中毒性のある歌声と楽曲、SNSでも話題。必聴アーティスト・にしな 【前編 ー本心と向き合うことをあきらめない生き方】_1

等身大の感情を絞り出した歌詞と歌声で注目を集めるアーティスト・にしなさん。作詞・作曲から映像ディレクションまで多岐にわたる才能を発揮する彼女は、意外にも自身を「臆病者」だと語ります。その理由は、“言葉との向き合い方”にありました。SNSを通して気軽に言葉をやりとりし、さまざまな情報を得られるようになった今、自分を見失わず、繊細に本心と向き合っていくにしなさんの真の姿に迫ります。

にしな

作詞作曲をすべて自ら手がけ、人々を没入させる濃密な楽曲の世界観と、どこかはかない中毒性のある歌声で注目を集める音楽アーティスト。Spotifyによる次世代アーティスト応援プログラム「RADAR:Early Noise2021」に選出され、数々の映画・ドラマ主題歌や、CMのソングに抜擢。大学時代にジェンダーについて学んだ経験があり、多様な性や愛のかたちを歌った「夜になって」も話題に。去る1月26日に新曲「スローモーション」をリリース。オフィシャルサイトはこちらから。

心と声はつながっているから、体のことはできるだけオープンに

ーーyoiのテーマでもある「体・心・性」は、にしなさんのアーティスト活動にどんな影響を与えていますか?
改めて感じているのは、“体と心はつながっている”ということ。心の不調が体に現れることはよくありますが、「声」にも心の影響がすごく出るんですよね。
生理のときはホルモンバランスの関係で気分の揺れが表現に出てしまったり、骨盤が緩むなどといった体への影響で声が枯れやすくなったりもするそうです。だからこそ、レコーディングやステージでいいパフォーマンスができるように、自分の体のリズムについてマネージャーさんとも共有するようにしています。
あとは、ライブの前日はなるべく動物性タンパク質は避けて、納豆やキムチなどの発酵食品をとるようにしています。自炊はそんなに得意ではないけれど、食を意識することで、体を軽くして仕事に臨むようにしていますね。

中毒性のある歌声と楽曲、SNSでも話題。必聴アーティスト・にしな 【前編 ー本心と向き合うことをあきらめない生き方】_2

――1月26日にリリースされた『スローモーション』は、感情がダイレクトに心に注がれるような感覚を受ける楽曲でした。にしなさんの楽曲から伝わってくる感情は、むずがゆいほどにストレート。だからこそ、心が動かされると感じます。
私はもともと、自分の考えを人に伝えるのに、すごく時間がかかってしまうタイプなんです。しっかり考えて言葉にしなきゃと思うと、どうしても慎重になってしまって…。でも、歌詞については、考えて、考えて、とことん向き合って出てきた言葉だから、削ぎ落とされてストレートな印象を与えるのかもしれません。
臆病者なので、気持ちを言葉にするときに相手のことを考えすぎてしまうんです。相手の気持ちをくみ取った言葉をいつも伝えられるかと言えばそれは難しいし、逆に、究極を言えば私のことは私にしかわからない。でも、気持ちをどこかに放出したい、残しておきたいという気持ちが曲を書く原動力になっているように思います。

――歌は、にしなさんにとって感情を解き放つ手段のようなものなのでしょうか?
そうですね。作詞は私にとって「伝える」というより「心の中を吐き出してみた」って感覚のほうが近いかもしれないです。例えば、誰かに向けた思いを歌っているとしても、それがその人自身に届かなくてもいいと思っているところがある。もちろん届くことを願ってはいるけど、「気持ちをつぶやいてみた」というような位置づけなんでしょうね。

言葉に臆病だからこそ、歌で“私”を解き放つ

中毒性のある歌声と楽曲、SNSでも話題。必聴アーティスト・にしな 【前編 ー本心と向き合うことをあきらめない生き方】_3

――YouTubeやTwitter、Instagramなど、ソーシャルメディアのフォロワーも急増中のにしなさん。SNS等で言葉を発信するのは、歌詞を紡ぐのとはまったく違うものですか?
SNSに関しては、私の場合、考えすぎると発信できなくなってしまうので、できるだけ気軽に使うようにはしています。どうしても書くときに考えが巡って推敲はしてしまうんですけど。写真に添えているメッセージも、大きな想いとか「曲をこんなふうに受け取ってほしい」みたいなことはあまり書きません。楽曲以外で発信する私の言葉が、曲へのイマジネーションに制限をかけてしまうんじゃないか、という懸念もありますし。私、この仕事をしていなかったらたぶん、1ミリも何も発信しない人間になっていたかもしれないです(笑)。
 
――相手に何かを伝えたり、発信することに慎重になるのはなぜでしょうか?
どこかで、自分の気持ちを伝えることはエゴなんじゃないかと思っているんでしょうね。伝えることが悪いことではないって頭では理解しているんですけど、人と話したあとに後悔することも多いんです。気持ちを伝えたのではなくて、エゴを押しつけたんじゃないだろうか、って。
エゴについてはいつも考えています。でも、だからこそ私は、歌というかたちで人とつながろうとしているんだと思います。

▶︎つづく後編は、にしなさんが過去に経験したパートナーとの価値観の相違や、そこから生まれた多様性への意識、ルッキズムなどについて話が展開していきます。ぜひ、続けてお楽しみください。

撮影/塩谷哲平 ヘア&メイク/山口恵理子 スタイリスト/李靖華 取材・文/田中春香 企画・編集/高戸映里奈(yoi)