山田由梨さん

yoiで配信中のコミカライズ版『17.3 about a sex 〜私たちのリアル〜』が完結したことを記念し、原作ドラマの脚本を手がけた山田由梨さんにインタビュー。

性教育をテーマに掲げたいきさつや、自身が受けた性教育などのエピソードを語った前編に続き、後編では、脚本家としてジェンダーやセクシュアリティを取り上げる際に意識していることにフォーカス。性について大切な人と話すためのきっかけづくりや、山田さんがインスパイアされたおすすめの作品も教えてもらいました。

どんな問題であっても、同じ社会に生きている限り、全員が当事者です

——山田さんはもともと俳優として、子どものときにデビュー。俳優として活動しながら、演出や脚本を手がけるようになったそうですが、脚本を書く際に役者経験は生きていますか?

演出をつけるときに、演者としてはどう言われるとわかりやすいかを考えられたりと、俳優の気持ちや状態、思考回路などは理解しやすいのかな、と思います。

脚本を書きはじめてからは、俳優として作品に携わる際、セリフや設定などに違和感を抱くことが増えました。ただ言われたことを行うのではなく、自分のなかでしっくりこない場面については、話し合いを求めたり。違和感を感じる作品には出たくないと思うようになったのと同時に、脚本を書くことがいっそう楽しくなってきたので、今は書くことに注力しています。

——『17.3 about a sex』のほかにも、ジェンダーやフェミニズム、多様なセクシュアリティにまつわる社会問題を扱う作品を多数手がけている山田さん。さまざまな視点を持つ登場人物を描く際に気をつけていることや、意識していることがあれば教えてください。

キャラクター一人一人に対して、必ず当事者意識を持って書いています。どんな問題でも、自分も同じ社会で生きているかぎりは当事者ですから。例えば、セクシュアリティに関して言うと、マイノリティの人たちが抱えている問題に対して、自分は社会の構造を作るマジョリティ側としてかかわっている。

自分もその問題のなかにいるという意識を持って書かないと、登場人物の気持ちに寄り添えず、核心には触れられないと思うんです。他人事になってしまったり、上から目線になってしまったりして、本当にその問題で苦しんでいる人を傷つけてしまう可能性もある。無意識に誰かの気持ちを踏みつけているかもしれない、という意識はつねに持っていますし、だからこそ、社会問題をテーマにした脚本を書くのはすごく怖いです。

山田由梨さん

セクシュアリティはその人のひとつの要素。すべてを理解した気になるのは危険

——ご自身の意見や認識が偏らないために、していることはありますか?

社会問題やセクシュアリティについて勉強したりして、情報はつねにアップデートしつつも、「一人一人の気持ちや感情はわからない」というスタンスでいいと私は思っています。異性愛者が全員同じではないように、どんなセクシュアリティであっても、考え方や生き方は個人で違うもの。“わかった気にならない”ということは、日頃から意識していることのひとつかもしれませんね。

——『17.3 about a sex』の脚本を書く際には、実際にセクシュアルマイノリティの人と会って、お話ししたそうですね。

監修として入ってくれた中島梨乃さんに紹介してもらい、ティーンエイジャーとしての視点や悩みを聞きました。本などを通じて知るのとは違った実感を持てるので、ヒアリングは大切にしていますね。

ただ、“女性”や“レズビアン”などのくくりって、人物のひとつの要素でしかなくて。マイノリティだからこそ抱えている問題や感情は参考にしますが、どういう人間を描くかは別の軸で考えています。

——セクシュアルマイノリティの人の特徴に限らず、ジェンダーや性の問題などに関して、バイアスのかかった考え方や発言は、まだまだ多いように思えます。正しい知識を広めるために、個人ができることはありますか?

そういう発言をしている人がいたら、面倒でない範囲で「なんでそう思うの?」と問いかけ、話し合うようにしています。社会問題を取り上げた作品の脚本を書いている最中は、日々、その繰り返しですね。「フェミニストって、つねに怒ってるイメージ」と言われると、「どうして怒っているか、考えたことありますか?」と返す。そんな経験から生まれたのが、『17.3 about a sex』の第7話「男子の皆さん。1週間出血しつづけたことありますか?」です。

自分で学べることを学ばずに来た人に教えるのは面倒だし、私は教育者じゃないんだけどな、とも感じます。でも一緒にものを作る相手には知っていてほしいから、根気よく伝えていくしかない。そうするなかで、多くの視聴者・観客にも、説教くさくなく、わかりやすく伝えるための技術は身についた気がします。

山田由梨さん

誰にでも共有する必要はない。ドラマや映画をきっかけに相手のスタンスを探ってみて

——『17.3 about a sex』でも描かれていたように、偏見を含んだ意見や反応を恐れて、自身の悩みを明かせずに悩んでいる人も多いはず。家族や友人と共有したいと感じている人たちに、伝え方やきっかけづくりのアドバイスはありますか?

基本的に、傷つく恐れがある場合は話さなくていいと私は思っています。ただ、話したい場合は、それこそドラマや映画などのコンテンツに頼るのもひとつの手ではないでしょうか。例えば、セクシュアルマイノリティの人たちが出てくる作品を一緒に見て、どう思う? と話題をふってみる。その人のスタンスを探り、理解してくれそうだったら話してみて、理解してくれなさそうだったら話さない。無理に伝えて、自分が傷つく必要はないと思います。

——これまでに、山田さんがインスピレーションを受けたものや、新しい価値観を学んだものなど、おすすめの作品があれば教えてください。

『17.3 about a sex』のあとに手がけたドラマ『30までにとうるさくて』の脚本を書いていたときに影響を受けたのは、『Lの世界 ジェネレーションQ』というドラマ。2010年に放送がスタートして社会現象を巻き起こした『Lの世界』のリバイバル作品で、大人になった登場人物の生活や、その子どもたちのセクシュアリティや性にまつわる悩みを描いています。「こんな未来、日本にはいつ訪れるんだろう?」と思ってしまうくらい、超未来的で刺激的でした。

山田由梨さん

——『17.3 about a sex』の反響を受けて、日本でも多様な性を描いたドラマや映画が続々と増えています。そんな社会の変化をどのように受け止めていますか? また、今後の展望も教えてください。

ドラマや映画のほか、yoiもそうですし、性について学べる場所が増えることは、すごくいいことですよね。それによって、いろんな人が生きやすくなっていると思うので。ただ、描かれていないセクシュアリティや問題がたくさんあるのも事実。いろんな幸せの形や恋愛関係のあり方など、スポットライトが当てられていないことをどんどん描いていきたいな、と思っています。

山田由梨さん

作家・演出家・俳優

山田由梨

1992年東京生まれ。作家・演出家・俳優。立教大学在学中に「贅沢貧乏」を旗揚げ。俳優として映画・ドラマ・CMへ出演するほか、小説・ドラマ脚本の執筆も手がける。『フィクション・シティー』(17年)、『ミクスチュア』(19年)で岸田國士戯曲賞最終候補にノミネート。2020・2021年度セゾン文化財団セゾンフェローI。テレビドラマの脚本を初めて手がけた一作目は、2019年に放送されたドラマ『女子高生の無駄づかい』(テレビ朝日)第4話。その後、『17.3 about a sex』(2020年・ABEMA)、『にんげんこわい』第2話(2021年・WOWOW)、『30までにとうるさくて』(2022年・ABEMA)、『神木隆之介の撮休』(2022年・WOWOW)第4話などの脚本を執筆。11月4日より、贅沢貧乏の舞台、『わかろうとはおもっているけど』のパリ公演が開幕予定。11月29日より放映のNHK夜ドラ『作りたい女と食べたい女』の脚本も手がける。

ABEMAオリジナルドラマ『17.3 about a sex』
初体験平均年齢=17.3歳だと知った女子高生3人組。その日をきっかけに彼女たちの"性の価値観"が揺らぎはじめる。「実際、痛いの?」「そもそもセックスってしなきゃダメ?」「あのさ、みんな、一人でしてるの…?」「つき合って、キスして —それから…!?」本当は知りたいけど、誰も教えてくれないセックスのこと。初体験や避妊、生理、体型の悩みやセクシュアリティなど、リアルで繊細な女子の本音を隠さず丸めず語り尽くす3人。日本でいちばんティーンに観られているメディア・ABEMAが送る、女子高生のリアルな心情を描いた青春恋愛物語。

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撮影/吉川綾子 ヘア&メイク/木原理恵子 スタイリスト/辻村真里 取材・文/中西彩乃 企画・編集/木村美紀(yoi)