「yoi」ではSDGsの17の目標のうち「3. すべての人に健康と福祉を」、「5. ジェンダー平等を実現しよう」、「10. 人や国の不平等をなくそう」の実現を目指しています。そこで、yoi編集長の高井が、同じくその実現を目指す企業に突撃取材! 第2回は、30年以上にわたり乳がんの啓発と、寄付活動を通じた研究サポートを続ける「乳がんキャンペーン」について、「エスティ ローダー カンパニーズ」の川畑華子さんにお話を伺いました。

エスティ ローダー カンパニーズ 乳がんキャンペーン SDGs ピンクリボン

◆「乳がんキャンペーン」とは?
エヴリン H. ローダー(元エスティ ローダー カンパニーズ シニア コーポレート ヴァイス プレジデント)により、1992年に創設されたグループ最大の社会貢献プログラム。毎年10月を「乳がんキャンペーン」月間と定め、ピンクのリボンをシンボルに、乳がんのない世界実現に向けた情報発信や支援製品の収益金による寄付活動を通じて、乳がん研究をサポートしている。世界60以上の団体をさまざまな形で支援し続け、現在までに寄付金総額1億1800万ドル以上、そのうち9300万ドル以上が「米国乳がん研究基金(BCRF)」を通じて、321件の医療プロジェクトに活用されている。日本では、2014年よりJBCRG(Japan Breast Cancer Research Group)に対して4100万円以上を寄付。

エスティ ローダー カンパニーズ 乳がんキャンペーン SDGs ピンクリボン エスティ ローダー カンパニーズ コーポレート アフェアーズ ダイレクター 川畑華子 集英社 yoi編集部 編集長 高井佳子

エスティ ローダー カンパニーズの川畑華子さん(写真右)と高井編集長。

川畑華子

エスティ ローダー カンパニーズ

川畑華子

コーポレート アフェアーズ ダイレクター。エスティ ローダー カンパニーズに入社後、ニューヨーク本社に勤務。マーケティング部などさまざまな部門を経験し、2022年10月より日本オフィスで現職を務める。

高井佳子

yoi編集長

高井佳子

入社以来、『ノンノ』『バイラ』『マリソル』『エクラ』と、幅広い年代の女性誌媒体に編集者として携わる。2021年@BAILA編集長に就任、2023年6月より現職。

「きっと世界は変えていける」という思いから生まれたアクション

エスティ ローダー カンパニーズ 乳がんキャンペーン SDGs ピンクリボン 創設者 エヴリン H. ローダー Rob Rich

「乳がんキャンペーン」創設者のエヴリン H. ローダーさん。©︎Rob Rich

高井 「乳がんキャンペーン」は、創設者であるエヴリン H. ローダーさんが乳がんを患っていらした経験から生まれたそうですね。30年間で9300万ドル以上が医療プロジェクトに活用されていますが、日本円にすると130億円以上! まさに世界の乳がん研究を支えるプロジェクトといっても過言ではないと思います。エヴリンさんは2011年に逝去されましたが、その際に「エヴリンのミッションは私たちのミッションになった」という言葉をCEOのファブリツィオ フリーダさんがおっしゃっていて、とても感動しました。川畑さんはニューヨーク本社にいらした頃からこの活動に携わっていらっしゃったのですか?

川畑 はい。入社以来ずっと参加していて、ニューヨークではエヴリンさんと色々お話ししながら一緒に活動してきました。エヴリンさんが活動を始めた当時のアメリカでは、「胸」や「がん」の話は隠すべきことであり、話しづらい、という空気があったそうです。話題になりづらいため研究への投資が進まず、死亡率も下がらないという状況で、ご自身も乳がんと向き合いながらも「きっと世界は変えていける」という意志を持っていらっしゃって。彼女の熱意や活動を通じて、私自身も「世界は変えられる」と感じられるようになりました。

高井 とても情熱的な方だったのですね。そして、当時のアメリカの状況は、今の日本と重なる部分も多い気がします。

川畑 そうですね。ただ、当時のアメリカと似ているということは、変えていけるということでもあるので、ある意味すごく希望を持てるのではないでしょうか。

活動に携わることが、検査を受けるきっかけに

エスティ ローダー カンパニーズ 乳がんキャンペーン SDGs ピンクリボン エスティ ローダー カンパニーズ コーポレート アフェアーズ ダイレクター 川畑華子

高井 その視点は、活動されてきた方だからこそですね! 活動から30年を迎えた2022年のテーマは「30年の絆。乳がんを終わらせるために」でしたが、2023年のテーマを教えていただけますか。

川畑 「美しい絆で、乳がんのない世界へ」です。この活動は、世界の人々に連帯を促し、乳がんのない世界を創るための意識向上を図るものです。募金によって研究を進展させることもひとつの大きなゴールではありますが、何より乳がんについて知っていただくこと、そして今まさに闘っている方たちに寄り添い、サポートしていきたいという思いが活動のコアにあります。

高井 一番大事になさっているのは、知るということに加えて、寄り添うという人と人とをつなぐ「絆」なんですね。

川畑 はい。患者さん同士の絆やケアをする方たちとの絆はもちろん、家族や友人、同僚など、隣で寄り添える立場の方との関係も絆ですよね。また、乳がんは女性だけの病気ではありません。乳がんは、世界中で最も診断数の多いがんです。 そう考えると、乳がんのインパクトは本当にさまざまな方に及ぶので、そういった方たちへのサポートと、セルフチェック(自己検診)などのリマインダーにもなれたらと思います。一人一人が「他人事じゃない」と感じることも、大きな一歩になりますから。

高井 私も数年前に親友が乳がんに罹患し、寄り添いながら悩み、彼女との絆を深く感じました。また、自分ごととして受け止めるためにも、セルフチェックのリマインドは重要ですね。

川畑 そうなんです。実は私も母方の祖母が乳がんで亡くなってるので、活動を続けていく中で「私もチェックしなきゃいけないんじゃない?」と気づきました。母方の親族は乳がんの人が多くて、母から話を聞いていたはずなのに、どこか他人ごとだと思っていたんですね。聞いていても聞こえてないというか。ですから昨年、日本オフィスに来る前にメモリアルスローンケタリング・エヴリン H. ローダー乳がんセンターで遺伝子検査を受けました。結果は問題なく、ほっとしたと同時に、研究の発展によって遺伝子検査が受けられることの意義を身近に感じた経験でもありました。

ハッシュタグをつけることで、研究に寄付できる

エスティ ローダー カンパニーズ 乳がんキャンペーン SDGs ピンクリボン 京都 清水寺 追善供養法要

10月1日からの2日間、ピンク色に染まった京都 清水寺。乳がんによって亡くなられた方への追善供養法要も執り行われた。

高井 年1回の検診はもちろん、遺伝子検査などの情報を知ることも、自分ごとになるきっかけですものね。東京スカイツリーや清水寺のイルミネーションなど、日本での活動もかなり浸透していますが、今年の取り組みはほかにどんなものがあるのでしょうか?

川畑 対象製品の購入が寄付につながる仕組みやイルミネーションに加えて、グローバルでの取り組みとして、Instagram投稿キャンペーンを10月末まで実施しています。当社のInstagramアカウントにメンションする形で、「#TimeToEndBreastCancer」のタグをつけて投稿すると、1投稿につき25ドル(最大7万5000ドル)が当社から米国乳がん研究基金へ寄付されます。研究1時間あたりにかかる費用は約50ドル。つまり、2回の投稿で1時間分の研究に投資することができます。

高井 それは素晴らしい取り組みですね。SNSでの発信はカジュアルにできるソーシャルアクションのひとつなので、きっと多くの方が参加しやすいと思います。今年で31年目という歴史ある活動ですが、今後の展望についても伺えますか。

川畑 乳がんは、世界で最も診断数が多いがんです。2022年にニールセン社と行った共同調査では、53%の方が「乳がんについて不安を感じる」と回答しました。2015年の46%から7%上昇していますが、これは乳がんの啓発が進んでいることも意味していると思います。一方で、セルフチェックについては67%の方が「自信がない」と回答していて、その割合はほかのアジアの国の倍以上という高さでした。そこで、セルフチェックに役立つ情報発信として、乳がんキャンペーン期間中に店舗やオンラインで商品を購入してくださった方には、セルフチェックカードを差し上げています。

エスティ ローダー カンパニーズ 乳がんキャンペーン SDGs ピンクリボン アヴェダ、エスティ ローダー クリニーク

アヴェダ、エスティ ローダー、クリニーク、ジョー マローン ロンドン、ラ・メール、トム フォード ビューティ、ボビイ ブラウンの7ブランドでキャンペーン支援製品を展開。

エスティ ローダー カンパニーズのハートを体現する人

エスティ ローダー カンパニーズ 乳がんキャンペーン SDGs ピンクリボン 集英社 yoi編集部 編集長 高井佳子

高井 新たなリマインドのツールということですね。そこから身近な人との会話につながるきっかけにもなりそうですね。

川畑 おっしゃるとおりです。この30年間、エヴリンさんをはじめとする多くの方がそれぞれの場所でアクションを積み重ね、乳がんによる女性の死亡率は、1980年代から43%(※)も減少しました。その数字を見ると、一人一人の行動で世界は変えられると実感できますし、活動を始めたエヴリンさんの存在が私たちのDNAにあることを本当に誇りに思います。
※American Cancer Society® Facts and Figures 2022-2024

高井 今日お話を伺って、エヴリンさんはエスティ ローダー カンパニーズのハートを体現している方だったのだろうなと感じました。

川畑 偉大な存在ではありますが、彼女がやってきたことは、私たちにもできるようなとてもパーソナルなものです。だからこそ心を揺さぶられますし、「私もやってみよう」と勇気が湧くんです。そんな彼女のスピリットを、ぜひyoi読者の方にも感じていただけたらうれしいです。

エスティ ローダー カンパニーズ 乳がんキャンペーン SDGs ピンクリボン エスティ ローダー カンパニーズ コーポレート アフェアーズ ダイレクター 川畑華子 集英社 yoi編集部 編集長 高井佳子 インタビュー

取材を終えて…
2017年の年末、大学時代の親友が乳がんで亡くなりました。手術にまで立ち会うほどの仲でした。あのときもっと自分にできることがあったのではないか、と後悔ばかりで、思い出すたびに涙していました。今回の取材で、私のそういった友人としての経験も、「話すこと」で誰かのリマインダーになれるかもしれない、と思いを新たにすることができました。
エヴリンさんはとてもパワフルで、さまざまなプロダクトを生み出した偉大な女性。けれども、エヴリンさんもまた一人の女性であり、ご自身の思いを「話すこと」から始めたはずです。小さな自分にもできる一歩がある、と思えた取材でした。(高井)

エスティーローダー ピンクリボン ロゴ

撮影/露木聡子 ヘア&メイク/池田 ハリス 留美子(川畑さん/M・A・C) 取材・文/国分美由紀 企画・構成/高井佳子(yoi)