仕事や家事、育児、スマホの情報に埋め尽くされた日々の中で、読書ができなくなっていると感じていませんか? 今、じわじわと各地で広がりを見せているのが読書会。今回は、yoi編集部・ハセがふたつの読書会に参加しました。そこで感じた、読書会ならではの魅力とは?
エディター
ウェルネス分野を中心に編集、執筆を行う。読書量は月4,5冊で、小説よりも評論を読むことが多い。読書会は今回が初参加。
読書会とは?
複数名が本を持って集まり、その内容について感想や考察などについて考えていることを互いに共有する会。本と向き合うためだけの時間なので、日常の喧騒から離れて心を落ち着かせることができるうえ、読書継続の後押しにも。
読みかけでも積読でもOK。「coffee caraway」の優しい読書会
最初に訪れたのは、東横線祐天寺駅から徒歩4分の「coffee caraway」。焙煎したてのコーヒー豆やドリップコーヒーが買えるコーヒーショップで、普段は5席あるイートインスペースをレイアウト調整し、読書会を実施しています。
こちらの読書会のテーマは「読めない本を読む」。参加者は、積読本(つんどくほん・本を購入し「いつか読もう」と思ってはいるものの、読まずに置いてある本)&読みかけ本を持ち寄ります。
「本はたくさん読むほうがいい、買ったら読みきらないといけないというルールを課している自分に気づいて、もっと自分に優しく読書を楽しみたいと思い、このような形式にしました」と語るのは、店主で主催者の芦川直子さん。
話しやすさを大切にするため、最大の参加人数は6名。この場に集うのは、本が好きだけれど、暮らしの中で読めたり、読めなかったり、そんな読書との距離感を持つ人たちです。今回の参加者は4名でした。
世代も性別もバラバラで、持ち寄った本は、古典的なもの、評論、児童文学までさまざま。ハセが今回セレクトしたのは読みかけていたジェイソン・ヒッケル著の『資本主義の次に来る世界』(東洋経済新報社)。「少ないほうが豊か」であるをテーマに、成長を必要としない次なる社会を描く本です。
まずはアイスブレイクとして芦川さんがセレクトした本の一部や詩をみんなで回し読みして音読。その後、自本紹介(タイトル、著者名、手に入れたきっかけ、読めていない理由)を行ったら、各自15分〜20分読書タイムへ。
その間に芦川さんがコーヒーを淹れてくださいます(コーヒーが飲めない方は別の飲料でもOK)。
読書タイムが終わったら、コーヒーを飲みつつ、読んだ内容やそれに対する感想を共有し、フリートークで終了。
不思議なことに、分野もテーマもバラバラな本なのに、話しているうちに共通する要素やつながりが見えてきて、フリートークは大盛り上がり。
「読書会の後は、もっと考えてみたい、話してみたいといった余韻がそれぞれの中にあると思います。結論を出して終わるのではなく、各自それを持ち帰り、次の読みたい本につながっていく。そしてそれを持ち寄って再び集まる。そういう豊かな循環が生まれればと思っています」(芦川さん)
香ばしいコーヒーの香りが漂う空間で、ただ目の前の本と対峙し、“結論”や“効率”“ルール”、そんな社会を埋め尽くすものを脇に置いて過ごした時間は、本当に心穏やかで豊かなものでした。
今回、読みかけでも積読本でもOKというこちらの読書会に参加したことで、読書に対して自分が無意識に抱いていた“こうあるべき”に気づくことができ、本を読むことに対して少し気持ちが楽になりました。
最近読書の時間がとれないと感じている方はぜひ、参加してみてください。
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coffee caraway
住所:〒153-0053 東京都目黒区五本木2-13-1
営業時間:12:30〜18:30
定休日:日曜、月曜、木曜
読書会の開催日程はインスタグラムからご確認下さい。
>>公式サイトはこちら
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居心地のいい空間で自然と会話が広がる「Daily Practice Books」
続いて、足を運んだのは東京・広尾にある「Daily Practice Books」。マンションの一室には新旧さまざまな本が並び、売り物でありながら、個人の本棚でもあるというほかにはない空間が広がります。
オープンは日曜日のみで、住所は非公開。初めて足を運ぶ際はインスタグラムからDMを送ると、詳細な住所を教えてもらえます。
読書会の主催メンバーは、読書クラブ「PUB」の4人。メンバー構成は、「Daily Practice Books」を週末に運営しているマイさんと、気候変動に関する活動をしているモエギさん、レストランに勤め、読書会では軽食の準備を担当しているミキさん、そして、今回の読書会のファシリテーターであるユウさんです。
こちらは主催メンバーが毎回本をセレクトし、それを読んだ人が集まって感想や意見を交換するという形式。
今回はユウさんがセレクトしたのは、川上未映子さんの著書『ヘヴン』(講談社文庫)。斜視が原因でクラスメイトたちからいじめの標的にされている「僕」と、同じくクラスの女子たちからいじめを受けているコジマ、そして二人を取り巻く存在との関係性や関わりを描き、いじめを通して「善悪」や「強弱」という「価値観の根源」を問う作品です。
学校にちなみ、今回の軽食は揚げパン。本に囲まれたアットホームな雰囲気でみんなで円になって座り、まずはユウさんから本を選んだ理由を聞きます。続いてアイスブレイクで自己紹介へ。
今回の参加者は10名。自己紹介をひと通り終えたら、まずはユウさんが気になっていた質問を参加者に投げかけ、みんなが感じたことを自由に話していきます。
自由に解釈ができる小説だからこそ、それぞれのバックグラウンドによって感じ方もまったく異なっていました。だからこそ、決して一人ではたどり着けないところまで理解を深めたり、たくさん思考する喜びを感じたりすることができます。
誰かの話を種にしてまた新しい話が生まれる…。そんな繰り返しから、気づけば社会問題や少し哲学的なことにまで話が展開。本というハブのおかげで、初対面にもかかわらず、和気藹々と楽しく、深い時間を過ごすことができました。
同じ本をみんなで読んで意見を交わすこちらの読書会では、少し足が遠ざかりがちだった小説の魅力を再発見でき、あえて自分が普段選ばないジャンルの本を読みたくなりました。
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Daily Practice Books
住所:〒150-0012 東京都渋谷区広尾
営業日:日曜日のみ
営業時間:12:00〜18:00
※詳細な住所と読書会開催日程はインスタグラムからご確認ください。
>>公式サイトはこちら
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自分の心と言葉を取り戻す。読書会が私たちを癒す理由
職業柄、読書は常日頃からしているものの、読書会に参加したことで、これまでとはまったく異なる解像度で一冊の本と向き合うことができました。
SNSで誰もが考えを発信できる時代。たくさん流れてくる誰かの声に共感やいいね!はしているけれど、そのとき自分が一体どう感じていて、どう考えているかを言葉にすることはあまりありません。
思考を助けてくれる"本"を介して誰かと言葉を交わす読書会はとても新鮮で、日常で置き去りにしがちな自分の言葉と心を取り戻す作業をしているような感覚でした。
初対面の人も集まる読書会で自分の考えをアウトプットするのは疲れるし、勇気もいるけれど、それを終えたあとには、普段とは違う充実感を味わうことができました。
取材・文/長谷日向子