今から120年前の1904年3月8日。アメリカの女性たちが参政権を求めて行ったデモをきっかけに、女性の地位向上を呼びかける動きが世界中に広がりました。1975年には国連が「国際女性デー」を制定。女性たちによってもたらされた勇気と決断を称える日にあわせて、性教育について発信を続けるSHELLYさんに「体や性について知ること」の大切さについてお話を伺いました。
1984年生まれ、神奈川県出身。14歳でモデルとしてデビュー後、タレント、MCとして幅広く活躍。YouTubeチャンネル「SHELLYのお風呂場」やDMMオンラインサロン「SHELLY家族ラボ」などを通じて性教育や家族、コミュニケーションにまつわる発信を積極的に行っている。8歳・6歳・1歳の娘の母。
正しい知識を持たずに生きるのは、茨の道を行くようなもの
──SHELLYさんは、よくご自身のYouTubeチャンネル「SHELLYのお風呂場」でも「性について正しい知識を持つことは、人権を守ることと同じ」「性教育は自分や相手を知るためのもの」とおっしゃっていますが、誰もが自分の体や性について知ることの大切さについて、改めて伺えたらと思います。
SHELLYさん もしかしたら、この話だけで3時間ぐらいかかるかも(笑)。性教育って妊娠・出産や避妊の話だと思われがちですが、自分や相手の体について理解することもそのひとつです。そして、正しい知識を持たずに生きていくのは、本当に厳しい茨の道を行くようなもの。
例えば、どうしてプライベートパーツが大切なのかを考えることは、「性的同意」への理解にもつながります。年齢や性別を問わず、あなたの体はあなただけのもの。触れてほしくなかったら「触らないで」と言っていいし、その思いをリスペクトしてくれない人は誰であろうとダメなんです。
子どものときに性被害に遭われた方の中には、そもそも何が起きているのかわかっていなかったというケースが本当に多くて。それが性犯罪だとわからないのは、「セックスとは何か」「プライベートパーツとは何か」を教えられていないということでもあります。
──性教育は自分の人権を守るものであり、相手の人権を尊重するためのもの。そう考えると、まさに知ることは自分の心や体を守ることですね。
SHELLYさん だからこそ、体や心のことを理解して自分なりの価値観を見つけ出しておくことは、性的な触れ合い以前に人と関わる上ですごく大事。そして、これはちょっと厳しい言い方になるかもしれないけれど、これからを生きる子どもたちに対して「自分も教わらなかったから…」と性教育から目をそらしたり、性の話に蓋をしたりするのは、大人として無責任だし、加害者に加担してしまうのと同じじゃないかなと思います。今はインターネットで調べれば、すぐに色々な情報が手に入りますから。
性的行為に必要なのは、お互いへのリスペクトと性的同意
──セックスだけでなく、キスやハグといった性的な行為に対して、お互いにその行為を積極的にしたいかどうかを確認する「性的同意」も、SHELLYさんが大切に発信されているテーマのひとつですよね。
SHELLYさん 性的同意も、みんなに知ってほしいことのひとつです。私は「セックスは愛し合う二人がするもの」とは絶対に言わないように気をつけていて。なぜなら、性的な行為をするときにいちばん大事で必要なのは、お互いをリスペクトする気持ちと性的同意だから。
スポーツ感覚でセックスを楽しむ人もいるし、セックスワーカーの人もいるし、極端な話、そこに愛があってもなくてもいいんです。人数も二人とは限りませんよね。大切なのは、そこにいる全員が、性的な触れ合いに積極的に同意していることです。
──日本では「嫌よ嫌よも好きのうち」なんていう言葉が都合よく使われてきましたが、近年は「Only Yes means Yes」(Yesだけが同意)というメッセージを見聞きする機会も増えてきました。
SHELLYさん 今までに性的な触れ合いで「なんかイヤだな・モヤモヤするな」「ちょっと納得いかないかも」と感じたことがあるなら、それは性的同意が取られていなかったということ。日本では、レイプ被害を受けたのに「今のはレイプだったのかな…」と考えてしまう人が本当に多いそうなんです。
だから何としても「あなたが同意していない性的行為はレイプだよ」ということを日本中に浸透させなきゃ!という思いで活動しています。日本は法律も全然間に合っていないので。
もしかしたら、あなたの大切な人も傷ついているかもしれない
──2023年7月13日に施行された改正刑法では、同意のない性的行為を処罰の対象とする「不同意性交等罪」と「不同意わいせつ罪」が設けられ、性交同意年齢が13歳から16歳へと引き上げられました。しかも、刑法の改正は1907年の制定以来初めてのことなんですね…。
SHELLYさん 時代も社会も変わっているのに、法律は116年も変わらなかったなんてぞっとしますよね。改正前の法律では、裁判で自分が同意していなかったことや相手に「やめて」と言った事実が認められているのに、加害者は無罪という判決が何度もありました。法律が改正されて、同意のない性行為が処罰の対象になったことは本当によかったと思うけれど、正直まだまだ足りません。
──もし当事者になったときに勇気を出して声をあげたとしても、「あなたも悪かったんじゃない?」という性的二次被害(セカンドレイプ)に遭ってしまうことも少なくありません。
SHELLYさん そうなんです。「お酒は飲んでいたの?」や「でも、わかっていて行ったんだよね」など、被害者をさらに傷つける人が本当に多くて。ただ、今は「それはセカンドレイプだ」って指摘する人も増えていて、法律が改正されたことの大きな影響を感じます。
でもね、ニュースに出ている人たちが「でも何が起きたか本当のことはわからない」「密室で起きたことですから」とコメントしている状況で、「実は私も被害を受けて…」なんて言えるわけがないじゃないですか。
──「自分もあんなふうに言われてしまうかもしれない」と思ったら、怖くて言えないと思います。
SHELLYさん 「性犯罪は絶対によくない」「被害者を守らなきゃいけない。ましてや傷つけるようなことは絶対に言っちゃダメ」っていう空気にならない限り、警察はもちろん友達や家族、同僚…誰にも言えないですよね。
だから、もしかしたらこれを読んでいるあなたの大切な人も、被害に遭って傷ついているかもしれない。被害に遭ったことを言えない、言ったら叩かれるという今の状況は、「性被害に遭った人のことは守りませんよ」という日本社会からのメッセージだと思っています。
女性が社会から植えつけられてきた「襲われること」への恐怖
──社会を変えていくには、正しく知ることはもちろん、想像する力も必要ですね。
SHELLYさん 想像力って本当に大事。私もこの間、パートナーと話していてハッとしたことがあって。「夜にイヤホンで音楽聴きながらランニングしたら気持ちよさそうだよね」っていう彼の言葉に「そんなことできるか!」って返したら、「何で?」って聞かれたんですよ。
パートナーは私が発信していることにめちゃくちゃ理解があるし、感覚もフラットな人。でも、「夜に一人で外にいるとき、女性はレイプされるかも…って心配しちゃうんだよ」って話をしたら「またまた〜嘘でしょ」って。こんなに意識の差があるのかと衝撃を受けました。
夜、静かな道を一人で歩いているときに「今、襲われたらどうしよう」って思ったこと、ありませんか? 暗い道を歩くときに誰かと電話しているふりをしたり、鍵を指の間に挟んで歩いたり。きっとみんな一度は経験したことがあるんじゃないかな。
──暗がりで人影や車が近づいてきたときもドキッとします。
SHELLYさん 人気のない場所や夜道を歩くことが何となく怖いのは、女性の場合とくに襲われることへの恐怖があるからだと思います。なぜなら、女性は幼い頃から「肌が出る服を着るんじゃないよ」「飲みすぎるんじゃないよ」「夜に出歩くんじゃないよ」「そういうことしてると襲われるよ」って刷り込まれてきているから。
「男女」という分け方で話すのは好きじゃないけれど、これは社会的な刷り込みの話だからあえて「男女」を使いますね。今の社会は、女性には恐怖を植えつけ、刷り込むのに、男性には「女性を襲っちゃダメだよ」って日常的に言ったりしませんよね。ただ、だからといって、加害者にならないための教育を男性だけにすればいいかというと、それは違うんですよ。加害者にならないための性教育を“全員に”すればいいだけの話です。
本来、社会に必要なのは被害者にならないための教育じゃなくて、加害者にならないための教育。「積極的な同意がなければ触れてはいけない」ということを、性自認を問わず全員が知っていれば、性的同意を無視する人=やばい人っていう共通認識が生まれますから。
「SHELLYのお風呂場」を、安全な場所として守っていきたい
──まさに、人と関わる上での大前提となる性教育ですね。性被害が年齢や性別を問わず起きてしまうことを考えると、誰もが知っておくべきことだと思います。これまでの発信を通じて、SHELLYさんのもとには多くの声が寄せられていると思いますが、ぜひうれしかったエピソードも聞かせていただけますか。
SHELLYさん うれしかった話はたくさんあります! YouTubeチャンネルの1回目で「緊急避妊薬(アフターピル)」の話を公開したら、数日後に高校生からDMが届いたんです。彼とセックスをしたときにコンドームが取れてしまって、パニックになりながら「緊急避妊薬」を調べたら私の動画に出合ったそうです。
「週末で、緊急避妊薬を手に入れられる場所が家から車で1時間かかる場所だったので、二人で相談をしてお互いの親に話をしました。そして彼のお母さんに運転してもらって、彼とお金を出し合って何とかたどり着くことができました。お互いの親にも、『これからはもう少し気をつける』って話せました」と書かれていて。私がやりたいのはこういうこと!って本当にうれしかったです。
──カップルの関係性も素敵ですし、まさに知ることの重要性を体現したエピソードですね。
SHELLYさん どんなに気をつけていてもアクシデントは起きるんです。そのときに緊急避妊薬を知らなくて予期せぬ妊娠につながったら、中絶するか、高校生で母親になるか、出産した子を養子縁組に出すか…という選択肢から決めなきゃいけない。もし本人がそのタイミングでの妊娠・出産を望んでいない場合、どれを選んだとしても、大きな悲しみや苦しみを背負ったり、自分を責めたりしてしまうかもしれません。
そんな限られた選択をさせるのか、「万が一のためにこういう薬があるよ」ときちんと伝えて、その薬を手に入れられる世の中にするのか。それによって女性たちの生き方がまったく変わるんです。
他にも、「性的同意の回を彼と見て、改めて話し合うきっかけができてよかったです」っていう声をいただいたり。コメント欄も本当にみんなあったかくて。よく「ここは安全な場だよね」って話すし、その場所を守りたいなと思っています。
社会を変えるのは、当事者じゃなく多数派の役割
──YouTubeチャンネルでは「いつでも相談してほしい」と繰り返し口にされていて、テーマに合わせてさまざまな相談窓口の情報も出されていますよね。本当に情報を必要としている人にとって、SHELLYさんの真摯さは何よりの安心感につながると思います。
SHELLYさん もしそんなふうに思ってもらえていたらうれしいです。もうひとつ、想像力につながる話をすると、日本に多い名字TOP10の人数って、日本の人口の1割ぐらいにあたるそうです。それって、LGBTQ+のコミュニティの割合と大体同じ。(※)
知り合いに佐藤さんや鈴木さん、高橋さんが一人もいませんって人はたぶんいないじゃないですか。それなのに、「LGBTQ+の人はまわりにいない」って言い切れちゃう。これは、LGBTQ+に限らず、日本で何かしらの少数者でいることの生きづらさを表していると思うんですよね。
──いないのではなく、言えない社会だから見えにくいだけなのに、性被害もLGBTQ+もなぜか当事者がいないことにされてしまう。自分が「見えていない」という自覚も必要ですね。
SHELLYさん そうですね。少なくとも自分には「言えない」と思われているということ。実は私もあまり言われないけれど、それは自分の責任だと思っているし、社会を変えるのは少数派の当事者じゃなくて多数派の役割だと考えています。
だって、多数派のためにつくられた世の中なんだから、多数派の人が生きやすいのは当然ですよね。多数派の人が、そうではない人たちへの想像力を持つことは人間力としても必要だし、むしろ今までそういうことを想像せずにいられたとしたら、それは反省したほうがいいんじゃないかなって私は思います。
女性にまつわる問題は男性が、LGBTQ+の人たちに立ちはだかる問題はシスジェンダー(生まれたときに割り当てられた性別と性自認が一致している人)かつ異性愛者の人が、障害を持つ人の問題は、障害を持たない人たちが戦わなきゃいけないことだと思っています。
※明治安田生命「全国同姓調査」(2018)、LGBT総合研究所「LGBT意識行動調査2019」、電通グループ「LGBTQ+調査2023」より
ジャケット¥30,900・ワンピース¥28,900・中に着たワンピース¥17,900/Desigual(デシグアル 東京 銀座中央通り)、ピアス¥22,000・ネックレス¥20,900・リング¥16,500/ADER.bijoux(ADER.bijoux showroom)、サンダル¥30,800/CAMPER(カンペールジャパン)
撮影/花盛友里 ヘア&メイク/高橋純子 画像デザイン/坪本瑞希、前原悠花 スタイリスト/野田さやか 構成・取材・文/国分美由紀