持田香織さん、伊藤千晃さんは現在子育ての真っ最中。3月8日の国際女性デーを記念したスペシャル対談の後編では、結婚・妊娠・出産に対して思い描いていたライフプランと現実とのギャップや、出産後の変化、子どもたちに伝えていきたい「セルフラブ」の重要性などについて語り合いました。

1996年にEvery Little Thingのボーカルとしてデビュー。「For the moment」「Time goes by」「fragile」など数々のヒット曲を発表。楽曲の作詞・作曲なども手がけ、ソロアーティストとしても活躍中。2015年に結婚、2021年に出産。
2017年、男女混合のパフォーマンスグループ「AAA」を卒業。2018年よりソロ活動を開始し、現在はアーティスト、モデル、タレントとして多方面で活躍。2022年3月に「フェムテック協会認定資格2級(認定フェムテックエキスパート)」を取得し、フェムテックに関する情報を積極的に発信している。2016年に結婚、2017年に出産。
最終的には「産みたい」という気持ちに従った

──妊娠した当時についての率直な思いを教えてください。
持田さん:すごくうれしかったです。私は授かるまで簡単ではなかったので。
伊藤さん:私は正直焦りが最初でしたね。子どもはいずれ欲しいと思っていたけれど、キャリアもすごく大事だったし、うれしさと戸惑いと、いろんな感情が混ざっていました。
持田さん:千晃ちゃんが妊娠した話を外部から聞いたとき、「うわ!うれしい」って、人ごとながら喜んだ記憶があります。だって赤ちゃんができるって奇跡的なことだから。
「仕事よりも自分の体を優先すべきだと思う!」と、声を大にして言っていました。自分のマネージャーさんに(笑)。
伊藤さん:直接私に届けてください(笑)。でもその言葉を今聞けたのは、すごくうれしいです。
──伊藤さんは妊娠を機に、所属グループの卒業を決断されましたね。
伊藤さん:いろんな葛藤がありながらも、最終的には「産みたい」という自分の気持ちに従いました。
持田さん:当時、妊娠や出産に関する知識も全然なかったってこと?
伊藤さん:はい。あたふたしながら準備をしました。ずっと歌や踊りをやってきたので、相談できる友達もまわりにいなくて。最初は妊婦仲間を作ることにすごく苦労しました。妊婦さんが集まる講座で基礎的なことから学んで、ひとつひとつ不安を消していきましたね。

妊娠や出産は当たり前じゃない。体験して痛感したこと
──持田さんは結婚や出産についてどんなプランを思い描いていましたか?
持田さん:それが全然考えていなくて(笑)。30代前半までは結婚願望もなかったですしね。ゆくゆくは家族を作ってお母さんになるだろうなと、漠然とは思ってはいましたけど。一人で生きていくこともすごく楽しかったですし、独身の女友達もいっぱいいたので、もしも夫に出会っていなかったら結婚しなかったかもしれない。
伊藤さん:結婚したタイミングで子どもについても考え始めた感じですか?
持田さん:そう。でも最初はツアーがあったからセーブしていたんです。あの頃は年齢的なリミットがあることも全然知識がなくて。学生時代はとにかく「避妊をしましょう」と言われてきたし、妊娠して問題になるみたいなドラマも多かったから、子どもはすぐにできるものだという思い込みがありました。
実際はできにくい人もいるし、年齢も関係してくる。子どもを授かることは“当たり前”じゃないことを実体験として痛感しました。
──持田さんは37歳で結婚、43歳のときに出産されましたね。
持田さん:はい。だから事前にたくさん準備もしたし、勉強もしました。でも実際に妊娠したときは安定期を過ぎるまで親や姉にも伝えなかったんです。それまで本当に長く時間がかかったし、妊娠・出産を迎えるには高齢で、何があるかわからなかったので。
伊藤さん:一人で抱えるのは不安だったのでは?
持田さん:当時は楽しくてうれしくてしょうがなかった。「こんな幸せなことあるの?」って思いながら過ごしていました。もちろんちゃんと育つのか、ちゃんと生まれてきてくれるのかは、泣き声を聞くまで不安もあったけれど。
伊藤さん:そう思うと、妊娠や出産って本当に当たり前じゃないですよね。私もたまに子どもに自分の出産シーンを見せるんです。本人は「えー!」とか言っていますけど、私はもう号泣。「すごいことなんだよ」って話しています。

──出産してから、ものの見方や考え方に変化は?
持田さん:育ててくれた親に対して「もっと優しくしなきゃ」と思うようになりました。
伊藤さん:私は人に謝ることがあまりできないタイプだったんです。キャリアを重ねるうちにプライドが高くなって、自分の考えが正しいと信じすぎていたというか。
でも妊娠してからは何もかもが初めてなので、ひたすら人に頭を下げて教えてもらうしかない。最初はそのことが嫌で嫌で(笑)。
でも子どものためだと思うと、人に頼ることが苦じゃなくなっていったんです。「自分が今まで持っていたプライドはなんだったんだろう?」と思ったし、180度世界が変わりましたね。
「嫌い」と言うことは意思表示だと学んだ
──心や体、性、セルフラブについて、これから子どもたちにどう伝えていきたいと思っていますか?
伊藤さん:私は今のうちから女性の体について子どもに話していますし、妊娠するとどんな変化が起こるかなどを伝えています。
学校では「プライベートゾーン」に関するプリントが配られて、性に関する教育も徐々に変わってきていると感じます。性に関する知識は恥ずかしいものではなく、自分の体を守るために大切なことだという教えが広がってきていることはいいことだと思いますね。
持田さん:性に限らず、すべてのことにおいて「自分で選択できる」ということは、つねづね子どもに伝えていきたいと思っています。
以前読んだ日本画家の堀文子さんとタモリさんの対談の中で、「嫌いということの大切さ」を知りました。
私はなるべく「嫌い」というワードを避けて生きてきたけれど、それは別にネガティブなことでも否定をしているわけでもなく、意思表示なんですよね。
思ったことをちゃんと伝えられたほうがフェアだし、健康的。「好き」と同じくらい「嫌い」と言うことは大事だと学びました。子どもにも、そのことをはっきり言える人であってほしいと思っています。

──仕事や子育てなど多くの役割や責任を抱える中で、ご自身の心と体をケアする方法は?
持田さん:『サザエさん』みたいに家族で向き合って一緒に夕食を食べる時間がすごく好きだし、とても大切にしています。すごく普通のことのようで、簡単じゃないんですよね。
最近は韓国料理を習い始めてキムチを作りました。毎晩食べるようになったら腸の動きが活発になったのか、肌の調子もすごくよくて。「おいしいね~」と言い合いながら食卓を囲んでいます。その時間が、体にも心にもプラスに働いている気がします。
伊藤さん:私は最近特に、ちゃんと寝ることを意識しています。10~20代はいつも緊張した状態でなかなかいい睡眠が取れなかったし、子育てが始まってからはさらに寝る時間も少なくなってしまって。 睡眠の質を上げるために5分でも10分でもお風呂につかるようにしています。
短い入浴時間でもしっかり体を温めてくれる入浴剤など、アイテムを味方につけながら上手に睡眠の質を上げたいと思っているところ。
子育てをしていると自分のことが二の次になってしまうけれど、自分を大切にしないと子どもに対しても余裕が持てないと思うんです。だからまず優先するべきは自分。限られた時間の中で、心と体をちゃんと癒してあげたいと思っています。
<持田香織さん>ブラウス¥102300、スカート¥146300/アーデム(メゾン・ディセット03-3470-2100) ブーツ/スタイリスト私物
<伊藤千晃さん>トップス¥25300/リツコ カリタ(ritsukokarita@gmail.com) パンツ¥49000/ムカサ(スタジオムカサ 080-4368-6158) イヤーカフ¥13200、シルバーリング(5点すべて)1点あたり¥7700、シルバーバングル¥14800/すべてエミコ アマノ(https://www.emikoamano.com) ゴールドリング¥308000、ゴールドバングル¥896500/ともにテッド・ミューリング(カジツ 03-6810-0187) シューズ¥27500/アルム(https://almofficial.com) その他/スタイリスト私物
撮影/松岡一哲 ヘアメイク/岡田知子(持田さん)、松永奈巳(伊藤さん) スタイリスト/宇都宮千明(持田さん)、藥澤真澄(伊藤さん) 取材・文/松山梢 構成・編集/渋谷香菜子