世界最大級のマッチングアプリ「Tinder®︎ Japan」による、オリジナルサイト「Let’s Talk Gender」の制作にプロデューサーとして携わった落葉えりかさん、コンテンツディレクターの中里虎鉄さん、「Tinder®︎ Japan」広報担当の永野さんへのインタビュー第2弾は、さまざまな性のあり方を選択し表示できる、Tinder®︎の機能にフォーカス。性のあり方がゆらいだ際に、どのような使い方ができるかなど、詳しく教えてもらいました。

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性のあり方は流動的。そのときの自分にフィットするものを選べる機能

――「Tinder®︎」にはユーザーが自身のジェンダーアイデンティティ(性自認)やセクシュアリティ(性的指向)などの性のあり方を選択し、プロフィールに表示させることができる機能がありますよね。その機能が加わったのはいつですか?

永野:日本で導入したのは2021年、東京レインボープライドへの参加がきっかけでした。すべての人を歓迎するという姿勢を表すべく、性別に“その他”を加え、性のあり方は11項目から選べるように。性別を問わずに使えるマッチングアプリは、現状の日本では「Tinder®︎」のみです。

――それら機能を実際に活用しているユーザーの年齢層や特徴に、共通点はありますか?

永野:設定している人の45%は、18歳から25歳。「Tinder®︎」全体のメンバー層は他のマッチングアプリと比べて若いのですが、その中でも若い層から活用いただいていますね。若い人たちが、いかに自分の性のあり方を流動的に考えているかが表れていると思います。

虎鉄:私も実際に、ノンバイナリー(性自認が男性か女性かという性別二元論に当てはまらない人)と表記して使った経験があります。20歳くらいのときに、当時はゲイ男性として使っていたんですけど、しばらく使うのをやめて復活したら、その機能が加わっていて。「選べるじゃん、ヤバ!」と興奮しましたね。

中里虎鉄 マッチングアプリ 性自認 Let’s Talk Gender

Tinder®️を通してカミングアウト。その流れは日本にも!?

――ノンバイナリーと表示したことで、出会いやマッチング相手の反応などに、変化はありましたか?

虎鉄:ノンバイナリーという言葉があまり認知されていないせいか、個人的には、マッチする人の数はかなり減りました。一方で、ノンバイナリーというアイデンティティをきちんと認識している人とマッチするので、気が合う人と出会う確率がぐんと上がったんですよ! ゲイ男性やレズビアン女性ももちろん沢山いますが、中でもジェンダークィア(男女二元論が基準とされるジェンダーアイデンティティに当てはまらない人や当てはめたくない人の総称)の人との出会いがすごく増えたな、という印象を受けました。

――それらの機能にまつわるデータに、日本ならではの特徴はありますか?

永野:日本のメンバーは、他の国と比べてプライバシーを尊重する傾向が強く、顔写真を載せる人が少ないですね。興味深いのが、最近、Tinder®️で初めてジェンダーアイデンティティやセクシュアリティをカミングアウトする人が世界的に増えているというデータが出たんです。日本の若い人たちの間で、性のあり方に対する意識が流動的になっている変化からも、いずれ日本でも増えるのではないかと見ています。

Tinder®︎Japan 永野久美 Let’s Talk Gender

誰かとの出会いを探すなかで、本当の自分にも出会う

――日本では、自分のジェンダーアイデンティティやセクシュアリティについて考える機会があまりないため、定まっていない人も多いのでは? と想像します。自分の性のあり方に疑問が出てきたけど、どのカテゴリーに当てはまるかがわかっていない人は、この機能をどのように活用したらよいでしょうか?

虎鉄クエスチョニングを選択することもできます。ジェンダーアイデンティティについて模索中と書いている人を見ますし、プロフィールに「断定したくない」「カテゴライズされたくない」とハッキリ書いている人もいますね。それによって、同じような考えを持つ人や、ゆらぎを感じている人とつながれるかもしれません。もちろん、出会いの目的にもよりますが。

落葉:もしかしたら、必ずしも出会いの目的を定めなくてもいいのかもね。Tinder®︎は出会いの目的も選べるし、目的を恋愛に絞らずに、ピンときた人とラフに出会いながら、自分のアイデンティティを模索するのもアリなんじゃないかな? って思った!

虎鉄:確かに、それもいいかもね! 私は小さい頃から性のあり方に違和感を感じていて、これまでの人生、常に自分のアイデンティティを考えて生きてきたの。それでも26歳になった今でも、やっぱりまだわからない。今はノンバイナリーだと自認しているけど、とりあえず現在地はここ!っていう感覚で、この先また変化するかもしれないとは常に思っています。だから、変わること前提で、今感じることを素直に書いてもいいし、書かなくてもいい。自分に無理のない、好きな表現を選べばいいと思います。

永野:この仕事をしていて気づいたんですけど、マッチングアプリでの出会い探しって、自分一人の旅なんですよね。職場や学校、趣味の場などの出会いと違って、完全に1対1の世界じゃないですか? 世間の目や慣習から離れて、自分だけの価値観や感情で考えることで、それまでの思い込みや概念が覆る。その結果、本当の自分を発見する人が多いんです。

落葉:おもしろい!

永野:つまり、人はいつでも変化する可能性がある。それをワクワク感じて、楽しめるような発想が広まっていくと良いな!って思っています。

虎鉄:現状、例えば自分はシスヘテロだと思っていたのにクィアな部分もあると気づいて、喜べる人ってあまりいないんです。なぜなら、それまで得ていた社会的な立場や補償を失う可能性があるから…。でも永野さんの言う通り、自分のアイデンティティや性のあり方が変化していくことって、本来であればワクワクすること。そう思えるような社会になってほしいですね。

中里虎鉄 落葉えりか マッチングアプリでの出会い Let’s Talk Gender

性のあり方は多様、出会いは無限になっていく!

――今後、ジェンダー観がますます多様化することで、出会いはどのように変化すると思いますか?

虎鉄社会には多様な人たちがいて、性のあり方もまた多様である、ということが前提になれば、自分の性のあり方もきっと柔軟になり、変わってもいいと思えるはず。そうなったときに、出会いって無限になると思うんです。それって自分にとってもみんなにとっても、めちゃめちゃ最高じゃない!? 色んな人と出会って、自分のことをたくさん知って…素敵なことでしかない!

永野:今って、若い人たちが結婚しなくなっていると言うじゃないですか。でもかれらは決して結婚したくないわけじゃなくて、形にとらわれる必要がないと感じているだけだと思うんです。正直な自分でいられることがいちばん大切だから、不健全な関係だったらいらない!と言えちゃう。その結果、相手に求める条件も無くなっていくだろうし、子どもを持つ・持たないも自由になり、今よりも自然な形で恋愛できるようになるんじゃないかと想像しています。もちろんまだまだ壁はあるけれど、いずれ、必ず超えるはずです。

落葉:まじでみんなラクに生きられるようになりますよね。そもそも今の日本の社会で、ジェンダーとかセクシュアリティに縛られてない人って、ほとんどいないと思う。男らしさ、女らしさの概念も含めて…全部がつながっているから、一つ変われば全体も変わっていく。みんなが心地よく、ラクに生きられる社会に必ずなると信じているし、実際、世界はその方向に進んでいるはず。

永野:絶対に変わるし、この変化は止められないよね。

落葉:みんなで連帯して、変化を加速させたいですね。

落葉えりか ジェンダー観の多様化 Let’s Talk Gender

【8/30(水)20時START】ジェンダー、セクシュアリティ、人間関係のモヤモヤを語るオンラインイベントを配信!

8/30(水)の20時から、本インタビューにも登場していただいた中里虎鉄さん、「Let's Talk Gender」の動画コンテンツに出演しているモデル・俳優のイシヅカユウさん、学生のRinka Yamashimaさんをゲストにお迎えしたスペシャルトークムービーのプレミア公開イベントが決定!

yoi読者から募集した、ジェンダー、セクシュアリティ、人間関係にまつわるモヤモヤについてトークします。当日は、視聴者の皆さんと一緒にプレミア公開を視聴しつつ、出演者の皆さんがリアルタイムでチャットに返信します。動画の感想や、ゲストの皆さんに聞いてみたいことなど、たくさんお話ししましょう!

<Let’s Talk Genderとは
マッチングアプリ「Tinder®︎ Japan」が企画し、2023年4月にローンチしたオリジナルウェブサイト。ジェンダーアイデンティティ(性自認)やセクシュアリティ(性的指向)、ロマンティック(恋愛的指向)を含む多様な性のあり方について、より深く理解するためのキーワードを紹介するほか、日常生活で起こりうる身近なシチュエーションを題材にしたQ&Aをまとめ、ジェンダーに関して戸惑いや疑問が生じて立ち止まってしまったとき、解決のヒントとなるような情報を掲載。また、サイト内では性のあり方が多彩な10名によるインタビュームービーも公開している。
▶︎https://letstalkgender.jp/

Let's Talk Gender サイト画像

プロデューサー

落葉えりか

企業のビジョンを設計し、形にするビジョニングカンパニー「NEWPEACE Inc.」で、ジェンダーや性教育、サステナビリティの領域を中心にプロジェクトをプロデュース。

コンテンツディレクター

中里虎鉄

フリーランスでメディアのエディター・フォトグラファー・ライターと、肩書きに捉われず多岐にわたり活動している。あらゆるメディアのコンテンツ制作に携わりながら、ノンバイナリーであることをオープンにし、性的マイノリティ関連のコンテンツ監修なども行う。

Tinder®️ Japan コミュニケーションズ シニアディレクター

永野久美

マッチングアプリ「Tinder®️」を通して、ダイバーシティや性的同意についての認知拡大、LGBTQ Ally教育などの取り組みに力を入れたプロジェクトを展開中。

取材・文/中西彩乃 撮影/山崎ユミ 企画・編集/木村美紀(yoi)