若い女性に多いといわれる子宮頸がんですが、HPVワクチンとHPV検診を組み合わせることで、高い確率で予防できる病気でもあります。どんな病気なのか、メリットの大きいHPV検診やHPVワクチンについて、女性医療ジャーナリスト・増田美加さんが専門家に質問!

増田美加

女性医療ジャーナリスト

増田美加

35年にわたり、女性の医療、ヘルスケアを取材。エビデンスに基づいた健康情報&患者視点に立った医療情報について執筆、講演を行う。著書に『医者に手抜きされて死なないための患者力』『もう我慢しない! おしもの悩み 40代からの女の選択』ほか

若い世代がなりやすい「子宮頸がん」ってどんな病気? 増田美加のドクタートーク

柴田綾子先生

淀川キリスト教病院 産婦人科医

柴田綾子先生

日本産科婦人科学会産婦人科専門医。日本周産期・新生児医学会周産期専門医(母体・胎児)。名古屋大学情報文化学部を卒業後、群馬大学医学部に編入。沖縄で初期研修を開始し、2013年より現職。世界遺産15カ国ほどを旅した経験から、母子保健に関心を持ち、産婦人科医に。著書に『女性の救急外来 ただいま診断中!』(中外医学社)『産婦人科研修ポケットガイド』(金芳堂)、『女性診療エッセンス100』(日本医事新報社)ほか。NPO法人女性医療ネットワーク理事。

若い世代がなりやすい「子宮頸がん」ってどんな病気? 増田美加のドクタートーク

柴田先生 子宮頸がんは、子宮の入り口の子宮頸部にできるがんです。子宮頸がんの原因は、性交渉によってヒトパピローマウイルス(HPV)に持続的に感染することです。HPVは、決して珍しいウイルスではなく、多くの女性と男性が一生に一度は感染するといわれる、ごくありふれたウイルスです。性交渉の経験がある方の80%は、知らないうちにHPVにかかったり、治ったりしています。

増田 「セックスをたくさんしている人が感染する」とか、「夫だけしか性交渉をしたことがないから感染しない」ということではないのですね?

柴田先生 はい。それは間違いで、過去に一度でも性交渉の経験がある人ならば、誰もが感染するリスクがあります。たとえ一人の人としかセックスをしたことがなくても、その人が過去にほかの人と性交渉をして、感染している可能性はないとはいえないのです。

増田 なぜ20代、30代に多いのですか? 性交渉の機会が多いからでしょうか?

柴田先生 通常、HPVに感染してから子宮頸がんになるまで、数年から数十年かかるといわれていて、がんが時間をかけてゆっくりと増殖するためです。がんが発見される前段階として、子宮頸部にがん化する可能性がある細胞が増えていきます。これをがんになる前の「異形成」といいます。10代で初めての性交渉を経験してHPVに感染した場合、異形成やがんが見つかり出すのは20代になった頃から。そして30代、40代でかなり増えていきます。妊活世代で、働き盛りの女性たちがかかりやすいのが子宮頸がんなのです。

20〜30代女性の子宮頸がん発症率

国立がん研究センターがん情報サービス「がん統計」(全国がん罹患モニタリング集計(MCIJ))全国推計値:がん罹患データ(1975~2015年)より作図
https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/dt/index.html
MSD製薬「子宮頸がん予防情報サイト もっと守ろう.jp」を参考に図表作成
https://www.shikyukeigan-yobo.jp/movie/

増田 子宮頸がんは、早期のうちはほとんど自覚症状がなく、気づかないうちに進行するといわれていますが、最初に表れる自覚症状にはどんなものがあるのでしょうか?

柴田先生 子宮頸がんは、進行するまで症状が出ないことが多いがんです。2大症状は、不正出血(生理ではないのに出血する)、性行為後の出血(子宮の入り口の細胞がもろくなるので、こすれると出血する)ですが、これらの症状が出たときには、がんが進行していることが多いのです。ですから、早期発見するには、症状がまったくなくても定期的に検診を受けることがとても大事です。20歳になったら、2年に1回は、症状がなくても検診をぜひ受けてください。

増田 20歳以降でも、セックスを経験していない人は検診を受けなくてもいいのでしょうか? また、10代でセックス経験がある人はどうすればいいでしょうか?

柴田先生 20歳以降で未経験の場合は、医師との相談になります。セックス経験がなければHPVに感染しているリスクはかなり低いですが、子宮頸がんのリスクはゼロではありません。子宮頸がんは、HPV感染以外の原因でなる可能性も決してゼロとはいえないのです。

増田 子宮頸がん検診は痛いから怖くて受けたくないという人もいますが、痛くない受け方ってあるのでしょうか?

柴田先生 検査自体は、内診台に乗っていただいて1分くらいで終わります。痛みの感じ方には個人差があり、クスコという診察器具を入れるときや開くときに痛みを感じることがあります。子宮頸がんの検査自体は、子宮の入り口を小さなブラシでそっとこするだけなので、採取自体には痛みはほとんどありません。

子宮頸がん検診が大きく変わる!30代以降の女性はHPV検診がメリット大【増田美加のドクタートーク】

今野良(こんのりょう)先生

自治医科大学附属さいたま医療センター産婦人科教授

今野良(こんのりょう)先生

自治医科大学医学部卒業。東北大学医学部産婦人科講師、2008年より現職。1988年から子宮頸がんとHPV(ヒトパピローマウイルス)の研究を始め、「子宮頸部扁平上皮癌および異形成の進展とヒトパピローマウイルス感染」のテーマで医学博士(東北大学)。現在、子宮頸がんとHPV(検診、ワクチン、治療)に関する研究、啓発活動、さらに国内外の共同研究に取り組む。著書に『子宮頸がんはみんなで予防できる』ほか。

子宮頸がん検診が大きく変わる!30代以降の女性はHPV検診がメリット大

今野先生今回、新しく導入が決まった「HPV検診」は、WHO(世界保健機関)が推奨し、先進国はもちろん、開発途上国でも行われている検診方法です。これまで日本で国が推奨してきた細胞診に比べ、メリットが高い検診です。

増田:今まで行われている細胞診よりHPV検診のメリットが高いのは、どんな点ですか?

今野先生大前提として、子宮頸がんの原因はほとんどがHPV感染です。性交渉によってHPVに感染し、自然感染が消滅する場合も多いのですが、一部のハイリスク型ウイルスに長期間感染していると、5~10年以上を経て子宮頸がんになります。つまり、HPV検診は子宮頸がんの原因となるウイルス自体の存在を調べます。HPVが感染しても、何も症状はありませんが、一部が細胞の形の変化を起こします。

細胞診は、顕微鏡を使って細胞に異常がないかを人の目で判断する検査のため、結果にばらつきがあることがこれまでも問題となっていました。細胞診は、がんの前段階である中等度異形成(CIN2)以上やがんを正しく診断できる感度(陽性であることを正しく判定できる割合)は70%とされています。

一方、HPV検診では、同じくがんの前段階である中等度異形成(CIN2)以上やがんを正しく診断する感度は95%以上です。つまり、HPV検診のほうが子宮頸がんを正しく見つけることができる精度が高い検査なのです

増田:30歳以降のHPV検診は5年に1回でいいとのことですが、それはなぜなのでしょうか?

今野先生:一部のハイリスク型のHPVに長期間感染してから、子宮頸がんになるまでは5~10年以上の時間を要します。つまり、HPVに感染していないのであれば、子宮頸がんのリスクはかなり低いわけです。


HPV検診のやり方

子宮頸がん HPV検診のやり方 1

STEP1
内診台に乗ります。できるだけリラックスしたほうが、違和感はありません。子宮頸部は痛みを感じにくい部位なので本来はそれほど痛くないはず。緊張して力が入ると、クスコという器具を入れる際に痛みを感じやすくなりますのでリラックスしましょう。カーテンの有無はどちらでも対応可能なので、希望を医師に言ってください。超音波検査の画面を見たり医師との会話がしやすいため、無いほうが安心という方も多いです。

子宮頸がん HPV検診のやり方2

子宮頸がん HPV検診のやり方3

STEP3
腟口から専用のブラシを入れて、子宮頸部周辺を柔らかいブラシでこすり、細胞を取ります。これで終了です。

増田:2024年度からこのHPV検診が全国で行われることになるのですね?

今野先生新たなHPV検診の導入がスムーズに進むかどうかは、自治体によって異なると言われています。厚労省の調べでは、2022年度すでにHPV検診を導入している市町村は13.8%と238自治体にのぼっているとされています。また、埼玉県志木市、神奈川県横浜市など、4月からの導入が決まっている自治体もあります。これから続々とHPV検診の方向になることを期待しています。

HPV検診とHPVワクチンで子宮頸がんはほぼゼロに!【増田美加のドクタートーク】

HPV検診とHPVワクチンで子宮頸がんはほぼゼロに!

増田:子宮頸がん検診が精度の高いHPV検診になれば、「HPVワクチンは接種しなくていいのでは?」逆に「HPVワクチンを接種したら、検診は必要ない?」という声も聞きます。ワクチンと検診を組み合わせる重要性について、教えていただけますでしょうか? 

今野先生:子宮頸がん検診は、がんだけではなくその前の前がん状態の早期発見と治療を目的に行われるものです。検診だけでは、HPV感染やがん・前がん状態の発症そのものを防ぐことはできません。子宮頸がんを予防するには、HPVワクチンを接種することが大切で、90%以上の有効性が示されています。

また、HPVワクチンだけでも完全ではないのです。子宮頸がんの中には、HPVワクチンでは防げないウイルスタイプによる子宮頸がんがあります。せっかく、ワクチンを受けて、発症リスクを下げたのだから、予防をより効果的にするためには、検診と組み合わせることが必要です。子宮頸がんを予防するには、ワクチンと検診は車の両輪で、どちらも重要なのです。

世界の子宮頸がん検診受診率

世界の子宮頸がん検診受診率

増田:日本の子宮頸がん検診の受診率は、世界と比べてまだまだ低いのですよね?

今野先生:欧米各国では70%以上の子宮頸がん検診受診率の国がほとんどの中で、日本の受診率はまだ約40%にとどまっています。検診受診率も低いですし、HPVワクチン接種率も海外に比べて低いことは大きな問題です。このままでは、世界の中で日本だけHPV感染が多い国になり、子宮頸がんになる女性が増えていきます。
 

子宮頸がん ワクチン注射イラスト

今野先生2022年4月から2025年3月までの3年間で、誕生日が1997年4月2日~2007年4月1日生まれの女性は、HPVワクチンの無料接種を受けられるようになる措置(キャッチアップ接種)が厚労省から発表になっています。この年代で、過去にHPVワクチンの接種を受けていない、あるいは、1回または2回接種したことがある方は、2、3回目がまだであれば追加接種を受けられます。残りはあと1年です。期間を過ぎないように、該当年齢の方は早めに接種してください。

増田:無料接種の対象外で、自己負担で接種を希望する人はどうすればいいですか?

今野先生1997年4月1日以前に生まれた女性は、無料接種の時期を過ぎてしまっていますが、HPVワクチンを接種するメリットは大きく、子宮頸がん予防のためにHPVワクチンは有効です。45歳までは接種するメリットが上回るとされていますので、ぜひ前向きに考えてみてください。仮に45歳を過ぎてもHPVワクチン接種は可能です。また現在、男性にも4価のHPVワクチンが薬事承認されています。男性も肛門がん、咽頭がんの予防になりますので、費用は自己負担ですが検討してみてください。ちなみに私も接種しました。

増田:日本女性は、子宮頸がんにかかる人数も、亡くなる人も減っていませんね。

今野先生自分は子宮頸がんとは関係ないと思っている人もいると思いますが、日本では1年間に約1万人もの女性がかかり、年間約3千人もの女性が子宮頸がんで亡くなっているのです。HPVワクチン接種とHPV検診を行うすることで、子宮頸がんにかかって子宮を失うこと、命を失うことを防ぐことができると証明された今、その機会を奪ってしまうことは、女性にとって大きなデメリットです。HPV検診とHPVワクチンによる子宮頸がん予防をどうか忘れないでください。