3月8日の国際女性デーを記念した、SHELLYさんと長谷川潤さんによるスペシャル対談後編。自分の体感に近い言葉をひとつひとつ、丁寧に選びながら交わされる二人の会話は、他者との物理的・心理的な境界線を意味する「バウンダリー」の大切さから、パートナーや友達との関係性へ。

タレント
1984年生まれ、神奈川県出身。14歳でモデルとしてデビュー後、タレント、MCとして幅広く活躍。YouTubeチャンネル「SHELLYのお風呂場」などを通じて性教育や家族、コミュニケーションにまつわる発信を積極的に行なっている。9歳・7歳・2歳の娘の母。
自分のためにバウンダリーをつくることは、みんなのためにもなる

──バウンダリーの話が出ましたが、自分の心を守りながら他者との関係をつくるうえで、お二人が大事にしていることをぜひ教えてください。
SHELLY 自分にとっての優先順位を考えるようになりましたね。私、やりたいことが多いんですよ。できることなら毎日仕事をしてキャリアを積みたいし、仕事の先輩ともいろいろ話をしたいし、友達にも会いたい。
しかも、目の前の人に何か頼まれたり誘われたりすると「やる!」「行く!」と言ってしまって、あとから「そんな余裕なかった…」となるタイプ。その結果、私が大事にしたいことができなくなっていることにようやく気づいて。
特にこの数年は子どもたちとの時間が何より大事だから、2024年は大好きな仕事をセーブすることを頑張りました。これはカウンセリングで自分のことを知ったからできること。
仕事関係の人でも友達でも、それを理解したうえで「待つよ!」と言ってくれる素敵な人たちを大切にして、「え、なんで?」となった人には「今までありがとう」と思いながらそっと距離を置く。それが私のバウンダリーですね。
長谷川 私はたぶん逆のパターンで、自分に正直になると、やりたくないことのほうが多い(笑)。そして自分の時間がめちゃくちゃ必要なタイプ。
昔はそんな自分を「私って変わってる」ってジャッジしたり罪悪感を感じたりしていたけど、今はそういう自分を受け入れて自分の時間を守ることですごくいいアイディアが生まれてくるし、クリエイティブになれる。心のコップが満ちているから、100%の自分で向き合えるんだよね。
それから、頭が勝手に考える「〜するべき」はたいてい自分の本音とずれているから、私は迷ったら体に問いかけるの。目を閉じて、例えば「この人に会いたい? 会いたくない?」ってたずねたときに、わくわくすることもあれば体が縮こまっていくこともあって。その反応を感じて判断してる。
自分のため=自分勝手だと思いがちじゃない? でも、私はそうじゃないと思う。自分のためにバウンダリーをつくることは、みんなのためにもなるから。
SHELLY めちゃくちゃ大事なことだよね。日本で暮らす女の人たち、特に「自分が我慢すればみんなが幸せになる」って自分を抑えている人に聞かせてあげたい。
長谷川 日本ではそうやって自分を抑えると、まわりから褒められるよね。仕事の場でも「気がきくね」とか言われたりして。
SHELLY 「なんでもやってくれるから助かるよ〜」とかね。社会的にも、例えば「お金がなくて苦しい生活をしながら、恋愛もせず、友達とも会わず、女手ひとつで子どもを育てあげた」みたいな苦労話が“いい話”になりがちだよね。
でも、そこで苦しめられるのは、社会的な抑圧の中で親が苦労する姿を見て育った子どもたちだから。どんな状況や環境でも、心のコップが満たされていて、ちゃんと自分と向き合えている大人に育てられたほうが、子どものコップも育っていくのに。
長谷川 本当にそう。私も瞑想をするときに「どんな感情を感じても、大丈夫」って自分にとって安全なスペースをつくるようになってから、子どもがイライラしていても「今怒っているんだね。それでも大丈夫だよ」って受けとめる余裕ができた気がする。でもそれは、まず自分自身に与えたからできることだよね。
SHELLY 私たちは世代的に、ハッピー・わくわく・楽しいは「いい感情」、悲しい・怒り・不安は「悪い感情」って教えられてきたけれど、潤ちゃんが言うように感情に「いい」も「悪い」もない。ただ、心地悪い感情と向き合う練習をすることは、自分のバウンダリーをつくるためにも大事だと思う。
共感してもらえることの力強さと、お互いを理解することの大切さ

──今のお話と重なるところも多いかもしれませんが、パートナーシップのあり方についてはいかがですか?
SHELLY 「こういうことは許せない」とか「こういうことはよくない」みたいな、嫌だと感じるものが同じ人がいいなと思います。私は不平等なことが嫌で、「社会的にこういうことはおかしいよね」って話をよくするけれど、今までつき合った異性のパートナーにはあまり共感してもらえなくて。
でも今のパートナーは理解してくれるし、一緒に声をあげてくれるからすごくエンパワメントされる。「声を上げていいんだ」「私の気持ちはまちがっていないんだ」と思えることって大事だなと実感しましたね。
長谷川 私も同じ。「女性だから」「男性だから」ではなく、平等な関係がいい。コミュニケーションでも「私とは違うけど、あなたの考えもリスペクトできる」ってお互いが自分の考え方に引き寄せようとしないことや、ちゃんと謝れること。それから個人的にはカップルカウンセリングにオープンな人。
もし自分たちだけでは解決できないことがあっても、方法はいろいろあるから大丈夫。大切なのは「自分たちのために一緒に向き合う」という気持ちと、お互いを理解し合おうとすることだと思う。
多くの人は、離婚寸前の状態や心が折れそうになったときにカップルカウンセリングへ行くけれど、今のパートナーとはつき合い始めたときから受けていたから、トラブルになる前のちいさな違和感の段階で話し合えたの。
SHELLY ちょっとした違いの微調整ってことだよね。
長谷川 お互いのカルチャーとか育てられた環境の違い、怒りのポイントとかが見えてくると、いざ感情が爆発したり喧嘩したりしたときも向き合い方のツールが増えるから、お互いのことを知っておくって本当に大事だと思う。
SHELLY 私も今のパートナーとつき合っているときにその話を聞いて、彼に「私たちも何かあったら行こうね」って話をしたら、「何かあってからじゃ遅いんじゃない? 今のうちから行く習慣をつくっておけば、困ったとき立ち戻れるよね」って言ってくれて、ちょっとだけカップルカウンセリングに通ってみたの。
長谷川 本当に⁉︎ 素敵だね。カウンセラーさんとの相性もあるから、それほど問題がない時期に行ってみて相性のいい人を探しておくのもありだよね。
人間は成長し続けるものだから、関係が変わるのは自然なこと

──お二人が知り合ったのは15年ぐらい前だと伺いましたが、連絡はまめに取り合うほうですか?
長谷川 電話やメッセージのやり取りは時々するけど、私が日本にいた頃も頻繁に会う感じではなかったかな。だから、久しぶりに会うとお互い話したいことがありすぎるっていう(笑)。
SHELLY そうそう。お互いに会えなかった間のことをぶわーっと語って、「すっきりしたね〜バイバイ!」みたいな(笑)。私がハワイに行くときや潤ちゃんが日本に来るときに連絡を取り合ったりもするけど、タイミングが合わないこともあるし。
長谷川 気づくと1〜2年たっていることも多いよね。こんなふうに一緒に仕事をするのも出産して以来かも。
──さまざまな要因やきっかけで友達との関係が変化することは誰にでもありますが、特に女性の場合はライフイベントなどによる影響を受けやすい気がします。最後に、お二人の友達観も聞かせていただけたら。
SHELLY なんとなく20代は「自分が社会や仕事で必要とされる人になるにはどうすればいいか」を探っていく時期で、30代は自分の居場所をつくりだす時期なのかなと思っていて。
私も経験したけれど、その過程で20代の自分を支えてくれた大切な友達と離れることもあると思うんです。でもそれは、“20代の私”にとって必要な友達だったんですよね。
長谷川 本当にそう。
SHELLY 生活や環境の変化で友達との関係が変わることはたくさんあると思うけど、それって実はそんなに重要じゃなくて。もちろんそのときはつらいし、別れを惜しんでいい。でもその先に絶対また友達が生まれるから。30代ってそういう時期なんですよね。
別れていく人たちのことは追いかけず、恨まず、「今までありがとう。私はこっちで頑張るから、あなたはそっちで頑張ってね」って別の道を歩む感じ。
「友情が続かない私って…」なんて思わないほうがいいし、人間は成長し続けるものだから、誰かと同じペースで同じ方向に成長するなんて奇跡ですよね。パートナーシップだってそう。同じ人と何十年も一緒にいるっていうのはお互いの努力と奇跡なんですよ。
長谷川 もうそれ以上に言うことはない気がする。SHELLYの言う通り、変化ってすごくナチュラルなプロセスだから、「自分が欠けている」とか「悪い」なんて思わなくていい。
友達や恋人との関係で苦しくなるときってあるけど、それは相手のせいでも自分のせいでもなくて、そういう時期だっただけ。そういう生きものいるよね、成長に合わせてシェル(殻)を変えていく…。
SHELLY …あ、やどかり?
長谷川 それ! やどかりみたいに、自分が成長していく中で「なんだか窮屈だな」「苦しいな」って感じたら、そこから抜け出して安心できる場所へ行くのは自然なこと。それを知っておくだけでも心がラクになるんじゃないかな。
(SHELLYさん)
ニット¥22900/Desigual(デシグアルストア 銀座中央通り店 03-6264-5431)、パンツ¥29700/MEYAME(03-6303-0270)、ネックレス¥13200・イヤーカフ¥7040/CANDY.・右手リング¥22000/Sa.Ya.・左手リング¥25300/CAKI(すべてロードス 03-6416-1995)
(長谷川さん)
ニット¥16500・ベルト¥22000/シシクイ、パンツ¥35200/セオリー(リンク・セオリー・ジャパン 03-6865-0206)、ピアス¥37400・リング¥40700/アサミフジカワ(ショールーム セッション 03-5464-9975)
撮影/馬場わかな ヘア&メイク/高橋純子(SHELLYさん)、Haruka Tazaki(長谷川さん) スタイリスト/野田さやか(SHELLYさん)、百々千晴(長谷川さん) 画像デザイン/前原悠花 構成・取材・文/国分美由紀