2019年から「性教育YouTuber」として活動してきたシオリーヌさん。2021年には自身の妊活について動画で発信を始め、2022年夏頃に第一子を出産しました。その後、同年10月に自身の会社(株)Rineを設立し、なんと2023年からは大学院にも通い始めたそう。
全6回の連載最終回は、仕事とコミュニケーションについて。自分で事業を始めるってどういうこと? 仕事を軌道に乗せるには? コミュニケーションで意識しているポイントなどについて伺いました。

シオリーヌ

助産師/性教育YouTuber

シオリーヌ

Rine代表取締役。総合病院産婦人科、精神科児童思春期病棟に勤務ののち、全国の学校や企業で性教育に関する講演・イベントの講師を務める。性教育YouTuberとして性を学べる動画を配信中。2022年10月性教育の普及と子育て支援に取り組むRineを設立。著書『CHOICE 自分で選びとるための「性」の知識』(イースト・プレス)、『こどもジェンダー』(ワニブックス)、『やらねばならぬと思いつつ 〜超初級 性教育サポートBOOK〜』(ハガツサブックス)ほか。

会社を立ち上げてからの気持ちの変化と、求めていたパートナーに出会うまでのプロセス

シオリーヌ 産後ケア 事業 ビジネス コミュニケーション

シオリーヌさんが企画する「産後ケア銭湯」の運営スタッフとご本人

——今回は、仕事とコミュニケーションについて、お話を伺いたいと思います。2023年にご自身の会社『Rine』を立ち上げたシオリーヌさん。それまでフリーランスで働いていらしたところからチームになることで関わる人の人数が増えたと思うのですが、どのような働き方の違いを感じていますか?

シオリーヌさん 私はこれまで、何かアイデアを思いついたら、なるべく早く形にしたいタイプで。最初からアクセル全開で進んで、言い出した次の月にはもうリリースしている、みたいなペースで働いてきました。でも会社になって組織として動くようになってから、関わる人みんなの足並みをそろえなくてはならないことも多く、物事をじっくり進めることができるようになったと感じています。

慣れるまでは、じれったく思うこともありましたが、時間をかけて取り組んだからこそ見えた可能性があったりもして。今では、「スピード重視で70点でもいいタスク」と「時間をかけて100点を目指したほうがいいタスク」とで、エネルギーの使い分けをするようになりました。例えば、クオリティをさほど問われない事務作業は時間をかけずに終わらせて、「サービスの本質」に関わるものは、チーム全員で話し合ってじっくり時間かけるとか。

——以前SNSで、仕事のパートナーを見つけることの難しさについて言及されていましたが、そのように感じた背景を教えていただけますか?

シオリーヌさん
 産後ケア事業を始めるときに、「事業の立ち上げに詳しい、ビジネスサイドのパートナーが必要なんじゃない?」と周囲の人たちから言われていたんですよね。でも、一体どうすればそんな人に出会えるのかわからなくて、かなり悩みました。

そこで、自分が探しているのはどういう人なのかを、できるかぎり具体的にイメージするようにしたんです。「ビジネスがわかる人…」みたいに漠然と思い描いていたイメージを、「自分はこんなことができないから、パートナーはこんな経験を持っている人で、これとこれをしてほしい」という感じで細かく書き出してきました。その条件が自分の中で明確になったときに、ちょうどいいご縁があって、素晴らしい人に出会えたんです…! しかも家も近所で(笑)。こんな出会いがあるのかと、驚きましたね。

チームメンバーとよい関係を築くための、価値観のすり合わせ

シオリーヌ 産後ケア銭湯 産後 ビジネス

シオリーヌさんが企画する「産後ケア銭湯」の様子

——現在は、すでに有償ボランティアのスタッフが10名、無償ボランティアの登録者は100名ほどいらっしゃるそうですね。働く人数が増えるほど、考えなければいけないことも増えるのではと想像するのですが、どのような点に難しさを感じていますか?

シオリーヌさん
 有償ボランティアさんとは、運営について密にコミュニケーションをとっていますが、ありがたいことに、現時点で大きな困難にはぶつかっていません。今そういう状態で働くことができているのは、選考の際に一対一で対面で話して、大事にしたい価値観を丁寧に共有していったからだと思います。

その価値観は、「すべての人に敬意を持って接する」「人のことをジャッジしない」「自分たちは選択肢を提示するだけで、利用者さんの代わりに決めない」「噂や慣習ではなく、根拠のある行動や言動をする」「スタッフ間や利用者さんとの対話を惜しまない」の5つなんですが、ここに共感してくれる人しかチームにいないので、メンバーの年齢や立場はバラバラでも、根本的なところでのすれ違いは起きていないんだと思います。

とはいえ、みんなが意見を言いやすい空気を作ろうということは、すごく意識しているかも。私は今32歳で、まだまだ自分は「若者」という意識で動いてきてしまいましたが、メンバーには10代の学生もいます。自分は対等に接しているつもりでも、相手からしたらすごく大人に見えるかもしれないし、理不尽に感じることがあっても「シオリーヌが言ってるなら合わせなきゃ」と思ってしまうかもしれない。それって本当によくないと思うんですよね。違和感があったら違和感があると言ってもらえる組織でいられるために雰囲気作りは大切にしています。

社会人一年目の失敗から学んだ、「困っています」と表明することの大切さ

シオリーヌ 産後ケア 事業 ビジネス コミュニケーション 2

病棟助産師時代のシオリーヌさん

——yoi読者の中には、仕事上でのコミュニケーションに悩む方も、多くいらっしゃいます。シオリーヌさんはこれまでの仕事の中で、コミュニケーションで大切にしてきたことや、失敗から学んだことはありますか?

シオリーヌさん 私は昔から、不安になったり焦ったりしても、顔に出ないタイプだったんですよね。学生時代も、割となんでも自分で何とかしてきちゃったので、人に頼るのがすごく苦手でした。

病院に勤め始めた社会人一年目の頃、同期がもう一人いたんですが、その子は“THE・新人”みたいな、典型的に助けてあげたくなる感じの子で。みんなその子のことは苗字に「ちゃん」付けで呼ぶのに、私は「大貫さん」だったんですよ(笑)。心の中では色々不安なことがあっても、「大貫さんはしっかり問題なくやっているね」と言われたりして。

ある時、仕事の中でちょっとしたトラブルがあったんですが、その時も先輩に助けてと言えなかったんです。大きな事故などに繋がることはなかったのですが、後から「もっと早くSOSを出してくれたら、一緒にできることがあった」と言われたことをよく覚えています。そういう経験を経て、「困ってます」とか「わからないので助けてください」と早い段階で表明することはすごく大事なんだなと学びましたね。

それから最近チームメンバーから、「一緒に仕事をしている仲間に、もっと愛情表現をしましょう」と提案されて、すごく素敵だと思いました! すぐにSlackで「愛」というスタンプを作って、送り合っているんですが、感謝の気持ちをこまめに伝えることは、簡単にできるしいいアイデアだと思います。

シオリーヌ 仕事 人間関係 性教育 産後ケア

実際のSlackの画面

大事なのは、とにかくやめないこと。続けているだけで自然とライバルは減っていく

——今後、私生活とのバランスなどを含め、仕事を人生の中でどのような位置付けにしたいと考えていますか?

シオリーヌさん
 今は仕事と並行して大学院にも通っていて、仕事も勉強もバリバリ頑張るぞ!という私と、「健康第一、無理せずゆっくりいこうよ〜」と思っている私と、つねに二人の自分がいるような気がしています。子育ても楽しいし、仕事をしている私も、大切な一部分。だから、二人の自分をゆらゆら行ったり来たりするのが、30代のバランスかなと。でも40代になって子どもがもう少し大きくなったら、また仕事のアクセルをがっつり踏みたいですね!

——yoiの読者の中にも、自分で事業をしていたり、フリーランスで自分の道をまさに切り開いているという方も多いです。読者と同世代で、ご自身の事業を成長させようとしている立場として、シオリーヌさんは皆さんにどんな言葉をかけますか?

シオリーヌさん
 そんな立派なことは言えないのですが、「とにかく色々やってみましょう!」と言いたい。とりあえず挑戦してみて、違和感があったらやめればいいから。私も、YouTubeを始めるとか、病院を辞めて個人事業主になるとか、産後ケアを始めるとかそれを法人にするとか…色々やってきたけど、すべて「やってみたいからやる」というだけだったんです。一度始めたら、やめちゃいけない、なんてルールはないし、途中で方向を転換してもいい。

ただ私も、何も決まっていないまま仕事を辞めて、急に起業したわけではなく、徐々に切り替えていった感じなんです。最初は、病院で働きながら休日に動画撮影をしたり、講演活動を細々と始めて仕事が増えたら病院での雇用形態を非常勤に変更し、少しずつフリーランスに移行していったり。だから何かを始めるからといって、急に崖から飛び降りるように一か八かの転換をする必要はないと思っています。今は働き方にもいろんな選択肢が生まれてきているので、自分の生活を最低限確保しながら挑戦することもできる。

大事なのは、とにかくやめないこと。続けることだと思います。続けているだけで、自然とライバルって減ったりするから。だからこそ、自分に合っていて、楽しみながら「続けられること」を見つけるのがポイントだと思います。そして続ける中で見えてきた課題をコツコツ改善していく。その繰り返しが成功につながっていくのかなと思っています。

取材・文/雪代すみれ 企画・構成/種谷美波(yoi)