、四六時中、周囲から求められる完璧な姿ではいられない。光があれば影もあって当然。特に、SNSなどで光の部分ばかり求められがちな今は、周囲からの“ジャッジの目”であふれていますよね。私は、そういう他者からのジャッジメントは気にしないようにしています。というか気にしない。カッコ悪くても、自分が正しいと思うことを貫くことが大切だと思ってます。

自分にとっての“未知”は、ワクワクできる絶好のチャンス

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ーー今作『MAGNETIC』にも、私たちにとってエンパワメントになるメッセージがたくさん詰まっていると感じました。最後に、yoi読者の体・心・性のお悩みに、木村さんからアドバイスをお願いします!

Q1.「年齢を重ねて、感受性が鈍ってきた気がして落ち込みます。どうすればいいですか?」


めっちゃわかる〜! 年齢を重ねるにつれて経験値を積んでいくと、感受性って鈍りますよね。それって、日々が“知ってること”の繰り返しになっちゃうからだと思うんです。それが退屈なのであれば、自分から“知らないこと”に向かっていくべきだと思う。

だから、私はつねに、これまでやったことない音楽やファッション、ヘアスタイルにチャレンジするようにしています。自分にとって未知なことって最初は不安だけれど、チャレンジできたときに「あ、私いける!」って思えれば、次の一歩へのハードルも下がって、「次! 次!」とチャレンジしつづけられるんです。そんな感じで今までいろんなヘアスタイルに挑戦してきたけれど、最終的には私、坊主になるかも(笑)。

または、知らなかったことをインプットするのもおすすめです。うちはずっと猫を飼っているんですが、最近、Netflixで観たドキュメンタリー『教えて? ネコのココロ』は目からウロコだった! 「猫に好かれたいなら、猫をじっと見つめるのではなく、ゆっくりまばたきをしたほうがいい」と紹介されていたので、うちの猫が私のことをじっと見てきたら、私は目を細めるようになりました(笑)。そんなささいなことで毎日が少し新鮮になったりして。自分が知らなかったことを知る作業も、感受性を豊かにしてくれるひとつの方法だと思います。

Q2. 「仕事もプライベートも充実させて頑張りたいのに、ホルモンバランスなどの影響で体が思うように動いてくれなくて落ち込むことが増えました。木村カエラさんは、心と体のギャップにどのように向き合っていますか?」

ホルモンバランスって自分でコントロールできるものじゃないから難しい! でも、まずはこうして悩めているということが、自分の体と向き合えている証拠なのかなと思います。年齢を重ねていくと、幾度となく体の変化を感じる時期が訪れるけれど、私はそのつど、ライフスタイルを柔軟に変えていったかな。大豆イソフラボンが女性ホルモンの働きをサポートしてくれると聞いたので食習慣に取り入れてみたり。体の変化=ネガティブなことと捉えるのではなく、「じゃあ、私どうしよっか?」というマインドで向き合っていけばいいと私は思います。

アーティスト

木村カエラ

東京都出身。2004年6月にシングル『Level 42』でメジャーデビューして以降、『リルラリルハ』『Butterfly』『Ring a Ding Dong』などヒット曲を立て続けにリリース。2013年には、自身が代表を務めるプライベートレーベル「ELA」を設立。2018年に初の絵本『ねむとココロ』、2020年には初のエッセイ本『NIKKI」を出版し、音楽にとどまらない多岐にわたる活動を展開している。
 

撮影/久野美怜(SIGNO) ヘア&メイク/フジワラミホコ スタイリスト/伊藤信子 取材・文/海渡理恵 企画・編集/高戸映里奈(yoi)