『おとなのためのアイラブみー』収録現場にて。(左から)富永京子先生、岡崎文さん、高戸映里奈、藤江千紘さん

『おとなのためのアイラブみー』収録現場にて。(左から)富永京子先生、岡崎文さん、高戸映里奈、藤江千紘さん

主人公・5歳の“みー”が、「自分を大切にするってどういうこと?」をテーマに、体や心についてさまざまな発見をしていく子ども向けアニメーション番組『アイラブみー』。そのプロデューサーである藤江千紘さんと岡崎文さんのお二人によるポッドキャスト番組『おとなのためのアイラブみー』とyoiとのコラボ配信が実現! 前回の第1回目に引きつづき、yoi peopleのお一人である社会学研究者の富永京子先生とyoiエディターの高戸映里奈が番組にゲスト出演した第2回目の配信の内容を一部抜粋してお届けします。フルバージョンは『Spotify』にて絶賛配信中ですので、ぜひお聴きください! 

●ポッドキャスト番組『おとなのためのアイラブみー』
5歳の主人公・“みー”の心や体にまつわるふとした疑問をアニメーションで描く、子どものためのじぶん探求ファンタジー番組『アイラブみー』を制作するプロデューサー、藤江千紘さんと岡崎文さんによるポッドキャスト。性教育の疑問やこじらせてしまったモヤモヤを専門家にぶつけ、答えを一緒に探っていくトークプログラム。俳優・満島ひかりさんの声で楽しむ「聴くアニメーション アイラブみー」も配信中。毎週火曜日に配信予定。

異なる立場の人に自分の“感情”を伝えるには?

話している高戸とリアクションしている藤江さん

(6/20配信回からの続き)

藤江さん 
ゴルフに行くって伝えてくれる上司、素晴らしいですね。

高戸 はい、そうすると逆に部下からも「ちょっとライブが…」とか、気軽に頼める業務のレベルであれば「わがまま」を言いやすくなりました。そういうことが積み重なって、例えば後輩も、仕事においての「今しんどいです」っていう私的な感情みたいなものも結構出してくれるようになって。上の立場でも、若手でも、そういうコミュニケーションができるっていいなって。yoiは新しい部署だからこそ、そういうところから言い合えるようにしようって思っています。

藤江さん 権利じゃなくて“感情”を言い合えるっていうのがすごくいいなと思います。自分とはちょっと状況が違う人に、感情をうまく伝えるのってどうしたらいいんだろうっていうのは思っていて。へたするとネガティブな意味での「わがまま」を垂れ流してるだけになっちゃうし…。

富永先生 「社会運動って感情的だよね」というのもよく言われることです。ただ、なんでも言語化してわかりやすく伝えられるっていうのもおそらく誤解だろうと思います。そのわかりやすくなる過程で失われる本当の感情、痛かったりつらかったりというのが捨て去られてしまうので。そういう意味で「感情を伝えるってなんでそんな悪いことなんだろう」というのも考えていきたいですよね。

感情にすぐ“絆創膏を貼りたがる”社会

話している富永先生と岡崎さん

岡崎さん 相手の感情を伝えられたときに、その“感情”をどう取り扱っていいのか、想像するのが受け取り手にとって難しいのかもしれません。どうしてあげたらいいのかわからない、みたいな。

富永先生 確かに、感情への対応って慣れていないかもしれないですよね。

岡崎さん 理由を求めちゃうじゃないですか。どう対処していいかわからなくて、権利で言われたほうがまだYES/NOで答えられるなと思うけれど。

藤江さん そう、感情を伝えると「で、僕はどうしたらいいの?」と言われるから、こちらは「こういうふうにするか、こうしてもらってもいいでしょうか?」と、具体的な解決策や、段取り、手続きの話になっていっちゃうケースはありますよね。自分がすごくつらかったりするのをありのままに理解してほしいっていう気持ちが取り残されて、自分のなかにたまっていってしまう。いわゆる権利を伝えるという意味での「わがまま」は言っているんだけど、自分のなかの孤独感とか、“感情”みたいなものは消えずに残ってしまっている人って多いんじゃないかと思います。

ピンクの光のぼけ、イメージ画像

富永先生 対策に急ぎすぎるところがありますよね。例えば、社会運動に対してもよく言われるのが「対案を考えてきなよ」ということ。ただ、対案はもっと広い人が政治というシステムの中で考えていけばいいのであって、「賃金が安くてつらい」とか「明日住むところも不安だ」みたいなことは「まずは言ってみよう」でいいと思うんです。言ってみて共感してくれる人がいる、集まれるところがあるだけでも感情は救われるのに、すぐに“絆創膏を貼りたがる”んです。

藤江さん 余裕がないのかもしれないです、皆忙しくて。絆創膏を貼ることですぐ動いてほしかったり…。

岡崎さん 早く終わったことにしたいんですよね。

藤江さん そうです。それで、またその人にちゃんと機能してもらいたいみたいなところがあるから。

富永先生 感情という謎のものを放置するのが怖い、問題は解決しなきゃって思ってしまうのかもしれないですね。問題→対策→解決→はい、次! みたいな(笑)。

感情は「どっ」と出すより、「ちらちら」出すのが有効?

話している富永先生

岡崎さん 権利未満の「わがまま」や感情も表に出すことに十分価値があるとか、問題を提起する人と解決する人は別でいいってことがコミュニケーションとして広がると、「どうしたらいいかわからないけど、ここ困ってます」って言いやすくなるってことでしょうか?

富永先生 あるいは、時間をかけて解決するものでも、時間が解決してくれるみたいなものでもあるかもしれないですしね。とりあえず提起しておくというか、自分のなかでため込んでいないで、皆のなかに置いておくっていうことが必要なのかもしれません。

具体的な方法としては、ちらちら言っておくとか。個人的な話でいうと、私は日々、子どものいる東京と勤務している大学がある京都を行き来しているんですが、ちらちらと「長距離通勤って楽しいときもあるけど、つらいときもありますよ」って言ってみたり(笑)。言っても何も解決しないんですが、とりあえず言っておくって感じですよね。こういう“事情を抱えている人”が何人もいるのが職場っていうことを理解しておくと、「この問題はこの人と共有すればうまくいくかな」「これとこれはつながってる問題かもしれない」って、皆の間に置いてあったものをおやつみたいにちょっとずつ取っていくことができる。

藤江さん 今の富永先生の言い方だと、あんまり“面倒くさい人”って感じがしないですもんね。面倒くさい人って思われたくないから感情を出しづらいってところもあるじゃないですか。

水平線と空のようなイメージ画像

富永先生 面倒くさいやつだと思われるかな、「わがまま」だと思われるかなと思ってしまうのは、自意識の殻が強いからですよね。だから、自分の自意識がつらくない程度の「わがまま」からまず皆の前に置いてみるのがいいかもしれません。

若い人の社会運動は「ちらっ」というところから始めているなと思うのが、例えばトイレに共用のナプキンを置いたりとか、外国人の方が集まるような場所でマイクロアグレッション的なことを言わないとか。いきなり政府や学校に対して声をあげるわけでなく、皆ができる「ちらっ」をちょっと置いておくところから慣れていっているなというのが多いですよね。

高戸 感情のタンクみたいなものがあるとして、感情のタンクからそれを出すまでの距離の長さ短さって人それぞれだと思うんですよね。だから人によっては「ちらちら」出すのが自分に合っている人もいるし、それが「どっ」と出ちゃう人もいるかもしれない。その感情の出し方も、感情をどんなふうに持っているかも、人それぞれのものであっていいと思うんです。要は、感情がプライベートな場とオフィシャルな場で切っても切り離せないものだとまずは自覚をして、そうすると相手の感情に対しても寄り添えるというか。

感情がオフィシャルな場でぽんっと出たときに、そこにもっと価値を見出してもいいんじゃないかと。それが今は、「あ、見ちゃいけないもの、厄介なものが出てきた」みたいに慌てるからこそ絆創膏を早く貼りたがるんですけど、私はもっと感情にこそ価値があるんじゃないかと思うんです。

「早い」「短い」「簡潔」が求められるコミュニケーションの限界

Spotifyのロゴボード

藤江さん 本当は仕事をしている人間の感情の揺らぎみたいなものが職場を支えているから、感情をちゃんと見ておかないと職場のコミュニケーションや人間関係が機能しなくなるっていうことだと思うんですけど、「感情はプライベートの場で出すもの」となっているのをどうにかしていくっていうことなのかな…。

富永先生 今は人間を機械のように思ってしまっているけれど、本来は日本の職場だと社宅みたいな場で家族ぐるみのつき合いがあったりとか、労働組合を通して不満を言ってよかったりとか、レクリエーションがあったところも多かったわけです。今はそういうものがなくなって、“機械になりなさい”みたいな圧がどんどん強くなっているのかもしれないです。

高戸 感情に基づいた「この人ってこういう人だよね」というコミュニティにおける相手への理解、私とあなたっていう関係性の深め方は新しく見つけていかないと。

藤江さん オンラインミーティングなどが増えてきて、相手が本当に何を考えているかっていうのが、目線とか空気感では感じづらくなると、ついつい感情とか人間的な部分を忘れてしまったりもしますよね。

青と白の光のぼけ、イメージ画像

富永先生 会社とか合理的な場って、短くて早いことが求められる傾向があります。数年前に公人による「女性は話が長い」という発言が問題になったとき、それに対して社会運動側は「女性だけが話が長いわけじゃない」と、結局「話が長い」ことそのものを否定する傾向が発言者側にも運動側にもあったと思うんです。ただ、そうじゃないんじゃないかと。どのような人も「話が長くていいんじゃない?」と最近すごく思うんです。

例えばゼミの学生に自己紹介をしてもらうと、すごく短いんです。短いことがいいことというか、「そんなに自分に時間なんか割かなくていいんで」と。それは私たちも同じで、「時間が短くて早ければいい、簡潔に情報を伝えられればいい」と思い込みすぎているのかもしれないです。短期的に物事を見すぎていることが、私たちのコミュニケーションの流儀にもすごくつながっている。SNSなどの影響もあると思うんですが、「5分でわかり合え」みたいなことを学生もすごく感じているのかな。

岡崎さん なるほど、すごくよくわかります。「わがまま」の話から始まっているんだけど、それ以前に“プライベートとパブリックにおける人とのつき合い方はルールが違う”と無意識に思い込んでいるところが、「わがまま」や感情が言いづらいっていうところにつながっているのかなって思いました。

藤江さん そうですね。「わがまま」を言う、言わない以前に、感情とかも含めて人間らしくどうやって人と人がつき合っていくか。どうやって上手にやっていくかということを心がけて考えていきたいなと思いました。

▶︎フルバージョンはぜひspotifyでお聴きください! 

富永京子

立命館大学産業社会学部准教授

富永京子

立命館大学産業社会学部准教授、シノドス国際社会動向研究所理事。専攻は社会運動論。東京大学大学院人文社会系研究科修士課程・博士課程修了後、日本学術振興会特別研究員(PD)を経て、2015年より現職。著書に『社会運動と若者』『社会運動のサブカルチャー化』『みんなの「わがまま」入門』など。

藤江千紘

NHKエデュケーショナル チーフ・プロデューサー

藤江千紘

NHK入局後、ディレクターとして『トップランナー』『プロフェッショナル 仕事の流儀』などのドキュメンタリーを制作。その後、『天才てれびくん』をはじめとした子ども番組の制作を経て、『ねほりんぱほりん』の企画・演出などの番組開発を担当。現在は、NHKエデュケーショナルにて『アイラブみー』など番組事業のプロデュースを行う。

岡崎文

NHKエデュケーショナル プロデューサー

岡崎文

NHKエデュケーショナル入社後、『NHK高校講座』『ふしぎがいっぱい』など学校教育の現場で使用する放送番組や、『課外授業 ようこそ先輩』といったドキュメンタリー番組、『きょうの料理』などの趣味実用番組を制作。現在は、若手社会人向けの『とまどい社会人のビズワード講座』の企画・演出と『アイラブみー』の番組事業プロデュースを行う。

撮影/藤沢由加 企画・編集/高戸映里奈(yoi) イメージ画像/Rosa María Fernández Rz C T Aylward Chainarong Prasertthai(Getty Images)