国内外で大絶賛された映画『ドライブ・マイ・カー』を機に、ますます活躍の幅を広げている俳優の三浦透子さん。初の単独主演作として熱い注目を集める映画『そばかす』の公開に先立ち、作品への熱い思いを語ってくれたインタビューを前後編にわたって公開します。

三浦さんが脚本を読んで強く「演じたい」と感じたという本作の主人公・「蘇畑佳純(そばたかすみ)」は、恋愛感情を持たないアセクシュアルの女性。恋愛をしなくても幸せだった佳純が、周囲の意見によって孤独と不安を感じ、さまざまな価値観や自分自身と向き合いながら未来を切り開いていく姿を描いています。

社会が“当たり前”とする価値観に共感できず悩む佳純と同じように、幼い頃からさまざまな違和感を抱いてきたという三浦さん。子ども時代の体験から学んだ多様な世界を知ることの大切さから、予想できない未来をポジティブに捉えるための心構え、自分を好きになるためのヒントまでを、じっくり、丁寧に話してくれました。

三浦透子さん

俳優・歌手

三浦透子

1996年10月20日生まれ、北海道出身。2002年、5歳のときに「なっちゃん」のCMでデビュー。同年、『天才柳沢教授の生活』でドラマ初出演を果たし、2011年に出演したドラマ『鈴木先生』で高い評価を受ける。主な出演作は、映画『私たちの ハァハァ』(2015年)、『素敵なダイナマイトスキャンダル』(2018年)、NHK連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』(2022年)など。第94回アカデミー賞で国際長編映画賞を受賞した映画『ドライブ・マイ・カー』(2021年)ではヒロインの寡黙なドライバー役を演じ、第45回日本アカデミー賞新人俳優賞など、数々の賞を受賞。歌手としても活動しており、映画『天気の子』(2019年)では主題歌のボーカリストとして参加。本作の主題歌『風になれ』の歌唱も担当する。今後は、2023年公開予定の映画『とべない風船』『山女』が控えている。

恋愛をして当然。そんな価値観に違和感があった

——出演する作品は、可能な限り脚本を読んでから決めているという三浦さん。『そばかす』の佳純役に惹かれた理由を教えてください。

役を選ぶときの理由は作品によって異なりますが、今回に関しては、セクシュアリティを扱う作品なので、わからなかったけど勉強して演じましたというのでは無責任だ、自分がまったく理解できないと感じるならば受けてはいけないと思いました。脚本を読むと、私にも“恋愛をすること、異性に好意を持つことは当たり前”“お付き合いや結婚をすることは素敵なこと”という価値観に疑問を抱いた経験があり、佳純と共感できる部分がたくさんあった。自分が佳純役を演じたい、と強く感じました。

映画『そばかす』場面写真

主人公 ・佳純の心情をこまやかに演じた三浦透子さん。

——前編のインタビューでも、“当たり前は人それぞれ”であることを常に意識しているとおっしゃっていましたが、そう考えるようになったきっかけはどんなものだったのでしょうか?

幼い頃から漠然と、みんなにできることが自分にはできないと感じてきました。ふつうってなんだろうというのは自然と考えてきたかもしれません。

大人になると、“女性の幸せは結婚して子どもを産むことだよね”などと悪気も疑いもなく話される機会が増えました。みんながふつうにできていて価値があると感じることに、価値を見いださない自分を発見したとき、“自分がおかしいのか?”という疑念が生まれることもある。そういった日常の会話から仕事においてまで、今も、常に何かしら考えていますね。

三浦透子さん

多様な世界とのつながりがあったから、救われた子ども時代

——本作の劇中、幼稚園で働き始めた佳純が手作りの紙芝居を披露するシーンがありますね。王子様との結婚を素直に喜べない、自身の恋愛観を投影したシンデレラのストーリーを、一部の大人は“多様な価値観を子どもたちに与えるのは悪影響だ”と批判します。ご自身の幼少期を振り返り、「こんな知識や情報に触れたかった」と感じることはありますか?

私はむしろ、一般的な子どもと比べてはるかにいろんなことを知る機会が多かったと自覚しています。小学生の頃に芸能の仕事を始めたから、家族や学校以外のコミュニティがあって、そこでたくさんの大人に触れて育った。プラス、役ごとに持っている価値観や哲学も学べました。

それらから得る多くの情報を、自分が共感できるもの、できないものと判断し、取捨選択しながら自分を形成してきた生い立ちは、とても恵まれていたと感じます。でも通常、子どもにとって学校は社会そのもので、学びを得る対象は親か教師のみ。そんな環境でもし自分が育っていたら…と想像すると、恐怖を覚えます。

映画『そばかす』場面写真

勤務先の保育園で、自作の紙芝居を披露する佳純。しかし、一部から批判が起こり…。

——恐怖を覚えるのは、なぜでしょう。

子どもの頃は、なかなか人とのコミュニケーションがうまくいかなくて悩んでいました。そんなとき、“私には学校以外のコミュニティがあるから、ここの全員に嫌われても大丈夫”と思うことで救われた自分がいた。“この場所が私の世界のすべてだ”と思ってしまっていたら、逃げ場がないと感じ、苦しかったと思います。

今の私に、教育システムを根本から変えることは不可能ですが、映画やドラマを通じて“外にはこんな世界があるんだよ”と示すことはできます。多様な世界があると知ることは、子どもたちにとっての救いになる。自分も少なからず、支える役割を担うことはできるはずだと希望を持って活動しています。

三浦透子さん

好きな自分のままであり続ければ、勝手に未来が創られていく

——昨年は『ドライブ・マイ・カー』が国内外で高く評価され、三浦さんは第45回日本アカデミー賞 新人俳優賞を筆頭に、数多くの賞を受賞。役者として大躍進を続けるなかで、心境の変化はありましたか? 

さまざまな経験をさせていただくのと同時に、年齢を重ね、変化していることもあるのでしょうが…今は、大事にしたいと思っていることを忘れないでいるために、どちらかというと変わらずにいることのほうを意識しています。例えば、お仕事に取り組むときの準備や、費やす時間、考えることなどは、変えずに続けたいなと感じています。

この先どうなるかはわからないですし、役者をしていない未来もあるかもしれません。それでいいと思っています。私は、今の自分が好き。好きな自分のままであり続ければ、勝手に未来が創られていくと信じています。積み重ねの先にある未来を楽しみに待てるような、心の余裕を持っていたいです。

三浦透子さん

——“今の自分が好き”という言葉、とても素敵です。自分を好きでいるためのヒントがあれば、教えていただきたいです。

ごめんなさい、わからないです(笑)。本当に自分を好きでいられているのか…。そう思えない弱さを自分に感じたこともありますし。ただ、好きでいたいとは常に思っていて、あえて口に出すことで自分に言い聞かせているのかもしれません。

効果があるかどうかは別として、見られて恥ずかしいと思うようなことはしない、とは意識しています。誰も見ていないしいいか、という感覚って自然と抱いてしまうじゃないですか。人目がないときも、私は“お天道様が見ている”と思うようにしています。お天道様はつまり自分で、自分が見て恥ずかしいことはしない。その積み重ねで、自分を好きになれたらいいなって。

三浦透子さん

‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥

映画『そばかす』ポスター

映画『そばかす』
<STORY>
海辺の地方都市で、家族とともに暮らす蘇畑佳純(三浦透子)は30歳。男性が苦手なわけでも、女性が好きなわけでもないが、昔から人に恋愛感情を抱くことがないまま生きてきた。母親から強引にお見合いをセッティングされたり、心地よい関係を築いてきた友人から男女の関係を迫られたり、鬱々とした日々を過ごす中で、中学の同級生・世永真帆(前田敦子)と偶然再会。かつてAV女優として活躍し、女性に対する古い価値観への疑問を率直に伝える真帆に共感を覚えた佳純は、誰にも恋愛感情も性欲も湧かないことを告白する。

12月16日(金)より、新宿武蔵野館ほか全国公開 
配給:ラビットハウス 
監督:玉田真也
企画・原作・脚本:アサダアツシ
出演:三浦透子、前田敦子、伊藤万理華ほか 
公式HP:https://notheroinemovies.com/sobakasu

©︎2022「そばかす」製作委員会

取材・文/中西彩乃 撮影/干田哲平 企画・編集/木村美紀(yoi)