日々の暮らしで感じる疑問や喜び、悲しみ、怒り。そうした感情が生まれるのは、わたしたちが「社会」とつながっているから。わたしと地続きにあるこの社会について、それぞれの形で発信を続ける方に、社会とのつながりを意識するようになったきっかけと、これからについて伺っていきます。連載の幕開けとなるお一人目は、ライター/アクティビスト(※)の佐久間裕美子さん。

※アクティビスト:みんなが暮らす社会をよりよい場所にするための社会運動に参加する人たち。

佐久間裕美子

ライター/アクティビスト

佐久間裕美子

1996年に渡米し、1998年からニューヨーク在住。カルチャー、ファッション、政治、社会問題など幅広いジャンルでのインタビュー記事やルポ、紀行文などを執筆。著書に『ピンヒールははかない』(幻冬舎)、消費アクティビズム(買い物によって自分の意思を表明する運動)をテーマにしたWeの市民革命』(朝日出版社)、『みんなで世界を変える!小さな革命のすすめ』(偕成社)など。『Weの市民革命』刊行を機に読者とともに立ち上げた共同体Sakumag Collectiveを通じて勉強会や発信を行っている。2024年12月5日に翻訳書『編むことは力 ひび割れた世界のなかで、私たちの生をつなぎあわせる』(岩波書店)を刊行。

幼い頃に感じた「女の子らしさ」や「平等」への違和感

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──佐久間さんの著書には、ご自身と社会とのつながりにまつわる多くのエピソードが収められていますが、最初に社会を意識するきっかけとなったでき事から伺えますか。

佐久間さん まずひとつは、自分が「女の子になりたい」と選んだわけでもないのに、「女の子だからこうしなさい」とか「女の子らしく」と言われることへの違和感。もうひとつは、学校の教科書に「人は皆平等」って書いてあるけど、本当は平等じゃなくない?と気づいたことですかね。私が子どもの頃はまだ第二次世界大戦(太平洋戦争)で手足を失った人たちが駅前で地面に座ってお金を集めている場面に遭遇することがあって、国のために戦争に行って体を奪われた人がお金に困る、という状況に不当さを感じたことを覚えています。

あとはやっぱり自分がアメリカへ行って移民になったこと。最初はどこか“お客さん”な気持ちでいましたが、実際に生活が長くなってみると、ご近所づき合いやコミュニティ活動の中には、いつも政治があって。何か困りごとがあれば政治家に働きかける、政府の政策に反対なら声を上げる、と誰もが行動を起こす姿勢には刺激を受けましたし、移民の女性として心強く感じられたのだと思います。

──はじまりは、社会の仕組みそのものへの違和感だったのですね。

佐久間さん そうですね。関心を持っているテーマの中心には「平等」や「人権」がありますが、フェミニズムも気候変動もダイバーシティも、自分にとっては全部つながっているんですよね。自分の仕事に対する姿勢で、ターニングポイントとして大きかったのは2018年にIPCC(気候変動に関する政府間パネル)が発表した「1.5℃特別報告書」(※)だったと思います。

私は物もファッションも大好きだし、物を売るための広告を打ったお金で作られるメディアの仕事もたくさんしてきました。社会運動に参加することと、生業は別々に存在していましたが、気候変動がいよいよ引き返せないほど悪化する中で、その自己矛盾がどんどん大きくなる感じがあって。そこから、物との長期的なつき合い方を含めて、この時代にどう生きるべきかを提案していこうと考えるようになりました。

※世界各地に危機的な状況を引き起こす水準とされる1.5度の温暖化が、早ければ2030年に起きるという内容のレポート。世界中に大きな衝撃を与えた。

視点や方法論はみんな違うはず。聞こえてくる声の多様さが大切

──私もライターとしてルッキズムやジェンダーバイアスを助長するような記事を書いてきた自覚がありますし、自己矛盾のお話は思い当たる人も多いのではないでしょうか。社会や自分自身について考えるとき、情報とのつき合い方も重要なポイントになると思いますが、佐久間さんはどんなことを意識されていますか?

佐久間さん まず、人間や文明の存在自体が環境に対して有害性を持っていますから、その自己矛盾は受けとめたうえで、自分にとってちょうどいいスタンスを見つけるために、考え方が信用できるジャーナリストや、個人にないリソースを持つ大手メディア、社会問題について発信したり活動したりしている団体など、立場から活動内容まで多様な視点の引き出しをいくつか持っておくと、多角的に考えを深めるヒントになる気がします。ただ、つねに状況は変わるし、誰しもまちがえる可能性はあるし、信頼していた人が陰謀論やヘイトに取り込まれてしまう、ということもありえます。だから、私のことも含めて、何かの情報を100%信じるより、たくさんのソースを持っていることが大切だと思います。

──確かに、信頼する人やメディアの話を、いつの間にか自分の意見のように語ってしまう場面は少なくない気がします。「これって本当かな?」と思いながら触れるぐらいがちょうどいいのかもしれませんね。

佐久間さん 本当にそう思います。自分は何者で、自分にはどう見えるか、自分はどう考えるか、ということを大切にしてほしいです。育ってきた環境や見える風景は違うはずだから、何か行動をするときも、視点や方法論はみんなちょっとずつ違うはずだし、むしろ違っていないとおかしい。それぞれが立っている場所からアクションをしたり、声を上げたりすることが大切なんですよね。インフルエンサーやリーダーだけが語るのではなく、聞こえてくる声も見える姿も多様であることが大切だなと。

言葉を選ぶとき、ひとつひとつ考え直すようになった

──佐久間さんが主宰するコレクティブ(共同体)の「Sakumag Collective」が制作したZine『We Act!#2』で、「私は立派なミソジニストだった」と書かれていて驚きました。時を経て、ご自身の言葉やコミュニケーションはどんなふうに変わりましたか?

佐久間さん キャリアの前半は、教えられたとおり定型のコミュニケーションや刷り込みに縛られていたし、言葉も借り物のように使っていたと思います。特にパンデミック以降、現状に「これでいいのか」と疑問を持つことが増えて、これまで普通に使ってきた言葉を吟味することが増えました。

例えば、「国民」「有権者」という言葉を使わなくなりましたし、白=“いいもの”、黒=“悪いもの”だという判断は、人種にまつわる刷り込みの固定化に貢献していると思うから、「ブラック企業」という言葉を「闇企業」と言い換えたり。
こういうことを「面倒くさい」「いちいちうるさい」と感じる人も多いと思うけれど、そのつど考えていく必要があると思うんです。

──新しい言葉を作り出す感覚で向き合うと面白がれるのかもしれないですね。

佐久間さん そうなんですよね。みんなまちがえることを恐れるけれど、先ほどお話ししたように誰だってまちがえることもあれば、つねに更新もされていく。10年前は当たり前に使っていた言葉でも、「この言葉に置き去りにされている人がいるから、違う言葉を考えてみようか」と話し合ったり、見直したりしていくプロセスが大事なわけで。

でも、「生きるだけで精いっぱいだから、そんなこといちいち考えていられない」っていう人も多いだろうし、そのプロセスを全員に求めるのは酷だとも思う。だから、自分も含めて言葉を商売道具にしている人や、そうした社会について考えられる立場にいる人たちが、面倒くさがらずに楽しみながらやることが大切なのかなと思っています。

「こういう時代だから」みたいな理由で社会をあきらめなくていい

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──これからの社会をつくるためのプロセスということですね。とはいえ、現状にがっかりしたり、心が折れそうになったりする瞬間があるのもまた事実です…。

佐久間さん 男女の賃金格差とか、大多数の人は望んでいない戦争とか、理不尽なことって本当にたくさんあるじゃないですか。それはマジョリティによってマジョリティのためにデザインされた社会のバグであり、抗議したり、怒ったりしても直らないことのほうが多いけれど、だからといって黙ると、社会は後退していくと思うんです。その結果が、いまの日本であり、アメリカの姿だと思います。私は負けず嫌いなので、「いまは考える余裕がない人たちのためにも、あきらめてやるもんか」と、絶望してはゾンビのように立ち上がることの繰り返し。

でも、社会は絶対に前へ進んでいると、私は信じたい。そこに気づくには、「巨視」と「微視」、つまり社会全体を見るマクロな目(巨視)と、小さなところを見つめるミクロな目(微視)の両方が必要だなと思っていて。例えば、私にとって選挙はずっと「負け」のほうが多いけれど、微視的に見ればいろんな地域で明るい兆しがたくさん起きています。2024年7月の東京都知事選挙と同時に行われた都議会議員補欠選挙で、当選した9人のうち6人が女性だったこともそのひとつ。もちろん、その中には家父長制を支持する側の人もいるけれど、政治が行われる場所に男性ではない人の数が増えていくことは、じわじわと社会をよりインクルーシブ(包括的)な場所にしていくと思うんですよね。

──確かに、2022年の選挙でも杉並区では187票差で初の女性区長が誕生したあと、女性の区議が15人から24人に増加。武蔵野市議会ではパリテ(男女同数)が実現しました。

佐久間さん 変化のスピードはみんなが思うよりもゆっくりだからこそ、一人一人が健やかに、自分に自信を持って行動できることが本当に大切で。最近は、その状況をつくるためのお手伝いとして役に立ちたいなと思っています。特に日本は、“いい子”であることが求められる社会だから、みんないろいろなことを「仕方ない」って我慢しちゃっているんですよね。でも、そもそも仕方なくなんてないし、我慢しなくていいんですよ。「こういう時代だから」「こういうもんだから」みたいな理由で社会をあきらめなくていい。

──「あきらめなくていい」と思えることは、想像力を広げる力になる気がします。一人一人が健やかであるためには、どんなことが必要だと思われますか。

佐久間さん 社会に生きる人たちが、「自分には価値がある」と思えることが前提になると思います。この話をしたときに、「そんなこと急に言われてもできませんよ」と言われたことがあるけれど、それはそうだよね。ずっと親や学校からあれこれ植え付けられてきたわけだから。そういう意味でも、私たち一人一人がつくっているこの社会は、いろんな方向から変わらないといけない。

それから、「自分には何もない」「自分にできることはない」という人もいるけれど、いろいろな社会運動をしていると、本当にみんなそれぞれ役割が違うなって思うんです。たとえば、パレスチナのために寄付金をつくろうと思っても、私一人では何もできません。手芸な得意な人がいるから私がそれを各地で販売できるし、チラシ作りやSNSでの発信が得意な人、お金の管理が得意な人、ほかの人が気づかないところに気づける人、場の空気を明るくしてくれる人…みんな絶対に何か持っているんですよね。

もちろん、自分が得意なことに気がついていない人や、まだ情熱を感じられることに出会っていない人もいるかもしれないけれど、一人一人に意味があるし、価値があるし、私にもあなたにもできることは絶対にある。それは伝えたいですね。

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「出版業界は厳しいと言われているけれど、書店に行くとすごくいい本がいっぱい出ているなと感じます。竹田ダニエルさんやSakumag Collectiveの本は、一歩踏み出してみるのにすごくいいんじゃないかな。クラーク志織さんの新刊はすごく素敵で優しい本だし、社会のことを考える入り口としておすすめです」(佐久間さん)

アクティビスト 佐久間裕美子 小さな革命のすすめ

佐久間裕美子『みんなで世界を変える!小さな革命のすすめ』¥1760/偕成社

イラスト/三好愛 画像デザイン/前原悠花 構成・取材・文/国分美由紀