恋愛の話=恋バナ。学生時代は恋バナでよく盛り上がったけれど、大人になった今では、話したくないことや触れてほしくないことがある人がいると知り、なんだか話しづらくなってしまった。でも、もしお互いがOKならば、友達や知人と恋バナをしたい。恋バナを通じて、相手の価値観を知りたい……そんな思いを抱える恋バナ大好き女性3名と、恋バナ収集ユニット「桃山商事」の清田隆之さんで、今の私たちを取り巻く“恋バナ”事情について話してみました。

恋バナ 恋愛 桃山商事 清田隆之

清田隆之

文筆家

清田隆之

1980年生まれ、早稲田大学第一文学部卒。文筆家、恋バナ収集ユニット『桃山商事』代表。これまで1200人以上の恋バナに耳を傾け、恋愛やジェンダーに関する書籍・コラムを執筆。著書に、『おしゃべりから始める私たちのジェンダー入門―暮らしとメディアのモヤモヤ「言語化」通信』(朝日出版社)、『よかれと思ってやったのに 男たちの「失敗学」入門』(双葉文庫)など。

<座談会参加者>
Aさん
31歳。学生時代から恋バナが大好きで、今は「恋愛リアリティーショーを観ているか」で恋バナができる可能性を探っている。「恋バナをすると、相手の考え方や意外な一面を知れるから楽しい」とのこと。現在は付き合って4年目の彼氏と同棲中。

Bさん
38歳。自分の失恋経験を綴ったZINEを作ったことがある。それをきっかけに様々な恋愛イベントに参加し、運営側に回ることも。恋バナは好きだが、話しづらい事情があるため恋バナできる相手が少ない。

Cさん
35歳。恋バナは好きだが、相手を傷つけてしまう話題を見極めることがとても難しいと感じ、あまりしないようにしている。現在は結婚1年目だが、「結婚してもパートナーとの関係は恋人でもある、よって夫婦の話も恋バナ」という考え。

最近、恋バナを振るのが怖い…。恋バナOK判断は、恋愛リアリティーショーへの関心度ですべし!?

Aさん:私は昔から友達とよく恋バナをしていたんですよ。人と人とのつながりの中で、恋バナをすることによって知れることってたくさんあるなと考えていて…。でも、今は迂闊に「恋をしていますか?」なんて聞くのはよくないことだと知っています。なので、恋バナが難しくなってしまった。それがちょっと寂しくて…。

Bさん:私も恋バナ大好きです。恋バナ愛では清田さんに負けないと思います(笑)。でも、仲のいい友達がほとんど結婚していることもあって、話していても恋バナになりづらいんですよね。最近は健康についての話題が増えてきました(笑)。

清田さん:わかるわかる(笑)。年齢を重ねていくにつれ、話題がそっちに行っちゃいますよね。腰が痛いとか、あのサプリが効くとか…。

Cさん私は「相手を傷つけないか」が気になって、恋バナを躊躇してしまうんですよね。たとえ仲のいい友達でも言いたくない事情もあるだろうし…。例えば私は今妊娠してるんですが、「結婚して妊娠したよ!」と友達に報告することすら迷います。結婚していない友達や、結婚しているけれど子どもがいない友達の「私に教えたくない事情」に触れてしまったら…と思うと怖くて。考えすぎなところもかなりあると思うんですけど。

清田さん:なるほど。それぞれの事情もあるし、ライフステージの違いもあるし、時代的な状況もある。いろいろな理由でみなさん「恋バナがしにくい」と感じているわけですね

Cさん:そうです。「彼氏いるの?」みたいな不躾なことをいきなり聞きたい、みたいな話ではもちろんないんですけど。本当はさらっと恋バナして共感し合ったり、わかり合ったりできるはずなのに、なんとなくできないでいる場や相手がいる気がして、機会損失もありそうだな、と

清田さんたしかに恋バナって、ある意味で「今、あなたはどうなの?」と身の上話を聞き出そうとするような行為だから、ためらいはありますよね。セクシュアリティの問題、ハラスメントになってしまう危険性、自分の言葉が相手に規範を押し付ける形になっているのではないかという不安…。

そんな中で恋バナを軽々しくしちゃいけないんじゃないか…という気持ちには、全く同感です。それは進歩的な変化だと思うけれど、一方で「なんか恋バナしにくくなっちゃったなあ」という体感についても、すごくわかる



Aさん:恋バナを振られただけで不快になる人って、一体どれくらいいるんだろうか、とも思うんですよね。でも、目の前にいる相手がどう思うかわからない以上、聞きづらいじゃないですか。「あ、こいつ恋バナ振ってくるやつなんだ、やば」と思われる可能性があると思うと、それも怖いし…。

Cさん:まず興味あるかがわかんないもんね。

Aさん私は「恋愛リアリティーショーが好きか」である程度判断しています。恋愛リアリティーショーが好きな人は、恋バナ好き率も高そうなので、ちょっと自分の恋バナをしてみて様子をうかがう作戦!

清田さんたしかに、確率は高そう! 実際、自分も大好きです。『オオカミには騙されない』シリーズから『あいの里』までいろいろハマってて。リアリティーショーを見ながらあーだこーだ言うのって、下世話だとは思いつつ楽しいんですよね(笑)。

恋バナ 友人との会話 桃山商事 清田隆之

「恋愛には興味ないんです」という話だって、“恋バナ”なんです!

Bさん:恋バナ好きな男性、ありがたいです。私は男性とも恋バナをしたいんですよ。以前恋活アプリを使っていたときに強くそう思ったんです。アプリでの出会いって最初は自分のスペックとか好きな映画とか、ありきたりな話から始めるじゃないですか。始めのほうは楽しく聞いているんですが、ある程度時間が経つと、「それって本質の話じゃないよね?」と思ってしまう。

清田さん:カルチャー話も楽しいけど、出会いの場で語りたいのはそれじゃない、みたいな?

Bさん:そうなんです。当たり前のようですが、恋愛する上で相手を深く知るひとつの鍵になるのが「恋バナ」だと私は思うんですね。恋愛や性的指向の話をすると、相手の本質をかなり見られるかなって。だから私は、男性とも恋愛の話がしたいんですよ。

Aさん:友達やこれから仲良くなりたい相手でもそうかも。どういう恋愛観を持っているかを知れると、その人の解像度がすごく上がるんですよね。

Cさん:私は「仕事観」「人生観」みたいな価値観と同じように「恋愛観」も聞いてみたいって感じですね。それも相手の大切な一部分だと思っているんです。仕事の価値観の中には「仕事嫌いだからできるだけしたくない。最低限にして日常を大事にしたい」みたいなものも含まれるじゃないですか。それと同じで、恋愛するのが好きでなかったとしても、「恋愛には興味ない」という話を聞いてみたいんです。それだって、立派な“恋バナ”だと思うんですよね。

清田さん:恋愛にまつわる話って、仕事みたいなオフィシャルな話題よりも、その人の知られざる一面とか、逆にロマンチックな部分とか、すごく味の濃い部分が垣間見えたりしますもんね。恋愛を通したものの見方を聞くことによって見えてくるその人の考え方や個性は、他の話と違う興味深さがあると自分も思います(もちろんプライバシーの問題もあるので、知らせたくないなら話さなくてもいいのは大前提ですが)。

恋バナ 男性との恋バナ 桃山商事 清田隆之

恋バナをするには、不安を取り除くことが重要。「安心・安全」な恋バナとは?

Bさん:今って、「恋バナをしたい!」という人は減っているんですかね。

清田さん:う〜ん、どうなんですかね。統計とかがあるわけじゃないのでなんとも言えませんが、以前、受け持っている大学の授業の中で恋バナについてとりあげたことがあるんですね。そこで感じたのは、若い世代の人たちが恋バナをしたくないかというと、必ずしもそうではないかも…ということで。「したい気持ちはあるけど、でも…」って感じというか。

葛藤の背景には「語れるほどの経験がない」「変だと思われることが怖い」「経験豊富じゃないと語る資格がないと感じてしまう」「不用意な発言で相手に嫌な思いをさせたくない」といった声があって、どこか不安に思う気持ちが語りづらさの一因かもしれない

Cさん「不安を取り除く」って恋バナをする上ですごく重要だなと思います。先日、高校時代の友達と10年ぶりくらいに恋バナしたんですよ。1人の失恋話を聞く会だったんですけど、聞く側が「私達は彼氏に対して怒ってしまうかもしれないけれど、それは相手のことを知らないし、その彼よりもあなたのほうが何百倍も大切だからだ」「彼自身や付き合ったこと自体を否定するつもりはない」「私達の発言が嫌だと思ったらすぐ言ってほしい」とか、そういう長い長い前置きから始まったんですよ。

Bさん:「安心・安全」を打ち出している。

Cさん:そんな恋バナは初めてだったんですけど、なんか居心地がよかったです。最終的に、みんな高校生みたいにわんわん泣きながら「幸せになってほしいんだよ〜!」「ありがとう〜〜!」ってなってました(笑)。

清田さん:いいですねぇ。素敵な関係だ…。

Cさん:いい恋バナでしたが、これって高校時代からの関係あっての話なんですよね。大人になって知り合った相手であればなおさら、恋愛話をするには「安心・安全」が大事な気がするんですよ。じゃあどうすればいいのかというと、わからない。

清田さん楽しく安全に理解を深めていくような恋バナですよね。それでいうと我々が「NEO恋バナ」と呼んでいるものがありまして…

Aさん:「NEO恋バナ」……!? したい! どんなものなんですか?

清田さん:今まで恋バナというと、誰と付き合ってるとか、誰が別れたとか、恋愛遍歴とか、恋人の愚痴とか、モテるとかモテないとか、脈があるとかないとか、あるいはハウツー的な話とか、そういうところばかり語られてきた気がするんですね。もちろん、そういう王道の話も楽しいんだけど、スポットの当て方を変えてみると、本当に多種多様なテーマが眠っていることに気づきます

例えば「恋愛と食事」という部分に着目してみると、食の好みが合わなかったとか、相手の食べ方が気になったとか、アレルギーが同じで意気投合したとか、食べログの点数ばかり気にする人で興ざめしたとか…とにかくいろんな体験談がでてくる。

そんな感じで、スポットを当てる部分を広げてみよう、そこで掘り起こされたエピソードを眺めてみようというのが「NEO恋バナ」と呼んでいるスタイルです。もちろん個人のプライバシーに触れる話も出てくるんだけど、競争とか優劣とか正解不正解みたいな方向には行かず、それぞれの個人史の一端を垣間見させてもらいながら、その問題自体について考えをめぐらせていく…。桃山商事のPodcastは、基本的にこの「NEO恋バナ」方式でやっています。



Cさん:「NEO恋バナ」やりたいです。ぜひ具体的に教えてください!

▶続く後編では具体的な「NEO恋バナ」を教えてもらい、「プライバシーに踏み込まない恋愛トーク」を4人でわいわい座談会! 新しい“恋バナ”の形を探ります。

イラスト/TLYS 取材・文/東美希 企画・構成/木村美紀(yoi)