緊張しているとき、深呼吸をするのはなぜ? 「呼吸が浅い」「呼吸が深い」って、どういう状態? 深い呼吸をすることによるメリットや、呼吸を深くするために今日からできるトレーニングについて、専門家の柿崎藤泰先生に伺いました。

柿崎藤泰 先生

文京学院大学教授

柿崎藤泰 先生

文京学院大学にて、保健医療技術学部、保健医療科学研究科の教授を務める。理学療法学科 理学療法士、医学博士。胸郭の運動分析、姿勢と胸郭周囲筋活動の関係、呼吸運動療法(呼吸困難感をやわらげ、個人に見合った日常生活動作を再建するための運動療法)の開発を行う。呼吸と姿勢のバランスを整える「ブリージングケア東京」を立ち上げ、コンディショニングや講習会を行っている。

「呼吸」の仕組みとは? 体や心とどう関係がある?

ろっ骨と横隔膜の位置関係

ストレスケア 緊張を和らげる 呼吸法 ろっ骨と横隔膜の位置関係

柿崎先生 自律神経と呼吸には深い関係があります。一般に息を吸うことは交感神経、息を吐くことは副交感神経との関係が深いとされており、緊張すると交感神経が優位になり、息を吸う回数だけが増えてしまいがち。そのため、人前に出る場面など緊張する際には『大きく息を吐いてリラックスして』と言われることが多いのです。

また手で触ってみるとわかりますが、ろっ骨はカゴのような形になっていますよね。その中に肺が納まっている状態で、ろっ骨の下にある筋肉=横隔膜や肋間筋などがカゴを動かす役割を担っています。なので、息を吸ったときには横隔膜が下がることでろっ骨のカゴの中にスペースが生まれ、肺にたくさんの空気を入れることができるのです。

ですが、特にろっ骨に歪みがあると、横隔膜や肋間筋のように呼吸の際に必要な筋肉を正しく動かせなくなり、呼吸が浅くなってしまうのです。

Point
・吸う息は交感神経と、吐く息は副交感神経と関係が深い
・緊張している場面では、呼吸が浅くなりやすい
・骨格に歪みがある場合も、筋肉が動かしにくくなり呼吸が浅くなりやすい

呼吸が浅くなることで起こる、意外な問題

柿崎先生 交感神経が優位になると息を吸う回数が増える、つまり呼吸が浅いときは自律神経が乱れている状態といえます。そのため疲れやすくなったり、動悸や息切れ、睡眠障害、便秘や下痢など、自律神経の乱れによる症状につながります。

また、呼吸筋は歩行するための筋肉にも深い関わりがあるため、呼吸筋のバランスが崩れると歩きづらくなってしまう可能性が。歩くための筋肉が正常に働かないと、ほかの筋肉や動きで補おうと体全体が疲れてしまい、呼吸が乱れて浅くなる…という悪循環に陥ることもあります。

Point
・呼吸が浅くなると自律神経が乱れ、睡眠障害や便秘などを引き起こす
・息を吸うための筋肉を過剰に使うと、歩行がしにくくなる
・歩行の際にうまく筋肉を使えないと、体全体が疲れやすくなる


柿崎先生
 深い呼吸は、横隔膜が正しく機能し、胸郭が呼吸に応じて動くことで起こります。感覚的には、息を吸った際に胸やろっ骨がふわ〜っと空気で満たされて広がった感覚が得られたら、それが深い呼吸です。息を吸い込むとお腹が膨らむ「腹式呼吸」は正しい呼吸法だと思われがちですが、実はそれは深い呼吸とは言えません。

呼吸を深め、骨格を調整するトレーニング

今回は柿崎先生に、自宅で簡単にできる、深い呼吸を身につける方法を教えてもらいました。

ストレスケア 緊張を和らげる 呼吸法 呼吸を深め、骨格を調整するトレーニング

How to practice

STEP1
 仰向けに寝転び、椅子などに足をのせて膝を90度に曲げた状態にする

STEP2 10cmほど腰を上げる。おしりの下にタオルなどを敷いてもOK

STEP3 3分ほど、息を長く吐くことに集中しながら呼吸する

※STEP1〜3を1日1回行う


柿崎先生
 おしりの位置が高くなることによって、内臓が上にあがり横隔膜に圧が加わります。すると横隔膜は「腹横筋・背筋・骨盤底筋が正しく働いている」と錯覚し、正しく動けるようになるんだそう。これを1日1回繰り返すことで、通常の体勢でも、体が自動的に横隔膜を正しく動かすことができるようになり、また日々の生活で歪んだろっ骨の位置も正常に戻っていきます。

息を吐く筋肉を鍛える呼吸筋トレーニング

「深い呼吸」を習得する方法以外に、息を吐く筋肉・息を吸う筋肉を鍛えるトレーニングも教えていただきました。デスクでもすぐできる簡単なものなので、隙間時間に取り入れてみてください。

ストレスケア 緊張を和らげる 呼吸法 息を吐く筋肉を鍛える呼吸筋トレーニング 筋トレ

How to practice

STEP1 片手を頭の後ろに持っていき、ひじを上にあげる

STEP2 ひじをあげていない側に、息を吐きながら上体を倒す。体重はひじを上げている側の坐骨にかけるように意識

STEP3 息を吸いながらひじを下ろす

※STEP1〜3を左右5回ずつ行う

息を吸う筋肉を鍛える呼吸筋トレーニング

ストレスケア 緊張を和らげる 呼吸法 息を吸う筋肉を鍛える呼吸筋トレーニング 筋トレ

How to practice

STEP1 両手を胸の前で組む

STEP2 息を吸いながら背中を丸めて組んだ手を前に伸ばす

※STEP1〜2を5回ずつ繰り返し行う

深い呼吸を取り入れるメリット

柿崎先生 当たり前のようですが、呼吸が浅くなることによるデメリットは、呼吸が深くなると解消されます。自律神経が整って睡眠の質が向上したり、血行がよくなって冷えや便秘が解消されたりといいことずくめです。

お手元にメジャーがあれば、みぞおちのあたりにメジャーを巻いて、息を吸った状態でどのくらい膨らむかを見てみてください。5cm膨らませられていたら成功です。逆に3〜4cm程度しか変わっていなかったら、かなり呼吸が浅くなっているサインです。

Point
・自律神経が整う 

・体が動かしやすくなる
・血行がよくなる
・便秘や下痢の解消 etc...

心も体も健康に過ごすために、無意識にしている「呼吸」に今日から意識を向けてみるのはいかがでしょうか?

イラスト/さとうりさ 取材・文/堀越美香子 企画/種谷美波(yoi)