政治分野におけるジェンダーギャップの解消を目指すムーブメント「FIFTYS PROJECT」にとって初挑戦の場となった2023年の統一地方選挙。そこで立候補し、当選した国分寺市議会議員の鈴木ちひろさんと、FIFTYS PROJECT代表の能條桃子さんに、当時の活動の様子などについてお話を伺いました。

◆FIFTYS PROJECTとは?
「政治分野のジェンダー不平等(ギャップ)の解消」を目指して2022年8月に発足。ジェンダー平等実現を目指して地方議会議員を目指す、20〜30代の女性(トランス女性を含む)やノンバイナリー、Xジェンダーなどの立候補者を増やし、横につないで一緒に支援するムーブメント。2023年は34人の候補者を支援し、27人が当選して議員となった。

能條桃子

FIFTYS PROJECT代表

能條桃子

2019年に若者の投票率が80%を超えるデンマークに留学し、若い世代の政治参加を促進する「NO YOUTH NO JAPAN」を設立。Instagramで選挙や政治、社会の発信活動をはじめ、若者が声を届け、その声が響く社会を目指して、アドボカシー活動、自治体・企業・シンクタンクとの協働などを展開。活動を続ける中で同世代の政治家を増やす必要性を感じて「FIFTYS PROJECT」を立ち上げる。『TIME』の「次世代の100人 2022」選出。「アシタノカレッジ」(TBSラジオ)、「堀潤モーニングFLAG」(TOKYO MX)出演中。

鈴木ちひろ

国分寺市議会議員

鈴木ちひろ

1996年、神奈川県生まれ。フェリス女学院大学学生時代から日本語教師として活動。日本語教師として赴任した奄美大島で環境問題に関心を持つ。都市農業や湧水、地域通貨を持つ国分寺に惹かれて移住。同市のオーガニックカフェ「カフェスロー」スタッフや重度障害訪問介護ヘルパーの仕事を続けながら、新人議員として奮闘中。関心のあるテーマは気候危機とジェンダー。お祭りと漫画が好き。
■note https://note.com/chihiro_bunji

「自分がやるしかないか、みたいに思っている人はいませんか?」

──まずは鈴木さんが候補者としてFIFTYS PROJECTに応募しよう思った理由から伺ってもいいですか。

鈴木さん 2023年の統一地方選挙の2年ぐらい前に、桃ちゃん(能條さん)がTwitter(当時)で「自分がやるしかないか、みたいに思っている人いませんか?」っていう感じの投稿をしていたんです。

国際女性デー FIFTYS PROJECT ジェンダー 政治 選挙 能條桃子 鈴木ちひろ-1

能條さん 「自分が政治家になるしかないのかも」って思っている人いませんか、みたいなね。投稿したときはFIFTYS PROJECTの構想なんてまったくなくて、確か衆議院選挙で女性議員の比率が9%台っていうことに衝撃を受けて、「どうにかしなきゃ!」って思いからの行動だった気がする。

鈴木さん そうだったね。私自身もジェンダー平等や環境に興味があるから、社会問題について発信している「NO YOUTH NO JAPAN」のInstagramで桃ちゃんのことは以前から知っていて。当時から選挙に出るって100%決めていたわけじゃないけど、何かしら社会問題の解決に向けてアクションをしていきたいと考えていたので、彼女のツイートを見て初めてDMしたのがきっかけです。

能條さん 当時は難民申請3回目以降の人を強制送還するという入管法(入管難民法)の改正反対デモなんかで同世代の女性に会うことも多かったんですよね。すでに問題意識を持って行動している人で、その先に政治家になるという選択肢によって「自分にできることが増えるはず」と考えている人を仲間にしていきたいっていう思いがありました。

鈴木さんは「こういう政治家がいてくれたらいいな」って思える人

──FIFTYS PROJECTでは、応援する候補者の条件や賛同項目を提示されています。2023年の第1期ではオンラインで50人の方の面談をされたそうですが、鈴木さんの印象はいかがでしたか。

国際女性デー FIFTYS PROJECT ジェンダー 政治 選挙 能條桃子 鈴木ちひろ-2

能條さん 鈴木さんは「こういう政治家がいてくれたらいいな」って思える理想像の一人。会ったときから「彼女のような人が一緒にやってくれたら心強いな」と思ったし、色々と話しながら、彼女たちを後押ししたり横のつながりができるような支援の仕組みをつくっていきました。

鈴木さん そこはものすごく助けられました。選挙前から候補者のみんながオンラインでゆるくつながって話せる場を提供してくれたので、普段から不安や愚痴を言い合えたのは精神的にもすごくありがたかったですね。

ネガティブな感情やプレッシャー、不安なこととか自分の弱気な部分って、応援してくれる人たちの前ではなかなか言えないんですよね。候補者にしかわからない気持ちをみんなと共有できたのはすごく大きかったと思います。

能條さん スタッフが少ない中でも自分たちが得意なことで役に立とうと手探りで進めていましたね。選挙に向けて動いていくなかで、「公職選挙法がわからない」という声があれば勉強会を開いたりして。「こういう場が必要」ってみんなが言ってくれたから続けてこられた面もあります。

必要なのは、「一人じゃない」と思えるセーフティな場

国際女性デー FIFTYS PROJECT ジェンダー 政治 選挙 能條桃子 鈴木ちひろ-3

FIFTYS PROJECTの思いがまとめられたパンフレット

──そういうスタンスだからこそ、鈴木さんたち候補者の方にとっては相談しやすい空気があったのかもしれませんね。

鈴木さん 本当にそうでしたね。候補者も同年代かつ女性が中心だったので、生理のことも含めた女性特有の悩みも相談できたのは心強かったです。例えば、夕方に駅前でビラ配りをしているときにおじさんに絡まれたらどうしたらいいんだろう…とか。わからないことがあれば気軽にグループLINEで相談して、わかったことや気づきも共有しあって。

能條さん すごく印象的だったのは、「このガムテープが一番いい」とか「両面テープの種類の違い」とか、ネットにはない情報も飛び交っていたこと。政党に所属して先輩がついていたら、黙っていてもそういう情報は入ってくるのかもしれないけど、無所属だと人によって全然状況が違うから、すごく興味深かったです。

鈴木さん 駅前の街頭演説で使うスピーカーの話もあったよね。「メガホンはどの種類がいいか」とか「小型のスピーカーは軽くて両手が空くからいいよ」とか、「これ使ったらこういう反応があった」とか。

──同じ時期に各地でグループLINEの仲間が頑張っていると思えることも心強いですね。

鈴木さん そうなんです。例えば、駅前で活動するにも朝早くからサポーターの人たちに来てもらうのは難しいので、寒空の下、一人でチラシを配ります。誰も受け取ってくれないことなんてザラにあるし、たまにすごく嫌な顔をされたり、持ち物や自転車を蹴られたりすることもありました。

選挙への不安からすごくセンシティブになっているから、ひとつひとつが心にグサッとくるんですよね。そんなときは「今日こんなことがあった」ってグループLINEでシェアして励ましあったり、毎日お互いのSNSをチェックしたり。それぞれ場所は違うけど、「同じ時代に、同じ統一選挙を目指してみんながこの空の下で頑張ってる。私は一人じゃないんだな」って精神的な支えになっていました。

能條さん 私たちもよく「セーフティな場所をつくろうね」と話していました。それは鈴木さんが感じたような不安に対してもそうだし、特に移住者や若者、女性などは“珍しい存在”として扱われるうちに「自分は候補者にふさわしくないのでは…」と考えてしまうんじゃないかなと思ったので、双方向的な互助コミュニティをつくっていこうと。最初は私たちも見守っていたけど、さっきのガムテープの話みたいにどんどん自発的に会話が生まれ始めて、すごくバランスよく助け合う自立したコミュニティになっていきましたね。

選挙カーを使わないことで受け取った感謝の言葉

国際女性デー FIFTYS PROJECT ジェンダー 政治 選挙 能條桃子 鈴木ちひろ-4

──鈴木さんにとってもFIFTYS PROJECTにとっても初めての選挙。感じた手応えや印象的だったこともぜひ伺えたらと思うのですが

鈴木さん 私が選挙に出た国分寺市は22人の枠に36人が立候補して、結果として2位で当選しました。私自身は政治の世界におけるマイノリティなので、それは本当に手応えといっていいと思います。すごく自分なりに頑張ったけど、それは「頑張らないこと」を頑張ったというか。

例えば、従来の選挙スタイルって、選挙の何年も前から市内のおうちを一軒一軒まわるんですよ。でも、選挙活動をしてはいけないから「お困りごとはないですか」と聞くだけ。私はそこにすごく違和感があって。昔はそれでよかったかもしれないけれど、人と人との関わりが薄くなった今、いきなりインターホンを鳴らされても私は出たくないなと思ったので、1回も個別訪問はしませんでした。

──確かに現代で必死に個別訪問をするのは逆効果な気もします…。鈴木さんは大きなスピーカーで宣伝しながら走る選挙カーも使われなかったそうですね。

鈴木さん はい。移動用に電気自動車を1週間だけ借りました。それだけでも、選挙中に「鈴木さんは選挙カーを使っていないですよね。本当にありがたいです」ってベビーカーを押した女性が伝えに来てくれて。SNSでも発信していたので、選挙中は本当に若い女性の方からたくさん声をかけてもらいました。

ケアしてくれる女性が家庭にいるから男性が勝てた体育会系の選挙はもう時代に合っていないことがわかったし、「これからは自分たちの声を代弁してくれる人が政治の世界にいってほしい」という多様な市民の方たちの声を感じた選挙でしたね。

「自分が動くことで少しは社会を変えられる」という実感

国際女性デー FIFTYS PROJECT ジェンダー 政治 選挙 能條桃子 鈴木ちひろ-5

(写真右から)鈴木さんと能條さん。左端は鈴木さんと同じく立候補し、武蔵野市議会議員となったさこうもみ(酒向萌実)さん。

──能條さんはどんな思いで選挙期間を過ごされていましたか。

能條さん 私たちも事前に議席数に対する候補者の数や女性候補者の割合、20代女性の候補者数など色々な要因から分析して、順当にいけば当選できそうな人、ギリギリいけそうな人、厳しいかもしれない人っておおまかな予測を立てていたけれど、「絶対に大丈夫」と思える人は正直、数人しかいなくて。投票日の夜まで、「もし一人しか当選しなかったらどうする?」「何人当選できるかな…」って考えていました。

鈴木さん でも、開票してみたら結構当選していたよね。

能條さん そうそう。統一地方選挙は最終的に29人中24人が当選しました(2023年末までの選挙では34人の候補者を支援し、27人が当選)。落選した人たちも当選するのが難しい都道府県と政令指定都市の選挙だったり、今まで移住者が立候補したことのない地域だったり。それは立候補したこと自体に意味があるし、特に移住者で初めて立候補した人は、結構票を獲得して地元の人にほめられたことをきっかけに、地域とのつながりもできたみたいで。

鈴木さん 今も「この地域のために」ってすごく積極的に活動してくれているよね。

能條さん そうだね。選挙の話ってセクハラとか暴力とか、報道でも暗い話ばかり出てくるけれど、選挙後に開いた振り返り会で感じたことを付箋に書いてもらったら、「大変だったこと」よりも「よかったこと」の付箋のほうが多かったし、みんな「自分が動くことで少しは社会を変えられる」って実感を持って話していたのが印象的でした。

みんな半年前とは顔つきが違ったし、話も上手になって自信がついていて、エンパワメントってこういうことだなって感じたんですよね。その姿を見ている私たちもエンパワメントされるし、当選はもちろんですが、選挙を通じて候補者やまわりの女性たちの変化を実感できたこともうれしかったです。

写真提供/能條桃子・鈴木ちひろ 画像デザイン/坪本瑞希 前原悠花 構成・取材・文/国分美由紀