パートナーシップにおいても多様なあり方がSNSなどで可視化される機会も多くなり、人々の意識や制度が変わりつつある昨今。パートナーとのつき合い方や関係性は、ただ従来の“当たり前”に沿うのではなく、それぞれが話し合い、自分たちに「しっくりくる」ものを選んでいける世の中に向かいつつあるのではないでしょうか。
ジェンダーやセクシュアリティについて発信を行うSNSメディア『パレットーク』編集長である合田文さんをゲストに迎え、異性のパートナーを持つ30代という共通点がありつつも、パートナーとの「しっくりくるカタチ」がそれぞれ異なる3人と座談会を実施! 多様な“2人のカタチ”とその探し方について、一緒に考えてみました。
<座談会参加者>
Aさん
31歳女性。男性のパートナーと同棲中。3年前から付き合い始め、2年半前から同棲開始。結婚の予定は今のところはなし。
Bさん
33歳女性。男性のパートナーと事実婚を選択し、結婚式も控えている。事実婚選択の理由は「夫婦別姓」を選択したかったから。
Cさん
37歳女性。男性のパートナーと1年前に法律婚。意識的に性別による役割分担を避け、家事は基本的に7:3で夫の担当。本人は仕事と病気療養に力を割いている。
“法律婚”“事実婚”“同棲”それぞれの2人のカタチ
合田さん:私は自社のメディア『パレットーク』でもパートナーシップについて扱っているので、今日はその話をもとに皆さんとお話できればと思っています。よろしくお願いします。
Aさん:よろしくお願いします。私の話をすると、パートナーは、積極的に「結婚はしない」と考えているわけではないんですが、「結婚すべきだ」とも思っていなくて…。今のところは正直「面倒くさいな」とも感じており、今は決めないでいる、という状況です。
Bさん:私は事実婚の手続きをしているところです。事実婚の公正証書を作成し、住民票の移動を一緒に行おうと準備しています。私たちは“それぞれの名字のままでいたい”という理由からの事実婚なので、夫婦別姓を選べるのなら、結婚していたと思います。
Cさん:パートナーとは昨年結婚しました。私はたまたま私も夫も結婚という形がよいと考えていたこと、私が婚姻関係を結び法律で縛られる関係性が欲しかったこと、自分の名字にまったく愛着がないことから結婚という選択に至りました。
Aさん:“事実婚”という言葉は知っていても、それがどのようなものかはっきりと知らないのですが、私のように恋人と同棲するだけの関係や法律婚と、どう違うんでしょうか。
Bさん:事実婚にもグラデーションのように段階があるんですよ。長く一緒に住んでいるだけのものもあれば、しっかりと公的証書をつくる“事実婚”もある。
法律婚と事実婚の差について、私はよく旅行に例えて説明します。法律婚はパッケージ旅行、事実婚はすべて自分で手配する旅行…というイメージですかね。法律婚は、婚姻届を一枚出せばいろいろなことが一気に変えられるので、旅行でいうと「それを選べば宿も保険もぜんぶその中に入っているから、申し込むだけでOK」みたいな感じです。
事実婚は「不貞はしてはいけないよ」「どちらかが病気になったとき、パートナーが同意書にサインしてもいいよ」みたいなことをそれぞれすべて別の書面で残さないといけないんです。それが「公正証書の作成」です。
Cさん:なるほど。「法律婚」で変えられることというのはどんなカップルでも共通だし、何が変わるのかをすでに認識し合っているから「結婚しましょう」「OK」のやりとりでさまざまなことの同意が取れて、わりと話が早いと思います。実際私もそうでした。でも事実婚はどういう流れでそこに着地するんでしょう。
Bさん:私と彼には「パートナーと一緒にいたいけれど、名字は変えたくない」という希望だけがまずあって。ネットで情報を集めていたら、「事実婚にも段階がある」と知ったんです。それなら、しっかりと証書を作り権利を持ったうえで別姓を名乗れる事実婚をしたいと思ったんですよ。
そこで「別姓がいい」「でもあなたが病気にかかったときに病院には行きたい」「遺産はある程度守りたい」ということを夫に伝え、事実婚の話を説明したら「そういう形があるんだね、僕も調べてみるね」と、いろいろ考えてくれたみたいで。話し合って「じゃあこの形でいってみようか」と決まりました。
合田さん:皆さんのお話を聞いていて、忘れてはいけないと思うのは、やっぱり「結婚するかしないかで悩めない人もいる」ということです。『パレットーク』には、パートナーが異性の人だけでなく同性の人、ノンバイナリーの人や、異性同士だけど事情があって結婚できないという声も届きます。また、セルフパートナーや、3人以上で交際しているというステータスを持つ人もいますよね。
法律婚や事実婚だけでなく婚姻の平等も進んでいくことで多くの人の選択肢が広がりますし、そもそも「パートナーがいるということが正解」というような風潮が変わってほしいという声も聞きます。旅行の話で例えると、「そもそも旅行する権利がありませんでした」という人たちがいるということです。そこはまだまだ課題であるという意識は持っておきたいところですね。
相手と自分の間の境界線を意識する!“2人のカタチ”を探る対話のヒント
Cさん:ちなみにBさんは、パートナーとどうやって話し合いされているんですか? 私の夫はもともと話すのがあまり得意じゃなくて、対話が難しいんですよ。もし私が事実婚を望んでいたとしても、話し合いはできていなかった気がする。
Bさん:…これはパートナーの性質の差かも。そもそもの性格として、うちの夫はすごくおしゃべりなんですよ。まず、家にいるときはずっと喋っているし、寝室が別なんですけど、お互いの部屋に入っても、寝るまでチャットをしている。ずっと話している夫婦なんです(笑)。
あとは普段の連絡ツールがSlackで、チャンネルが20個くらいあるのもいいのかもしれません。「結婚式」から「犬」まで、さまざまなチャンネルがあって、話したいことはそこで議題別にしっかり話しているので、別の話に流れちゃってうやむやになることもないんですよね。
合田さん:対話は大切ですけど、難しいですよね。しかしパートナーや家族など身近な人との対話にこそ、自分と他者の境界線、つまりバウンダリーを意識したコミュニケーションが必要だと思っています。私は、個人一人一人のまわりにフラフープのように境界線がある、とイメージしています。
相手の境界にぐいぐい入って「これってあなたが悪いよ!」「今これをやって! 絶対今やって!」と伝えると、相手は自分の境界線を侵されて居心地が悪いし、それに対して自分の意見を話しにくくなったり、異を唱えにくくなったりすると思うんですよ。
だから相手に対する投げかけは「2人の境界線の間に置いておく」ものであること、そしてその意見は両者が「YES」とならなければ実行できないことだとお互いに理解するのが大切だと思います。
Cさん:相手の領域に入り込んで「ちゃんと話してよ!」って圧の強いインタビューをしていました…。「2人の間に置いておく」という感覚はすごく大切そうな気がする。
合田さん:相手・課題・自分の間にそれぞれ境界線があるんだと認識できると、自分の意見も相手の意見も大切にしながら対話できますよね。これは自分にとってもいいことだと思います。相手が言っていることを鵜呑みにしなくていいと思えますからね。
自分たちにしっくりくるのはどれ?まずはさまざまな“2人のカタチ”を知ろう
Aさん:合田さんは、ほかにどのような「2人のカタチ」を持つ方のお話を聞いたことがありますか? 「事実婚」「法律婚」「婚姻関係を結ばない」という私たちのようなあり方だけでなく「婚姻関係を結べない」という方については先ほど伺いましたが…。
合田さん:例えば恋愛感情を持たないAロマンティックの異性同士の方で、友情結婚をされている方もいます。
あとは、カップル外でのデートやセックスをOKとするオープンリレーションシップやDINKS(共働きで子供を意識的に作らない、持たない夫婦)、週末婚や別居婚、戸籍上女性同士となるパートナーに精子提供をする方が参加し、3人で子育てをされているファミリーなど、さまざまなあり方がありますが、まだまだパートナーシップというと「異性同士の恋愛結婚で、ずっと一緒に暮らして、子供を持つのが当たり前」とされやすいのが現状ですよね。
Cさん:そういったパートナーシップもあるんですね!
合田さん:さまざまなパートナーシップがあることは、まだまだ当人が顔や名前を出して発信するのにハードルがある状況ですが、たしかに存在しています。そして、ロールモデルがいるというのもとても大切です。さまざまな選択肢があり、その中身を知らなければ、自分の求めている「カタチ」を見つけることが難しいのではないか、とも感じますね。
Aさん:その話で思い出したことがあります。20代の頃の恋人に、つき合ってすぐに「Aさんのことは好きだけれど、キスやそれ以上のことをするのが難しい」と言われたことがあるんです。当時の私は知識がなかったので、理解できずに「きっとこの人は私のことを好きではないんだ」と傷ついてしまって。その人への気持ちも冷めていってしまったんですよね。
今思えば、相手も「僕はなにか変だ」「“普通”の男にならなければ」と無理しておつき合いしようとしていたように感じます。「性的な関係なしでパートナーとつき合いたいという人もいる」と知っていれば、その人とつき合い続けることは難しくても、傷つくことも傷つけることもなかったのかもしれない。
合田さん:そうですね。知識があれば、とおっしゃっていましたけど、それはやっぱり、性教育やテレビなどのメディアで触れる情報の中で、情報がしっかりと与えられてないことが問題かな、とも思いますね。とはいえ私たちが個人や企業として、広めていくのもハードルが高いと思うんですよ。やはり、政治や教育が変わり、社会にもっと“さまざまなあり方を知る場所”が必要だと感じています。
▶続く後編では合田さんとともに“2人のカタチ”と、社会との関係性について考えていきます!
グラフィックレコーディング/あこ 取材・文/東美希 企画・構成/木村美紀(yoi)