瞑想好きだというお笑いコンビ・空気階段の水川かたまりさんとともに、心を整えられると噂の「マインドフルネス茶道教室」を訪ねました。 「マインドフルネス茶道」は、実際にどんな手順を踏んで行うのか? 講師の神林浩子先生のご指導のもと、実践しました。
「マインドフルネス茶道」とは?
一般社団法人日本テーブル茶道協会代表理事の神林浩子さんが開発した、茶道のお点前にマインドフルネスの要素を組み合わせたプログラム。お客さまのためにお茶を点てる一般的な茶道とは違い、自分のためにお茶を点てる。お点前の前には自分の状態を知るためのプロセスや呼吸瞑想などを行うことで、より自分にフォーカスし、心を整える効果があると考えられている。
芸人
1990年生まれ、岡山県出身。2012年に、鈴木もぐらと空気階段を結成。「キングオブコント」2021王者。2017年から放送しているTBSラジオ『空気階段の踊り場』が人気。
(社)日本テーブル茶道協会代表
1961年生まれ、東京都出身。12歳で茶道宗徧流に入門。15年間茶道のお稽古場に通う。50歳で子育て卒業を機に「テーブル茶道」普及を目指して起業。2014年、立派にとらわれず誰でも気軽にできる「有結流テーブル茶道教室」を開校。
まずは「気づく、手放す、集中する」の3ステップから
神林さん:早速「マインドフルネス茶道」を実践していきましょう。まずは、茶道のお点前に入る前に、「気づく、手放す、集中する」という3つのステップを行います。まず、「気づく」ために、自分のことを知るというワークを行います。お渡しした用紙に質問が書かれていますので、当てはまるものがあればチェックしてください。最後にチェックした合計の点数を教えてくださいね。
かたまりさん:3点になりました。
神林さん:ありがとうございます。これはですね、今の脳の状態を計測するチェックで、3点以上ですと脳が疲れているサイン、5点以上ですとうつ病予備軍ということになります。
かたまりさん:脳が疲れているんですね。あまり自覚していなかったです。
神林さん:ここで大事なのは、自分の状態に気づくということです。チェックシートの裏を見てください。曹洞宗の開祖・道玄の言葉「念起こらば即ち覚せよ 之を覚せば即ち失す」が書かれています。
かたまりさん:どういう意味でしょうか?
神林さん:「辛さや悲しみ、苦しいという気持ちを持っていることに気づきなさい。そうやって気づくだけで、その気持ちがだんだん消えていくよ」とおっしゃっているんですね。これがマインドフルネスの第一歩です。なので、今はこういう気持ちを抱えているんだな、こういう状態なんだなと知ることが大事なんです。
次にマインドフルネスな思考法を身につけるワークに入っていきます。
人間は何かの出来事があったときに瞬間的にパッと浮かぶ感情や考えがあり、それを「自動思考」といいます。それは昔の経験や思考の癖によるところが多いんですね。そういった自分の考えにバイアスや歪みが生じると、物事を客観視したり、自分の考えを修正したりすることが難しくなり、ストレスを抱えやすくなると言われています。そんな「認知の歪み」は、10パターンあると言われています。
【認知の歪み 10パターン】
①全か無か思考:物事を、白か黒かで分けて極端に考える
②一般化のしすぎ:一度自分に起こったことが、この先もずっと繰り返されると思い込んでしまう
③心のフィルター:ネガティブな色眼鏡をかけたまま、この世界を見てしまう
④マイナス化思考:悪いことは「やっぱり自分はダメ」、よいことは「これはまぐれだ」と思ってしまう
⑤結論の飛躍:確認せずに相手の心を深読みしすぎたり、まだ起こってもいないことを「きっと〜だろう」と決めつけたりなど、事実からは導き出されないはずの悲観的な結論を、飛躍して予測してしまう
⑥拡大視と過小評価:欠点や失敗を過剰に大きくとらえ、長所や成功を極端に小さくとらえてしまう
⑦感情的決めつけ:自分の感情を優先させて、物事から目を逸らしたり、決断を先延ばしにしてしまう
⑧すべき思考:自分や誰かの行動に対して「〜すべき」「〜しなければならない」と考えてしまう
⑨レッテル貼り:誰かの価値を、その人の特定の性質や行動で決めつけてしまう
⑩自己関連付け:悪いことが起きたとき、理由もなく自分のせいにしてしまう
神林さん:かたまりさん、この中で当てはまるものはありますか?
かたまりさん:①の「全か無か思考」は当てはまる気がします。100にならなければゼロでいいやっていう極端な考え方をしてしまうことがあるんです。例えば、受験勉強していたとき、数学は100点が取れないから0点でいいみたいな。
神林さん:なるほど。でも、0点でいいやと思えているということは、手放せている状態だからいいと思います。100点が取れないからストレスを感じるのであって。
かたまりさん:そうなんですね!
神林さん:多くの方がいくつか当てはまるんですが、かたまりさんは普段から瞑想をされているから、「認知の歪み」が少ないのかもしれませんね。
かたまりさん:マインドフルネスを意識する以前は「すべき思考」が強かった気がしますね。遅刻が多い相方に「時間は守るべき!」といった考えを押し付けて、イライラすることが多かったです。といっても、僕、今日寝坊して遅れてしまったので、人のことは言えませんが…。(この日、かたまりさんはちょっとだけ遅刻)
神林さん:いや、いいんですよ、よく眠れてよかったです(笑)。そしたらですね、次にすることは「手放す」というステップをやっていきます。突然ですが、かたまりさん、シロクマはご存じですか?
かたまりさん:はい、写真でしか見たことないですが、白いクマですよね。知ってます。
神林さん:そうです。では、これから1分測りますので、その間はシロクマのことは一切考えないようにしてください。はい、スタート。
神林さん:はい、1分経ちました。いかがでした?
かたまりさん:シロクマのことばっかり考えていました。
神林さん:ですよね。それが正常です(笑)。人は「◯◯しないでください」というと、それで頭がいっぱいになってしまうんですね。つまり「失敗しないように」とか「緊張しないように」と考えていると、そうなっちゃう。シロクマを思い浮かべてもいんだよと思えるように、失敗してもいいんだよ、緊張したっていいじゃんって思えると、その考えを手放していけるんですね。
かたまりさん:なるほど。
神林さん:あと、もうひとつ有効な手段で、葉っぱ瞑想法というものがあります。軽く目を瞑って、目の前にきれいな小川が流れているところを思い浮かべてください。そこに一枚の葉っぱを用意して、手放したいものを書くんですね。「緊張する自分」とか「遅刻してきた人にイライラする自分」とか。書いたらそれを小川に流して、葉っぱが下流のほうへ行く姿を想像します。で、目を開けると、これで手放すことになります。なんだか、どうでもよくなった気がしませんか?
かたまりさん:そうですね。なんとなく、そんな気持ちに。頭の中だけで想像するだけで手放せるのはいいですね。
神林さん:そうなんです。実際に川に流しにいた方がいらっしゃるんですけど(笑)、頭の中でやればいいんです。じゃあ、手放したら、目の前のことに集中するというステップに入り、呼吸瞑想とお茶のお点前をやっていきましょう。
深く、ゆっくり、呼吸に集中し、感覚を研ぎ澄ます
神林さん:まず、呼吸瞑想の方法です。おへそから指3本下、丹田という場所にちょっと力を入れます。すると、背骨がくっと起きて、自然に姿勢がまっすぐになります。髪の毛が上から引っ張られてるような、まっすぐな姿勢を意識してください。
神林さん:次に手のひらを上を向けて、心を開放し、目は軽く閉じます。これから深呼吸をしていきます。鼻から深く吸って、口から出します。吸う息は、丹田まで入れる意識で。もうこれ以上吸えないというところで、3秒息を止めて、 口から細くゆっくり吐きます。吐くときは、なるべく細く、遠くのろうそくの火を揺らすような感じで。では、やってみましょう。軽く目を閉じて、鼻から吸って、吸って、吸って、吸って丹田まで入れます。 もう吸えないなというところで3秒止めます。そして、ふーっと吐きます。なるべく遠くまで。
これから行う呼吸瞑想は、今の深呼吸を繰り返すのですが、1で吸って、ふーっと吐きます、2で吸って、また、ふーっと吐きます。これを10まで数えたら、また1に戻ります。呼吸をしていると「この呼吸でいいのかな?」とか雑念が出てくると思いますが、大丈夫です。雑念が出てきても、呼吸を意識します。数は、吸うときに数えてください。これを3分間続けます。
神林さん:いかがですか? 集中できました?
かたまりさん:すごく集中できました。
神林さん:さすが。訓練できてらっしゃる。今度は、先ほどの同様の流れを、吐くときに数を数えるやり方で繰り返します。深呼吸をすることによって、全身の血液が行き渡り、五感が研ぎ澄まされます。すると、よりお茶がおいしくいただけます。では、これからお茶を点てていきます。必要な道具を紹介しますね。
神林さん:抹茶茶碗、茶巾、茶筅(抹茶をかき混ぜる道具)、茶杓(抹茶を掬うための小さな匙)、棗(抹茶を入れたもの)、お盆。あとは写真には入っていませんが、お湯を入れた水筒、左側に建水(湯を捨てるもの)があれば大丈夫です。
最初からすべてを用意するのは大変だと思いますので、抹茶と茶筅さえあれば、ほかは家にあるもので代用できます。例えば、お盆はランチョンマット、抹茶茶碗はご飯茶碗やカフェオレボウル、茶巾はふきん、茶杓は小さめのスプーン、建水は大きめのお椀やボウル、棗は抹茶が入る蓋つきの小瓶、もしくは抹茶缶をそのまま使っても大丈夫です。
用意した道具を、決まった場所にセットします。お点前をする前は、茶筅の臭い移りと折れを防ぐためにあらかじめ水につけたものを使いましょう。
道具のセッティング
マットはテーブルの端から4.5センチぐらいのところに置き、マットの中央左側に抹茶茶碗を置く。茶碗の中に、茶巾と茶筅を入れ、縁のところに茶杓を伏せてかける。中央右側には、抹茶を入れた棗を。マットの外の右側にお湯を入れた水筒、左側に建水(湯を捨てるもの)を置く。
神林さん:お茶を点てる前には、お菓子をいただきましょう。今回は秋ということで、栗の形をした琥珀糖をご用意いたしました。かたまりさん、どうぞ召し上がってください。
かたまりさん:ありがとうございます。頂戴いたします。
神林さん:お菓子をいただいたら、お茶を点てていきます。まずは、丹田に力を入れて姿勢を整えてご挨拶をしましょう。始めさせていただきます。
かたまりさん:始めさせていただきます。
道具を整えるところから、お点前は始まっている
神林さん:まずは、お茶を点てるために、道具を決められた手順で移動していきます。
道具の移動
マットを持って1センチ引き、左手で建水を引く。右手で水筒の口をマットに向くようにして置き、その手で棗を取り、マットを時計に見立てて、11時のところに置く。その後、お茶碗を右手で取り、マットの中心に置く。茶杓を上から取り、4時のところに斜めに置く。茶筌は親指を上にして持ち、1時のところに置く。置いたときに、茶筅の結び目が自分のところに向くように。その手で、お茶碗を持ち、6時のところに置き、中に入った茶巾は、3時のところに置く。
神林さん:道具の移動が終わったら、水筒からお茶碗にお湯を入れましょう。これから「茶筅通し」という点前を行います。こちらも、決められた手順に沿って、丁寧に行っていきます。
茶筅通し
まず右手の親指と人差し指で茶筅を持ち、お湯の入ったお茶碗の中に入れる。左手をお茶碗に添え、お茶碗の4時のところ茶筅を置く。そして親指を上にくるように茶筅を持ちあげて穂先が折れていないか確認し、茶筅が3時くらいのところに来るようにそっと下ろす。そのとき、中指、薬指、小指を1〜2時のところに来るように添える。これを、全部で3回繰り返す。最後に、親指と人差し指で茶筅を持って縦に1の字を書く感じ前後に振り、ひらがなの「の」の字を書いて茶筅を引き上げる。
神林さん:茶筅を引き上げたら、決められた手順を経てお茶碗のお湯を捨て、お茶碗を拭いていきます。
お茶碗の準備
右手でお湯の入ったお茶碗を持って、左手のひらに乗せて、右手を添えて、時計回りに中のお湯でお茶碗を温めるようにゆっくりまわす。2周半回したら、左手でしっかりと持ち、右手で茶巾を持って、お茶碗の中のお湯を最後の1滴までしっかりと建水に捨てる。お茶碗を起こしたら、茶巾でしずく(水滴)を取りながら、茶碗を起こす。 茶巾をお茶碗の縁にかけて拭き、その後お茶碗の内側を拭く。拭いた茶巾はマットの3時のところに置く。
じっくりと向き合いながら、お茶を点てる
神林さん:いよいよ、お茶を点てていきましょう。まずは、茶杓を使い、棗から抹茶を取り、お茶碗の中に入れます。
抹茶をお茶碗に入れる
右手で茶杓を持って構え、左手で棗を取り、右手の薬指、小指で茶杓を握り込んだまま、親指と人差し指と中指の3本の指で棗の蓋を開ける。蓋は茶杓があった4時のところに置く。茶杓をスプーンを持つように持ち替えてお茶を掬い、お茶碗の中に2掬い半ぐらい入れる。一旦、棗を置き、お茶碗の中の抹茶を茶杓の先でカタカナの「ニ」の字を書くように広げる。そして、お茶碗の縁を使って茶杓についたお茶を軽くトントンと払い、右手に茶杓を持ったまま、右3本の指で棗の蓋を取り、閉める。茶杓を握り込んで、棗を元にあった場所に戻し、右手で茶杓を置く。
神林さん:抹茶を入れたら、お湯を注いでいきます。なるべく細くゆっくり入れたほうがお茶の香りが立ちますので、ゆっくりと5つ数えながら入れてみてください。その後、茶筅を使ってお茶を点てていきます。
お湯を入れ、抹茶を点てる
ゆっくり5つ数えながらお湯を入れ、入れ終わったら右手で茶筅を取り、左手を茶碗に添える。茶筅で無限大を中で書くように、次は上下に1の数字を書くように振っていく。左手を茶碗から離して膝の上に乗せ、茶筅を引き抜く。
感謝の心を持ちながら、抹茶をいただく
神林さん:では、点てたお抹茶をいただきましょう。飲む前には、抹茶やお道具の数々をつくってくださっている方、そして、森羅万象に感謝をいたします。お茶碗を右手で取ったら、左手に乗せます。茶碗の正面から飲むのは遠慮しますので、正面を6時だとしたら、9時のところまで時計回りに回します。そして、ひと口いただきます。いかがですか?
かたまりさん:おいしいです。
神林さん:よかったです。そしたら、今度はご自分にも感謝します。残りは、ご自由に飲んでください。最後は、吸い切りと言って、音を立てて「ずずっ」と音を立てて飲みます。飲み終わったら、作法通り片づけ、最後のご挨拶をします。では、お退屈さまでした。
かたまりさん:お退屈さまでした。
片づけの作法
飲み終わったら、飲み口を親指と人差し指で挟むようにして拭き、お菓子を包んでいた懐子で軽く指先を拭く。お茶碗を時計と反対回りに自分の方に正面を戻し、お茶碗にお湯を入れ、右手でお茶碗を取って、左手に乗せ、2周半ゆっくりまわして、建水にお湯を捨て、正面にお茶碗を置く。もう一度、お茶碗にお湯を入れ、使った茶筅を洗う。右手で茶筌を取り、左手を茶碗に添えて、さらさらと茶筅を振る。最後は、ひらがなの「の」の字を書いて、茶碗から引き抜く。茶碗のお湯を建水に捨て、茶巾でお茶碗の中を拭き、そのまま入れる。茶筅を、茶巾の上に置き、茶杓を右手で裏返しをして、お茶碗の右側にし、最初にお茶碗と並べた位置に戻す。そして、お茶碗を右手で取り、最後に棗と置き合わせる。最後は水筒、建水が茶碗と棗と一列になるように置く。
集中してお茶を点てるだけでもマインドフル!
神林さん:「マインドフルネス茶道」を体験してみて、いかがでしたか?
かたまりさん:めっちゃいい感じがしました! もともと手もとの作業だけに集中するのが好きなのですが、その状態が呼び起こされるというか。あと、しっかり集中してお点前していたら、おいしいお茶が飲めるというのもいいですね。
神林さん:慣れてくると、10分かからないくらいでできるようになりますよ。コーヒーや煎茶はコーヒーのカスや茶殻が出ますけど、お抹茶は粉を溶かしていただくので、後片づけも楽なんです。
今回はしっかり流れに沿ってお点前をやっていただきましたが、流れがわからなくても、集中してお茶を点てるだけでマインドフルなんです。心がざわつくなとか、頭をスッキリさせたいなとか、好きなタイミングでぜひやってみてくださいね。
撮影/馬場わかな 取材・文/浦本真梨子 企画・構成/木村美紀(yoi)