感情に振り回されることなく、豊かで自分らしい人生を実現するのに役立つEQ=心の知能指数。今回は、日本におけるEQ研究の第一人者、髙山直さんに、自分のEQを確かめるセルフチェックと、EQを高めるためにできる実践的なトレーニング方法を伺いました。

4つの能力のうち弱点はどれ? あなたのEQをチェック!
──個性や個人の感情が重視される今の時代、キャリアを中心に注目を集めているEQ。EQを高めるには、以下の4つの能力のバランスが大切と前編ではおっしゃっていましたが、自分の強み、弱みを確かめる方法を教えて下さい。
髙山直さん(以下、髙山):EQを発揮するうえで、4つの構成能力はいずれも欠かせないもので、どれが高くて、どれが弱点であるかを知ることは、自分のEQ現在地を知ること(自己理解)につながります。
①感情の識別:自分と周囲の人の感情を知覚し、識別する能力
②感情の利用:自分の問題、課題解決のために適切な感情を作り出す能力
③感情の理解:自分や他者の感情の原因や、どのように感情が変化するか予測する能力
④感情の調整:他者に適切かつ効果的に働きかける行動をとるために、自分の感情を活用する能力
今回は4つの能力別に6つの質問に答えて点数化するだけの簡単なセルフチェックを用意しました。
以下のそれぞれの質問に対して、自分はどの程度できると思うか、1〜5(1:ほとんどできない、2:あまりできない、3:ふつう、4:できるほうである、5:よくできる)で答えてください。
その後、能力ごとに点数を足し合わせ、こちらのレーダーチャートを作っていきます。

髙山さんの著書『EQ こころの鍛え方』(東洋経済新報社)より引用して作成。
点数は各30点満点で、25点以上が「極めて高い」、20〜24点が「高い」、11〜19点が「ふつう」、10点以下が「低い」という判断の目安になります。

髙山さんの著書『EQ こころの鍛え方』(東洋経済新報社)より引用して作成。
髙山:いかがだったでしょうか? 4つの能力のうち、相対的に低い能力から高め、できるだけバランスのとれたチャートを作るのが理想です。
まずは2カ月! いつでもどこでもすぐにできる、EQトレーニング
──セルフチェックで相対的に自分の弱い能力、強い能力がわかったところで、それぞれを鍛えるトレーニングを教えてください。
髙山:日常的に意識を変えるだけで、EQは磨かれていきます。今回は各項目ごとにいつでも、どこでも、すぐにできるEQをトレーニングをふたつ用意しました。
まずは2カ月を目安に続けてみてください。
①「感情の識別」を高めるには…
自分と相手の気持ちを感じるトレーニングを実践しましょう。
1. 朝、昼、夜、一日3回、今の気持ちの色とその理由を考え、メモをする
2. 一日一人の人間ウォッチングでその人の気持ちを想像する

②「感情の利用」を高めるには…
前向きな気持ちをつくるトレーニングを実践しましょう。
1. 一日5人、ほめたり、励ましたりする
2.「ありがとう。感謝しています」と一日5人に言う
③「感情の理解」を高めるには…
今日起こった感情の原因(理由)を考えるトレーニングを実践しましょう。
1. 毎日5分、一日の気持ちの変化を振り返る
2. 一日で一番印象に残っている感情の原因を考えメモする
④「感情の調整」を高めるには…
行動前に望ましい感情を最終決定するトレーニングを実践しましょう。
1. 行動前に大きく深呼吸をし、気持ちを整える
2. 行動前に「ちょっと待てよ」とひと呼吸置く

髙山:2カ月間、EQトレーニングを継続すると行動が自動化され、EQが開発されます。
トレーニングの成果は前述のセルフチェックで確認できるので、初回診断チャートに2回目の診断チャートを重ね、差異を確認することをおすすめしています。
EQが高い=いい人ではない! よくある誤解と、EQの本当の力
──EQを高めることは人間関係をはじめ、さまざまな悩みを解決する助けになりますが、ずっと他者の気持ちばかり考えていると疲れてしまわないかが気になります。
髙山: EQが高い人というと、いつも笑顔で誰にでも優しい人をイメージする人が多いのですが、EQの高い人は優しいだけでなく相手との関係性に応じて、“厳しさや緊張感を与えるEQ”も兼ね備えた人のことです。EQスイッチのオンオフの切り替えや、発揮レベルの調整ができる高度な技術を保有しています。
例えば、一緒に住んでいるパートナーならEQはオフモードや、レベル1〜10があるとしたら1や2でいいと思います。
むしろずっとハイレベルでオンにしないといけない関係なら、息苦しいので見直す必要があるかもしれません。
一方、ビジネスにおいて自分に好意的ではない相手と交渉するときなどはレベル10で対応する必要があります。
つまり、必要なタイミングで必要なレベルでEQのスイッチをオンにできる人はEQが高いといえるのです。
もちろん最初からできる人は少ないので、いろんな人と接する中で「この人にはこのレベルで接しよう」「このタイミングはオフにしよう」など経験を重ねる必要はあります。
また、よく誤解されがちなのですがEQは万能ではないですし、誰も攻撃しないような“いい”人になるわけでもありません。
大切な人を守るためには時には相手を攻撃することもあるし、パワハラをしてくるような人に対して言いなりになるのではなく、なぜ相手がそういうことをしてくるのか分析をしたり、自分を勇気づけてくれるような物を自分のデスクにおいて、適切な感情を作り、戦ったりするのもまたEQの技術。
EQは、“いい”人ではなく、負の感情を受け入れる柔軟さと、逆境を跳ね除ける強さや大胆さを持ち合わせた“すごい”人を作ってくれると思っています。
そして、自分の感情に気づけるようになることで、自分を大切にし、自分らしく、自分自身に悔いのない選択をする助けになるはずです。
イラスト/ハシモトチャン 取材・文/長谷日向子