SHELLYさんと長谷川潤さんの出会いは15年ほど前。お互いに人生の転換期を迎える中でメンタルヘルスや生き方について言葉を重ね、時に支え合ってきたお二人に、自分の心に空いた“穴”との向き合い方について語っていただきました。3月8日の国際女性デーを記念したスペシャル対談としてお届けします。

タレント
1984年生まれ、神奈川県出身。14歳でモデルとしてデビュー後、タレント、MCとして幅広く活躍。YouTubeチャンネル「SHELLYのお風呂場」などを通じて性教育や家族、コミュニケーションにまつわる発信を積極的に行なっている。9歳・7歳・2歳の娘の母。
あのとき潤ちゃんと話さなかったら、今みたいにいい恋愛はできなかった

──まず、お二人がメンタルヘルスに意識を向けたきっかけから聞かせてください。ちょうど1年前、yoiでSHELLYさんにインタビューさせていただいたとき、カウンセリングに通い始めたのは長谷川さんからのアドバイスだったと伺いました。確かSHELLYさんは離婚のタイミングでしたよね?
SHELLY そうですね。当時、潤ちゃんに「今のSHELLYはボートに穴が空いている状態。水を汲み出したから大丈夫!と思ってもまたすぐ水浸しになるから、穴がふさがるまではカウンセリングを続けたらいいと思うよ」って言われたのをすごく覚えてる。
あのとき潤ちゃんと話さなかったら、今みたいにいい恋愛はできなかったと思うし、自分と子どもたちとの関係性もこんなによくなかったかもしれない。潤ちゃんは、私の数年先を歩いている人なんですよ。
長谷川 我ながらいいアドバイス(笑)。私も大きなきっかけは離婚です。それまでは瞑想がメンタルケアのひとつだったけれど、離婚するときはメンタルがどん底に落ちすぎて「もう一人じゃ無理。I need help!」とわかったから、週1回のカウンセリングを続けてきました。今はボートの穴もかなり閉じてきたから、必要なときにだけ利用しています。
──カウンセリングを受けることで、どんな変化を実感していますか?
長谷川 私の場合、離婚前と今とで自分が180度変わったから、どれだけ説明しても言葉が足りない気がするけれど…たぶんいちばんの変化は、事実や現実と向き合えるようになったこと。ずっと人に対しても自分に対しても向き合うことが怖くて、“見て見ぬふり”がクセになっていたんです。
例えば、仕事でも意見を言えなかったり、友達とのやりとりですごく嫌な気持ちになっても、それについて話すことが怖くて関係をシャットダウンしたり。カウンセリングを通じて「怖い」と感じる自分を掘り下げて、癒して、少しずつ自分の芯を強く持つトレーニングをしてきた感じ。
──自分を癒すというのは、どんなプロセスだったのでしょう?
長谷川 カウンセリングっていろんな方法があるけれど、私の場合は子どもの頃にされて嫌だったことや、逆にしてもらえなくて寂しかったこと、つまり子ども時代のトラウマが今の自分の不安や怖さにつながっていると理解することで解放されていきました。
私は芯を強くすることが必要だったけれど、SHELLYはもともと芯が強い人だからこそ自分に優しくするsoftness(柔軟性、寛大さ)が必要だったんじゃない?
それまでの私は、“みんなが求める私”になることしか考えていなかった

SHELLY そうかも。潤ちゃんの話を聞いていて私も一緒だなと思ったのは、揉め事とか対立するのが好きじゃないところ。ただ、これはカウンセリングでわかったんだけど、私って誰かが不平等な扱いを受けていたりつらい思いをしていたりすると、頼まれてもいないのに「私が代わりに戦いに行く!」みたいなところがあって。
長谷川 でも、“自分のため”となると…ね。
SHELLY そう! 周りからはすごく強いと思われているし、自分でもそう思っているけど、自分が「嫌だな」と感じることは飲み込んじゃう。
例えばパートナーとか友達とか、関係性が近い人の言動に違和感があっても、「いつもはこういう人じゃないから、疲れているんだろうな」とか「本当はこういう意味だよね。ちょっと変な言い方してたけど大丈夫、大丈夫」って勝手に納得するための理由をつくって正当化しちゃう。
私をあまり大事にしてくれない人でも、一度自分の輪に入れたら残しちゃうの。離婚のときのカウンセリングでやっとそこに気がついて、バウンダリー(自分と他者との物理的・心理的な境界線)というものを知ったんだよね。
長谷川 大事だよね、バウンダリーって。
SHELLY 本当に大事。それまでの私は、“みんなが求める私”になることしか考えていなかったから。仕事の現場でも友達といても、「ここでの私はこういう立ち位置ね」ってつねに自分の居場所づくりをしていたの。だから、離婚するときに「あなたはどうしたいの?」って言われても「え? 何でもいいよ。私が決めるの?」みたいな。
自分にちゃんと向き合ったり振り返ったりしないまま、ひたすら走り続けてきたから「自分はどういう人間なんだろう?」なんて考えたこともなかった。
だから今は、自分のバウンダリーを習得する練習をしているところ。潤ちゃんの話にあったように、私も自分が育った環境とか、子どものときのさみしさやつらさと向き合わないまま大人になったから、昔の自分が親にされたように子どもを怒鳴ってしまったときに、ものすごく自己嫌悪に陥るの。「なんで私はこんなにダメな母親なんだろう。子どものことを愛してないのかな…」って。
でも、そこで「違う違う、あのときもできたし、このときもできた。今日はできなかっただけで、私はダメな親じゃない」って考えるようにしてる。心の中で勝手に生まれる“自分に対するストーリー”を調整する感じ。
長谷川 わかる…すごく共感できる。
何を感じても大丈夫。ダメな感情なんてない。自分のために安全なスペースをつくる

──“自分に対するストーリー”に飲み込まれないためにも、お二人が自分へのケアとして実践していることは何かありますか?
SHELLY 私はInstagramとかでメンタルコーチの人をフォローして、実践できそうなことを取り入れています。その中で「なるほど!」と思ったのが、「あなたは今、クマに襲われてるわけではない」という自分へのマントラ(心を落ち着かせるために唱える短いフレーズ)。「命が脅かされてるわけじゃないんだから落ち着け」ってことなんですよね。
「Fight or Flight(“戦うか逃げるか”の反応)」といって、人間はストレスにさらされると闘争や逃走のためのスイッチが入るらしくて。子どもの頃に叱られて育った私は、たぶんそのスイッチが入りやすいんですよね。
だから、例えば子どもたちに対してイライラしたときも、まずスイッチが入っていることに気づいて、深呼吸をして冷静になることで狭くなった視野を広げる。
そのプロセスを意識することで気持ちを切り替えられるようになりました。それから、子どもにも「いまのはあなたのせいじゃない。マミーの問題だった」って伝えて謝るようになりましたね。
長谷川 自分の態度や言葉に責任を持つってことだよね。私も子どもたちとはそういうコミュニケーションを取るようにしています。
ケアでいうと、自分のツールボックスの中にふたつあって、ひとつが瞑想。20分できたらベストだけど、時と場合によって2分でも3分でもいい。自分がいま何を感じているのか、どんな感情を持っているのか、見つめながら全部受け入れるの。
私の経験としては、そこで感情と戦ったり「こんなふうに感じる自分が嫌」「またそういう考え方をしてる」ってジャッジしたりすると、よけいに感情の波に襲われる気がする。
だけど、自分のために「何を感じても大丈夫。ダメな感情なんてない」って安全なスペースをつくってあげると、湧き上がった感情が少しずつ自分から離れて溶けていく感じがして。
それから、瞑想ではケアできないほど大きな感情、例えばパニックに近いときや怒りで頭が真っ赤になるようなときはタッピング※。
※「EFTタッピング」と呼ばれる感情解放テクニック。ETFは「Emotional(感情) Freedom(自由) Technique(手法)」の略。
SHELLY タッピングってどんなふうにやるの?
長谷川 調べてみるといろんな方法があるんだけど、私は車の中とか周りに人がいないときに指の腹で胸元を軽くトントントンってタッピングしながら感じていることを声に出すの。「いま、怒ってる」「すっごくムカつく。本当にムカつく」とか。
まずは自分の気持ちを口に出して言う。そして、そういう自分をジャッジしないで、そのままの自分を受け入れてあげることが大事。
SHELLY そんな自分も受け入れているよ、ってことだよね。
長谷川 そうそう。感情って動くものじゃない? それがタッピングすることで細かく砕けていく感じがするの。
絶対どうにかなる。大丈夫。そう思えるのは、立ち直れた自分を見てきたから
──自分自身が変化し、ケアのツールを手にしたいま、苦しんでいた頃の自分に声をかけられるとしたら、どんな言葉をかけたいですか。
SHELLY そんなの想像しただけで泣いちゃうよ。
長谷川 どん底のときって特に真っ暗でしょ。そこにぽつんといると、明るかったときのことなんて覚えていないし、明るい未来なんて見えないと思っちゃうけど、何回どん底にきても、必ず明るい日は訪れる。絶対どうにかなる。大丈夫。そう思えるのは、立ち直れた自分を見てきたから。いろいろな経験をして歳を重ねることのよさだよね。それは昔の私にはわからなかったこと。
(SHELLYさん)
ニット¥22900/Desigual(デシグアルストア 銀座中央通り店 03-6264-5431)、パンツ¥29700/MEYAME(03-6303-0270)、ネックレス¥13200・イヤーカフ¥7040/CANDY.・右手リング¥22000/Sa.Ya.・左手リング¥25300/CAKI(すべてロードス 03-6416-1995)
(長谷川さん)
ニット¥16500・ベルト¥22000/シシクイ、パンツ¥35200/セオリー(リンク・セオリー・ジャパン 03-6865-0206)、ピアス¥37400・リング¥40700/アサミフジカワ(ショールーム セッション 03-5464-9975)
撮影/馬場わかな ヘア&メイク/高橋純子(SHELLYさん)、Haruka Tazaki(長谷川さん) スタイリスト/野田さやか(SHELLYさん)、百々千晴(長谷川さん) 画像デザイン/前原悠花 構成・取材・文/国分美由紀