自分を労るセルフケア、いざ始めようと思っても何をしたらいいかわからない…という人も多いのでは? そこで今回は、会社員として働きながら国内外の温泉をめぐり、“ひとり温泉”の魅力を発信している永井千晴さんに、その魅力や楽しみ方を聞いてみました。

永井千晴

温泉オタク会社員

永井千晴

1993年2月生まれ。学生時代に温泉メディアのライターとして、半年間かけて日本全国の温泉を取材。その後旅行情報誌『関東・東北じゃらん』編集部に2年間在籍。退職後は別業種で会社員をしながら、Twitterやブログで温泉の情報を発信している。現在も休みを見つけてはひとり温泉へ出かける温泉オタク。2020年には、エッセイ『女ひとり温泉をサイコーにする53の方法』(幻冬舎)を出版。

知れば知るほど奥深すぎる、温泉のトリコに

温泉 ひとり旅

——永井さんがひとり温泉にハマったきっかけを教えてください!

永井さん:大学生時代にバイトしていた会社の社長が温泉好きで、当時オウンドメディアがすごく流行っていたので、その社長が温泉メディアを立ち上げたんです。でも全然ネタが見つからなかったみたいで。私がちょうどブログを書いていた時期だったので、休学して記事を書くために日本一周してこない?と20歳のときに声をかけてもらったんです。車中泊しながら日本一周し、温泉に入っては記事を書き続けていました。そういったわけで私は仕事がきっかけだったので、温泉は1人で行くもの、みたいなイメージがいまだにあるんですよね。

——最初は仕事で行っていた温泉、プライベートで行きはじめたのはなぜだったのでしょうか?

永井さん温泉について調べれば調べるほど、「行ったことない場所がありすぎる!」という感覚が強まっていったんです。日本一周したときは北海道から鹿児島まで地続きでほとんどの地域を回ったので、走破したような感覚があったんですけど、それでも行ってないところも泊まったことがないところもたくさんある。当時はお金もないし車中泊だったので、知っていくほど「この宿もあの宿もその宿も行きたい」という思いになりました。

温泉地の公衆浴場や日帰り温泉でそこの湯に入れば、その温泉地のお湯のことをわかった気になっていたのですが、全然そんなことはなくて。温泉地によっては旅館ごとに源泉を持っていたり、湯船の大きさや湯使い(加水してるのか加温してるのか消毒してるのかなどなど)によって味わえるものが全然違う。だから「疲れたからひとり温泉でも行こっかな〜」というよりは「あの宿まだ行けてない…絶対行ってやる」みたいな、コレクション欲に近いですね。制覇したいという感覚です。

すべての時間を自分のために、思い通りに過ごせるのが“ひとり温泉”の魅力

温泉 旅館 ひとり旅

——では、ひとり温泉はセルフケアという観点ではどんないいことがあると思いますか?

永井さん
:誰かと一緒に行くと、コミュニケーションがメインになると思うんです。一緒に長風呂したり、ごはん食べてお酒飲んでおしゃべりするとか。非日常空間だから話せることもあるだろうし、もちろんすごく楽しいんですけど、そうすると残る記憶って「あのとき濃い話したな」とか「あのやりとり面白かった」とかコミュニケーションのことばかりになってしまう気がして。せっかく温泉に行くならめちゃくちゃにおいを嗅いだり、何度もお風呂に行ったり、ご飯も一品ずつ写真を撮ってメモしたりとか、そういうことをしたいんです。それって多分、人と一緒に行くよりも一人のほうが気楽にできると思うんです。だから友達と一緒に旅行するなら、温泉じゃない場所がいいなと思います。私にとっては目的が違う感じですね。だからひとりで行く意味とかよさというのは、“そのもの”を味わえることだと思います。

あとは自分の好きに時間を使えるのも、ある意味セルフケア的ではないかなと。ゆっくり本を読んだり、物思いに耽ってみたり、観たかったドラマを一気見するでも、漫画を読み切るでもいい。普段の生活でやりたいと思いつつ後回しになっていたことに、全部の時間を使える、しかも温泉宿で! これって楽しいですよね。

——普段生活していると、意外とそういう時間って取れないですよね。

永井さん
そうなんですよ。やっぱり知らない宿に1人で泊まるとなると、私もまだ全然緊張します。だからリラックスしに行くとか自分を癒しに行く感覚よりは、非日常に自分を置いて、何か違うことに集中しに行っているんじゃないかな。

ただ海外旅行と違って日本国内ならほぼ時間通りに電車やバスが来るし、困ったら人に聞ける。緊張はするけど困ることはほとんどない。そんな、自分の思い通りに過ごせる心地よさには、安心感と自己愛があると思うんです

永井さん流!“ひとり温泉”3つの選び方のポイント

温泉 オフシーズン ひとり旅

日本には数多くの温泉地がありますが、有名な5カ所くらいしか知らない…というのが正直なところ。そんな状態で目的地を決めるのはなかなか難しそうです。そこで永井さん流の、“ひとり温泉”における3つの選び方のポイントを教えてもらいました!

【選び方のポイント①】オフシーズンをねらって寂しさ回避

永井さん:海のほうにある温泉地は夏に行かないようにしているんです。なぜかというと、学生さんだったりご家族だったり、にぎやかに楽しみたい人たちがたくさんいる時期だし、温泉地としてもハイシーズンになるので値段も上がります。もちろん海水浴に来ている方を否定しているわけではなくて、ひとりで行くなら、無理することなく楽しめる時期のほうがいいなと思います。だから熱海や白浜なんかはあえて冬をおすすめしたいです。

夏に限らず、ハイシーズンと、人でにぎわいそうな時期は避けるのが基本です。例えば草津とか野沢とか越後湯沢とか、スキー場が近い温泉地は冬には行きません。わざわざひとりでいるのが寂しくなるような環境は選ばないことですね。

【選び方のポイント②】部屋数は10〜15室がベスト!ひとりプランの有無も確認

永井さん:なるべく小さめの宿を選ぶようにしています。例えば100室あるような大型の宿って、大人数を収容するための設備が整っていますよね。お風呂が広いとか食事どころが広いとか、そういう大人数のために用意された広いところで1人になると、必要以上に寂しい気持ちになるんです。ベストだと思う部屋数は20以下。10〜15部屋のお宿が理想ですね

そしてひとり用プランがあるとなおよしです。そういうプランがあると楽だというのもありますが、そのお宿が普段からひとり客を受け入れているかどうかが大事。ネットで検索してもひとり用のプランがまったくなくて、宿に直接電話したら「じゃあいいですよ」と許可をもらうよりは、そもそもひとりでOKですよと言われているほうが宿側も距離感を理解してくれているし、お互い過ごしやすいと思います

【選び方のポイント③】困ったら宿を旅の目的にすればOK

永井さん:目的地をエリアで選ぼうとすると、行ったことのない場所はかなりハードルが高いですよね。そういうときは、旅の目的自体を宿にしちゃうんです。例えば雑誌を見ていて「わ、このお宿素敵!」と思ってよく見たらあまり知らない温泉地だったとしても、まあ宿にさえ行ければ温泉には入れるしごはんも食べられますしね。最初は「この宿に泊まる、まわりに何があるかは着いてから宿の人に聞いてみて、温泉街とかあるなら行ってみる。何もなければ部屋でゆっくり過ごす」くらいの気持ちで探してみてください。

永井さん流!“ひとり温泉”を快適に過ごす2つのコツ

温泉 快適に過ごすコツ ひとり旅

【過ごし方のコツ①】予定を詰め込まない!遅く行って早く帰るくらいがちょうどいい

永井さん:旅行するとなると、アクティビティを予約したり観光地を見て回ったり、といろいろ行きたくなってしまいますが、私はひとりで温泉に行くときはなるべく予定を詰め込まないようにしています。ゆっくり美術館へ行くくらいはありますが、いろいろなところを回るのはやっぱり疲れるし、そういう旅は誰かと一緒のほうが楽しめる気がして。

気合い入れて早起きして、チェックインする前に現地でランチして…と朝早くから行動するのも大変なので、12時に出発して15時のチェックインに間に合えばいいや〜というスタンスです帰宅も早めに。ひとりで時間を自由に使えるからこそ、「疲れたな」と思ったら早めに帰れるというのがいいですよね。週末に旅するなら、日曜日はなるべく早く家に着くようにして、月曜日に備えます。

【過ごし方のコツ②】パジャマは絶対持参。スキンケアや寝る時間もなるべく“いつも通り”に

普段と違うことをすると、気付かないうちに疲れてしまうことってないですか? 私はなるべく普段の生活と同じように過ごしたい派。浴衣で寝るのは落ち着かないからパジャマを持っていくし化粧水などのスキンケア類も普段使っているものを持っていきます。あとはお部屋の遮光がされていないことがあるのでアイマスクと、お水は2本くらい買っていきます。山奥の宿だとまわりにコンビニがなかったりすることもあるので。

時間の習慣も、なるべくいつも通りに。旅宿って夜も朝も食事の時間が早いけど、だからといって無理して早寝しようとせず、いつもどおり24時過ぎに寝たりとか。自分のペースを乱さないのが快適に過ごすコツ!

行き先のお悩み全部解決!永井さん作・温泉チャート

永井さんのSNSを見たことがある人は、きっと知っているでしょう。永井さんが独自に作った温泉チャート! 好みを選択していくだけで、ぴったりの温泉地に辿り着くことができます。さっそく自分に合う温泉探しを始めましょう!

温泉チャート 永井千晴

イラスト/せかち 構成・取材・文/堀越美香子 企画/木村美紀(yoi)