日本で女性が初めて参政権(選挙に立候補や投票できる権利)を手にした1946年、39人の女性の衆議院議員が誕生しました。2023年7月時点におけるその数は48人。78年間に増えた議員はわずか9人です。政治分野におけるジェンダーギャップの解消を目指すムーブメント「FIFTYS PROJECT」。代表を務める能條桃子さんに、活動への想いについて伺いました。

◆FIFTYS PROJECTとは?
「政治分野のジェンダー不平等(ギャップ)の解消」を目指して2022年8月に発足。ジェンダー平等実現を目指して地方議会議員を目指す、20〜30代の女性(トランス女性を含む)やノンバイナリー、Xジェンダーなどの立候補者を増やし、横につないで一緒に支援するムーブメント。2023年は34人の候補者を支援し、27人が当選して議員となった。

能條桃子

FIFTYS PROJECT代表

能條桃子

2019年に若者の投票率が80%を超えるデンマークに留学し、若い世代の政治参加を促進する「NO YOUTH NO JAPAN」を設立。Instagramで選挙や政治、社会の発信活動をはじめ、若者が声を届け、その声が響く社会を目指して、アドボカシー活動、自治体・企業・シンクタンクとの協働などを展開。活動を続ける中で同世代の政治家を増やす必要性を感じて「FIFTYS PROJECT」を立ち上げる。『TIME』の「次世代の100人 2022」選出。「アシタノカレッジ」(TBSラジオ)、「堀潤モーニングFLAG」(TOKYO MX)出演中。

この人が政治家をやっているくらいなら、私たちがやったほうがいいんじゃね?

国際女性デー FIFTYS PROJECT ジェンダー 政治 選挙 能條桃子-1

――能條さんは2019年から政治や社会のトピックを発信する「NO YOUTH NO JAPAN」の活動もされています。そこから立候補者を増やす&支援する具体的なアクションとして「FIFTYS PROJECT」に歩みを進めたきっかけは何だったのでしょうか。

能條さん NO YOUTH NO JAPANを立ち上げた大学3年生の私に見えていた景色は、「自分は投票しているけど、まわりはしていない。だからまわりの人たちにも投票してほしい」っていう本当にシンプルなものでした。当時は、まさか自分からまわりの女性たちに「政治家になる」という選択肢を呼びかけるなんて、想像もしていませんでしたね。

でも、たくさんの政治家と会って話をする中で、「この人が政治家をやっているくらいなら、私たちがやったほうがいいんじゃね?」という感覚がありました。政治家って特別な人のように思えるけど、自分と変わらない普通の人がやっているんだってわかったし、みんなのことを考えて政治をやっている人ばかりではないんだな…みたいな現実も見えてきて。そこから、投票を呼びかけるだけじゃなくて、自分たちの代表を送り出したいという気持ちになっていきました。

――2022年8月にFIFTYS PROJECTを立ち上げ、立候補の呼びかけや候補者支援、選挙に関する啓発活動や若年層と政治をつなげる活動などを精力的に行っていますが、どんなメンバー構成で運営されているのですか?

能條さん コアとなるスタッフは7人で、最年少が21歳、最年長が30歳の女性チームで運営しています。議員秘書や選挙の経験がある2人がフルタイムと副業という形で候補者支援を支えてくれています。2人とも政治の男社会に嫌気がさして仕事を辞めようとしていたタイミングで出会いました。そしてコミュニティ運営の中心を担ってくれている大学生のアルバイトスタッフが2人と、大学の同期がプロボノ(職業上のスキルや経験を生かして社会貢献に取り組むボランティア活動)として候補者紹介の記事制作をマネジメントしてくれています。あとは副代表の福田和子と私ですね。

個人がモヤモヤしていることって、実は社会の問題で、政治の問題でもある

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――20代・30代の候補者を増やし、「地方議員の女性比率をまずは3割に」という目標を掲げて活動されていますが、政治にあまり関心を持っていない人たちに向けた情報発信で意識されていることはありますか?

能條さん
 やっぱり人って楽しいもの、希望を感じるものに集まってくると思うんですね。話を簡単にしようとは思っていませんが、「やったら変わるよね」「やらないより、やったほうが楽しいよ」みたいな明るいトーンを意識しています。それから、人を動かすためには上から目線じゃなくて、同じ目線で話すことが必要じゃないかとも思います。もちろん、当たり前のこととして、できるだけ人を傷つけたくないということも考えています。

――そうした希望や明るい方向に目を向けるために、一歩進みやすくなるようなヒントやキーワードなどがあれば、ぜひシェアしていただけますか。

能條さん 「No one is free until we are all free.」というマーティン・ルーサー・キング(公民権運動の先駆的リーダーの一人)の言葉があるんですが、これは「みんなが自由になるまでは誰も自由になれない」ということ。

私は、社会の変化は個人のモヤモヤから始まると思っていて。一人一人がモヤモヤしていることって、実は社会の問題だし、政治の問題でもあるんですよ。「自分で解決しなきゃ」とか「自分がうまくやらなきゃ」って思いがちだけど、それはあなたのせいだけじゃないということがまずひとつ。

――いわゆる「男らしさ」「女らしさ」といった性別に基づく社会規範や男女の賃金格差、緊急避妊薬や人工妊娠中絶への限られたアクセスなど、モヤモヤする原因をたどっていくと、社会構造の問題にたどりつくことが多いですよね。

能條さん そうなんです。FIFTYS PROJECTが目指す「ジェンダー平等な社会」は、性に基づく差別や搾取、抑圧がない状態です。そして、そうした差別や搾取、抑圧は個人の問題ではなく、政治的につくられた構造的な問題であるという認識がすごく大事だと思っています。

構造の問題を、個人対個人の問題にしていても解決しませんよね。もちろん、加害してくる相手に対して怒ることは必要だけれど、私たちが戦うべきは「男性」ではなくて「性差別」であり「家父長制」なんだという理解がもっと広まるといいなと思っています。

いい政治をしてくれる政治家を育てるのは、私たち有権者

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――大切なのは、みんなで社会の構造に目を向けて、変えていくことですものね。

能條さん 本当に。あとは数字でいうと、首長(くびちょう:都道府県知事や市区町村長)の女性比率もキーワードになると思います。ちょっとずつ増えてはいますが、2021年の時点で女性の都道府県知事は4.3%、市区町村長は2.3%というすごい低水準で。

これは余談ですが、今から45年前に大平正芳首相(当時)の「女性は家庭の中のオアシスであります」という国会答弁に拍手が起きました。当時は女性だけが家庭科の授業を受けていて、まだ男女雇用機会均等法もなかった時代。そう考えると、今から50年たてばさすがに状況は変わっているだろうし、首長や議員の女性比率は普通に50%を超えていてほしい。そうなったら、自分たちがやってきた意味もあるなと思える気がします。

――「個人的なことは政治的なこと」という言葉もありますが、日本の国政選挙の投票率は50%前後で、地方選挙ではもっと低いケースも珍しくありません。

能條さん これから日本は経済的にも縮小していくだろうし、外国との関係の中で戦争のリスクもあると思うけれど、その中でヒーロー待望論というか「誰かがどうにかしてくれる」みたいな気運が高まっていくことへの怖さを感じています。

政治家と国民って、鏡のような存在だと思うんです。デンマークに留学していたとき、「いい政治家がいないのは、いい国民がいないということではないか」と言われてハッとしました。いい政治がなされるには政治家の役割が大事だけれど、その政治家を育てるのは私たち有権者です。だから、一人一人が考えていかなきゃいけないし、それぞれができる範囲で政治に参加していくことにすごく価値がある。その必要性を感じるからこそ活動を続けています。

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写真提供/能條桃子 画像デザイン/坪本瑞希 前原悠花 構成・取材・文/国分美由紀