「yoi」ではSDGsの17の目標のうち「3. すべての人に健康と福祉を」、「5. ジェンダー平等を実現しよう」、「10. 人や国の不平等をなくそう」の実現を目指しています。そこで、yoi編集長の高井が、同じくその実現を目指す企業に突撃取材! 第18回となる今回は、2023年に「yama」を設立し、2025年2月1日に熊本で70年の歴史を持つ宿をリノベーションし「KAWACHI BASE-龍栄荘-」をオープンした山本紗衣さんにお話を伺いました。

◆「yama」とは?
タレントとして活躍するスザンヌさんが2023年に本名の山本紗衣として立ち上げた会社。古着のリメイクブランド「Style Reborn」では熊本にゆかりのあるブランドやアーティストとコラボし注目を集める。2024年からは70年の歴史を持つ熊本市西区河内町の旅館「龍栄荘」をリノベーションし、宿&カフェ「KAWACHI BASE-龍栄荘-」として生まれ変わらせた。

(左から)高井編集長と山本紗衣さん。
代表取締役
1986年生まれ。タレント・スザンヌとして活躍しながら、2022年からは大学で経済・経営を学び、2023年に本名の山本紗衣として「yama」を設立。古着リメイクブランド「Style Reborn」などを手がけるほか、2025年2月には熊本市西区河内町の旅館をリノベーションした施設「KAWACHI BASE-龍栄荘-」をオープン。一児の母でもある。
第二の人生を考えたときに浮かんだ「起業」という選択肢

高井 まずは「KAWACHI BASE-龍栄荘-」のオープンおめでとうございます! スザンヌさんとしてのタレント活動に加えて、2023年には本名の山本紗衣さんとして「yama」を立ち上げられましたが、どんなきっかけがあったのでしょうか?
山本 ありがとうございます。ひとつは大学に進学したことですね。私はタレント活動に専念するために高校を中退しましたが、コロナ禍に「もう一度学び直そう」と思って通信制高校に再入学し、2022年からは大学生になりました。入学した日本経済大学では経済を学びながら起業できることも大きかったと思います。
もうひとつは、子どもとの関係性が変化してきたこと。大学に入って少したった頃、私が仕事へ行くたびに泣いていた子どもが「行ってらっしゃい」と見送ってくれるようになったんです。今まで子どもと二人三脚でやってきたけれど、これは第二の人生を考えておかないと私が子離れできないかもしれない…と感じたことが、具体的に起業を考えはじめるきっかけになりました。もちろん子どもから心を離しちゃいけないけど、「私は私で頑張っているよ」という姿を見せて安心させたいという思いもあって。
高井 そうだったのですね。古着のリメイクブランド「Style Reborn」はコラボレーションも多く、Instagramなどを通じてコラボブランドが取り組む社会貢献について触れていらっしゃるのも素敵だなと思っていました。
山本 そう言っていただけてうれしいです。「Style Reborn」は、たくさんの洋服が廃棄される現状がある中で、大事に着続けてもらえるこだわりの1着をつくりたいという思いから立ち上げました。例えばナイジェリアのプリント生地を使った「moyan ecri」とのコラボアイテムは、購入額の一部がナイジェリアの孤児院の支援に寄付されるので、「自分の買い物が誰かの役に立てる」という喜びにもつながるんですよね。私自身もこの事業を通じて改めてその大切さを知ることができました。
自分を支えてくれた熊本に恩返しがしたい

高井 お気に入りの物を購入して誰かの役に立てるという仕組みづくりは、1+1=2以上になるお取り組みだと思います。コラボ相手を考える上で大切にされたことはありますか?
山本 「yama」という会社は地元の熊本を大事にしていきたいという思いで始めたので、1年目は熊本出身のジュエリーアーティストや古着再生師の方、熊本に工場があるブランドなど、熊本に縁がある方たちとコラボしてきました。
高井 その思いが、2月1日にオープンした宿とカフェ「KAWACHI BASE-龍栄荘-」にもつながっているのですね。こちらの事業は偶然の出会いから生まれたと伺いました。
山本 そうなんです。最初は熊本の中心地から徒歩圏内のエリアに小さなビルを購入して、ネイルやエステなど美容系のテナントに入ってもらおうと考えていました。ところが4カ月ぐらい探しても見つからず、対象エリアを熊本市内全域に広げて探していたときに「河内町にすごく広い旅館があるらしい」と聞いて見に行ったらひと目惚れしてしまって。建物の雰囲気や灯籠も素敵だし、温泉も出ると聞いて購入を決めました。
最初は「小さなカフェができたらいいな」ぐらいの気持ちでしたが、前オーナーの久家久隆さんからお話を伺う中で、龍栄荘という旅館がどれだけ地元の人たちに愛されていたかを知るうちに「この場所を守っていかないと」みたいな使命感が生まれたんです。実際に動き出したら、漏電・漏水・シロアリと問題山積みで、ひっくり返るぐらいのお金がかかりました(笑)。でも、私はデビューしたときから熊本の方に支えられてきたので、恩返しのつもりで頑張っているところです。

地元の人たちに愛された旅館「龍栄荘」オーナーの久家久隆さんと。
熊本・河内町の新たな観光名所を目指して

高井 2024年12月のプレオープンから現在まで、お客さまからの声はいかがですか?
山本 70年続いた旅館なので、「ここで結婚式を挙げました」という方がいらしたり、「思い出の場所が残って幸せ」と言っていただけたり。龍栄荘を知らなかった方からも「河内に来る理由ができました」と言ってもらえるので、新しい観光名所になれるんじゃないかなと感じています。宿は2部屋だけでゆったり過ごしていただけるので、デジタルデトックスにもいいかもしれません。
河内の海に沈む夕日は、一度見たら忘れられないぐらい素敵なんですよ。季節ごとにフルーツ狩りができて、絶景スポットもあるし、すごく優しい方ばかり。大好きな場所です。
高井 お話を伺っていると行ってみたくなりますね! 「KAWACHI BASE-龍栄荘-」の館長は、地元のインフルエンサーの方ですが、チームづくりで意識されたことはありますか?
山本 館長のみっちゃん(インフルエンサーの腹ぺこみっちゃん)は、「こういう事業をしたいんだけど、どう思う?」という提案をしたら、すぐに家族で河内に引っ越してきてくれたほど想いを持っている人で。彼を含めてスタッフは全員熊本の人なので、みんなの存在があったから地元の人に受け入れてもらえたという面もあると思います。
館内で使うお皿選びからレシピ作り、壁紙の色も全部スタッフに決めてもらうようにしました。それを積み重ねることでチームワークもよくなるし、「自分たちの旅館」という空気になったので、すごくよかったなと思います。接客も、お客さまにほっとしてもらえるような、「おかえりなさい」みたいな気持ちで迎え入れましょうという話をしていました。

まずは最初の一歩を踏み出すことが大事

柔らかな雰囲気のカフェスペース。夜はバーとしての利用も可能。
高井 素晴らしいですね。起業に関心を持っているyoiの読者にも、ぜひアドバイスをいただけますか。
山本 私は会社をつくったので手続きがめちゃめちゃ大変でした。まわりの人に教わったりアドバイスをもらったりしながら最初は個人事業主から始めていくのもいいし、ECサイトのつくり方を勉強してInstagramで何か1点でも販売してみるのもいいと思います。まずは最初の一歩を踏み出すことが大事かなと思いますね。
高井 自分で頑張ることも大事だけれど、誰かとつながることで進みやすくなったりしますよね。
山本 そうですね。ただ、アドバイスをくれる人がいい人かどうかを見極めるのがすごく難しいんですよね(笑)。起業するタイミングで自分に知識がないと、情報に振り回されて不本意な目にあってしまう可能性もあるので、先に起業した友達や信頼できる人に紹介してもらう形でつながっていくのがいちばんいいのかなと思います。
そうやっていろんな人に会っていくと、自分に合う・合わないもわかると思うし、「こういう感じでやってみたいな」っていう自分のモデルプランみたいなものを組み立てていけるんじゃないかなって。
高井 ありがとうございます。最後に、「KAWACHI BASE-龍栄荘-」の今後の展開についてもぜひお聞かせください。
山本 まだ確定ではないのですが、ゴールデンウイークぐらいにサウナをつくれたらいいなと思っています。熊本でサウナ施設を運営している方にお願いしようと思っているのですが、完成したらまた新しいお客さまの層が広がるかなと。あとは、もともと池があったところを足湯にして、そこでお団子とか食べられるようにできたらといいなと思っています。地元の方を含めて、若い方から年配の方まで一緒にほっと過ごせるような場所をつくっていきたいですね。
取材を終えて…
「文は人なり」と言いますが、起業も人なり。山本さんの持ち前の明るさ、誠実さ、ひたむきさはもちろんのこと、何より、人を巻き込む“優しい力”をお持ちだったのが印象的です。
現代社会は、女性が起業する場合にまだまだ障壁が多いと思います。山本さんは「人とのつながり」を大切に、一番の財産にしていらっしゃると感じました。私は会社勤めではありますが、yoiも人なり。身が引き締まりました!(高井)

撮影/高井朝埜 ヘア&メイク/田宮裕子 画像デザイン/齋藤春香 構成・取材・文/国分美由紀 企画/高井佳子(yoi)