「冬季うつ」について、臨床心理士の山内恵理子さんに教えていただくシリーズの2回目。今回は、冬季うつと診断されたり、冬季うつのような症状が続いたときに、日常生活で実践できるケア方法を教えていただきました。

山内恵理子

公認心理師・臨床心理士

山内恵理子

愛知県名古屋市にある女性のための小さな相談室「こはる心理カウンセリング室」を運営。精神科・心療内科で長年勤務した経験やスクールカウンセラー・大学の学生相談室の経験を基に、生きづらさを抱える女性のための相談活動をしている。「傷ついた心のケアをもっと身近に、必要な場合は医療とつなげて」をキーワードに、個人カウンセリングだけでなく、企業や学校向けのゲートキーパー(自殺対策)講座やストレスケア講座の講師を務める。共著に『クライエントと臨床心理士 こころの「病」と心理療法』(金剛出版)。

何より効果的なのは、生活のリズムを整えること

冬季うつ 感情性障害 メンタルヘルス2-1

GoodStudio/Shutterstock.com

──冬季うつの治療には、どんな方法があるのでしょうか?

山内さん 一般的なうつ病の治療と同じように、脳内のバランスを整える抗うつ薬が処方されたり、物事の考え方や受け止め方をときほぐしていく認知行動療法を主としたカウンセリングを行ったりします。非常に強い光を30分〜2時間ほど浴びる「高照度光療法」もありますが、私の経験としては目覚めたらカーテンを開けるなど、生活の中で光を浴びる工夫を一緒に見つけていくことが多いですね。

──日常で実践できる改善策もあるのですね。

山内さん 先ほどのお話とも少し重なりますが、冬季うつの改善策として何より効果的なのが、生活のリズムを整えること。しっかり寝たり食事を意識したりすることで回復するケースも多いので、一年を通じて意識してほしいと思います。特に、誰もが冷えや日照時間の影響を受ける冬場は、いつも以上にリズムを保つように心がけてみてください。

今日から意識したい3つの生活習慣

①日光浴
光を浴びることで、睡眠や食欲、気分の調整を担う脳内の神経伝達物質「セロトニン」がつくられるので、朝目覚めたらカーテンを開ける、午前中に5分でもいいので散歩をして日光を浴びるなど、午前中から日中にかけてできるだけ光を浴びる工夫を。
特に午前中に光を浴びておくと、セロトニンが睡眠をつかさどる「メラトニン」に変換され、睡眠の質がよくなることで症状も改善されていく。天気が悪い日は、室内でも電気をつけて過ごしたり、太陽光と同等の光を再現した光目覚ましなどを浴びたりするのもおすすめ。

②運動と睡眠
「セロトニン」は運動によって増えることが確認されているので、昼間のうちにできるだけ体を動かしておくと効果的。激しい運動ではなく、短い散歩やウォーキング、ストレッチなどでOK。日中に体を動かすことでほどよい疲れも生じ、夜は休息モードに切り替えやすくなる。夜はたっぷり睡眠時間を確保するよう心がける。
また、冬季うつの代表的な症状である「過眠」があっても、眠くなってしまう自分を責めないことが大事。睡眠のリズムが乱れたままだと、季節が変わっても体のリズムが乱れてしまうので、「人の体はそういうふうにできている。夜は早く寝る」と考えること。

③食事
セロトニンの生成に必要なタンパク質やビタミン、ミネラルなどの栄養素をバランスよく摂取するのが基本。冬季うつは炭水化物などの糖質を欲してしまう傾向があるので、空腹を感じたときはタンパク質をとるように意識。また、セロトニン生成に必要なアミノ酸(トリプトファン)が豊富に含まれる肉や魚、大豆、ナッツ類、バナナなどは意識してとりたい食材。

冬季うつは体が環境に反応しているだけ。自分を責めないで

冬季うつ 感情性障害 メンタルヘルス2-2

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──カウンセリングも治療法のひとつということですが、物事の考え方や受け止め方で意識しておくといいポイントはありますか?

山内さん 日常生活の取り組みに関していうと、「いっぱい食べちゃったから」と次の日の食事を抜くのはやめたほうがいいと思います。食べすぎたから食事を抜くのではなく、気になるなら少し減らすぐらいで十分。食事を抜いてお腹が空きすぎると次にたっぷり食べてしまう可能性も高まりますし、菓子パンだけで済ませてしまうと栄養が足りずパフォーマンスが落ちるうえ、冬季うつにも悪影響です。毎日できるだけ決まった時間に食事をして、時々おやつも食べて…と食のバランスとリズムを乱さないことを意識してみてください。

──睡眠については「自分を責めない」というお話もありました。

山内さん そうですね。冬がくることも、寒暖差が激しくなることも、誰にも止められません。誰でも、いつでもなりうるものなので、冬季うつと診断されても自分を責めないでください。本人が悪いわけでも、怠けているわけでもありません。冬に移り変わる環境に合わせて、たまたま体が反応しているだけなので「今はそういう時期。自分の心や体にこれ以上、負荷をかけないように気をつけていこう」という考え方を持ってほしいと思います。

▶︎次の記事では、冬季うつとの向き合い方のコツ、そして身近な人が冬季うつかもしれない場合にできることについて、アドバイスをいただきました。

構成・取材・文/国分美由紀