芸人、アーティスト、俳優と、ジャンルの枠を軽々と飛び越え、表現と向き合い続けているお笑い芸人コンビ・ラランドのサーヤさん。近年ではNHKの番組『はなしちゃお!~性と生の学問~』に出演し、ラランドのYouTubeチャンネルやラジオ番組では“性教育の遅れ指摘おばさん”として性教育やジェンダーについてのテーマも積極的に発信されています。どんな時も自分らしく道を切り開いてきたサーヤさんにその秘訣を伺うと、自身が心地よくいるための人間関係作りに大きなヒントがありました。
留学生や帰国子女が多い大学で、今の発信に繋がる価値観を学んだ
——性教育について様々な発信をされているサーヤさんですが、過去のインタビューでは「大学時代はジェンダーや性、ダイバーシティについて当たり前に学べる環境にいた」とおっしゃっていました。
サーヤさん 私が通っていた上智大学は、留学生も帰国子女も多いグローバルな校風だったので、ひとつの価値観に偏っていない講義が多かったと思います。例えば、選択科目で履修していた“性とジェンダー”についての講義では、今から6年ほど前ですが、大きなくくりで捉えられていた「性」という概念を、体の性別、心の性別、性欲、性的嗜好…というように分解して考えていく講義があったり。今振り返ると、そういう経験が今の発信にも影響しているのかもしれません。
——そんなサーヤさんが性教育に関する発信を始めようと思われたきっかけは、何だったのでしょうか?
サーヤさん たまたまラジオ番組に「生理でプールの授業を見学したことを男子から『ずるい』って言われました」というメールが届いて、それに対して私が「うわっ、キモいですね~!」「はい、性教育遅い~!」みたいなことをお笑いのノリでボロカスに言ったんです。そうしたら、その反響が意外と大きくて。翌週「私も同じような経験をしたことがある」というメールがたくさん届いたり、「性教育の番組をやりませんか?」と、お話をいただいたりするようになりました。
とはいえ、「性教育を促進しよう!」というスタンスで発信しているわけではないんです。自分のまわりにいる男性、たとえば相方やマネージャーは、ただただ学生時代、性について十分に教わる機会がなかった、というハンデがあるだけだから、「じゃあどんなもんなのか教えるよ」という感じで、フランクに伝えていきたいと思っています。
つい最近まで、正社員として働いていたんです。
——サーヤさんは、性教育にまつわる発信だけでなく、常に前例がないことを選択してこられている印象があります。デビュー当時は、広告代理店に勤めながら芸人としてメディアに出演されたり、現在は個人事務所の社長としての一面も持っていたり…誰もやったことがないことへの挑戦に、不安を感じることはないのでしょうか。
サーヤさん 個人事務所を作ったことに関しては、大手の事務所に“群れ”として入るほうが、私も相方も向いていないと思っていたからです。「1カ月先に事務所に入っただけで先輩とか、別にどうでもよくない?!」って思ってしまうタイプだったので(笑)。
そして、卒業後すぐに芸人だけに絞らず会社に就職したのは、正直なところ実家に仕送りをしなければいけなかったから。芸人一本に絞ってバイトをする、という道も考えたのですが、せっかく稼いでも飲み会で全部使ってなくなってしまう気がしたし、無理して夜勤をすれば、体を壊したり疲れてネタが書けなくなってしまうかもしれない。だったら、正社員として平日はしっかり働いて、土日はお笑いバトルライブにたくさん出よう、と決めて、その生活を始めました。ついこの間までは正社員だったんですが、今は契約社員として委託してもらった仕事をするというスタイルに変更して、コピーやイベントの企画をすることもあります。
——yoi読者の中にも、収入を得るための仕事とは別に、自分の好きなことを副業にしているパラレルワーカーの方がとても多いです。
サーヤさん 好きなことはお金が絡むと狂う場合もあるから、仕事と趣味を分けるっていうのはすごくいいですよね。それに、いろいろなことをやっていると、ストレスの分散ができるんです。私が正社員をやりながら芸人をやっていた頃は、お笑いでスベっても「最悪正社員の仕事があるから大丈夫か」と思えたし、逆に会社でミスったら「根が芸人だから仕方ないわ」って自分に対する言い訳もできちゃう(笑)。その生き方は、めっちゃアリだと思います。
「仲間集め」だけはうまい気がする。その秘訣は人間関係の“精査”?
——サーヤさんがこれまで大きな決断を迫られた時、指針とする信念のようなものや大切にしてきたことはありますか?
サーヤさん 妄想癖がすごいので、頭の中で何度もシミュレーションしますね。決断したらどうなるか、イヤな面もいい面もちゃんと考えて、メリットのほうが勝つと思ったときは動く。あとは、仲間集めがうまいだけな気もしていて。マネージャーも含めて、同じチームで動いてくれるスタッフさんたちが人格者ばっかりなんですよね。
私は学生時代から“友達精査”みたいなものをすごくするタイプで。1回でも仲間を悪く言ったり不義理をする人だって思ったりしたら、卒業するタイミングで連絡先を消して、関係を絶つようにしていました。逆に、感覚的に合うなと思ったら、その人はすごく大事にしていく。そうやって、なるべくイヤな思いをしないように環境を整えてきたんだと思います。ただ、唯一の例外は相方のニシダなんですよ…。本当は実際全然別の方とコンビを組もうとしていたんですが、その相方が探偵になっちゃって、しかたなくニシダとコンビを組むことになりました(笑)。
みなさんにも伝えたいのは、もし自分が競争に巻き込まれそうになったら、そこから距離を置いていくこと。それが、何より精神の安定にとても大切だと思います!
取材・文/吉川由希子 撮影/アキタカオリ 構成・企画/種谷美波(yoi)