“友情結婚”というスタイルが注目されています。恋愛関係や性行為を前提としないこのスタイルは、個々のセクシュアリティに配慮しつつ、人生のパートナーを見つけたい人の新しい選択肢。今回は、友情結婚専門の結婚相談所「COLORUS(カラーズ)」を成婚退会し、半年の同棲生活を経て結婚。その後お子さんを授かったリカさんに体験談をお伺いしました。

リカ

「COLORUS」成婚者

リカ

40代女性。セクシュアリティはノンセクシュアル。友情結婚専門結婚相談所「COLORUS」で2018年に成婚し、年上のゲイの男性と“友情結婚”。体外受精で子どもを授かり、現在は二児の母として穏やかな日々を送っている。

自分がノンセクシュアルだと思ったことがなかった

──サービスを利用する以前から、自身のセクシュアリティを認識していましたか?


リカさん 全然意識していなかったんです。自分がノンセクシュアルだなんて思ったこともなく、普通に生きていました。

男性のことが生理的に無理というわけではなかったので、学生の頃も、仲良くなった流れで告白されたら、「じゃあつき合ってみようかな」という感じで交際したこともありました。でも、手をつなぐのも正直好きじゃなくて、それ以上のことを求められると、心のシャッターが閉じる感覚がずっとあったんです。

好きな人なのに、手をつなぐとか、キスするとか、考えるだけですごく嫌で…。友達と性的な関係になるって考えたら嫌じゃないですか? まさにその感覚なんですよね。だからといって、女性が好きなわけでもないですし。

男性と性的な関係も試してみたら慣れるのかなって思い、挑戦してみたこともあったんですけど、やっぱり性的な行為は我慢しかなくて…。「どうしたらいいんだろう」とずっと悩んでいました。

今、自分がノンセクシュアルだとわかったうえで振り返ると、「ああ、わたしって男女の仲を求められることが嫌だったから、片思いで終われる相手を好きになっていたんだな」って思います。絶対に実らない相手を好きになることで、自分を守っていたのかもしれませんね。

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──結婚願望はありましたか?

リカさん
 そうですね。一度は結婚してみたいって思っていましたし、子どもも産んでみたいなって考えていました。それで、マッチングアプリとかも頑張ってみたんですけど、全然うまくいかなくて、いつも平行線で終わってしまう感じだったんです。

恋愛からはじめるのが難しいなら結婚相談所に入ってみようと思い、30代の半ばで婚活をはじめました。相談所で素敵な男性との縁談が進んだこともあったんですけど、会って手をつなぐ段階になると、また心のシャッターが閉じるような感覚が出てきて、だんだん会うのが億劫になってしまって…。

結局、結婚相談所でも「最終的には男女の仲になるんだ」と改めて感じてしまって、わたしには無理だなと思いました。結婚に対する果てしなさというか、ハードルの高さを痛感したんです。縁談をして仲良くなって、手をつないで、キスして、性行為をして…これがセックスレスにならない限り一生つづくんだと思ったら、途方もないことのように感じました。

男友達みたいな感覚で結婚できたらいいのに

──友情結婚専門の結婚相談所「COLORUS」との出合いを教えてください。

リカさん
 男友達みたいな感覚で結婚できたらいいのにと思い、いろいろ調べてみたんです。そして“友情結婚”という言葉に出合いました。それから“友情結婚”について詳しく調べていくうちに、「COLORUS」にたどり着いたんです。

そこで初めて、他者に性的欲求を抱かない「ノンセクシュアル」というセクシュアリティがあることを知りました。

ホームページの記事を読んでいくうちに、「なるほど、これがノンセクシュアルなんだ」と少しずつ理解が深まっていきました。それで、「これはわたしのことかもしれない」と思い、面談を申し込んでみたんです。

これまでの経緯を「COLORUS」のスタッフさんにお話ししたら、「ノンセクシュアルですね」と言ってもらえて…。そのひと言で、すごく安心したのを今でも覚えています。

男女の関係性がない分、しっかり生きていくことを話し合う

── 一般の結婚相談所と「COLORUS」で感じたステップの違いはありましたか?

リカさん
 結婚相談所って、それぞれシステムが違うので、これが特に「COLORUS」だけの特徴ってわけではないと思うんですけど、担当の方がわたしに合いそうな人を紹介してくれるプロセスは本当にありがたかったです。

“友情結婚”って、条件だけじゃなくて相性がすごく大事だと思うんですよね。
だから、わたしのことを理解してくれている担当の方がおすすめしてくれる人のなかから選べるのは、成婚までスムーズに進む可能性が高くなるなと感じました。

また、これは「COLORUS」ならではだと思うのですが、「話し合い冊子」という、お互いの条件をすごく詳しく書き込んだものの読み合わせがありました。それが結構印象的でしたね。

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──話し合い冊子にはどんなことを書き込むのでしょうか。

リカさん 子どもが欲しいか欲しくないかという話は、普通の結婚相談所でもあると思うんですけど、“友情結婚”の場合はさらに「どうやって授かるか」も重要なポイントなんです。人工受精にするのか、そのときだけ性行為をするのか、そういうことも事前に話し合うんですよ。

それから、パートナーに関する項目もありました。お互いセクシュアリティが違うので、ここはすごく大切な部分ですよね。例えば、お相手がゲイの場合、特定のパートナーがありか、なしかとか、特定はダメだけど風俗ならありとか、結婚後のルールを細かく話し合う箇所がありました。

あと、新鮮だったのは、お金の話を最初からすることです。
恋愛では徐々に話題にすることが多いじゃないですか。でも“友情結婚”では、最初からお互いの考えをオープンにするので、生活費や養育費をどうするのかとか、初対面から話し合うんです。

恋愛では感情が先行して、こういうことが後回しになりがちですけど、“友情結婚”では「パートナーとして、支え合って生きていける相手を選ぶ」ことが主な軸になるので、欠かせない重要なステップでした。

乗り越える姿勢は“友情結婚”でも“恋愛結婚”でも一緒

──成婚するまで何名の方とお会いしてきましたか?

リカさん
 「COLORUS」では4名の方とお見合いをしました。どの方も素敵な方ばかりでコミュニケーションもすごくスムーズでした。

皆さん本当に素敵だったのですが、お相手が猫好きで、わたしが猫アレルギーだったので申し訳ないな…と思ってしまったり。7つ下の方をご紹介いただいたんですけど、ライフステージの価値観が合わなかったりして。そういう理由でご縁が繋がらなかっただけで、「COLORUS」でのお見合い自体は特にストレスは感じませんでした。

──成婚したお相手の決め手を教えてください。

リカさん 彼とは同じ職種だったので、お互いの仕事の状況をリアルに理解し合えたのがすごくよかったです。それに、意見がぶつかることがあっても、相手の表現がすごくマイルドで。「この人なら話し合いで解決できそう」と思える安心感がありましたね。

あとは、自分の希望をちゃんと受け入れてもらえたことも大きかったです。結婚してからも、出産後も仕事を続けたいと考えていたので、専業主婦を望まないスタンスを理解してもらえたこと。そして子どもが欲しいという気持ちも共有できて、性行為はなしで、一緒に妊活に励んでくれる姿勢を示してくれたことが本当にありがたかったです。

──成婚してから結婚するまでに困難はありましたか?


リカさん 彼の提案で、まずは同棲からスタートすることになったんです。でも、同棲をはじめて2カ月くらい経った頃に、「恋愛感情を抱ける好きな人だったら譲れることも、そうじゃないから難しい」と言われ、破談の危機になりました。

──パートナーの方がゲイであり、恋愛感情がない結婚ということで、そういった問題が出てくるんですね。

リカさん そうですね。でも、いろいろ問題が出てくるたびに「別れよう」となるのは違うと思ったんです。乗り越えていこうとする姿勢って、“友情結婚”でも“恋愛結婚”でも一緒だと思うんですよね。

それを伝えて、再度しっかり話し合いました。結局、人それぞれ違うのは当たり前で、「こういう人なんだ」と、互いに受け入れるしかないんじゃないかなと思います。

逆に、「好きだったら、わたしのために変わってよ」みたいな期待が相手にない分、フラットな目線で冷静に話し合えたのかもしれませんね。

子どもが生まれてから夫婦の形ができた

──“友情結婚”をしてみて、結婚生活はイメージ通りでしょうか?

リカさん 特に違和感はありませんでした。また、年齢的に子どもができるか不安はあったんですが、体外受精で無事に子どもを授かることができました。今は5歳と2歳の子どもを育てています。

結婚して子どもを産むなんて、昔は遠い夢のように感じていた時期もあった
ので、“友情結婚”という形があったからこそ、ここまで来られたんだなと思っています。

夫に対しても、子どもを育てることにとても積極的で頼りになる存在だと感じています。これは、“友情結婚”をする前に方向性をしっかり確認できていたからだと思うんです。ブレることがないので安心できますし、むしろ子どもとの接し方が上手で、すごく心強い存在だと感じています。

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──恋愛感情や性行為がなくても、夫婦は成り立つと感じますか?

リカさん 同じ“友情結婚”でもいろんな形の夫婦がいるので、一概には言えないと思います。わたしたちの場合でいえば、子どもが生まれてから夫婦としての形がしっかり成り立ってきたように思います。


“友情結婚”したパートナーとしてお互いを大切にしてきたんですが、それに加えて、彼は子どもの母親としても、わたしをしっかりケアしてくれていると感じるんです。

恋愛感情や性行為はないけれど、その分、子どもを育てる過程や日々の生活を通して絆が深まったと思います。お互いリスペクトを忘れずに接していて、よきパートナーとして穏やかに過ごせているのが今のわたしたちの形ですね。

“友情結婚”に出合ってから生きやすくなった

─“友情結婚”をしたことを振り返って、今思うことはありますか?

リカさん
 まわりに独身の友人が多かったので、結婚しなきゃというプレッシャーは特になかったんですけど、やっぱり家族が喜んでくれたのはよかったですね。

一般の結婚相談所では、相手に男性的な魅力を感じなくて全然うまくいかなかったんです。もしあのまま続けていたら、ずっとモヤモヤして、結婚も子どももあきらめていたんだろうなって思います。だから、“友情結婚”という選択肢に出合えて本当によかったです。

イラスト/Megumi Goto 構成・取材・文/高浦彩加