これまで避妊薬のイメージが強かった「低用量ピル」ですが、最近は避妊の目的だけでなく、PMS(月経前困難症)や、生理痛といった、女性のさまざまな悩みに効果が期待できることが、知られるようになってきています。一方で以前から気にはなっていたけれど、「なんとなく抵抗がある…」「副作用が心配…」と、まだ使用を躊躇っているという声も。そこで今回、低用量ピルにまつわるよくあるギモンや不安の声に、よしの女性診療所院長・産婦人科医の吉野一枝先生がお答えします!
Q.基本的な低用量ピルの飲み方は?
吉野先生:低用量ピルは、1シート21錠タイプと、7錠の偽薬の入った1シート28錠タイプ、4錠の偽薬が入った28錠タイプがあり、毎日決まった時間に1錠飲みつづけ、休薬するというサイクルを繰り返します。この休薬期間中に「消退出血」と呼ばれる、生理のような出血が起こりますが、通常の生理と比べて出血量は多くありません。
Q.飲みはじめてどれくらいで避妊の効果が得られる?
吉野先生:低用量ピルは基本的にいつから飲みはじめても問題ありませんが、避妊目的の場合や、生理開始が近い場合には、生理の初日からとします。ただし、避妊の効果が出るのは飲みはじめて1週間後から。それまでにセックスをする場合には、ほかの避妊法を併用するなど注意が必要です。低用量ピルを使用する目的によって、飲みはじめるタイミングは医師に相談して決めるとよいでしょう。
Q.毎日同じ時間にちゃんと飲めるか不安…。忘れないためのコツはある?
吉野先生:低用量ピルは、毎日同じ時間に服用することが基本ですが、1分、1秒の誤差も許されないわけではありませんのでご安心を。2、3時間のずれであれば問題ありません。飲むタイミングは、自分がいちばん飲み忘れない時間帯を選ぶようにしてください。毎日のルーティンとして習慣化してしまうのがコツです。
忙しい生活では、夜は何かと予定が入りがちですし、疲れてそのまま寝てしまうなんてこともあるでしょう。そこで、おすすめなのは朝。朝食のあとなどが習慣化しやすいのではないでしょうか。朝に食べる習慣のない人は、胃への負担を考え、牛乳など、何か少しお腹に入れてから服用するといいと思います。ほかに、会社のデスクの引き出しに置いておいて、お昼休みに飲んでいるという人もいます。自分のライフパターンに合わせて決めてみてくださいね。
Q.試してみたいけど、副作用が心配。何か対策はある?
吉野先生:低用量ピルによる副作用は必ずしも起こるわけではありませんが、飲みはじめて最初の1カ月は、頭痛や吐き気、むくみや不正出血、ニキビなどのマイナートラブルが出やすいといわれています。すきっ腹に飲むと吐き気が起こりやすくなるので、対策としては食後に飲むのがおすすめ。特に胃が弱い人は、胃薬などと併用しても問題ありません。また、最初のうちは1錠を半分に割って服用し、徐々に慣らしていく手もあります。ただし、半錠を飲んでいる期間は避妊の効果が得られないので注意しましょう。
Q.ピルを飲むと太るってほんと?
吉野先生:低用量ピルの服用に関して、心配の声が多いのが、「太るのではないか」ということ。飲みはじめのマイナートラブルのひとつとして、むくみが挙げられますが、それによって「太った」と感じる人もいるようです。低用量ピルに太る成分は含まれていませんし、むくみもほとんどが一過性のもの。むしろ、生理前の過食が抑えられて、体重増が抑えられたという人もいました。むくみにくい低用量ピルもあるので、気になる方は医師に相談してみてもよいでしょう。
Q. 低用量ピルを飲みつづけることによる毎月の出費がネック…。かかる金額はどれくらい?
吉野先生:低用量ピルには、薬の内容は大きく変わらないものの、おもに避妊を目的とした実費のピル「OC」と、月経困難症や子宮内膜症の治療目的で使用される、保険適用のピル「LEP」があります。実費の場合、1シート2,000〜3,000円、保険適用のものであれば、1シート1,000円以下〜3,000円程度が相場です。月経困難症の治療を目的としていて、長く使うことを考えるのであれば、保険適用のほうがお財布には優しいといえます。使用目的を医師に相談して、自分に合ったものを選ぶのがいいでしょう。
Q. 低用量ピルを飲んでいれば、コンドームはしなくてもいいの?
吉野先生:「ピルを飲んでいればコンドームをしなくてもいい」というのは、大きな誤解。日本では、コンドームは避妊のための道具だと思われていますが、性感染症を防ぐためにとても有効なアイテムです。より確実に避妊をしながら性感染症を予防するためには、低用量ピルとコンドームを併用することをおすすめします。また、セックスする相手が変われば、そのつど性感染症に感染するリスクは増えます。パートナーが変わるときには一緒に検査を受けるようにしてもいいですね。
Q.ほかの薬と併用しても大丈夫?
吉野先生:低用量ピルは、基本的に胃薬や風邪薬、吐き気どめなど、ほかの薬と併用しても問題ありません。ただし、相互作用のあるものもあるので、一度医師に相談してから併用するようにするといいでしょう。
Q.長期間飲みつづけて問題ないの?
吉野先生:低用量ピルは初経から閉経まで使用することができる薬です。毎月排卵と生理を繰り返すことは、女性の体にとって、大きな負担になります。生理前や生理期間中のつらい症状に悩む中高生も少なくありません。生理が始まった段階で、できるだけ早いうちから使用することで、ホルモンバランスの状態も整えることができ、将来の卵巣や子宮の状態も変わります。初経を迎えたら、まずは産婦人科に相談に行くのが当たり前になったらいいですね。
Q.1日飲み忘れてしまったときはどうすればいい?
吉野先生:例えばいつも朝に飲んでいた人が、お昼を過ぎて飲み忘れに気づいたときは、その時点で忘れた分を飲み、次の日からは通常通りまた朝に飲むようにします。丸1日飲み忘れてしまい、シートに昨日の分が残っていると気づいた場合には、昨日と今日の分の2錠を服用します。このとき一気に2錠飲むと気持ち悪くなるという人もいるので、1、2時間空けて飲んでも構いません。そして、翌日からいつも通り1錠ずつ飲んでいきます。飲み忘れて1日以上時間が空くと、不正出血が起こることもあるので、不安であれば、医師に相談するようにしましょう。
Q.授乳中にも服用できる?
吉野先生:授乳中は基本的に低用量ピルの服用はできません。そのため、避妊が必要な場合には、避妊リングをおすすめするようにしています。ただ、授乳中であっても産後半年以上たっていて、子どもの寝つきが悪いときに少し授乳する程度であれば、処方できる場合もありますので、医師に相談していただけたらと思います。
Q.オンライン処方ってどうなの?
吉野先生:クリニックで低用量ピルを処方する際には、基本的に1回の診察につき3カ月分を処方しますが、忙しくて定期的に通院するのは難しいという人や、診療時間内に通えないという人もいます。また、郊外に住んでいて、近所に低用量ピルを処方できるクリニックがないという人もいるでしょう。オンライン処方は自分の都合や環境に合わせて低用量ピルを処方してもらえるというメリットがあります。より多くの人が低用量ピルにアクセスしやすくなったのは、よいことだと感じる一方、十分な診察が行われていなかったり、海外から買い付けた安価なものを販売していたりという実態も見受けられます。低用量ピルは、体質や持病によって使用に注意が必要な場合もありますので、できれば初診は対面のクリニックで受けることをおすすめします。その後、継続して同じ薬を使用する場合には、オンライン処方を活用するのもいいかもしれません。
「低用量ピルは、正しく使えば女性のQOLを高めてくれます。自分で決めることのできる避妊法としてはもちろん、普段、生理の痛みやつらさを我慢しながら生活している人には、ぜひ、使用を検討していただきたいです」と吉野先生。セルフケアの選択肢のひとつとして、低用量ピルを検討するきっかけにしてみてくださいね。
取材・文/秦レンナ イラスト/itabamoe