今年3月にデビュー10周年を迎えたシンガーソングライター・藤原さくらさん。インタビュー後編では、現在制作中のデビュー10周年記念アルバムや、好奇心旺盛な藤原さんが現在気になっていることについて伺いました。

藤原さくら

シンガーソングライター

藤原さくら

1995年生まれ、福岡県出身。シンガーソングライター。天性のスモーキーな歌声は数ある女性シンガーの中でも類を見ず、聴く人の耳を引き寄せる。 ミュージシャンのみならず、役者、ラジオDJ、ファッションと活動は多岐に亘る。 2025年3月にデビュー10周年を迎え、周年イヤーを飾る新曲「Angel」が配信リリース中。 2026年2月23日(月・祝)には、藤原さくら初となる武道館公演「藤原さくら 10th Anniversary 武道館大音楽会」を開催予定。 

音楽・他者・場所と一体となれるように、「こうあるべき」から自分を解き放つ

藤原さくら インタビュー 10周年

——ターニングポイントとなった音楽活動をお休みする期間を経て、現在制作中のアルバムへの向き合い方も変化したのではないでしょうか。


藤原さくらさん(以下、藤原さん)大きく変わりましたね。以前は複数の人と数曲ずつ作ったり、できた曲たちを「今の私がやりたいことです」と、一まとめにして作品にすることが多かったんです。

最近は、コンセプトありきで曲を作ったり、一人の方と根本からアルバム全体の構成を決めるようになりました。

ジャズの方々と一緒に活動する機会も増えていて、みなさんがとても自然体で音を出す姿に触れるたびにすごく刺激を受けています。

ガチガチにやることを決めて臨むのとは違い、その場の感覚で音を奏でる様子を見るたびに、「私が好きな音楽って本来こういうものだった」と思い出させてもらっています。

——現在、制作はどのくらい進んでいるのでしょうか

藤原さん:曲も出揃って、レコーディングもいい調子で進んでいます。発声に関しては、ちょうど壁にぶち当たっているところですね(笑)。一進一退で、「掴めた!」と思ったら、またすり抜けていく……といった感じ。

でも、確実に右肩上がりではあるから、アルバムができ上がったときに自分の思考や、音楽がどんな場所にたどり着けているのか楽しみです。

最近作った曲は、湖の近くで制作したんです。湖畔に一人で座って、水が流れる様子や、太陽の光が水面に反射してキラキラしているのをじっと眺めていたら、都内で「こうしなきゃ」と肩に力を入れていた自分から解き放たれて、ラクに呼吸ができるようになって。

世界と自分が溶け合うような感覚になる瞬間があった
んです。

私が音楽をすごく好きなのは、バンドメンバーやお客さんと自分が一体になれる瞬間があるからなんです。自分は自分なんだけど、自分じゃないような、他者との境界が曖昧になる感覚。それがとても好きで!

でも一時期、「もっとかっこいい音楽を作りたい」「こういうふうに認められたい」という想いが邪魔してその感覚を忘れてしまっていたんですよ……。

もちろん、そういう競争心みたいなものがあるからこそ頑張れることもあるんですけど、私の場合は、本当の自分を置き去りにしてしまっていた。

理想の自分と本当の自分との間に乖離があったんです。今は、自分と世界が溶け合うような感覚にもっともっと近づきたいと思いながら、曲作りに向き合っています。 

サルサダンス教室や『ムーミン』のスナフキンから学んだ肩ひじ張らない生き方

藤原さくら インタビュー 10周年 サルサ 習い事

——アルバム制作にあたって、サルサダンス教室に通いはじめたと伺いました。

藤原さん:そうなんです! 次のアルバムでは南国テイストを取り入れたいと思ってて。最初は好きな曲を聴いたり、本を読んだりして理解を深めようとしたんですね。でも、やっぱり頭だけでは難解なリズムを掴みきれなくて。「実際に体を動かしてみよう」と思って習いはじめたんです。

——実際に通ってみていかがですか?


藤原さん:気づきがたくさんあります! この間も動きをミスして、咄嗟に「ごめんなさい」と謝ったら、キューバ人の先生に「謝らないで!  やり直さなくていいんだよ!」と言われて。その瞬間、自分がまた肩に力を入れすぎていたことを自覚しました。

それこそワンマンライブが近づくと、「いいものを見せたい」という気持ちが募るあまり落ち込んじゃうことがあるんです。でも人間だからミスすることがあるのは当たり前だし、緊張するのも当たり前。落ち込んでも良いけど、失敗しても「なんでできないんだろう」と自分を責めすぎないでいよう、と考えられるようになりました。

藤原さくら 10周年 インタビュー ニューアルバム

——サルサダンス教室での気づきもそうですが、やはりアルバム制作を通してご自身の興味や関心を深掘りする中で、自分について多くの発見がありそうですね。

藤原さん
:まさにそうですね。最近、ムーミンにハマっているんです。なかでも好きなのがスナフキン! ムーミン谷のみんなが冬眠している間に旅に出て、春になるとまた戻ってきてテントで暮らすというキャラクター。

彼の「森で暮らすことに幸せを感じる人もいれば、お金を稼ぐことに幸せを感じる人もいる。幸せは人それぞれ違っていて、大事なのは自分にとっていちばんの幸せを見極めることが人生という旅なんだ」みたいなセリフがあって、その言葉にすごくハッとさせられたんです。

これまで私は「ああなりたい、こうなりたい」と夢がふくらむほどに、自分にとっての幸せの本質を見失っていたなと。だから、最近は自分がいちばん幸せな状態についてもよく考えています。

——その幸せな状態というのは?

藤原さん:楽に在ることです。好きな音楽を元気に長く続けていくこと。そのためには、頑張るところと力を抜くところのメリハリが必要で、今はその“力の抜き方”を日々模索しています。

例えば最近は、「偉い!」ってなるべく言わないようにしているんです。日本って、「頑張っている=偉い」って価値観が強いと思うんです。私自身、以前は友達と「頑張って偉い!」って言い合っていたし。

でも今の私はそれに縛られたくないし、誰かを縛りたくもない。偉いからやるんじゃなくて、ただやりたいからやる。その延長で、まわりにいい波動をもたらせたらいいなと思っています。

——幸せでいるためにマインドセットを心がけても、日々の些細なことで気持ちが浮き沈みすることもあると思います。そんなとき、藤原さんはどうやってご自身を立て直していますか?

藤原さん:それこそサルサダンス教室に行ったり、本を読んだり、あとは定期的に自然に触れに行きますね。

先ほどお話しした湖でのエピソードみたいな感じで、自然のエネルギーをもらうと元気になれるんですよ! あと、散歩も好きで、公園にふらっと行くだけでもリセットできますね。

藤原さくら インタビュー 10周年 武道館 

日常に新しい動きを取り入れて、好奇心を育む

——サルサダンス教室のお話からも、藤原さんはとても好奇心旺盛な印象を受けます。好奇心を保つために心がけていることはありますか? 年齢を重ねると経験が増える分、ワクワクすることが減ったという悩みを持つ方も多いと思います。

藤原さん:昔から注意力が散漫な子どもで、通信簿には「落ち着きがない」とよく書かれていました(笑)。大人になってからは落ち着いていると言われることが増えましたが、頭の中はずっと動いているタイプ。

最初の一歩を踏み出すのは、昔から得意だから好奇心がなくなるという経験はあまりないんです。 

もし何にもワクワクできなくなってしまったときは、いつものルーティンを少しくずしてみるのはどうでしょうか。例えば、朝早く起きてカフェに行ってみたり、お弁当を作る代わりに外でランチしてみたり。

そんなふうに日常にちょっとした変化を加えると、不思議と新しくやりたいことが見えてくる気がします。

あと、最初のハードルを下げて、気になることは何でもやってみることも大事だと思います。習い事も、「自分に合わなければ辞めればいい」くらいのスタンスで。最初から理想を高く掲げすぎずに始めてみるといいんじゃないかなと。

それこそ、私も最初は難しそうと思っていたピラティスにとりあえずチャレンジしてみたら、すごく向いていたみたいで(笑)。

——ピラティスもされているんですね! 他に、今後チャレンジしてみたいことはありますか?

藤原さん:去年2カ月ぐらい海外に行ったときに、キャリーバッグひとつで過ごせることに気づいたので、今断捨離に夢中です。これからもっと身軽になって、世界中を旅したいと思っています。

——まさにスナフキンのようですね!


藤原さん:ハハハ。そうですね。

——近々、旅に出る予定はありますか? 

藤原さん:実は、今度友人の上白石萌音ちゃんと一緒に旅行に行く予定です。イタリアの都市を巡ったり、ギリシャの島で泳いだりできたらいいなと。時間があれば、現地でライブも見たいと思っています。今から現地の文化に触れるのが楽しみです。

——素敵ですね。とても充実した旅になりそう。気をつけていってらっしゃい!

藤原さん:はい、ありがとうございます!

藤原さくら インタビュー 10周年 上白石萌音

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撮影/新田君彦(えるマネージメント) ヘア&メイク/筒井リカ スタイリスト/辻村真理 取材・文/海渡理恵   企画・構成/福井小夜子(yoi)