今年5周年を迎える『EMILY WEEK(エミリーウィーク)』は、女性の生理周期に寄り添ったライフスタイルをデザインするブランドとして、アンダーウエアをはじめ、フェムケアグッズやハーブティーなど、多彩なアイテムを展開しています。昨年2021年には、定番のアンダーウエアシリーズに、4つのラインナップを追加。ブランドコンセプトも刷新しました。

“女性のひと月”から“女性の一生”へ、視野を広げ、「すべての女性」の選択に寄り添うブランドへとリニューアルしたその裏側には、『EMILY WEEK』の生みの親であり、現在はフリーランスのブランドコンセプターとして運営に携わる、柿沼あき子さんの「不妊治療」の影響があったといいます。

女性のライフステージのなかには、生理だけでなく、仕事に結婚、妊娠や出産など多くの問題やイベントがあり、選択を迫られる機会がたくさんあります。自らもそれにぶつかり、悩んできた一人だと語る柿沼さん。新たな「EMILY WEEK」のコンセプトに込めた想いや、自身の不妊治療について、また、キャリアと生活を選択する難しさについて、お話を伺いました。

柿沼あき子さん

“すべての女性”の選択に寄り添いたい

――まずは、ブランド設立4周年を区切りに「EMILY WEEK」をリニューアルしたきっかけについて教えてください。

「EMILY WEEK」は、これまで「『生理週間』を軸に、女性の1ヵ月のバイオリズムに寄り添う」ことをテーマに、生理期をより心地よく過ごすためのアイテムを提案してきました。

4年のあいだにブランドも成長し、これからは「生理」だけでなく、女性のさまざまな悩みに対して、より幅広くアプローチできるのではないか。そんな想いがあったんです。ブランドを立ち上げて2年後の2019年は、「生理元年」とも呼ばれ、生理にまつわる女性の悩みや不調がメディアに大きく取り上げられたり、フェムテックやフェムケアのブランドが一気に増えたりしました。ここ数年で、世の中の「生理」のイメージや意識もずいぶん変わってきたように感じます。

そんななか、「マタニティ用のアンダーウエアがほしい」という声が増えたことも、リニューアルの大きなきっかけとなりました。ブランドとして、マタニティ向けのシリーズを作ることは親和性が高いことだし、ぜひこたえたいと思った一方、妊娠・出産は女性が人生で必ず辿る道のように伝わってしまうことは避けたかった。それは、私自身が不妊治療中だったことも大きく影響していたと思います。“すべての女性”のことを考えたとき、「結婚しない」「子どもを産まない」選択をする女性たちもいるし、私のように不妊治療中の人もいるはず。誰の悩みや気持ちも取りこぼしたくないと思ったんです。

――そこで、一気に4つのシリーズが生まれたのですね。

これまで注目してきた「女性の1ヵ月」のバイオリズムから、「女性の一生」へ視野を広げてみると、女性のライフステージのなかには、生理をはじめ、妊娠・出産による体の変化や更年期の不調など、本当にさまざまな悩みや選択があることに気づきます。それぞれの状況や選択に寄り添い、ポジティブにサポートできるように。そんな想いで、定番のアンダーウエアシリーズ「for 4WEEK(フォー フォーウィーク)」に加え、新たに4つのシリーズを増やしました。













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――マタニティのほかにも、ミドル世代向けや、ジェンダーニュートラルなデザインのシリーズなどがありますね。

「for  MOM(フォー マム)」
は、マタニティから授乳期まで使うことができます。定番シリーズと同様に、デザインのちょっとしたディテールやカラー展開にもこだわり、妊娠期間中もおしゃれを楽しんでいただけるように配慮しました。













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11〜17歳を対象にしたティーン向けの「Tiny (タイニー)」は、第一弾として、オーガニックコットンの吸水ショーツを作りました。薄くてすっきりしたデザインが特徴で、普段はいても違和感がありません。思春期は、まだ体が未熟なことから生理周期も不安定になりがち。このショーツだったら、突然生理になってしまったときも、安心感がありますよね。私自身、10代の初潮体験のトラウマが根深くあるので、生理の始まりをできるだけ気持ちよく過ごしてほしい、という想いがあります。こうしたアイテムで、自分の体との心地良い向き合い方を見つけてくれたらうれしいですね。













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ミドルエイジ世代に向けた「FLOW(フロウ)」は、「トップが下がって見えてしまう」「背中や脇のラインが気になる」など、加齢によるボディラインの悩みにアプローチするシリーズです。「下着はラクなものがいいけど、体はきれいに見せたい」という声にこたえ、リラックスした着心地はそのままに、バストメイクの機能も兼ね備えています。













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「CORE(コア)」は、ジェンダーニュートラルを意識したシリーズ。バストサイズが大きいことで性別にとらわれてしまうという方や、「胸のボリュームを抑えたい」というニーズに対して、性別に縛られずに着用できるアンダーウエアの必要性を感じました。













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私自身もそうなのですが、特に日本の女性は、自分の体や心の悩みを隠したり、我慢したりしがちだと感じます。自分の心地よさは、つい蔑ろになってしまうんですよね。それをもう少し、自分中心に考えることができたら、悩みも解決に向かっていくような気がするんです。「EMILY WEEK」のアンダーウエアが心地よく過ごすための、ひとつの選択肢になったらいいなと思います。

妊娠・出産だけが女性の幸せではないから。自分と同じ想いを抱える女性たちの声を聞いて

――不妊治療をする柿沼さんの想いが、ブランドのリニューアルにも反映されたということですが、これまで妊娠・出産に対して「祝福」や「喜び」だけでなく、さまざまな気持ちがあることに、一般にはあまり目が向けられてこなかったように思います。

まさにそれを実感したのが、マタニティシリーズのスタートを記念して開催した、産婦人科医とのトークライブイベントでした。事前に妊娠や出産にまつわる質問を募集したところ、集まったのは、「妊娠するのが怖いです」「何歳まで産めるんですか?」「不妊治療中で、マタニティを見ることがつらいです」といった、予想外の声や気持ちでした。

世の中的には、妊娠や出産はおめでたいことで、幸せの象徴というイメージがあります。でも、その裏側には語られてこなかった声もある。そしてそれは、私自身の声でもあると感じました。

柿沼あき子さん

ブランドと不妊治療が同時にスタート。仕事か生活か、大号泣した夜

――柿沼さんは、いつ頃から不妊治療を始めたのでしょうか?

実は、「EMILY WEEK」の事業化が決まったときが、ちょうど不妊治療を始めようと決めたときでもあったんです。私は27歳で結婚し、子どもを望んできたのですが、なかなか授からず、当時32歳という年齢的なことを考えると、治療は早いほうがいいことはわかっていました。一方で、「EMILY WEEK」は本当にやりたいことだったので、あきらめたくなかった。ただし、やるとなったらブランドが安定するまでの2〜3年は全力を注ぐことになる。事業化が決定した日、大号泣したことを覚えています。

――それはどんな想いで大号泣したのですか?

ブランドを始められるうれしさと、子どもが欲しいという気持ち。仕事か不妊治療を優先した生活か、選ばなくてはいけないということが、本当に苦しかったんです。当時、友人たちに子どもができはじめ、その輪の中に自分が入れない寂しさや、先を越されてしまうような焦りも感じていました。私はもともとホルモンの分泌異常の持病があったので、子どもができにくい体質だろうという自覚があり、年を重ねれば余計に子どもができにくくなるのではという不安もあって……。

でも、夫は、「両方あきらめることはできないんだから、どちらかではなく両方選んだらいい」と言ってくれました。それで少し安心したことを覚えています。

柿沼あき子さん

――とはいえ、ブランド立ち上げの忙しさのなかで、不妊治療に取り組むのはなかなか大変だったのでは?

やはりブランドがスタートして最初の1年間は忙しく、仕事に集中せざるを得ませんでしたが、2年目に入ってから、不妊治療クリニックに通うことにしました。自分と夫の体の状態を知り、つねに整えておくことが、少しでも妊娠に向けた安心材料になると思ったんです。

クリニックでは、まず状態を知るための検査が全部で12項目ほどあり、夫の精子に問題がないか、私の卵管や子宮に問題がないか、血液やホルモン分泌などを調べていきます。検査の結果、お互い特に異常はないことがわかったのですが、逆を言えば、現時点で不妊の原因はわからないということ。これからどれくらいかかるんだろう? と、先の見えない気持ちになりました。

続く後編では、実際の不妊治療のステップや、治療を続けるなかで感じた当初のイメージとのギャップやつらさ、仕事との両立の仕方などについて伺います!

柿沼あき子

「EMILY WEEK」ブランドコンセプター

柿沼あき子

美大卒業後、ベンチャー企業のWEBディレクターを経て、2014年「ベイクルーズ」へWEB販促プランナーとして入社。2017年同社の社内新規事業として、生理週間を軸に女性のバイオリズムに寄り添うライフデザインブランド「EMILY WEEK」を事業化。コンセプターとしてアイテムの企画開発から商品セレクト、プロモーションまでブランド全体のディレクション業務を行う。現在はEMILY WEEKのプロモーションに携わりながらフリーランスとして活動中。

撮影/上澤友香 構成・文/秦レンナ