4月9日(しきゅう)は子宮頸がんを予防する日です。子宮頸がんは、精度の高いHPV(ヒトパピローマウイルス)検診を行っても、それだけでは予防はできません。HPVワクチンとHPV検診を組み合わせることで、子宮頸がんは高い確率で予防できるようになりました。検診とワクチンで、子宮頸がんを予防する方法を産婦人科医の今野良先生に伺いました。

今野良(こんのりょう)先生

自治医科大学附属さいたま医療センター産婦人科教授

今野良(こんのりょう)先生

自治医科大学医学部卒業。東北大学医学部産婦人科講師、2008年より現職。1988年から子宮頸がんとHPV(ヒトパピローマウイルス)の研究を始め、「子宮頸部扁平上皮癌および異形成の進展とヒトパピローマウイルス感染」のテーマで医学博士(東北大学)。現在、子宮頸がんとHPV(検診、ワクチン、治療)に関する研究、啓発活動、さらに国内外の共同研究に取り組む。著書に『子宮頸がんはみんなで予防できる』ほか。

検診だけ、ワクチンだけでは、子宮頸がんの予防はできない!

HPV検診 子宮頸がん ワクチン

増田:子宮頸がん検診が精度の高いHPV検診(⇒Vol.83参照)になれば、「HPVワクチンは接種しなくていいのでは?」逆に「HPVワクチンを接種したら、検診は必要ない?」という声も聞きます。ワクチンと検診を組み合わせる重要性について、教えていただけますでしょうか? 

今野先生:子宮頸がん検診は、がんだけではなくその前の前がん状態の早期発見と治療を目的に行われるものです。検診だけでは、HPV感染やがん・前がん状態の発症そのものを防ぐことはできません。子宮頸がんを予防するには、HPVワクチンを接種することが大切で、90%以上の有効性が示されています。

また、HPVワクチンだけでも完全ではないのです。子宮頸がんの中には、HPVワクチンでは防げないウイルスタイプによる子宮頸がんがあります。せっかく、ワクチンを受けて、発症リスクを下げたのだから、予防をより効果的にするためには、検診と組み合わせることが必要です。子宮頸がんを予防するには、ワクチンと検診は車の両輪で、どちらも重要なのです。

子宮頸がん検診受診率もワクチン接種率も低い日本

増田:日本の子宮頸がん検診の受診率は、世界と比べてまだまだ低いのですよね?

今野先生:欧米各国では70%以上の子宮頸がん検診受診率の国がほとんどの中で、日本の受診率はまだ約40%にとどまっています。検診受診率も低いですし、HPVワクチン接種率も海外に比べて低いことは大きな問題です。このままでは、世界の中で日本だけHPV感染が多い国になり、子宮頸がんになる女性が増えていきます。

世界の子宮頸がん検診受診率

子宮頸がん 検診率

出典/公益財団法人がん研究振興財団「がんの統計2023」

増田:日本のHPVワクチン接種率は、今どのくらいなのでしょうか?

今野先生日本全体の正確なデータはまだ出ていないのですが、厚労省のデータでは約40%、しかし、埼玉県内の定期接種の年齢の11歳~16歳の接種率は、約19.5%でした。山梨県でも同程度と報告されています。地域のばらつきはありますが、決して高い数字ではありません。

2020年の世界のHPVワクチン接種率を見ると、アイスランド、ノルウェー、カナダなどの接種率が高い国は約90%、その他の高所得国の平均は約57%です。中所得国の平均接種率でも約36~38%と日本より高い接種率です。

HPVワクチンを接種するには?

HPVワクチン接種 学生 子宮頸がん

増田:2022年4月から、厚労省は全国の自治体に対して、HPVワクチンの無料接種を対象者に個別案内することを発表しました。定期接種(無料接種)の対象となる人(小学校6年生から高校1年生の女性)には、自治体から予診票などが送付されています。この年齢を超えてしまった人は、接種するチャンスはないのでしょうか?

今野先生2022年4月から2025年3月までの3年間で、誕生日が1997年4月2日~2007年4月1日生まれの女性は、HPVワクチンの無料接種を受けられるようになる措置(キャッチアップ接種)が厚労省から発表になっています。この年代で、過去にHPVワクチンの接種を受けていない、あるいは、1回または2回接種したことがある方は、2、3回目がまだであれば追加接種を受けられます。残りはあと1年です。期間を過ぎないように、該当年齢の方は早めに接種してください。

また、誕生日が2007年4月2日~2008年4月1日(2024年4月で高2相当になった)女性も、通常の接種対象の年齢(高校1年相当)を超えても2025年3月末まで無料接種期間が3年間延長されました。無料接種できるHPVワクチンは、3種類(サーバリックス、ガーダシル、シルガード9)あります。

増田:無料接種の対象外で、自己負担で接種を希望する人はどうすればいいですか?

今野先生1997年4月1日以前に生まれた女性は、無料接種の時期を過ぎてしまっていますが、HPVワクチンを接種するメリットは大きく、子宮頸がん予防のためにHPVワクチンは有効です。45歳までは接種するメリットが上回るとされていますので、ぜひ前向きに考えてみてください。仮に45歳を過ぎてもHPVワクチン接種は可能です。

また現在、男性にも4価のHPVワクチンが薬事承認されています。男性も肛門がん、咽頭がんの予防になりますので、費用は自己負担ですが検討してみてください。ちなみに私も接種しました。

費用は、男女ともに自己負担の場合、クリニックによって多少のばらつきはありますが、2価、4価は1回15,000~17,000円×3回。9価は1回33,000~36,000円×3回という費用が必要です。

自己負担で接種を希望する人は、産婦人科や内科、小児科、ワクチン外来、感染症外来などで接種することができます。クリニックのホームページや電話でHPVワクチン接種を行っていることを確認して、予約を入れます。クリニックによってはワクチンを取り寄せる必要がありますので、必ず予約をしてください。ワクチンの種類をどれにするか迷っている人は、それについても相談できます。

年間1万人もの女性が子宮頸がんにかかっている!

増田:日本女性は、子宮頸がんにかかる人数も、亡くなる人も減っていませんね。

今野先生自分は子宮頸がんとは関係ないと思っている人もいると思いますが、日本では1年間に約1万人もの女性がかかり、年間約3千人もの女性が子宮頸がんで亡くなっているのです。*1

海外に目を向けると、たとえばオーストラリアでは2022年に子宮頸がんと新たに診断された人は942人と、発症率が非常に低く、希少がんに分類されるレベルになってきています。

WHO(世界保健機構)は2019年「21世紀中に世界中から子宮頸がんを征圧することが可能。子宮頸がんを歴史的書物の中だけの疾病にする!」と発表しています。そのシミュレーションによると、2030年時点でHPVワクチンを15歳までの女性が90%接種、子宮頸がんのHPV検診を35歳、45歳で70%受診、必要な子宮頸がん治療を90%の人が受けられれば、2060年には地球上から子宮頸がんがほぼ排除され、遅くとも21世紀末には中・低所得国でも征圧できるというものです。*2 しかし、日本ではこのままHPVワクチンの接種率が低く、HPVではない細胞診による検診だけでは、21世紀中に子宮頸がんを征圧できないでしょう。

若い女性にとって子宮頸がんは、めずらしい病気ではありません。子宮頸がんになったときの、心と体へのダメージは大きいものです。妊娠や出産をあきらめなければならなくなったり、仕事や家族への影響もあるでしょう。人生が大きく変わってしまうことを考えると、ワクチンには、大きな力があると思います。

HPVワクチン接種とHPV検診を行うすることで、子宮頸がんにかかって子宮を失うこと、命を失うことを防ぐことができると証明された今、その機会を奪ってしまうことは、女性にとって大きなデメリットです。

世界中100か国以上の女性たちは、ワクチンと検診で頸がん予防を行っていて、子宮頸がんは地球上から排除されようとしています。このままでは、先進国の中でも日本は発がん性のHPV感染が多い国、子宮頸がんが多い国になってしまいます。

HPV検診とHPVワクチンによる子宮頸がん予防をどうか忘れないでください。

*1 国立がん研究センターがん情報サービス「がん統計」(厚生労働省人口動態統計)罹患2019年、死亡2022年
*2 『世界的な公衆衛生上の問題「子宮頸がんの排除」』WHOスライド(日本語翻訳版)jsog

増田美加

女性医療ジャーナリスト

増田美加

35年にわたり、女性の医療、ヘルスケアを取材。エビデンスに基づいた健康情報&患者視点に立った医療情報について執筆、講演を行う。著書に『医者に手抜きされて死なないための患者力』『もう我慢しない! おしもの悩み 40代からの女の選択』ほか

取材・文/増田美加 イラスト/大内郁美 企画・編集/木村美紀(yoi)