セックスに関する悩みを誰にも相談できず、セックスレスやパートナーシップの悪化に悩んでいる人も多いと言われています。今回は、男女の性の悩みに寄り添うカウンセリングルーム「Esolve(エゾルブ)」のオーガナイザーであり、セックスセラピストの木村 将貴さんに、仕事の内容や「Esolve」に寄せられるリアルな悩みについてお話を伺いました。
カウンセリングルーム「Esolve」オーガナイザー、セックスセラピスト
日本泌尿器科学会認定 泌尿器科専門医・指導医、日本性機能学会認定 性機能専門医、日本性科学会認定 セックスセラピスト、日本生殖医学会認定 生殖医療専門医、医学博士。生殖医療と性機能障害を専門とし、性に関する啓蒙活動にも取り組む。カウンセリングルーム「Esolve」では、行動療法や心理療法を用いて、男女の性の悩みに寄り添い、解決に導いている。
セックスセラピストは、性に関する問題の改善を支援する専門家
──セックスセラピストとはどんな仕事ですか?
木村さん セックスセラピストは、セックスレスや性欲低下、心理的な要因による性機能障害に対して、パートナーとの関係の調整を図りながら、行動療法や心理カウンセリングを通じて性機能の改善を支援する専門家です。
日本では、性科学を扱う「日本性科学会」が、セックスセラピストやセックスカウンセラーの資格認定を行っています。これは、性機能障害に対して心理的療法を中心にアプローチし、性に関する不安や悩みを解決することを目的とした資格です。どちらも、資格を得るには、医師や臨床心理士、保健師、助産師、看護師などの医療従事者、またはそれに準ずる立場であることが求められます。
さらに、守秘義務を徹底し、高い倫理観を持つことが必須条件にもなっています。わたしも5年ほど学んでセックスセラピストの資格を取得しました。
──専門家に相談することでどんなメリットがあるのでしょうか?
木村さん セックスセラピストによるカウンセリングの大きなメリットは、客観的な視点からパートナー間の状況を把握できる点です。自分では気づいていなかった感情や、パートナーに対する思いを再発見できることもあります。
さらに、第三者が関わることで新たな視点が得られ、問題解決への糸口が広がります。多くの方はまず自力での改善を試みますが、うまくいかない場合は無理をせず、カウンセリングを活用することで効率的に解決できることがあります。困ったときには、ぜひ専門家に相談してみてください。
──「Esolve」ならではのカウンセリングはありますか?
木村さん 「Esolve」では、日本性科学会が提唱するセックスセラピーを基礎に、独自の行動療法を研究・開発してきました。お悩みの内容に応じて、心理的なアプローチだけでなく、実践しやすい行動を通じたサポートも行い、より効果的な解決を目指しています。
悩みの解決に向けたプログラムを提案し、それをセックスセラピストやセックスカウンセラーがサポートしながら進めることで、自然と性機能の改善を図ります。また、心理的な葛藤が障壁となる場合には、心のケアも取り入れながらセラピーを進め、よりよい成果が得られるよう丁寧にサポートしています。
性の悩みは、セックスと直接関係のないところにも潜んでいる
──女性から寄せられる性の悩みにはどんなものがありますか?
木村さん 女性から寄せられる相談については、気乗りしないセックスを繰り返すことで性嫌悪に陥り、それがセックスレスにつながるケースが多く見られます。特に、産後の忙しい時期に家事や育児に追われるなかで、「セックスをしなければならない」と感じる状況がきっかけになることが多いようです。
また、挿入障害や性交痛、オルガズムが得られないといった身体的な悩みも頻繁に寄せられます。こうしたお悩みの多くは、心のなかにある引っかかりが原因であることが多く、カウンセリングではその人の背景や日常の出来事を丁寧にひもといていきます。
一見「性の悩み=セックスそのものの問題」と考えがちですが、実際にはパートナーの日常的な態度や些細な不満、セックスとは直接関係のない要因が絡んでいることも少なくありません。これらの隠れた原因に気づくことが、解決への第一歩となります。
──男性から寄せられる性の悩みには、傾向や特徴はありますか?
木村さん 男性の場合、性交の失敗をきっかけにED(勃起不全)や性欲の低下に陥るケースが少なくありません。特に、性行為がうまくいかなかった際のトラウマが心に深く傷として残り、それ以降性機能の低下を訴える方も多いです。
また、「男性の一方的なセックスはよくない」といった指摘を気にしすぎるあまり、性行為中に不安を感じるようになるケースもあります。この不安がさらなる失敗や性欲の低下を招き、悪循環に陥ることも少なくありません。
こうした場合には、カウンセリングを通じて心のなかにある不安や葛藤を丁寧にひもといていくことが必要です。問題の根本にアプローチし、適切なサポートを行うことで改善への道が開けます。
“性行為以外の娯楽”がセックスレスの一因に
──メディアやSNSでもよく話題になるセックスの悩みとして、セックスレスがあります。その背景にはどんな要因があるのでしょうか?
木村さん 現代社会の背景として、性行為以外の娯楽が豊富にあることや、食生活が充実していることが、性行為へのモチベーションを下げる一因になっていると考えられます。性行為は非常にエネルギーを要する行為ですが、現代ではエネルギーを発散できる場や手段が数多く存在します。
例えば、仕事終わりに気軽に飲みに行けたり、一人で楽しめるゲームや動画視聴などの娯楽が増えたことで、マイペースに満足感を得られる環境が整っていますよね。その結果、性行為の必要性や優先順位が低下してしまうケースも珍しくありません。
──性別によって、セックスレスの悩みや原因に違いはありますか?
木村さん セックスレスの原因は多く存在しますが、「Esolve」では、男性に原因があるケースが全体の65%を占める傾向があります。主な要因として、勃起不全や性欲の低下が挙げられます。一方で、女性の場合は、性嫌悪や性交痛、性欲低下といった問題が見られることが多いです。
また、相談に訪れる方の約6割は女性であることから、男性の問題であっても女性のほうが強い問題意識を持ち、行動に移しているケースが多いことを感じています。例えば、妊娠を希望している女性がセックスレスに問題意識を抱いているが、子どもを希望していない男性がセックスレスを深刻に受け止めていない、などのケースが見られます。このような意識のギャップが、問題をより複雑にしているといえます。
セックスの不満を伝えることは大切なコミュニケーションのひとつ
──セックスについての悩みや不満を解消することはセックスレスの予防にもなりそうですね。
木村さん セックスに対する不満は興奮を低下させ、男性では勃起力の低下、女性では膣潤滑の低下や性交痛につながることがあります。このような状態が続くと、最終的にはセックスレスに発展する可能性が高まります。そのため、不満を解消することが、セックスレスの予防や改善につながる重要なステップになります。
しかし、重要なのはセックスレスそのものだけではなく、パートナーシップです。たとえセックスの回数が減ったとしても、話し合いを通じてお互いが納得できれば、それが新たな着地点となります。カウンセリングを取り入れることで、関係に大きな支障をきたさない、健全なパートナーシップを築くことができる可能性が広がります。
──セックスレスの悩みをパートナーに相談するタイミングはいつがいいのでしょう?
木村さん セックスレスの問題に直面した場合、不満が積み重なりますよね。我慢を重ねて、お互いに相手が悪いと思い込み、素直に話し合いができなくなってしまう前に、適切な対応を取ることが重要です。セックスレスが定着し、一度関係が冷えきってしまうと、相手の「NO」を尊重し合うことが難しくなり、より深刻な問題へと発展する可能性があるからです。
カウンセリングでは、セックスを拒否する理由や相手への不満を冷静に整理し、それをパートナーと共有するサポートを行います。お互いが歩み寄る意識を持てれば、改善への道筋を見つけることは十分に可能です。
また、性機能に違和感を覚えた場合も、早めに相談することが大切です。性の問題は心の状態と深く関係していることが多く、放置することで嫌な思いが積み重なり、心の亀裂が深まってしまいます。
このような問題は、傷口をイメージしていただくとわかりやすいですが、深くなるほど治療に時間がかかります。早めのアクションが、修復のカギとなります。
──カウンセリングを受けたい場合、オンラインでもできるのでしょうか?
木村さん はい、カウンセリングはオンラインでも対応可能です。初回は対面でのカウンセリングを行い、2回目以降はオンラインに移行するのが理想的です。この体制により、遠方にお住まいの方やお仕事の都合で移動が難しい方でも、柔軟にサポートを受けていただけます。
相談はお一人でも可能ですが、セックスレスなどカップル間の問題の場合は、パートナーと一緒に参加されることをおすすめします。解決のためにはカップルで取り組む行動療法を行うケースが多く、お二人でカウンセリングを受けることで、より効果的なサポートが期待できます。
性の悩みは、生活の質に大きな影響を与える。早めの対応を
──性の悩みを相談する文化は、日本でも広まってきていると感じられますか?
木村さん 日本では、セックスに関するカウンセリングを受けるという考え方が、まだ広く浸透していません。しかし、海外、特に先進国では性の問題を重視する傾向が強く、カウンセリングを受けることが一般的に行われています。最近では、Netflixのドラマなどで性に関するテーマが取り上げられることも増え、日本でも少しずつ認知が広がりつつある印象です。
性機能に関する問題を抱える方は少なくありません。そして、性の悩みは生活の質に大きな影響を与えるため、早めの対応がとても大切です。「これってセックスレスかも?」「セックスが嫌かも」と感じた段階で、気軽に相談していただけるとうれしいです。
イラスト/カラシソエル 取材・文・構成/高浦彩加