世界最大級のマッチングアプリ「Tinder®︎ Japan」による、オリジナルサイト「Let’s Talk Gender」の制作に携わった落葉えりかさん、コンテンツディレクターの中里虎鉄さん、「Tinder®︎ Japan」広報担当の永野久美さんへのインタビュー第3弾。今回は、好意を寄せる相手のジェンダーアイデンティティやセクシュアリティ、ロマンティックを確認する方法や、心地よいパートナーシップについて話を聞きました。

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先入観にとらわれずに。目の前の相手とのコミュニケーションを大切に

――前回、ジェンダーアイデンティティ(性自認)やセクシュアリティ(性的指向)、ロマンティック(恋愛的指向)が多様化する中で、出会いがどのように変化するかをお伺いしました。これからの出会いにおいて、好意を抱いた相手のジェンダーアイデンティティやセクシュアリティ、ロマンティックを確認したい場合には、どのように聞くのがよいでしょうか?

落葉:相手にとって、自分が恋愛対象かを確認するためにですか? 相手が自分のことを好きかどうかを確認するのは、自分がどんなジェンダーアイデンティティやセクシュアリティ、ロマンティックだとしても必要なことだよね。

虎鉄:「シスヘテロ男性に振り向いてもらえないから、ゲイ男性としかデートしない」というゲイ男性もいるけど、自分が好きになるのに、相手のジェンダーアイデンティティやセクシュアリティって関係ないですよね。恋愛対象でなかったとしても、色んなコミュニケーションを取るなかで、好意を抱いてもらえる可能性はあるし。

落葉:うんうん、そう思う!

虎鉄:初対面の人のジェンダーアイデンティティがわからず、呼び方に悩むことは、私もよくあるんですけど…そういうときはシンプルに「何て呼んだらいいですか?」と聞いています。それさえわかれば、相手のジェンダーアイデンティティそのものを知らなくても、コミュニケーションは取れるので。そうやって対話を重ねてきた結果、相手のジェンダーアイデンティティやセクシュアリティを知らなければいけない場面って意外とないのかも、と思うようになりました。

永野:人って知らずのうちに先入観を抱きがちで、大人と子どもが一緒にいると親子だと思ってしまったり、仲のいい男女をみるとカップルだと想像してしまったりしますよね。でも、正しい知識をもとに「もしかしたら違うかも」という意識を常に持っていれば、相手を傷つける可能性をグッと減らすことができる。「Let’s Talk Gender」は、そういった意識につながることも理想としていました。

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何を話すかよりも、どういう態度で話すか。リスペクトを忘れずに!

――Let’s Talk Genderというタイトルの通り、ジェンダーについて話し合える雰囲気や空気が広がれば、知識がより拡散されますよね。ジェンダーについて周りと話したいと感じたとき、どうやって切り出せばよいでしょうか?

虎鉄ストレートに切り出すのが難しければ、このサイトを見せてみるとか、何かしらきっかけを作ると話しやすいんじゃないかな。ただし相手がジェンダーについて話せる・話したい状態かどうかを尊重することも大切なので、「話したくなかったら話さなくていいんだけど」と前置きするといいと思う!

落葉何を話すかよりも、どういう態度で話すかが大事な気がする。自分の態度によって、相手の話しやすさは変わるはずだから。

永野いわゆるリスペクトだよね。恋愛において相手の同意を取ることの必要性がありますが、それは会話も一緒。相手に対してリスペクトを持って接することは、性別や国籍関係なく、すべての人が持つべき意識だと思います。

――リスペクトや同意は、まさに健やかなパートナーシップに欠かせないこと。皆さんにとっての“心地よいパートナーシップ”とは、どんな関係ですか?

永野自分の“こうしてほしい”、“これは嫌だ”という気持ちを、きちんと言葉で伝えられる関係性。以前、Tinderのメンバーに「どんな人と付き合いたいか」という意識調査を行なったところ、61%の人が「信頼できる人」を選んだのに対し、「率直に希望を伝えられる相手」を選んだのはわずか31%だったんです。その結果を見て、自分の希望を伝えられることの重要さに気付いていない人の多さに驚きました

恋愛に限らず、人間関係全般において、“これを言ったら嫌われるかも”と我慢する人は多いと思いますが、自分の希望を受け入れてくれない相手と関係を築いて幸せになれるのでしょうか? きちんと伝えて二人で乗り越えた先には必ず信頼関係が深まるので、勇気を持って話し合ってほしいですね。

落葉:過去に、いい関係が築けた!と思ったのは、元パートナーとオープンリレーションシップ(カップル外でのデートやセックスをOKとする関係性)になったときです。私から提案したんですけど、お互いに大切なこと・嫌なことを尊重しながら自分たちのルールを作って、それを運用できたとき、すごく心地良かった! 社会一般の「あたりまえ」にとらわれず、自分達で関係性を定義できていると感じられたからだと思います。

虎鉄:私はいつも、家の外に出た瞬間から不安や恐怖を感じ続けているんですけど…というのも、いつどこで差別的なでき事と遭遇するかわからないし、行った先のトイレが男女で別れていたら安心してトイレに行くこともできないので。そういった不安を普段感じることが少ない人が代わりに確認したり、何かあったときに声をあげていくことが、誰かとパートナーシップを築くうえで大切だと思っています。これは恋人、友達、そのほかあらゆる形の関係性においてもですが、お互いに、不安や恐怖を感じさせないような関係が理想的ですね。

私の性のあり方をしっかり認識してくれていることはもちろんですが、その上で、「友達から虎鉄のジェンダーアイデンティティを聞かれたら、自分から言ってもいい?」、「虎鉄が誰かに差別的なことを言われたとき、自分にどうしてほしい?」などと確認し合えると、大切にされていると感じて安心しますし、私もそういった言動を相手にしていたいと思っています

NEWPEACE inc. 落葉えりか Let’s Talk Gender

誰もが自分の性のあり方を安心して模索できるようになるには?

――現在、社会全体で自分らしくあること、ありのままの自分を愛することへの関心が高まっていますね。自分のジェンダーアイデンティティやセクシュアリティ、ロマンティックと改めて向き合い、新たな自分を知ることは、ウェルネスにつながると思いますか?

虎鉄:難しいですね…。正直、私は現在自分のジェンダーアイデンティティが流動的に変わっているなかで、絶望しか感じません。ゲイ男性からノンバイナリーにトランスしたときも、より生きづらくなったし。今はトランスジェンダーに対する差別が加速していて、自分の性のあり方が法的にも環境的にも守られていない。それらがすべて保証されないと、自分の性のあり方を探求することとウェルネスはつながらないなって思います

落葉:デンマークに留学していたときに、自分の性のあり方を自由に探求している子がたくさんいて、みんなすごく生き生きしていました。だからウェルネスにきっとつながると思ったけど、虎鉄の発言を聞いて、今の日本の社会はまったく状況が違うんだと痛感した

虎鉄:そうね…。でもね、そんな環境で生きてきたからこそ、自分は自分の性のあり方や人との関係性、コミュニケーションの取り方を探求することができた。自分にはどんなパートナーが合っているんだろう?、どんな関係性を求めているんだろう?って、たくさん考える機会があったから、いざ自分の権利が保障される社会になったら、言っとくけど誰よりも幸せになれちゃうからね!?

中里虎鉄 落葉えりか 仲のいい二人 Let’s Talk Gender

“知る”ことから、社会も一人一人も変えていこう!

――Let’s Talk Genderが公開されて4カ月が経った今、改めて、どんなことを感じていますか? 

虎鉄:Let’s Talk Genderが対話のきっかけや、自分の性のあり方を探求するヒントになったらうれしいし、いずれは教材として活用してもらえるような存在になってほしい。何度か話題にあがったけど、ほとんどの人が自分の性のあり方について考えるきっかけなく生きているのは、自分の性のあり方について学ぶ機会がないからだと思うんです。

永野:その通りだと思う!

虎鉄教育の場でこのサイトが使われる未来を想像すると、すごく希望が湧いてくるので! 今後、どんどん届けていきたいなと思っています。

落葉:現在Tinder®️さんと『LOVE GROWS』という性教育プログラムの実施活動も行っているんですけど、ジェンダーや性教育の必要性を日々、痛感しています。それは現場の教師の方たちも感じていて、教えるための教材を欲する声がたくさんありました。虎鉄が言ったように、サイトを教材として使ってもらいつつ、教育現場のサポートも行なえるように拡大させていくことが、個人的な目標です!

永野自分も他人も、価値観や概念はいつでも変わるし変えられる。何かを知ることに、遅すぎることはありません。このサイトが気づきを得るきっかけになり、その結果、みんながもっと出会いを楽しめるようになれば、何よりもうれしいです!

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【8/30(水)20時START】ジェンダー、セクシュアリティ、人間関係のモヤモヤを語るオンラインイベントを配信!

8/30(水)の20時から、本インタビューにも登場していただいた中里虎鉄さん、「Let's Talk Gender」の動画コンテンツに出演しているモデル・俳優のイシヅカユウさん、学生のRinka Yamashimaさんをゲストにお迎えしたスペシャルトークムービーのプレミア公開イベントが決定!

yoi読者から募集した、ジェンダー、セクシュアリティ、人間関係にまつわるモヤモヤについてトークします。当日は、視聴者の皆さんと一緒にプレミア公開を視聴しつつ、出演者の皆さんがリアルタイムでチャットに返信します。動画の感想や、ゲストの皆さんに聞いてみたいことなど、たくさんお話ししましょう!

<Let’s Talk Genderとは
マッチングアプリ「Tinder®︎ Japan」が企画し、2023年4月にローンチしたオリジナルウェブサイト。ジェンダーアイデンティティ(性自認)やセクシュアリティ(性的指向)、ロマンティック(恋愛的指向)を含む多様な性のあり方について、より深く理解するためのキーワードを紹介するほか、日常生活で起こりうる身近なシチュエーションを題材にしたQ&Aをまとめ、ジェンダーに関して戸惑いや疑問が生じて立ち止まってしまったとき、解決のヒントとなるような情報を掲載。また、サイト内では性のあり方が多彩な10名によるインタビュームービーも公開している。
▶︎https://letstalkgender.jp/

Let's Talk Gender サイト画像

プロデューサー

落葉えりか

企業のビジョンを設計し、形にするビジョニングカンパニー「NEWPEACE Inc.」で、ジェンダーや性教育、サステナビリティの領域を中心にプロジェクトをプロデュース。

コンテンツディレクター

中里虎鉄

フリーランスでメディアのエディター・フォトグラファー・ライターと、肩書きに捉われず多岐にわたり活動している。あらゆるメディアのコンテンツ制作に携わりながら、ノンバイナリーであることをオープンにし、性的マイノリティ関連のコンテンツ監修なども行う。

Tinder®️ Japan コミュニケーションズ シニアディレクター

永野久美

マッチングアプリ「Tinder®️」を通して、ダイバーシティや性的同意についての認知拡大、LGBTQ Ally教育などの取り組みに力を入れたプロジェクトを展開中。

取材・文/中西彩乃 撮影/山崎ユミ 企画・編集/木村美紀(yoi)